富士フイルム XF50mmF1.0 R WR レビュー|湯沢祐介
はじめに
2020年9月に発売された富士フイルムの「XF50mmF1.0 R WR」。35mm換算で76mmの中望遠レンズです。
ポートレート撮影に向いているこの中望遠レンズをペット撮影に使用するとどうなるのか?重さやボケ味やAF速度といったペット撮影に重要な要素を、作例を見ながら一つずつ確認していきましょう。
気になる重量は?
XF50mmF1.0 R WRの重量は845g。見た目にも手に持ってみてもズッシリ感があります。私は普段からもう少し重いレンズを使っているのであまり気になりませんが、普段コンパクトなレンズを使っている方には重たく感じてしまうかもしれませんね。ただ、大口径中望遠レンズなので個人的にはこの重さも問題ないかなという感じです。
まずは愛用しているX-T4に装着して野良猫撮影へ。とある島の海岸沿いの岩場を歩いていると野良猫を発見。
岩を登り降りしたりしゃがんで地面すれすれで撮ったりと、この時は2時間ほど歩き回りながらの撮影でしたが、思ったほど手の疲れはありませんでした。ただ、ずっと撮影しっぱなしだと流石に疲れるので、ゆったりと撮影するのがおすすめ。
また、X-S10やX-H1のようなグリップの深い機種だとより手の負担が軽くなると思います。
圧倒的なボケ味はペット撮影に最適
XF50mmF1.0 R WRを使用する上で一番気になるのはやはりボケ味です。なにせペット撮影ではこのボケ味がとても重要な要素になってきますからね。大口径の中望遠レンズというだけで美しいボケ味だとは想像できますが、開放値F1.0のボケ味とはどのようなものなのでしょうか。
こちらは先ほどとは違う場所で撮った野良猫さん。石の上でくつろいでいるところを開放値で撮影。ピントを合わせた顔のすぐ近くの石もぼけるほど被写界深度が浅く、少し距離のある背景はとろけるようなボケ味です。そのおかげで被写体の背後にある看板も目立たなくなりました。
続いてはイチョウの木を背景に撮った柴犬です。この時は黄色くなって葉が落ちている木もあれば、まだ緑のままの木もあったりとイチョウの色づきにばらつきがあり、残念ながら綺麗な背景になる場所がありませんでした。
そこでXF50mmF1.0 R WRの圧倒的なボケ味の出番です。開放値で撮ると背景が先ほど同様にとろけるようにぼけてくれます(ちなみに開放値でなくてもとろけてくれます)。こうする事であまり綺麗ではなかった背景も気にならずに、やさしくかわいらしいイメージの写真に仕上がります。
このようにペットや野良猫撮影においてぼかしというのはふんわりとかわいい印象を出す為だけではなく、止むを得ず写ってしまう余計なものやあまり綺麗とはいえない背景をごまかす為にもとても重要なのです。
また、背景多めの引きの画もF1.0のぼけ味で被写体を引き立たせ、ふんわりと美しい世界を作り出してくれます。
私が普段使っているXF16-55mmF2.8 R LM WRやXF50-140mmF2.8 R LM OIS WRでは表現できないXF50mmF1.0 R WRならではの美しさ。撮っていて本当に楽しくなります。
何気ない風景をやさしく、美しく表現してくれる圧倒的なぼけ味はペット撮影に最適といっていいでしょう。
AF精度は?一瞬を切り取ってみる。
さて、ぼけ味と同様にペット撮影で重要なのがAF精度です。どれだけ速く、確実にピントを合わせられるかで成功率も変わってきます。
実際に使ってみた感想としてXF50mmF1.0 R WRのAF速度はものすごく速くはないが、思っていたよりは素早く、しっかりと合わせてくれるなといった感じです。なので撮る時もしっかりと確実に目にピントを合わせる事を意識しましょう。何と言ってもF1.0ですから、ちょっとのズレも許されませんからね。まずはあまり動かない被写体を狙ってじっくり撮影する方が良いでしょう。
向こうを向いていた猫が振り向くのを待って撮影。AFフレームを顔付近に移動してひたすら待ちました。こちらを向いたらAFフレームを目に合うように微調整ししっかりとピント合わせ。振り向いた姿勢と表情がたまらなくかわいいですね。きれいなぼけ味のおかげで手前のホースですら美しく見えます。
とは言え動いている被写体も撮りたいですよね。今度はカメラに向かって歩いてくるシーンに挑戦。AFモードをAF-Cに変え、AFフレームを少し大きくして撮影したのがこちら。
トコトコと歩いてくる子猫を連続撮影したうちの一枚。あまり速くない動きであればしっかりとピントを合わせてくれました。F1.0の浅い被写界深度で動いているペットを撮るのはなかなかシビアですが、ある程度の動きであれば撮れる事がわかります。
もともとスポーツなどの動きのあるシーンを撮るようなレンズではありませんが、ちょっとした動きだったら撮れるので挑戦してみましょう。
暗い場所でも美しく。
F1.0の明るいレンズとなれば挑戦したくなるのが暗い場所での撮影です。普段は出来るだけ明るい場所で撮るように教えているのですが、これだけ明るいレンズであれば逆に暗い場所での撮影も楽しみたくなりますよね。
こちらは古民家スタジオで柴犬を撮影したノスタルジックなイメージの一枚。昼間でも暗い古民家の廊下のコントラストがきれいで、とてもいい雰囲気なので私のお気に入りの場所です。
普段使っているレンズだったら暗いからちょっとやめておこうかなと思うところですが、XF50mmF1.0 R WRの開放値で撮ればノイズの少ないきれいな作品に仕上がります。
こちらは夕暮れ時の野良猫さん。日が落ちる時間が早い今の季節も明るいレンズを使えば焦らずに撮影を続ける事ができます。
小さな橋の下に移動して水を飲んでいた野良猫がこちらに気づいて見つめてきた瞬間。リフレクションもあっていい雰囲気になりました。先ほどよりも暗い場所に移動したのでISO感度を上げて撮影。それでもまだISO800です。レンズが明るい事で撮れるものが増えるのは単純に嬉しいですね。
暗い場所での撮影はペットを可愛いだけじゃなく格好良く撮るのにも有効です。XF50mmF1.0 R WRはこのような写真を撮るのにも適しています。また、昼間でも室内だとぶれた写真になってしまうというペット写真の悩みもXF50mmF1.0 R WRを使えば解決するでしょう。
まとめ
圧倒的なボケ味でどんな場所でもふんわりとした優しい写真が撮れるXF50mmF1.0 R WRは、ペット撮影との相性抜群です。加えて、暗い場所での撮影も可能なので、撮れる写真の幅が広がります。
かわいいも格好いいも見た目に美しい写真に仕上がるので、撮っていてとても楽しいレンズ。思わず見とれてしまうようなペット写真を撮りたい方にオススメの1本です。
■写真家:湯沢祐介
1980年東京都生まれ。 七色の声を使い分けてわんちゃんの気を引き、猫じゃらしで猫を操りながら撮影するペトグラファー。 その巧みな猫じゃらしさばきから「猫じゃらしの魔術師」の異名を持つ。 写真教室講師、原稿執筆、テレビ出演、レンタルフォト撮影など多岐にわたる活動をしている。著書には「ペトグラファーが教える ペットの可愛い撮り方」(日本カメラ社)「こねこ」「こいぬ」(ポプラ社)、「ねこもふ。ごーじゃす」(宝島社)他がある。