TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH レビュー|開放と絞り込んでの二面性を楽しむ1本
2019年6月に深センで生まれた新しいブランド
TTArtisan 35mm f/1.4 ASPHは、中国・深センにある銘鏡光学から発売されたレンズです。TTArtisan(ティーティーアルチザンと読む)自体が2019年6月に銘鏡光学から誕生した、非常に新しいレンズブランドになっています。最新の中国新興系レンズブランドといえるでしょう。
TTArtisanは非常に新しいレンズブランドですが、銘鏡光学自体は、日本でもすでにお馴染みの同じ中国・深センのレンズメーカー・七工匠(7Artisans)のレンズ生産などを請け負っていたメーカーとして、中国の写真愛好家などには認知されています。そういった意味では技術力・開発力などには十分な信頼もおけ、期待も高まります。
TTArtisan 35mm f/1.4 ASPHは日本国内では焦点工房が取り扱っており、2019年12月20日にTTArtisan 11mm f/2.8 Fisheyeとともに日本国内での販売が正式に告知されました。TTArtisan自体が高性能なライカ Mマウントレンズに特化したブランドであるため、用意されるマウントはともにライカ Mマウント用です。また、レンズのカラーはTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHはブラックのほかにシルバーも用意されています。
焦点距離35mmで開放F値が1.4と明るい広角単焦点となるTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHのレンズ構成は7群8枚、非球面レンズを1枚、高屈折低分散レンズを3枚使用しています。絞り羽根枚数は10枚です。
電子接点をもたないマニュアルフォーカス(MF)のレンズで、大きさは約Φ55mm×73mm、質量は約410gで、手に取るとしっかりとした金属製の鏡筒とみっちりと詰まった、ガラスレンズの重さが感じられる仕上がりとなっています。
しっかりとした金属を多用した外観とデザインですが、もっとも特長的なのは角型(八角形)の金属製フードでしょう。同じように金属製の角型(八角形)のかぶせ式フードも付属し質感、デザインともによく、所有する喜びを高めてくれます。
今回は、このTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHにマウントアダブターSHOTEN LM-SE(B)を装着してソニー EマウントのSony α7R IIIを使って撮影した結果を報告していきます。
開放ではやわらか、絞るとシャープな描写が魅力
今回も「解像力」や「ぼけディスク」などの各種実写チャートを使って制作したAmazon Kindle電子書籍『銘鏡光学 TTArtisan 35mm f/1.4 ASPH レンズデータベース』のチャートの結果を元に解説を進めていきます。
多くのレンズで解像力チャートやぼけディスクチャートを撮影していると、撮影したレンズが解像力重視なのか? それともぼけ描写重視なのか? はなんとなくみえてくるのですが、TTArtisan 35mm f/1.4 ASPHはどちらかというと解像力重視のレンズと言えます。ただし、単純にカリカリなシャープという描写ではないのが、おもしろいところです。
掲載した解像力チャートの基準は撮影したカメラの有効画素数から0.9なのですが、本レンズでは開放のF1.4からしっかりと解像しているのがわかります。しかし、球面収差を意図的に発生させているのか? 解像している上に紗のかかったようなソフト効果が発生しており、中央部分も含め滲むようなソフト効果が現れています。
絞りを絞ると紗のかかったような描写は減少し、中央部分ではF1.8でも大きく改善、F2.0あたりでほぼ気にならなくなり、F2.8で解消します。周辺部分の色収差なども絞るほどの改善する方向でF8.0からF11あたりが周辺部までを含めた解像力のピークになります。絞り開放の付近の紗のかかったようなソフト描写に比べると絞ったF8.0〜F11あたりの描写は、画面全体のシャープネスが高く、1本でふたつの味わいが楽しめるレンズといえるでしょう。
歪曲はタル型に発生します。レンズマウントにカメラと通信するための電子接点を持たないタイプのレンズなので、カメラボディによるデジタル補正の恩恵を受けられないことを考えると、さほど大きな歪曲ではありません。
各種色収差は、開放付近では中央部にまで意図的と推測される球面収差などを発生させるタイプのレンズなので、開放では周辺部分で観察されます。これらも基本的に絞ると改善するので、開放と絞っての描写が大きく違うのがTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHの魅力といえるでしょう。
Mマウントでは常識の最短距離70cmは……
今回はTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHにマウントアダプターSHOTEN LM-SE(B)を使いSony α7R IIIに装着して撮影しました。本レンズの最短撮影距離は70cmで、最大撮影倍率は非公開です。実際に最短撮影距離で撮影したところ、A2(420mm×594mm)のチャートより、さらに広い範囲しか撮影できないので、最大撮影倍率は0.06倍を切っていると推測されます。
Mマウントレンズとしては当たり前な数値なのですが、一眼レフやミラーレス一眼に慣れた身としてはかなり寄れない印象です。不満を感じるようであれば、レンズの最短撮影距離よりも寄って撮影を可能にしてくれるSHOTEN LM-SE M (S)などのヘリコイドの組み込まれたマウントアダプターを使うとよいでしょう。
周辺光量落ちには基本的にデジタル補正で対処
デジタルカメラでの使用を基本とした最近のレンズでは、純正レンズなどは電子端子を通して情報をやりとりして、リアルタイムでカメラ本体による周辺光量落ちのデジタル補正することや、RAW現像時などの後処理で対処することを前提として設計されていることは、珍しくありません。周辺光量落ちを許容することで、解像力やぼけの美しさなどを優先するわけです。
TTArtisan 35mm f/1.4 ASPHも周辺光量落ちについては、気になるシーンではRAW画像を同時に撮影しておき、RAW現像時に対処することを想定しているようで、絞り開放付近では、かなりはっきりとした周辺光量落ちが発生します。F2.8くらいまで絞るとかなり落ち着くのですが、それでも四隅の周辺光量落ちはなくなりません。本レンズで周辺光量落ちが気になるシーンを撮影する際には、絞って対応するよりも、RAW現像時などの後処理で対処することをおすすめします。
ぼけの形にはもう少しの工夫を期待したい
レンズ構成は7群8枚、非球面を1枚、高屈折低分散を3枚です。使用レンズの半数が特殊レンズのTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHは、どちらかというと開放ではふんわりとした描写ではあるものの、解像力を優先したレンズのためか、ぼけ味については比較的平凡な印象です。玉ぼけのなかに同心円状のシワが発生する玉ねぎぼけ、おそらく非球面レンズなどの影響がみられ、周辺部では各種色収差の影響と推測されるぼけのフチへの色付きが見受けられます。口径食による周辺部の玉ぼけの変形もやや強めといえるでしょう。
絞り開放のF1.4ではきれいな真円を描くのですが、F1.8でやや絞り羽根の形が目立ちはじめ、それ以降では玉ぼけは円というというよりも、多角形になっているように見受けられました。絞り羽根の構造は我々が思う以上にノウハウと経験がものをいうようですが、若いブランドだけに今後の進化に期待したいところです。
レンズを楽しくしてくれる新興ブランドを期待!
TTArtisan 35mm f/1.4 ASPHは、開放での球面収差などの影響よりソフトだが解像はしており、やわらかだが芯はあるといった印象の描写とF8.0、F11あたりまで絞った際の周辺部分までしっかりとシャープに解像する描写の二面性が1本で楽しめるレンズに仕上がっています。
開放からカリカリにシャープなレンズがほしいという人には向きませんが、レンズの特性を理解して使うにはとても楽しいレンズといえます。
日本での代理店である焦点工房のWEBのブランド紹介には「高性能なライカMマウントレンズに特化しています。」と記載されていますが、ライカユーザー以外もマウントアダプターを使って、各種ミラーレス一眼で楽しむことができるのも嬉しいところです。
中国語にはなりますが、TTArtisanのWEB(https://www.ttartisan.com/)には、既に日本での販売が開始されているTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHとTTArtisan 11mm f/2.8 Fisheyeの他に、21mmF1.5という製品も紹介されており、今後の展開が期待されます。
絞りを開ければソフト、絞ればシャープといった印象のTTArtisan 35mm f/1.4 ASPHなどから日本市場に製品を投入してきた中国・深センの新興レンズブランドである銘鏡光学のTTArtisan、今後も目を離せない中国新興系レンズブランドがまたひとつ増えたといえるでしょう。