新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす|Vol.025 ライカM7
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。新宿 北村写真機店の6階にあるヴィンテージサロンのカウンターで、ライカをよく知るコンシェルジュお薦めの一品を見て、触らせていただけるという企画、『新宿 北村写真機店のカウンターで、お薦めライカを味わい尽くす』。本企画はコンシェルジュの方に「今はこのカメラが旬だ」と感じているネタをその場で用意してもらい、楽しみ方を伝授していただくという企画です。
コンシェルジュのお薦めは?
今回お薦めライカを見立てていただいたのは、新宿 北村写真機店コンシェルジュの中明昌弘さん。プロのフォトグラファーだった経歴を持ち、写真を撮るという実用の視点と趣味性の高さが両立したセレクトが持ち味の中明昌弘さん。さて、今日のアイテムは何でしょう?
フィルムM型ライカ唯一のAE機
「今日はこのカメラをご用意しました」と、ヴィンテージサロンのカウンター越しに登場したのは、ライカM7でした。フィルムを使うM型ライカで唯一絞り優先オートで撮影できることが特長のカメラです。「特別モデルではなく、何の変哲もないライカM7です。僕が昔持っていたこともあってご紹介しようと思いました」なるほど、元カノならぬ元カメという切り口ですね。
「見た目はM型ライカそのものですが、電子制御のシャッターが搭載されたのが大きなポイントです。ライカM7が発売された時には、ライカMマウントレンズが使えるAE機のコニカヘキサーRFは発売されていましたし、それよりもずっと前にミノルタCLEも登場しています。コニカヘキサーRFに関しては補助機構で1/8000秒のシャッターが切れるといった先進性がありました」
使い方は伝統的なM型の作法を踏襲
「それに対してM7はライカMマウントのボディで絞り優先オートを実現した3番目のカメラとして2001年に登場した、後発で21世紀のカメラです。スペック的には絞り優先オートの部分以外では他のM型ライカと同等でシャッター速度も1/1000秒止まりです」
ライカMマウントで絞り優先オートが効くカメラはライカM7以外にも存在します。それでもライカM7を使う理由は、それがM型ライカそのものであるということに他ならないと思います。フィルムの入れ方にしても、底蓋を取り外して狭いスリットに差し込んでいくライカ独自のスタイルを踏襲。この機構は1967年に登場したライカM4でスプール不要に改良されてから変わらず、それ以降のM型ライカなら同じ作法が通用します。
時代を反映してDXコードにも対応
「やはり、ライカM3から現行品のライカMPにいたるまで、途中で露出計を入れるのにライカM5だけは大きくなってしまいましたがそれ以外の機種では不変のM型ライカのサイズ感で絞り優先オートのカメラにしたのがライカM7のすごいところだと思います」機能を追加してもカメラのサイズを変えて欲しくないという思いがライカユーザーには強く、その要望に応えたのがライカM7でした。これは重要なポイントだと思います。
「新しい技術を盛り込むよりは伝統のサイズを重視していますが、時代を反映してDXコードが使えたりします」上の写真ではフィルムパトローネが入る部分の側面に、縦一列に矩形の接点のようなものが見えます。これが新設されたDXコード検出部なのです。
ところでDXコードって何ですか?
フィルムカメラでの撮影体験のない方々にはDXコードと言われても意味不明かもしれません。DXとはデジタルトランスフォーメーションのことではなく、写真フィルムの感度や撮影枚数などをカメラに伝達するために35mmフィルムのパトローネに設けられた電気接点の規格のこと。ライカM7ではフィルム感度をDXコードで読み取り、自動セットすることが可能です。
設定はカメラの裏蓋にあるディスクの指標をDXに合わせるだけ。1日の撮影で感度100のフィルムと400のフィルムを混在して使うときなどに感度設定を変更し忘れてガッカリしてしまう等のアクシデントが未然に防げます。最近では大手メーカー以外の現行フィルムではDXコードに対応していないものも出現しているので、フィルムを装填する前にパトローネの一部に地金と黒いペイントの切り返しパターンがあるかどうか確認しましょう。
絞り優先オートのアドバンテージ
フィルム機のライカM7(写真上)、と現行デジタル機のライカM11(写真下)を並べてみれば、巻き上げレバーの有無以外ほとんどレイアウトが同じで、両機を併用してもストレスなく撮影できると思います。「シャッターボタンの所に電源のスイッチがあるというのも現在のデジタルMに通じるところがありますね。僕はM7を持っていましたが、やはりピントを合わせるだけで撮れるという絞り優先オートが使えるのは楽でした」
このことに加え中明昌弘さんが力説してくれたのが、写真を撮る一連の動作のキレのよさでした。「シャッターボタンの半押しでAEロックするとシャッター速度の左上にドットが点滅するので、そうしておいて構図を変えて切る。その一連の動作は昔のセンター1点のAFを搭載した一眼レフに近い感じがあります。そのような流れで撮影ができるという意味でも、フィルムのM型ライカ最初の1台としてもお薦めのカメラです。」
広角でも標準でも使いやすいカメラ
ライカM7と組み合わせたいレンズは?と尋ねれば、カウンターの上には28、35、50ミリレンズを並べてくれました。すなわちどのレンズでも使いやすいということですね。「ライカといえば35ミリというお客様は多いです。もちろん標準レンズとして50ミリも。最近は28ミリもじわじわ人気が出ているのを感じます。スナップの上級者であればライカM7に広角レンズをつけて絞りはf8あたりまで絞ってパンフォーカスにして構図のシャッターチャンス優先で撮ることもできます」とのこと。
ライカM7の弱点をあげるなら何かという問いには「正直ないと思います」と力強い言葉が返ってきました。「電子制御のシャッターですが、電池がなくても1/60、1/125というよく使うシャッター速度が機械式で作動します。使い勝手の良さは忘れられず、今となっては手放さなければよかったと思うところがあります」
まとめ
最後に、ライカM7を使って欲しい人を聞いてみると「初心者から玄人までですね。誰に渡しても不満が出ることがないカメラだと思います」とのこと。「初心者の方であれば露出の決定でもたつかないし、玄人の方は、より写真に集中できるのではないでしょうか。カメラを使うものとして考えると、やっぱり便利は強いですね。もちろんライカなので持っておくだけでもいいのですけれど、やっぱり使うものとして考えるとM7は便利です」
中明昌弘さんがライカM7オーナーだったからこそ語れるカメラの良さが伝わってくる取材でしたが、本人は語るにつれ後悔の念が湧いてきた模様。「M7は思っていた以上にやっぱりいいカメラだなと思い始めています。結局今でもフィルムで撮影する機会が多いのでM7を手放さなければよかったです。最近入手したライカQ3と一緒に使って、そのテンポに近づこうとするならM6とかバルナック型ではなく、断然M7です」
別れる前にはそれほど意識していなかったカメラの良さに惚れなおす。これはカメラ道楽で避けて通れない、甘く切ない体験ですよね。
■ご紹介のカメラとレンズ
ライカM7 中古価格678,000円 (税込)
※価格は取材時点での税込価格
■お薦めしてくれた人
ヴィンテージサロン コンシェルジュ:中明昌弘
1988年生まれ。愛用のライカはQ3
■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。
新宿 北村写真機店 6階ヴィンテージサロン
新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンでは、今回ご紹介した商品の他にもM3やM2、M4のブラックペイントなどの希少なブラックペイントのカメラ・レンズを見ることができます。
どのような機種が良いか分からない方もライカの知識を有するコンシェルジュがサポートしてくれますのでぜひ足を運んでみてください。