ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.14|ライカM11モノクローム + ズミクロン 50mmf2 + ビゾフレックス2
はじめに
すううと乾いた風が、オレンジ色のコスモスを涼やかに揺らしている。
秋がやってきた。
新宿北村写真機店さんのリニューアルグランドオープンのレセプションにお伺いしたのは、今年の6月のこと。夏を感じる暑い夜だった。
ライカのカメラやレンズがズラリと並び、キラキラと輝く美しいショップでラグジュアリーにドリンクをいただきながら、写真家やたくさんのみなさんとライカのあんな話やこんな話をしていた。「ライカとカレーの連載も、次は第14回目です。」なんていうお話をしていたりしたら、なんだかほわほわといい気分になり、足がショップの方にふらふらと進んでいき、そして、あれよあれよという間に私の目の前にライカのレンズが並び、気付いたら2本目のライカのレンズが我が家にやってきた。
ズミクロン 50mmf2
ライカのオールドレンズの中では、とてもリーズナブル。多くは、10万円とちょっと。運が良ければ10万円以内で状態のいいものに出会える、お求めやすいレンズ。
今回は新しいレンズ、ズミクロン 50mmf2と旅をしよう。
ボディは、ライカM11モノクローム。
モノクロだけ撮れるというライカカメラ。その、最も新しいカメラ。
それに、ビゾフレックス2をつけて。
そう。この連載「ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。」は、私山本まりこが、ライカのカメラと一緒にどこかを旅をして、その旅の中でカレーを食べる、という企画。今回で14回目になる。
本当にいろいろ旅をしてきたなあ。
ちなみに。
1本目として持っているライカレンズは、ズマリット 50mmf1.5。
ソフトフィルターをかけたような強烈な柔らかさ、開放での虹のような強いフレアが特徴のレンズだ。
こちらに綴っているので、興味のある方は、読んでほしい。
ライカM11モノクロームとズミクロン 50mmf2
ライカM11モノクロームは、ライカのモノクローム撮影専用機誕生から11年の時を経て、2023年4月に誕生した。
6,000万画素、裏面照射型CMOSセンサーとISO125~200000という広い感度域との組み合わせが可能、「Leica」の赤いロゴが意図的に排除されたデザイン、光学ファインダーにはダークカラーのクローム仕上げのコーティングを施すなど、周囲の注意を引かないようなミニマルなデザイン哲学が踏襲されている。目立つことなく作品撮りに集中できる、モノクロームカメラだ。
ライカMモノクロームと言えば、今まで、ライカM10モノクロームや、ライカQ2モノクロームなどと旅をしてきた。
個人的に、ライカのモノクローム機にしか入っていないトーニングのブルーの発色が大好きだ。うっすらブルーが入ったモノクロームの表現。濃くも淡くも、なんて美しい表現なのだろうと、ずっと憧れている。そもそもモノクロームという意味は、単色という意味。モノクロームはブラック&ホワイトだと思っている方も多いかもしれないが、セピアも、ブルーも、単色であればモノクロームだ。本当は、初めて買うライカカメラは、ライカM11モノクロームだと思って過ごしてきた。でも、いつ発売になるか分からないので、たまらず、ライカM11を先行して購入した。
だから、今回、ライカM11モノクロームで思う存分ブルーの色を楽しみたい。
ズミクロン 50mmf2は、ライカ愛好者や写真家に愛され続けてきた沈胴式レンズ。2012年以降、APO-SUMMICRON-M f2/50mm ASPH.が発売になり、130万円を超える価格で販売されている現在、両者のその価格差に驚くばかり。
太陽に向かって、撮影してみる。
光の描かれ方が柔らかいなあ。
ギュンと強く光源が写るのではなく、太陽は点光源として輝くけれどもその周りをベールが包むように柔らかくグラデーションに描かれていく。
この描かれ方、美しいなあ。好きだなあ。
が、第一印象。
現行で発売されているレンズは、キリっとシャープに、そして、フレアやゴーストが出現しないように現代の技術を存分に生かした緻密設計。今後も新しいレンズには、そういった精密さが求められていくのだと思う。オールドレンズは昔その時代の技術の最高峰で作られていたであろうけれど、でも、今のものと比べたら、比較にならないくらい緩やかなものであり、その結果、柔らかく写ったり、フレアやゴーストが写ったりする。でも、それをあえて楽しみながら撮るのが、オールドレンズならではの撮影の楽しみでもある。
ズミクロン 50mmf2は、ズマリット 50mmf1.5ほど柔らかすぎず、かといって、現行レンズのようなカリっとさからは遠く、とても気持ちのいい位置で、私が描きたい柔らかい世界を描いてくれるなあと、うん、と頷きながら駅までの道を歩く。
川越へ
今日は、川越に行こう。
昔ながらの蔵造りの町並みを、歩こう。
さあ。
埼玉県の川越へ。
東京を越え、また緑が多くなる町並みを行く。
川越の町を歩くと、木陰にあじさいが咲いていた。
形がプリりとしていてとてもかわいいなあ、とシャッターを切る。
少しレンズを動かすと、頭上から照る強い日差しを受けて、弧を描く細い月のようなフレアが写った。フレアや、ゴーストを、あえて写して楽しむのも、オールドレンズの楽しいところ。
ズミクロン 50mmf2は、どんなフレアやゴーストが出るのだろう。
そう思いながら、レンズをあちこちに向けながら、フレアの出方を楽しんだ。
川越を歩く
川越の古い町並み。
もう、何度も歩いているけれど、モノクローム専用のカメラで撮影するのは初めてだ。
さあ、ここで。
トーニングをいろいろ変えて、撮影していこう。
ライカM11には、トーニングの種類が6つ、OFFと合わせると、合計7種類のカラーで撮影することができる。
1.トーニングOFF
2.セピア(薄い)
3.セピア(濃い)
4.ブルー(薄い)
5.ブルー(濃い)
6.セレン(薄い)
7.セレン(濃い)
の合計7種類。
1.トーニングOFF
2.セピア(薄い)
3.セピア(濃い)
4.ブルー(薄い)
5.ブルー(濃い)
6.セレン(薄い)
7.セレン(濃い)
少しずつではあるけれども色が変わり、同じ景色でも異なる風合いになる。
人の好みはそれぞれ。
先述したけれど、私は、トーニングのブルー(濃い)がとても好きだ。
ライカと川越
歩く。
歩く。
川越の町を歩く。
光と影が交錯するところを探して撮ると、モノクロ―ムは面白い。
私がいつも撮影しているエアリーフォトの場合、光と影が交錯する場所はコントラストが強く被写体が強めに写ることが多いので、そのシチュエーションを避ける場合が多い。いつもは、光に向かって逆光や半逆光で、全体が柔らかく写るように撮影していることが多い。いつもとは違う被写体をみつめているのは、違う自分になったようで、楽しい。
カレーの時間
ああお腹が減った。
カレーを食べよう。
実は途中、歩きながら見つけた最近OPENしたお店に入ろうかと迷った。
けれど、「川越」「カレー」と携帯で検索していたら、美しい盛り付けのお店を見つけたので、今日は、そこに行ってみようと思う。
お店の名前は、negombo33。
ネゴンボと読む。
ネゴンボ。
ニゴンボ。
そういえば、20代の頃、フィルムカメラを持って、スリランカに旅に行ったなあ。その時、ニゴンボという町でのんびりしたなあ、たくさんのスリランカの人々とお友達になった。素敵な町だったなあ、なんて、お店の名前を見ながら思い出す。
negombo33のお店は、お洒落な施設のフードコートのような中にあった。
お昼時なので、たくさんの人がお食事をしている。
お店の写真を撮るのは、なかなか難しい。
食券機で、二種盛りカレーを注文。
さつまいもチキンカレーと、ポークビンダルーにしよう。
ドリンクは、アイスティー。
しばらくして、美しいパープルの色のお皿に、丁寧に盛り付けられた色鮮やかなカレーが来た。ピンクペッパーが両カレーの上に散りばめられていて、きゅうりなどのアチャールも鮮やかに輝いていて、美しい。
とっても美味しそう。
ズミクロン 50mmf2の最短撮影距離は、3.5feet。約1mと6センチほど。だから、撮影する場合、被写体から1mと少し離れていないとピントが合わない。予め人のいない席を選んでいたので、立ち上がり、被写体から1mくらいの間隔をとるように少し離れて撮影。
光が奥から入る逆光、半逆光の光で、ビゾフレックス2を覗いて撮影。被写体を拡大してしっかりピントを確認しながら撮ることが出来るので有難い。もう、ビゾフレックス2がない撮影は考えられないほど、便利。
ライカMモノクロームは、デジタルズームが1.3倍、1.8倍と選ぶことが出来る。最短撮影距離をとるためにで被写体から離れた場合、デジタルズームと組み合わせて撮ることも便利なのでおススメだ。
さつまいもチキンカレーは左の器に盛られている。
ポークビンダルーは…ん、んん、このライスにかかっているカレーは、ポークビンダルー?これは多分、キーマカレーなのだと思う。粗挽きのお肉がほろほろとかかっているので、多分、ポークビンダルーではない、と思う。
こんなに丁寧に盛り付けて下さっているし、そのままいただこう。
ここにこうやって私のもとに届いたのは、きっと、これを食べてねという運命なのだと思う。
いつも、お店で違うものが届いたときは、大体、有難くそれをいただくことにしている。
わくわくしながら一口いただく。
まずは、さつまいもチキンカレーから。
川越は、さつまいもが有名。
さつまいもアイスやケーキ、シュークリームや干し芋など、たくさんのお土産グッズが販売されている。
ぱくり。
とても優しく、でも甘すぎないマイルドなカレーの中に、やわかく煮込んだサツマイモが入っていて噛むとトロリと溶ける。柔らかくスパイスの風吹く秋の川越を旅している、そんなカレー。美味しい。
そして、もう一つのカレーを。
ぱくり。
うん。美味しい。キーマカレー。
淡いターメリック色のごはんの量も多く、スパイスの香りが気持ちよく、ボリュームたっぷり、食べ応え抜群なのだけど、するすると胃に入っていく。さらりとしていて食べやすい。この撮影の1週間前はインドを旅していた。インドのカレーの油多さとスパイスの強烈さから比べると、日本人でもするすると食べられるカレー。自分でもびっくりするほど、あっという間に完食してしまった。
ああ美味しかった。ごちそうさまでした。
帰りがけ、お店の方にお声をかけて記事に掲載可能か聞いてみる。
「面白そうな企画ですねえ。ぜひぜひ。記事が出来ましたら、お知らせいただいたらうちの方でもシェアさせていただきますね。」と、満面の笑みでご対応いただく。
なんて素敵なお言葉。ありがとうございます。
調べてみるとnegombo33さんは、所沢、新宿、高円寺など、いろいろな場所にお店を展開されている大人気店。さらに調べると、レトルトカレーも販売されていて、そのパッケージを見ると、「あ、私、食べたことある。」と気づいた。Negomboさん、私、ポークビンダルー、食べたことありました。とても美味しかったです。やっぱり、私は、キーマカレーを食べる運命だったのですね。
ありがとうございました。
今度は、お店に、ポークビンダルーを食べに行きます。
海外と川越
歩いていると、海外からの観光客もとても多い。
中国語、韓国語、英語などなど、いろいろな言語があちこちから聞こえてくる。
路地に入ると、お着物を着たかわいらしい二人の女性たちが携帯電話で写真を撮り合っていた。
「お二人、撮りましょうか。」と、英語で声をかける。
携帯電話を受け取って、撮影する。
「このカメラでも撮っていい?」と聞くと、OK♪と。
少しお話すると、台湾から旅行に来ているとのこと。
日本のどこを旅するの?と聞くと、「トウキョウ、ヒア」と。
東京と川越を旅しているのだそう。
「私も台湾大好き。鹿港(ルーガン)がとても好き。」と伝えると、二人がぱあっと明るい笑顔になった。
写真を記事に掲載していいかどうか聞き、素敵な旅を!と別れた。
円安の日本は、本当に海外からの観光客が増えた。
コロナを経て、さらに増えたように思う。
どこの観光地に行っても、本当に多言語が耳に入ってくる。
そんなことを思いながら、f値を11まで絞って町並みを撮影した。
しっかり、どっしりと写る。
柔らかく写るオールドレンズも、大体f11くらいまで絞ると、しっかりと撮ることが出来る。
北本トマトカレー
川越と言えば、実家がとても近い。
実家のある北本市からは、車で30分くらいで行くことができる。
なので、幼いころから川越には度々訪れていた。
北本と言えば、北本トマトカレーが有名。
横須賀カレーフェスティバルで何度も優勝するくらい、有名。
私が住んでいたころは、トマトもカレーも全く有名じゃなかったけれど、大人になってから「北本トマトカレー」という名前を聞くようになってきた。
今夜は、北本トマトカレーを食べよう。
いつも行くラーメン屋で北本トマトカレーを食べることが出来る。
母を誘い、北本トマトカレーを注文。
マイルドなトマトのキーマカレー。
やっぱり美味しい。
そう噛みしめながらあっという間に完食してしまった。
おわりに
ライカM11モノクローム+ズミクロン 50mmf2+ビゾフレックス2との旅。
モノクロだけ撮ることができるライカM11モノクロームと、オールドレンズのズミクロン 50mmf2。
心地よい柔らかさを描くことができるズミクロン 50mmf2は、私の中で、ライカ機との組み合わせは抜群だと感じた。
適度に柔らかく、適度にしっかり。
そう写る組み合わせ。
あるようで、なかなかない。
今までいろいろなライカカメラとライカレンズで撮影してきたけれど、頑張らずに、適度に柔らかい世界が表現でき、f値を変えれば、しっかりどっしりとも写すことが出来る。
自分のライカM11でも、いろいろ撮影していきたいと思っている。
写りも好きだけれど、見た目も、とても好きだ。
なんて美しいフォルムなんだろうと、何度も眺めながら撮影していた。
さあ、次は、どの駅で降りようか。
ライカと一緒に
■negombo33 kawagoe
住所:埼玉県川越市連雀町8-1 1F Hatago COEDOYA内
電話:049-299-4555
Instagram:https://www.instagram.com/negombo33_kawagoe/
■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。
「ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。」連載記事はこちら