ライカ ズマリット 50mm F1.5レビュー|優しいベールで被写体を包み込む元祖ハイスピードレンズ
はじめに
「Leica Summarit 50mm F1.5」は、ライツ社初の大口径レンズで、大口径ハイスピードレンズの元祖とも呼称されるレンズです。 筆者は、標準画角の明るいオールドレンズを探しているときに、中古カメラ屋で出会った本レンズに一目惚れをして購入しました。約4年の付き合いになる本レンズの魅力を、筆者のメインフィールドでもある水族館、スナップ、ポートレート、ショートムービーの作品とともにお伝えします。
水族館作品にふんわり感が欲しくて探し回ったレンズ
本レンズは5群7枚ダブルガウス型のレンズ構成で、羽根枚数は15枚、円形絞りを採用しています。1950-1960年くらいに製造されたレンズで、シュナイダー社のクセノン5cm F1.5の改良型と言われています。
個性の強い写りで有名でもあり、開放時の描写は薄いベールをかけたようなふわふわとしたノスタルジックなボケを味わえるとともに、ときに、良くも悪くも想像が及ばないような、びっくりするような画を生み出してくれる、安定よりも冒険を求める方向けのレンズだと言えます。
筆者は、メインで撮影している水族館写真の写真展の作品に、最近のデジタル専用レンズのシャープさよりも、オールドレンズの柔らかい描写を取り入れたいと思い、都内の中古レンズ店を数週間歩き回って手に入れたのが、本レンズです。
この水族館の作品は、Nikon Z 6IIに、ライカMマウントレンズをニコンZマウントに変換する、焦点工房のマウントアダプター「Megadap(メガダプ)」を装着して撮影しました。
小さな金魚の目はシャープに、ヒレはふんわりとビロードのように優しく、背後の泡はオールドレンズらしく賑やかな玉ボケになり、これから付き合いが長くなるレンズだと実感した1枚です。
ぐるぐるボケが有名なレンズでもありますが、あまり「らし過ぎる」表現は避けたかったので、控えめなぐるぐるボケの写真を、写真展の作品として採用したのを覚えています。
ほんの少し絞り、金魚の体全体を写しながら、微かに水紋のようなぐるぐる感があるこの作品は、2022年の写真展以降も、写真集とPhoto雑貨の作品として活躍しています。
ポートレートの表現であるような、片目にピントを合わせて奥の目をボカすような、片顔をしっかり描くような表現を、魚を被写体にしてできないかと考えて撮影したのがこの作品です。
マウントアダプターによってAFを使うこともできるのですが、水中を素早く泳ぐ小さな魚を撮るときは、ヘリコイドを繰り出して接写ができる状態にして、MFを使い、自分が前後に動くことでピントを合わせています。
AFレンズのほうが楽に撮れるんじゃない?なんて思われるかもしれませんが、このレンズだからこその表現を知ってしまうと、MFでの撮影を苦に感じることはなくなります。ピントが合っている箇所と、その奥の被写界深度から外れている箇所との奥行き感を、約70年前に作られたレンズが、これほど美しく生み出していると思うと、感動すら覚えます。
暗い水族館では、F1.5の明るい開放F値はとても重宝します。そして、本レンズがふんわりさせるだけのレンズではないのは、クラゲのカサと触手の細かい描写をご覧になれば、何も語らずともおわかりいただけると思います。
ショートムービー
本レンズを「Megadap(メガダプ)」に装着することで可能となるAFの性能については、全編AFで撮影したこちらのムービーをご覧ください。通常、ムービー撮影ではAFは多用しないのですが、今回はボケとピントの移り変わりが面白かったので、わざと多目にピントの移動を入れて撮影しています。AFの作動音はかなり大きいので、同録する場合はご注意ください。
遠距離も近距離も楽しいスナップ撮影
スナップ編は、SIGMA fpに焦点工房オリジナルブランドSHOTEN(ショウテン)の「LM-LSL M (ライカMマウントレンズ→ライカSL.Lマウント変換) ヘリコイド付きマウントアダプター」を装着して、沖縄で撮影しました。
パイナップルのようにも見えるアダンの木は、沖縄ではよく見かける木ですが、ユーモアのある模様なのでつい撮ってしまいます。収差と周辺減光は抑制されていないレンズですが、それは味としてしっかり楽しみます。
ちょっと前には写ルンです、最近はオールドコンデジの写りすぎない写りがZ世代に受けていましたが、それらを好きだった方には、このレンズの写りもオススメしたくなります。
シグマのカラーモード「シネマ」はスナップでよく使用するモードで、ノスタルジックながら高コントラストで、本レンズとの相性抜群でした。
とても暗いステーキハウスで、最初に来た赤ワインを少ない光の中で撮影しました。レンズ自体が手のひらサイズでとても小さいので、テーブルでシャッターを押しても、SIGMA fpの小さなシャッター音のお陰もあり、食卓のムードを阻害しません。
沖縄に行くと、必ずと言っていいほど訪れるのが奥武島です。ここで暮らす猫たちは人にもカメラにも慣れている子が多くて、カメラを構えると逃げるどころか寄ってくることも多々あります。物言いたげ(何か欲しげ?)に出た前足が可愛くて、シャッターを切りました。
ここでも本レンズの特徴のぐるぐるボケが、微かに見て取れます。こんなにふんわりしているのに、猫のひげはしっかりシャープに描き切っているのはお見事です……が、本レンズを使っていると、どこにピントが合って、ボケのグラデーションが~なんて細かいことよりも、全体のムードで作品のセレクトをしたくなります。写真の基礎講座じゃないんだから、好みでいいじゃん!なんて気持ちにさせてくれるのは、写真を楽しむ上で貴重なことだと思います。
このレンズで描きたかったモノクロポートレート
筆者はカラフルな水族館写真を取り続けていると、突如としてモノクロが撮りたくなることがあります。本レンズを手に入れて撮影を続けるうちに、どうしてもモノクロのポートレートが撮りたくなり、約5年モデルをお願いしている大川成美さんにご協力いただき、SIGMA fp Lと本レンズで撮影した、モノクロポートレート写真展を開催しました。
マウントアダプターはSHOTEN「LM-LSL M (ライカMマウントレンズ→ライカSL.Lマウント変換) ヘリコイド付きマウントアダプター」を装着して撮影しています。カラーのときは逆光にこだわって、ふんわり感を演出するのが筆者のポートレートの基本なのですが、本レンズはレンズの特性として、全体に紗がかかったようなふんわり感があるので、斜光も取り入れて撮影しています。そうすることで、鼻や頬、肩や足の女性らしいボディラインを、光と影の立体感をもって表現できました。
ここまで、本レンズを使って近年撮影したジャンルの違う作品でレビューいたしましたが、また来年同じレンズでのレビューと言われたら、また新たな作品が増えている予感がします。
中古品なので、出会いは運次第ということもありますが、出回っている数は少なくないので、網を張っていれば状態のいい個体に出会える可能性もあります。特にふんわり感を追求したい方には、絶対的にオススメのレンズですよ!
■モデル:大川成美
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。