LAOWA 20mm F4 Zero-D Shift レビュー|各種マウントに幅広く対応するプロ仕様の高品質シフトレンズ
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はじめに
読者のみなさんはシフトレンズと呼ばれるレンズのことをご存知だろうか。カメラの交換レンズには、一般的なレンズとは別に様々な用途を目的とした特殊レンズと呼ばれるものが存在する。このシフトレンズもその特殊レンズのひとつといえるものだ。
シフトレンズは、その名が示すようにマウント面およびイメージセンサーに対し、レンズが上下左右の並行方向へのスライドを可能とした構造となっているレンズだ。主に建築物や製品の静物撮影などにおいて、被写体の形を歪ませることなく捉えることを目的としている。その用途から建築写真家や広告写真家などが使用することが多い。しかしこのシフトレンズを効果的に使用することで、風景写真や都市景観写真などを洗練された作品とすることも可能であり、それゆえ常用している写真家も少なくない。
今回紹介する「LAOWA 20mm F4 Zero-D Shift」は、2022年に発売された最新のシフトレンズだ。対応マウントにはミラーレス一眼カメラ用に加え、一眼レフカメラ用も用意されており、キヤノンEF/RF, ニコンF/Z, ソニーFE, ペンタックスK, Lマウントに加え、富士フイルムの中判フォーマットGFXにと幅広く対応している。ただし各マウントは固定式で購入時に選択したマウント種別から別のものに変更することはできない。
LAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftの主なスペック
■対応マウント:Canon EF, Canon RF, Nikon F, Nikon Z, Sony FE, Lマウント, Pentax K, Fuji GFX
■焦点距離:20mm (レンズ画角94.4°)
■最大イメージサークル:65mm
■シフト機能:35mm判フルフレーム ±11mmシフト / 中判カメラ:±8mmシフト
■レンズ構成:11群16枚(非球面レンズ2枚、EDレンズ3枚)
■最短撮影距離:0.25m
■最大撮影倍率:0.17倍
■フォーカシング機構:マニュアルフォーカス
■絞り羽枚数:14枚
■開放絞り値:F4
■最小絞り値:F22
■大きさ:最大径95mm 全長約91mm フィルターサイズ82mm
■質量:約747g (フード、レンズキャップ、レンズリアキャップを除く)
■防塵防滴仕様:なし
レンズ外観
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レンズの鏡筒外装はメタル調で高級感がある。一眼レフカメラ用マウントにも対応した設計であることから鏡筒は太め。先端部での最大径は95mmとなる。これは最大直径65mmとなるイメージサークル(イメージセンサー面に結像する円形の像)を実現するための大きさといえる。質量も単体で約747gとなり、ミラーレス一眼用が一般的となった最近のレンズの中では重量級といえる。
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ニコンD6に装着。バッテリーグリップ一体型で一眼レフカメラのなかでも大きな機種となるD6に装着しても、まったく引けを取らないほどの存在感がある。今回はこの組み合わせで撮影し検証する。
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鏡筒先端部には大きなフォーカスリングが配置されている。フォーカス方式はマニュアルフォーカスのみ。最短撮影距離から無限遠までは幅広い回転角に設定されているので、カメラのライブビュー画像を確認しながらじっくりとピント合わせを行うことができる。
被写界深度指標を挟みマウント側には絞りリングを配置。このレンズはカメラとの信号通信に対応していないので、絞りは手動で合わせる必要がある。実絞り方式なので、撮影時にはまず開放絞りの状態で構図を決めピントを合わせた後、撮影する絞り値に合わせたうえでシャッターを切り撮影を行う必要がある。
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最前面のレンズは丸く膨らんでいるが、鏡筒内に収まっているので通常形状のレンズキャップやねじ込み式のレンズフィルターが使用できる。
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レンズ前枠には82mm径の円形フィルターを装着できる。建築物撮影では窓ガラスの反射や写り込みを抑制するためにPLフィルターを併用することが多いので、アダプターを併用することなくフィルターを装着できるのは便利だ。
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鏡筒のもっともマウントに近い位置に配されたリングはシフト機構用。リングを左右に回転することで、レンズをマウントに対して並行にスライドすることができる。ネジ式のスライドロック付き。稼働部はガタつきもなく精巧な造りだ。
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LAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftのシフト機構はカメラのイメージセンサーの中心点から、35mm判フルサイズカメラでは上下に11mm、中判サイズカメラでは上下に8mmの範囲でレンズの光軸をずらして撮影することができる。シフト量は鏡筒の横に設けられた目盛で確認できる。なお本レンズには、レンズを通過する光軸を傾けるティルト機能はない。
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レンズは光軸に対して360°の軸回転が可能。これにシフト機構を組み合わせることで、レンズを通った光が結像するイメージサークルを、本来の中心位置から任意の方向に大きくずらすことができる。軸回転はレバー式のロックを押さえながらロックフリーにした状態で鏡筒全体を掴み回して行う。
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シフト量を下方向に11mm、軸回転を30°にした状態。これによりカメラから見て右斜め下の範囲をイメージセンサーに結像させ撮影することができる。
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レンズのマウント接合部。金属製なので重いレンズを偏心させることによる重心バランスの変化でも歪みを最小に抑えられる。このレンズはカメラとの電気情報通信には対応していないので、一般的なレンズのマウントにある電気接点は設けられていない。そのため画像に記録されるExif情報には設定された絞り値は記録されない。
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最大シフト位置に設定したところ。マウントの中心とレンズの光軸中心が大きくずれていることがよくわかる。この状態ではレンズのイメージサークルの端の画像をイメージセンサーで記録することになる。
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カメラを三脚に固定した状態で、シフト位置により写る範囲の変化がわかるように、最大シフト量にしたレンズの位置を15°ごとに360°軸回転させながら撮影した画像を重ね合わせた。中央部の赤枠がシフト量ゼロの撮影画像位置。レンズを上に最大シフトすると黄枠、下に最大シフトすると青枠、右に最大シフトすると緑枠、左に最大シフトするとオレンジ枠の範囲が撮影される。
同じ焦点距離でもシフトレンズではない一般的なレンズの場合は、この赤枠の範囲のみをカバーする広さのイメージサークルで十分だが、シフトレンズのイメージサークルは全方向においてシフト量をカバーできる広さのイメージサークルが必要となる。
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フードはレンズのシフト方向に合わせて回転することができる。通常のレンズは横長の画面に合わせて上下が張り出した形になっていることが多いが、シフトレンズではレンズをシフトさせることでイメージサークルの周辺まで撮影するため、シフトした方向によってはフードが写り込んでしまうことがある。これを避けるためにフードは回転可能となっている。
シフト機能の使い方と効果
シフトレンズは特殊な撮影に用いるレンズであることから、一般的にはあまり馴染みがないものだ。そこで、ここではLAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftでの実写画像を交えてシフトレンズの使い方と効果について解説しよう。
Case1
港湾部に建つ高さおよそ125mのタワービルをLAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftをシフトせずに撮影。タワーの足元から天頂部までを収めようとすると、広角レンズでも空を仰ぐようにしてレンズを向けることになる。ただその撮り方では広角レンズ特有の遠近感の誇張でタワーは先細った形で写ってしまう。
ここで建物撮影において、本来の建物の形を正しく捉えるために必要な撮影方法を考えてみよう。まず建物は直線を組み合わせて作られた四角形の箱であると仮定する。四角い箱を歪みなく撮影するには、通常、箱の真正面からカメラを正対させた状態で撮影を行えばよい。これを建物に当てはめると、やはり建物の正面からカメラを正対させて撮影すれば良いということになる。
さて次に実際に建物とカメラを正対させる方法だが、基本的に建物は地面に対して垂直に建てられているので、まずはカメラの水平を正確に合わせると同時に上下振りの方向も建物の建ち方と合わせるように正確に垂直に合わせる必要がある。これにより建物の水平垂直とカメラ内のイメージセンサーの水平垂直が相対的に揃うことになる。しかし建物は大きく高さがあるため完全な正対位置にカメラを設置することは現実的ではない。
結果、ほぼ地面の高さから撮影することになるのだが、そのカメラ位置からでは、建物の上部がフレーム外にはみ出てしまうことが多い。そこでシフトレンズのシフト機構でレンズの位置をずらす(相対的にイメージセンサーをイメージサークル内の建物の上部の姿が結像する位置に移動する)ことで、フレーム内に建物全体を水平垂直に整えた状態で捉えることができるようになるのだ。
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左)カメラ内蔵の水準器を使用して水平垂直を合わせたうえで、レンズをシフトせずに撮影したもの。タワーの形状は正しくなっているが、上部がフレームに収まりきらない。
右)レンズを上に11mmシフトすることで、地面の写る範囲を狭めると同時にタワー上部をフレーム内に収めることで、タワーの水平垂直を整えた状態でタワー全体をフレーム内に収めることができている。
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■撮影環境:F8.0 1/1000秒 ISO200 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写 SHIFT+11mm
Case2
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■撮影環境:F11 1/100秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
ネオルネッサンス様式が特徴の建築物を撮影。大きな建物なので一般的な広角レンズでの撮影では下から仰ぎ見ることになるため、遠近感が誇張された上すぼみな姿となる。これも悪くはないが、石とレンガを組み上げた外壁の建ち姿は、やはり水平垂直を正確に合わせて撮影した方が、格好が良い。
上の状態からカメラの上下振りの方向を変え、水平と垂直を正確に合わせた状態で撮影した。ただこのままだと地面の面積が多く空が少ない不安定な構図となってしまう。
レンズを上に6mm強シフトすることで空の面積を広げ地面の面積を狭くした。シフトしないで撮影した画像とほぼ同じ構図配置だが、建物の垂直を整えたことで建築物本来の形を表現できていることが判るはずだ。
ところで建物の上部側を広く撮影する際になぜレンズを持ち上げるのかというと、カメラとレンズの構造上、レンズを通った光がイメージセンサー上に結像する際には上下左右が反転した状態となるからだ。そのため建物の上部をより多く写したい場合は、レンズを持ち上げることで(相対的にイメージセンサーが下がり)イメージサークル下部に結像した建物上部が記録されるのだ。同じく建物の右部をより広く写したい場合はレンズをカメラ側からみて右側へシフトすることで(相対的にイメージセンサーが左へ移動する)、イメージサークル左部に結像した建物右部が記録されることになる。
Case3
シフトレンズをうまく使えば、鏡の正面から撮影する際でも自身の姿を写り込まさずに撮影することも可能だ。これはフィットネスクラブ内に設けられた、部屋の壁三面が大きな鏡張りになっている部屋を撮影したものだ。通常はトレーニングを行う利用者が、鏡で自身の姿を確認しながらトレーニングする為の施設だが、いざ撮影を行おうとするとこのようにカメラと撮影者が写り込んでしまう悩ましい状況となる。
カメラと撮影者自身が鏡に写り込まないようにするため、まずカメラが鏡に写り込まない右側の壁ぎりぎりの位置に移動した。カメラと鏡の位置関係を斜めにすることで、鏡のなかにカメラより左側背面の壁が写るようにしてある。しかしこのままだと右の壁が必要以上大きくフレーム内に写り込んでしまっている。
LAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftのレンズ鏡筒を左手方向に回転させ90度の位置に、そのうえでレンズを左方向へ最大値となる11mmまでシフトした。これによりシフト量ゼロの状態では画像右側を占めていた壁面の面積を削り、それまで写っていなかった左側の壁(鏡)をフレーム内に入れることができた。これにより部屋の広さと鏡の配置が判る構図となる。この横方向へのシフト撮影の手法なら、レンズの中心点とイメージセンサーの中心点を左右にずらすことができるので、鏡やガラスへのカメラ等の写り込みから逃げることもできる。
シフトレンズの広いイメージサークルは、通常のレンズにはない広い範囲の像をイメージセンサー面に結像することができる。これを利用することで、一般的な広角レンズでは捉えきれないより広い画角の画像を、パノラマ合成によって疑似的に作成することもできる。複数枚の画像を繋ぎ合わせるパノラマ合成は、広い範囲の都市風景や建築物撮影ではよく利用される撮影手法のひとつだ。
Case4
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20mmレンズの画角では納めきれない横長の建物。中央にある出入り口の正面にカメラを据え置き、正対する形になるように水平垂直を合わせて撮影。その後、左右それぞれの最大シフト量(左右それぞれ11mm)までレンズをシフトさせて撮影し、中央部の撮影画像とこれらをパノラマ合成する。
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■撮影環境:F11 1/80秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
C-PLフィルター使用 3枚の撮影画像を合成 SHIFT 0,+11mm,-11mm
3枚の画像を合成して作成したおよそ115°にもなるパノラマ画像。合成にはPhotoshopのPhotomerge機能を利用した。その際に3枚の僅かなずれを補正するように位置合わせをしている。なおイメージサークルの限界周辺部に周辺光量落ちが発生しているので、最終的にはこれと位置合わせで発生した余白とをトリミングで切り抜いて完成とする。
Case5
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■撮影環境:F11 1/125秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
3枚の撮影画像を合成SHIFT 0,+11mm,-11mm
シフト方向を縦にして作成したパノラマ画像。カメラの水平垂直を正確に合わせたうえで、上方向に最大量となる11mmまでレンズを上げて、建物上部が画角内に収まるように撮影位置を決定し撮影。その後、シフト量をゼロに戻して中央部を撮影する。つづいて下方向にレンズをシフトさせて画像下部となる池の様子を撮影した。最終的にはこれら3枚の画像をPhotoshopのPhotomerge機能で合成し一枚の画像とした。
LAOWA 20mm F4 Zero-D Shift実写作例
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■撮影環境:F8.0 1/100秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
上に8mmシフトして撮影。古刹の建物と寺庭の様子を歪みなく捉えることで穏やかで静かな美しさを引き出す。
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■撮影環境:F8.0 1/160秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
上に11mmシフトして撮影。満開に咲く桜の木を見上げるようにして撮影。広角レンズにありがちな強い遠近感の誇張表現ではなく、シフトによる撮影範囲の移動により本来人の目で見て感じる自然な広がりを捉える。
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■撮影環境:F11 1/60秒 ISO100 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
上に11mmシフトして撮影。港に面した遊歩道。際に建つ直線的なデザインの建物と相まったシンプルな街並みを表現するべく、水平垂直を整えると同時にシフト機能で路面と画面上部の面積割合を調整し、構図バランスを整えて撮影した。
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■撮影環境:F11 1/60秒 ISO200 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
上に11mmシフトして撮影。午後の太陽の輝きのなかに建つタワービルを公園の木陰から見上げる。空にとどくほど真っ直ぐで無機質なタワーと公園の緑の対比が気持ち良い。
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■撮影環境:F8.0 1/10秒 ISO400 マニュアルモード WBオート ピクチャーコントロールオート MF 単写
自然建材をふんだんに取り入れた居心地の良いカフェの室内の様子を撮影。レンズを上に5mm持ち上げたことで、自然木で出来た天井の梁まで写真に収めることができた。
高次元なエクスペリエンスと高い撮影技術の継承が存在意義
今回紹介したLAOWA 20mm F4 Zero-D Shiftは、世の中に数多くある一眼カメラ用交換レンズのなかでも使用目的が特に限定されるレンズだ。ここまでで解説したように建築物や空間の撮影などでは、シフトレンズの利点を活かして高いクオリティの画像を得ることができる。ただそれだけに使いこなすにはそれ相応の理解度が必要なレンズでもある。また、現在はすでにデジタルカメラでの撮影が一般的であることから、撮影後の画像をパソコン上のレタッチソフトで補正することも難しくなく、またカメラによってはデジタルエフェクトによるシフト機能が搭載されている機種も存在することから、プロ写真家ではない一般ユーザーがこのレンズを選択する理由を探すことはなかなか難しいだろう。
しかし、やはり撮影時に正しい知識と技術を有する者が、優れた光学特性を持つレンズできちんと撮影を行うことは、撮影画像の画質と写真の品質を高める点において重要であることに変わりはない。何よりシフトレンズでの撮影は撮影者にとって、どこまでも真っ直ぐで、かつ品質の高い写真を得られる点において、とても気持ちの良いものなのである。この高次元なエクスペリエンスを享受できること自体が、このレンズを選ぶ大きな理由と言っても決して間違いではないはずだ。
なおシフトレンズ自体はフィルムカメラの時代から大手カメラメーカー数社から発売されているものだ。しかし使用可能な対応マウントが限られる点と、特殊レンズであることから製品の価格はとても高価であるという事情がある。これらの点を考慮すると、LAOWAという新興レンズメーカーが高品質なシフトレンズを新規開発し、手にしやすい価格で販売していることは、高度な撮影技術の継承という観点からも大きな意味を持つ。加えて筆者個人的にはもっと対応マウントを広げて、マイクロフォーサーズのカメラなどでも使用できるようになると面白いのではないかと思う。おそらくこのレンズはカメラメーカー純正ではないサードパーティー製であること自体が最大級のメリットと言えるのではないだろうか。このレンズでもっとさまざまな領域の撮影を楽しみたいと思わずにはいられないレンズである。
■撮影協力
・Fitzone24
・香豆珈琲- kou’s coffee
■写真家:礒村浩一
女性ポートレートから風景、建築、舞台、製品広告など幅広く撮影。全国で作品展を開催するとともに撮影に関するセミナーの講師を担当する。デジタルカメラの解説や撮影テクニックに関する執筆も多数。写真編集を快適に行うためのパソコンのプロデュースも担当。