日常を豊かにするXF60mmF2.4 R Macro|写真がもっと楽しくなるX

内田ユキオ
日常を豊かにするXF60mmF2.4 R Macro|写真がもっと楽しくなるX

記憶に残る名レンズたち

 一般的にマクロレンズは、解像力の点で各メーカーのベンチマーク的な存在であって、最高レベルの性能を持っていることが多いです。

 前回に書いたように、センサーの性能が定期的に更新される現代では、それを見越して設計される最新のレンズに注目しつつも、自分のカメラのポテンシャルを知りたかったらマクロを試してみる価値はあるでしょう。

 そんな理由もあり、時代ごとでキレの凄さに驚いたマクロレンズがあります。

 学生のころ、タムロンの90mmF2.5マクロを初めて使ったときには震えました。そのしなやかな切れ味は、自分だけの秘密にしておこうと思ったくらいで、でも大ヒットしましたね。オリンパスのズイコーマクロ90mmF2も素晴らしかったです。

 デジタルの時代になり、シグマのMACRO 70mm F2.8 EX DGが”カミソリマクロ”と呼ばれていたのも印象に残っています。包丁やナイフではなくカミソリみたいに薄くて鋭い。マクロレンズの描写の特徴をよく表しています。

 きっと皆さんにも「記憶に残るマクロレンズ」があるのではないでしょうか。

マクロレンズには珍しい切り込み。マウント部からまっすぐ伸びる細身の鏡胴。

マクロレンズの魅力

 マクロレンズの魅力は、日常にあるものがレンズ越しだと魔法のように美しくなる驚きにあり、そこから被写体探しが楽しくなるところにあると思います。あれを撮ったらどうなるだろう、もっと美しく見えるものはないかな、と。

 近くに寄ることになるので、被写界深度が浅くなってボケが大きく、その調和も美しい。だからピント部分のキレと同じくらいボケの美しさも重要です。

 わずかな動きでピントがずれ、望遠になるとボディ内手ぶれ補正よりもレンズに手ぶれ補正があるほうが効果が高い。そうなると大きく重くなりがちなのが悩ましいところ。

 虫やアクセサリーほど小さいものを撮らないなら、ハーフマクロという選択があります。等倍までは寄れないけれど、小さくて軽いため、画質のいい中望遠として普段使いもできます。XユーザーにうってつけなのがXF60mmF2.4 R Macro。今回のトップ画像もこのレンズでの撮影。カメラの大きさならハーフマクロで十分です。

■撮影機材:富士フイルム X-M1 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF2.4 ISO400 WB 電球 AF-S
■フィルムシミュレーション:Velvia
マクロレンズにしか撮れない写真。ピント部分の鋭さとボケの美しさの調和が印象的。

この旅の、この一本

 前二回の記事にも書きましたが、初期のXシリーズはプラットフォームがX-Pro1で、太いレンズだと機能に制限ができてしまうため、細く短いレンズが中心でした。

 このXF60mmF2.4 R Macroも、マクロレンズとは思えないほど細く、金属製のフードに切り込みが入って造りが凝っていて、使うたびに嬉しくなります。

 撮影に中望遠レンズを持って行きたい、けれども近接で撮りたいものがあるかも……そんなときに最高。発売されたばかりの頃は、花や商品撮影で使うことが多かったですが、もっとも印象に残っているのはハワイに行ったとき。

 そのハワイ旅行には、XF27mmF2.8とこのマクロレンズしか持っていきませんでした。どちらも軽くて小さく、愛用しているX-Pro3との相性は抜群。クラシックネガのトーンにもよく合います。

 スナップにマクロ域の写真を混ぜると、違和感が生まれることもあるのですが、ハーフマクロのおかげでその心配もいりません。短い滞在時間で幅広い写真が撮れたのは、この二本の組み合わせの絶妙さにあったと、我ながら感心しました。

■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/125秒 絞りF2.4 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:ASTIA
旅先で中望遠マクロのありがたみを感じる距離。
これくらい寄れるズームもあるが、心の余裕と精度が違う。
■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/125秒 絞りF8 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ
強い逆光でハレるのはこの時代のレンズの特徴。
光源を避ければ気になることはなく、さすがはマクロの高解像力。

バッグにハーフマクロがあれば

 中望遠のハーフマクロが一本あるとどれだけ便利か、こんなケースを想像してみてください。

 女子二人旅で京都・奈良に行くとしましょう。荷物はなるべく減らしたいですよね。お土産を買うかもしれないし、せっかくだからいろんなところを回りたい。景色や建築物を撮りたいので、広角系が一本いります。これはズームでもいいです。 

 XF10-24mmF4 R OIS WRはこういうとき最高ですが、「本格的すぎる」「これでも大きい」と思うなら、XF16mmF2.8 R WRはおすすめです。旅の記憶は単焦点のほうが深く刻まれます。写真は不完全だったとしても、どう撮ろうか悩むことで、その分だけ被写体と深く関わるから。

 食事や甘味、奮発して買った工芸品、洒落た看板、季節の花、そういった「旅のディテール」を拾い上げていくのに、マクロレンズがあるとないのでは大違い。レンタル着物を着たポートレート、ちょっと距離がある五重塔の夕景、公園の鹿などもばっちりケアできます。

■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF2.4 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ
旅の記憶とは、結局のところささやかなディテールの積み重ね。
心が動いたら撮っておく。そうなるとマクロが一本あるだけで心強い。
■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF8 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ
遠近感は標準レンズのよう。ワイドほど影が伸びていなくて、テレのように詰まっていない。
その自然さはAPS-Cの60mmならでは。

日常を豊かにする

 マクロレンズの活用法としてお勧めしたいことがあります。

 誰かからお菓子や花などをもらったら、その写真を撮って礼状の代わりに送るといいです。せっかくの写真の力を、日常の暮らしで活かせます。最近だとプレゼントをカタログから選ぶことも多いでしょうから、贈り主が実物を見ていないケースも多いわけで、その写真が届いたらどれだけ嬉しいか。

 難しい技術はいりません。午前中の光と、トレーシングペーパーと、何枚かの大きめのカラー画用紙(か布)があれば理想。

 マクロレンズがあると暮らしが豊かになる、とタイトルにつけたのはこういった理由から。努力や根性で超えられない領域がマクロレンズにはあります。

■撮影機材:富士フイルム X-Pro3 + XF60mmF2.4 R Macro
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF4 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:ACROS+モノクロームカラー
ハーフマクロで寄れない分は、アイデアで勝負。ということでXの機能であるモノクロームカラーによる多重露出(これは6枚)に挑戦。
わざと少しずつずらしてシルクスクリーンのような効果を。「フォトショ?」と聞かれるが、一発撮りでJPEG撮って出し。

 もちろん中望遠ですから、本格的なポートレートにも使えます。

 F2.4ですからボケも楽しめますし、モデルのアクセサリーやネイルにピントを置いて、表情をボケで拾うような撮り方をして、センスを見せるのも洒落ています。

 これぞマクロレンズだ! という「解像力が高くベンチマーク的存在で、非日常を発見する驚きがあり、手ぶれ補正やリニアモーターのような機能でデリケートな撮影をサポートしてくれる」という部分はXF80mmF2.8 R LM OIS WR Macroに譲って、XF60mmF2.4 R Macroをいま使うなら「小さく軽く近接に強い中望遠」と考えるのがいいと思います。

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

関連記事

人気記事