新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンコンシェルジュに聞くライカ・ブラックペイントの魅力。前編:世界から注目されるライカ・ブラックペイントが人気の理由とその歴史。
はじめに
新宿 北村写真機店ヴィンテージサロンコンシェルジュに「ライカ・ブラックペイントの魅力」について聞いてみました。前編では「世界から注目されるライカ・ブラックペイントが人気の理由とその歴史」についてご紹介いたします。
ライカ・ブラックペイントが人気の理由とは?
「ライカのブラックペイントとは、ペイントが剥がれ、真鍮があらわになり、風合いが増し、それが一台一台異なる個性となり、歴史が刻まれ、使い込むほどに愛着が増す。”ジーンズを育てる”という言葉があるがそこに通じるものがある」
そう語ってくれたのは、ヴィンテージライカを数多く取り揃える新宿 北村写真機店の6階ヴィンテージサロンコンシェルジュである丸山豊氏だ。
昨今フィルムブームが再燃しフィルムカメラやオールドレンズは高騰傾向にある。しかし、中でも世界中で爆発的な人気を誇っているのはヴィンテージライカのブラックペイントだろう。
外装の色によって性能が大きく変わることはないが、通常のシルバークロームモデルが数十万円の機種でもブラックペイントのモデルはコレクターアイテムとして数百万円から数千万円で取引されている。
多くのライカファンやカメラ好きを魅了し愛されるブラックペイントは、なぜこれほどまでに人気になったのか? 丸山氏に伺った。
「近年は最新モデルのブラックペイントももちろん人気ですが、M3・M2・M4などヴィンテージライカのブラックペイント人気は更に過熱しています」とのこと。
確かにこれらにプレミア価格がついていることを見ると「むしろヴィンテージライカのブラックペイントの方を探している方が多い」と思えるほどである。
では、なぜこれほどまでに人気・高価になったのかお伺いした。
「特にヴィンテージライカのブラックペイントは元から生産台数が少ないうえに、既に購入されて大切に保管されていることが多いため、出回っている数は少ないのです。また、最近ではその希少性の高さから資産価値が上がり、世界規模でブラックペイントをお買い求めになる方が増えました。そのため市場に出回る数も少なくなり、価格も徐々に高騰していったと思われます」とのことだ。
そこでどれだけ価格が上がったのか?M3ブラックペイントの販売価格目安の推移を見てみた。もちろん個体差や製造番号によって価格の違いはあるものの、1995年では約65万円以上だった相場が、2002年には約130万円以上。それから20年経った2023年現在では約500万円以上と1995年から10倍ほど上がっている。
それでは、それほどまでに人々を魅了するブラックペイントとは何なのか? 改めて確認しよう。
そもそもブラックペイントとは?
ブラックペイントはその名の通りボディ外装に黒い塗装を施したモデルで、光沢感のある仕上がりが特徴だ。内側の素材は真鍮で、外側の黒いペイントが剥がれると徐々に真鍮の黄色い地金が見えてくるのだが、それがその個体の味となる。
ペイントの剥がれは非常に長い年月が必要であり、丸山氏いわく「特定の機種のブラックペイントを探すのはもちろんですが、その機種でもペイントが『剥げていない』『かなり剥げている』『縁の部分だけ剥げている』等、自分が好きな真鍮の剥げ方の個体を見つけることも楽しみ方の一つです」とのことだ。
(フィルム巻き戻しロック解除のレバーや背面のフィルムインジゲーターなどの細かい部分もブラックペイントが施されている)
もちろんボディだけでなくレンズにもブラックペイントは存在している。レンズ筐体部分だけでなく、無限遠のロックボタンといった細部にもペイントが施されていることが分かる。
ブラックペイント誕生の歴史
ここでブラックペイントの誕生について振り返る。
ライカのブラックペイントで初めて発売されたのは、初のM型ライカM3であると言われている。ライカM3は1954年に発売されたフィルムカメラで、その使い勝手の良さから世界中に衝撃を与えたカメラである。
発売された当時は製造の手間もコストも低く、メッキの塗装によって表面のコンディションが長持ちしやすいことからシルバークロームが採用されていた。
そんな中、写真家として名高いアンリ・カルティエ・ブレッソンが「撮影の際、目立たない様に」とシルバークロームのボディに黒いテープを貼って使用しており、それを知ったライツ社(当時の社名)が黒く塗装したことからブラックペイントが誕生したと言われている。
以降、”黒いカメラ=プロフェッショナルの証”としても語られるようになり、ブラックペイントはカメラユーザーの憧れの対象となっていった。
なおその後、ブレッソンはライカからブラックペイントを受け取ったものの「やはりこの方が使いやすい」とブラックペイントのカメラの上からさらに黒いテープを貼って使っていたようだ。
職人が手作業で塗装するブラックペイントは、手間もコストもかかり生産台数が少ないことから希少性が高い。中でもM3のブラックペイントは発売から年数が経っており良個体も少ないことから希少性が非常に高いモデルだ。
ブラックペイントの魅力
光沢感のある艶。
-M3J
世界で初めてのライカ直営店として2006年にオープンしたライカ銀座店の記念モデル。現行のMP 0.72をベースに、初期のM3を意識したペイントが施されている。
製造台数:200台限定
ブラックペイントの魅力の一つとして艶感が挙げられる。ブラックペイントのモデルはボディ・レンズ共に光沢感があることで非常に上品かつ高級感に溢れている。どこまでも深い黒色の輝きに思わず見とれてしまう。
-MP Classic Set
ライカMシリーズ誕生50年を記念して2004年に当時の正規代理店であるシュミットが企画・製造したモデル。同梱のレンズであるズミクロン50mm・フードもブラックペイントが施されている。
※MPの名前であるが露出計が搭載されていない。製造台数:500台限定
使い込まれた味。
さらなる魅力は長年使い込まれた個体を中心に出てくる”味”だろう。表面のペイントが剥げると内側の真鍮が見えるようになるが、上の写真にあるような状態に至るには長い年月をかけて使い込むしかない。
「どんな時代を過ごし、誰が、どこで、どのような写真を収めてきたのだろう?」と想像してみるのも楽しみ方の一つとのことだ。
バブル
まれに塗装面がぶくぶくしているものがあり、これは通称「バブル」と呼ばれている。起こる理由はいくつかあるが、いずれにしてもペイント内側の気泡が次第に浮いていくことが原因で起こる。
バブルは好みが分かれるため、実際に見てみることで自身の好みかどうか確認することをお勧めする。このバブルも真鍮の見え具合と同じように、どちらかといえば「味」になるが、自身にとって最高の1台が見つかった時は得も言われぬ感覚だろう。
なんと言っても「かっこいい」
これらの魅力をまとめて言い表せられることは、やはり「かっこいい」の一言につきる。
今回、取材のために新宿 北村写真機店の6階ライカヴィンテージサロンへ行き、ペイントが剥げていない艶のあるモノ、ペイントが剥げて真鍮と混じっているモノなどたくさん見させてもらった。
「使っていないモノ」と「使い込んだモノ」で相反するものだが、不思議とどちらを見ても「かっこいい」と思えるのはブラックペイントが持つ魅力だろう。
実際に手に持ってみると、小さいボディながらずっしりとしており、ボディに貼られている革(グッタペルカ)の手触りも非常に良い。
これはブラックペイントに限らずだが、グッタペルカは乾燥に弱い。そのため購入した際は「週に1回でも良いので触ると指の脂が丁度良くグッタペルカについて油分を与えられ、グッタペルカの剥がれも比較的防げます」とのことだ。
ブラックペイントとはいえやはりカメラ。楽しみ方は持っているオーナーの数だけ存在する。丸山氏も「これだけかっこいいカメラなので、お部屋に飾って楽しむのも良しですし、実際に撮影に使っても幸せだと思います」とのことだった。
後編では、後発で製造・販売されることとなるブラッククロームとの違いについてご紹介。ぜひお楽しみに。
■撮影協力:新宿 北村写真機店6階ヴィンテージカメラサロン
今回ご紹介したブラックペイントのライカや、なかなかお目にかかれないヴィンテージ品やクラシックカメラ、オールドレンズはもちろん、新品のライカも取り扱っている。
また今回ご紹介してくれた丸山氏をはじめ、ライカの知識をもつコンシェルジュが勤務しており、まだライカを持っていない方はもちろんライカ好きの方も楽しめる空間となっている。
ライカが気になる方はぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。