F1.0が魅せる新たな表現|富士フイルム XF50mmF1.0 R WR
はじめに
Xマウントで最強の明るさを誇るレンズXF50mmF1.0 R WR 。重量845g、フィルター径77mm、全長103.5mmという存在感あるこのレンズはどんな描写なのでしょうか。そして、どのような表現ができるのでしょうか。
F1.0の性能で広がる表現の幅
XF50mmF1.0 R WR は35mm判換算で76mm相当の、開放F値1.0というレンズです。いわゆる大口径中望遠レンズという部類に属します。初心者にも分かりやすいよう簡単に解説しておくと、レンズのF値というのは、そのレンズがどれだけ明るさを取り込めるかを示す指標となっており、数字が小さければ小さいほど明るさをたくさん取り込めることを意味しています。一般的に、F値が2.8より小さくなると明るいレンズとみなされ、F1.6やF1.4のレンズになるとみんなの憧れ、F1.0はもはや夢のようなレンズとなります。
では、F値が小さくなるとどんな良いことがあるのでしょう?F値が小さいレンズは、暗いところでも(ISOを上げなくても)明るく撮れるので、画質的に綺麗に撮れるのはもちろんのこと、(シャッター速度を早く設定できるので)手振れや被写体ブレを防ぎやすくなります。また、大きくボカすことができるので、ポートレートで女性を柔らかく美しく撮ったり、幻想的に撮ったりすることが可能になります。つまり、レンズのF値が小さくなることで「表現の幅が大きく広がる」ことになるのがお分かりいただけると思います。
さて一方で、F値の小さいレンズは良いこと尽くし…というわけにはいきません。ちょっと大きめで、ちょっと重くて、ちょっとお値段お高めという特徴もあります。これは高性能レンズの宿命みたいなもので、良いレンズほどそのような傾向があります。XF50mmF1.0 R WRは重量845gで、全長103.5mmなので手にするとなかなかの塊感を感じますが、重心バランスが良いのでカメラに装着するとそこまでのアンバランスさは感じません。実際、数週間の間XF50mmF1.0 R WRをX-T4につけっぱなしにしていたのですが、苦になることはありませんでした。
ちなみに、私のX-T4にはSmallRig社のグリップ(富士フイルムX-T4用L字型グリップ 2813)が装着してあるので、気になる方はそういったグリップを少し大きくするオプションを使ってみるのも良いかもしれません。
絞り値により変化する描写
理論上、明るいレンズを設計することは難しくないのですが、明るくなればなるほど、レンズは(非現実的な)大きさと重さになり、当然お値段も上がっていきます。そこのバランスをどう取るかというのが、大口径レンズの一つのポイントになってきます。
最近では解放からシャープでキレのある描写を見せるレンズが多いのですが、XF50mmF1.0 R WRは解放だと少し柔らかめの描写で、絞り込むほどにシャープになっていく性格です。柔らかいといっても、単にレンズの粗が出て描写が甘くなっているという類の性格のものではなく、表現の一つとして積極的に活用できる品のある柔らかさに仕上げているので、ポートレートはもちろんのこと、スナップやテーブルフォトなど、様々なシーンで積極的に活用できる描写だと感じました。
同様に、解放値では収差や口径食(フレーム周辺のボケの形が真円にならずレモンの形になる現象)がみられますが、F2.8辺りまで絞り込むとそれらが改善されます。ただ、F2.8まで絞るとボケの大きさが小さくなってしまうので悩みどころ。私はボケの形よりも大きさの方を表現の手段として選択することが多いため、撮影では積極的に解放値を利用しました。
特に、カメラがすべて綺麗に整えて撮ってくれる今の時代では、多少の収差や口径食は、写真全体を目にした際にむしろ写真の味となり、場の雰囲気を伝える要素のような気がします。私の写真はボケを真円に撮ることが目的ではなく、自分が心奪われた現場の雰囲気やモデルさんの表情を伝えることが目的なので、ボケがレモン型だとしても自分の写真が崩れることはありません。イチゴ型でもメロン型でも大丈夫でしょう。流石に、クワガタになったらちょっと目立つので気にしちゃうかもしれませんが…笑。
従来では不可能な撮影も可能に
大きくボカせるということは、被写界深度(ピントが合う幅)が浅いということに他なりません。つまり、ピント合わせはシビアになりますし、フォーカスを合わせるための時間も普段より余計にかかることになります。ですが、最近の機種であればオートフォーカス機能や顔認識機能はかなり強化されているので、撮影時に何度も首をかしげることにはならないでしょう。
実際、X-T4との組み合わせで、さすがに100発100中というわけにはいきませんが歩留まりはかなり良く、「フォーカスがあっていないので今のシーンをもう一回」ということは一度もありませんでした。
そのため一瞬を切り取るようなスナップ撮影にはあまり向いてはいませんが、だからといって撮れないわけではありません。被写体とある程度の距離をとればF1.0でも被写界深度は深くなり、その分フォーカス速度も速くなります。なにより、F1.0の明るさをいかせば暗くてもシャッター速度を稼げ、被写体ブレを防ぐことができるので、普段では撮影を諦めていたようなシチュエーションでの撮影が可能になってきます。
たとえばこのカットは日没後モデルさんに適当に動き回ってもらい、その瞬間を切り取って撮影したものです。絞りを開放にしてISOを1250まで上げることで、1/75秒のシャッター速度を稼いでいます。通常なら周囲の暗さゆえに止まっているところを撮るしかないシチュエーションなのですが、このレンズなら実際に動いてもらってその瞬間の自然な表情や自然な動きを捉えることが可能になるのです。
新たな表現を求める方へ
このようにF1.0という明るさをいかせば、通常よりも大きなボケを得たり、今までなら撮影を諦めていたようなシチュエーションでも撮影できるようになったりするなど、表現の幅が広がります。日中撮影するのであれば、ND16ぐらいの減光フィルターを利用すれば、絞り解放値でもシャッター速度をそれほど早くすることなく撮ることができるでしょう。電子シャッターを利用可能なカメラであれば、それを利用すればNDフィルターいらずです。
さすがに最初の一本目のレンズとしてXF50mmF1.0 R WRをオススメすることはできませんが(笑)、夕景や夜景の撮影が多い方、自分の写真の表現に行き詰まっていたり、新たな表現を求めていたりする方にはぴったりなレンズでしょう。みなさんならこのレンズでどんな写真を撮りますか…?
■写真家:浅岡省一
1973年東京都生まれ、中央大学大学院法学研究科修士課程修了。人物や商品等の広告撮影を得意とする傍ら夕景/夜景/雨景とモデルを絡めた作品を撮る。独特の光と空気感を表現する写真は多くのファンを魅了する。