ライカ × ポートレート × 水咲奈々 Vol.1|ライカM10-R
ライカの波に乗ってみよう
写真家になり色々なカメラを使ったが、実はまだライカのカメラを使ったことはなかった。しかし今年、ライカのオールドレンズの描写力に圧倒され、急激にライカブランドに興味が湧いてきた。
新宿 北村写真機店で9月に開催した写真展では、隣のフロアーがライカサロンだった。ふと周りを見回すと、デジタル・フィルム共にライカのカメラを所持している写真愛好家も多い。興味がないことには盲目になる私の目に、今ライカという文字が飛び込んできたのなら、その波に乗ってみよう。
ライカで日本人女性を撮影したポートレート作品が見たい!ので自分で撮ってみた
ライカが気になりだしてから、WEBでレビュー記事を検索して色々と見てみたが、モノクロのナイスミドルなおじさまのポートレートは沢山見つかるのだけど、女性のポートレートが少ない!これではポートレートを撮りたいユーザーの購入の参考にならないじゃないか!という、もっともらしい理由を掲げて、ライカM10-Rで自由にポートレート撮影をする機会をいただいたので、ご覧いただきたい。
モデル・大川成美という女性
ライカM10-Rでポートレートを撮ろうと思ったときに、モデルとして真っ先に浮かんだのが大川成美さんだった。彼女を初めて撮ったのは2018年。カメラ雑誌のレビュー記事のモデルとして、編集者に呼ばれていた。成美さんを初めて撮影したレンズも、マニュアルフォーカスのレンズだった。
ピント合わせを手動で行うマニュアルフォーカスのレンズでポートレートを撮るときは、オートフォーカスの撮影よりも、モデルと息を合わせることが重要になってくる。
ピントをシビアに追い込みたいときに動かれてしまうと撮影が進まないが、あまりにも微動だにされなくても作品のバリエーションがなくなってしまう。細かい指示をあれこれしたいような複雑なポーズのときも、自分の口を沢山動かすと当然手元も動き、ピントのズレが気になってくる。
そんなときはモデルの勘の良さが、作品の出来を左右することがある。成美さんの撮り手の意図を読む勘の良さと、それを全身で表現するセンスは、これぞ一流の表現者と感動できるレベルである。もちろん、彼女だって天才のように最初から何もかもができた訳ではなく、ガッツのある彼女がこれまで積み上げてきた成果だろう。
今回は、彼女の身体に一本通った「芯の強さ」をテーマに撮影を行った。撮影前にはここまで具体的にテーマは決まっておらず、何となくこんな感じで……くらいの、ふわっとしたイメージしかなかった。このテーマに定まったのは、ライカM10-Rで最初の1枚を撮影してからだ。
黒に惚れる
ファーストカットを見た瞬間、私もこれで撮ってもらいたいと思った。肌の透明感は高く、質感は陶器のように滑らかに再現されている。そして特筆すべきは、黒色の締まりの良さ。不自然ではない、でもぐっと強く引き締められた黒色は、びっくりするほど私の好みだ。
今回の掲載作品はすべてJPEG撮って出しで、露出も、色味も、トリミングも何もしていない、現場で撮ったそのままの状態でご覧いただいている。もちろんRAWでも撮影しているのだが、できることならそのままの色味を楽しみたくて、JPEGでも撮影していたのが大当たりした。
ライカM10-RのJPEG設定の「コントラスト」、「シャープネス」、「彩度」はすべて標準のまま。ストロボやLEDライトなどは使用せず、自然光のみで撮影している。
街中ポートレートのカメラ設定
街中のポートレート撮影だったため、今回はライブビューを多用して撮影を行った。レンジファンダーを覗いて小さな四角を合わせる作業は大変好物なのだが、そこに集中し過ぎてしまうと、街ゆく方々の通行の妨げになってしまうこともあるので、周囲にも意識を向けたいときは、ライブビューで撮影を行うようにしている。
フォーカスピーキングの色は、青、緑、ホワイト、offから選択できるが、デフォルトが赤だったのでそのまま使用してみた。撮影時に被写体を自動的に拡大表示する「MFアシスト」は、オートではなくマニュアルにして、必要なときだけフォーカスボタンを押すか、モニター画面をダブルタップして呼び出して使うほうが私は撮影しやすい。シャッターボタンを半押しすると拡大表示が解除されて、構図全体が確認できるのは大変ありがたかった。
撮影中にモニター画像で露出の確認ができるように、露出シミュレーションはホールドに設定。ホワイトバランスはオート、測光モードは中央重点測光を使用した。
ある機能を見直すきっかけをくれたライカM10-R
今年はマニュアルレンズの年なのかというほど、今までで一番マニュアルフォーカスで撮影した年だった。この1年で様々な撮影方法を体験したが、ライカM10-Rのフォーカスピーキングの精度の高さと、液晶画面での確認のしやすさは、ピント合わせの時間が半分になるほど快適だったので、私的2021年度フォーカスピーキング王の名称をお贈りしたい。
ここだけの話、私はマニュアルフォーカスの撮影でも、フォーカスピーキング機能をオフにしてしまうことが多い。撮影している画像に、実際の像以外のモノが表示されるのが嫌いなのだ。
だがしかし、自分が今まで撮影したことのないカメラの波に乗ってみようとしているのだ、ここは今まで敬遠していた機能も使ってみるべきではないか。結果、液晶に直射日光が当たるような見にくいシーンでも、ピント合わせが容易に行えて便利だった。以降、ライカM10-Rではこの機能を使用していこうと深く思った。
今回出会ったレンズたち
今回、ライカM10-Rには「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」と「ズミルックスM f1.5/90mm ASPH.」の2本のレンズを組み合わせて撮影した。
ライカM10-Rと「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」のコンビネーションは鉄板で、実際に所持したらこのセットでしか撮らないのではないかと思うくらいだった。シャープで鋭い切れ味のピントとボケの滑らかな美しさはもちろん、ボディとバランスの良いサイズとデザインに惚れ惚れした。
「ズミルックスM f1.5/90mm ASPH.」は重量があるので、ライカM10-Rのストレートなボディと組み合わせると長時間の撮影は少々手に疲れを感じるが、撮影後に大きなモニター画面で写真を確認すると「ああ、もっと撮ればよかった」と思ってしまうほど、私好みの湿度の高い空気感を写し込んでくれていた。
絞り開放での描写はもちろん美しいのだが、少し絞って丸ボケに表情をつけると、今回のテーマに合った強いムードが出せて面白かった。
ライカM10-Rと私
撮影の最後に、シャッタースピードを遅くして、わざとブラした写真が撮りたくなった。優等生じゃない写真が撮りたくなった。ふと、カメラに撮らされているんじゃないかと感じた。だとしても、新しい何かに出会えるなら、それもいいかも知れない。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
ライカM10-Rはこちらの記事でもご紹介しています
■ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。vol.5|ライカ M10-R+ズミクロン M f2.0/50mm(山本まりこさん執筆)
https://www.kitamura.jp/shasha/leica/m10-r-3-20210320/
■ライカ M10-Rレビュー|コムロミホ
https://www.kitamura.jp/shasha/leica/m10-r-2-20201205/