この夏挑戦したい!花火ポートレートの撮り方
はじめに
こんにちは!フォトグラファーのKoichi(@hakuchuu1882)です。普段は、風景に人を溶けこませるような写真やアート写真など「心に響く写真」をコンセプトに日常を切り取っています。
今回は夏の花火と人物を一緒に撮影する『花火ポートレート』について撮影の仕方や注意点、どんなレンズを使っているのかについて書こうと思います。細かい注意点、周りへの配慮など撮影において大切なことも記載するので、今年の夏に挑戦しようと思っている人の参考になれば嬉しいです。
花火ポートレートとは
花火ポートレートとは、背景の花火と人物を合わせて撮影することです。
普通のポートレートと大きく違う点は、一般的にポートレートを撮影する際はできる限り被写体がブレないようにするためシャッタースピードを速めに設定するのに対し、花火の撮影は夜で光が少ない状況のためシャッタースピードはかなり遅めの設定にするという部分です。
花火を被写体の背景に配置しないとモデルと花火を一度に写すことはできないため、必然的に逆光での撮影になります。人物をどれくらいの大きさでどの部分に配置するのかによって撮影条件や使用レンズも変わってくるので、どのような写真が撮影したいのかを事前にイメージして撮影に臨むことをおすすめします。
使用機材・撮影方法
使用機材
まずはどんな機材で撮影しているのかというと、ボディは昔撮影した写真がNikon D810で、最近はNikon Z7 IIを使っています。どちらもフルサイズ機で、画像編集で暗所を持ち上げる際にもしっかりシャドウ部が持ち上がってくれるので、仕上がりのクオリティを確保するためには欠かせないカメラです。
レンズは用途や状況に合わせて、ズームレンズと単焦点レンズを使い分けて撮影をします。
F値を絞り込んで花火を「線」として写す場合には、レンズの明るさが必要なわけではないのでNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sを使用することもあります。一方で、花火を「点」としてボカして撮影する場合は明るいレンズの方が有利になるため、NIKKOR Z 135mm f/1.8 S PlenaやNIKKOR Z 50mm f/1.2 SのようにF値の小さなレンズを使用する場合もあります。
ボケの美しさやクセが出やすい撮影シーンなので、オールドレンズを使ってみても面白い写真が撮影できます。私は旧西ドイツで作られたM42マウントレンズのENNA München 135mm f2.8をマウントアダプターでFマウントに変換し、FマウントをZマウントに変換することができるFTZを使用してZ 7IIにつけて撮影をすることもあります。オールドレンズの場合は逆光耐性がないため、花火の光でフレアが生じたり白く飛びやすかったりと現代レンズに比べて様々な弱点があるものの、偶然がきっかけでそのレンズでしか撮影できない唯一無二の写真が撮影できることもあるので面白いです。
【1】NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
【2】NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena
【3】ENNA München 135mm f2.8
上の3枚の写真はそれぞれ
【1】NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
【2】NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena
【3】ENNA München 135mm f2.8
で撮影したものです。
【1】は花火が近くで上がる場所だったため、広角までカバーしたズームレンズの24-70mmを。【2】と【3】はそれぞれ会場から5km以上離れた位置から撮影をしているため中望遠の135mmを使用しました。
撮影方法
作例の【1】【2】【3】の撮影の仕方を順番に説明します。
~【1】の撮影解説~
まず【1】は建物の屋上から撮影をしているため、花火は目線より下の位置から打ち上がる状況でした。被写体の真後ろ中央に花火が広がる位置でモデルさんに立ってもらい、静止してもらいます。フィナーレで大きな花火を連発しているシーンなので、設定値は変えずに自分も動かないように息を止めながら、カメラが動かないよう地面に押し付けて構えます。この日は大雨で三脚にカメラを固定することもできない状況だったので、手持ちで口にレリーズを咥えて片手でカメラを地面に固定しつつ、傘を頭に乗せて残りの手でシャッターを切りました。
シャッタースピードが1秒以上ないと花火が開き切らず線にならないため、この写真はシャッタースピードを1秒にしています。被写体ブレや浴衣のブレも考慮しなければいけないので、天候が悪かったり風が強かったりする場合は1秒が限界かなと思います。無風でモデルさんの忍耐力に頼れるシーンでは30秒から1分前後止まってもらう場合もあります。
ISOは上げすぎるとシャドウ部にノイズが生じてしまうので160に設定し、F値はボケすぎず背景もある程度くっきりと出したかったのでこのレンズの開放値であるF4にしています。F2.8やF1.8のレンズを使って同じシーンで撮影をすると背景の花火はボケが大きくなりシャッタースピードも速くしないと白飛びしてしまうため、F値と背景の明るさやボケ感のバランスを考えてレンズや設定を決める必要があります。モデルさんの着物が明るく写っているのは、偶然この日は周囲の建物からの光が入り、浴衣に光が入ったためです。
【1】の写真の翌年に撮影したこの写真は晴天で風も少なかったため、同じレンズでも設定値を大きく変えて撮影しました。20秒間静止してくれたモデルさんの力あってこその1枚です。
この写真の場合はF16まで絞って撮影をしているため、背景の花火にも被写体にも手前の提灯にもピントが合っている写真に仕上げることができました。この時は前年とは違い、完全に暗いシーンでの撮影だったため浴衣は逆光でシルエットになっています。
~【2】の撮影解説~
この写真は5km以上離れた位置から中望遠単焦点レンズで撮影をした写真です。被写体と花火の距離が離れている状態でF値の小さな明るい単焦点レンズを使用すると、背景の花火が大きくボケて点として写ります。レンズが明るくなるということはその分暗いところでもシャッタースピードを確保することができるので、【1】の写真よりも速い0.4秒で撮影をしました。ISOは100~160くらいで撮影したかったのですが、周辺が非常に暗く、編集でどこまで持ち上がるか不安だったため250まで上げて明るめに写しています。
モデルさんと花火の位置関係も大切なので、花火が頭の後ろにくるまで何度もカメラの高さを調整します。シャッターを切るタイミングとリズムをモデルさんに伝えながら、息を合わせてシャッターとポージングを変えていきます。全てはタイミングが重要になってくるので指示の出し方やハンドサインなどを決めておくとスムーズです。
~【3】の撮影解説~
撮影で使用したENNA München 135mm f2.8は、【2】と同じ画角のレンズではありますが開放F値に違いがあり、かつ逆光が苦手なマニュアルフォーカスのオールドレンズです。そのため描写もシャープではなく、ピントが合っているのか合っていないのか分からないほどクセのあるレンズです。
【2】の写真と比べてISOは同じでF値が暗いのにどうしてシャッタースピードは【3】の方が速いのかというと、背景で上がっている花火が非常に明るい花火だからです。後ろで上がっている花火も全て同じ明るさではありません。そのため、白飛びを防ぐために次に上がる花火をプログラムを見ながら予測してシャッタースピードを変えましょう。コツは若干暗めの設定で撮ることです。私が使っているカメラの場合、花火の明るい部分が白飛びしてしまうと戻りづらく、暗いぶんには編集で持ち上がる可能性が高いため暗めに撮影しています。
【2】と【3】の背景の花火を見てもらうとボケ方が違うのがわかると思います。【2】はNikonの最新レンズで、逆光耐性もピント面の解像感も非常に優れているためピントの合っている被写体と背景の玉ボケがくっきり分かれ、ボケは真円にボケています。それに対して【3】はピント面が曖昧ではあるものの、ボケのにじみ方や重なり方が個性的で新しいレンズには出せない良い味が出ています。
このように同じ画角でもその場所の明るさや花火までの距離、打ち上がる花火の種類によって全く違った写真になるのも花火ポートレートの面白さです。三脚に固定するべきなのか手持ちで撮影ができるのか、シャッタースピードを速くして花火を点として写したいのか線の状態で写したいのかなど、自分の頭の中にある完成イメージを形にするために現地で様々な設定を試してみることが一番の近道です。
場所選び・注意点
次に撮影場所と撮影にあたっての注意点についてです。
ここまでの内容にも出てきましたが、基本的に花火ポートレートを撮影する場所は花火の会場とは別の、会場から離れた人がいない場所で撮影をします。理由は花火を見る人はカメラマンだけではなく、他にも沢山の人が集まるイベントだからです。観覧席付近や会場の人が多い場所でモデルさんを立たせて撮影をするのは周りのお客さんや通行人の妨げになります。人が少なく誰にも迷惑のかからない場所で安全に撮影をすることは、必ず守って撮影していただけたらと思います。
私がロケーション探しで大切にしていることは地域の方々とコミュニケーションをとることです。地元の方がその地域の土地やルールに一番詳しいので、その場所は撮影をして良いのか、入っても良い場所なのかを明確にしておきましょう。花火大会の当日は早朝に着くように移動し、マップを見ながら打ち上げ位置からの距離や角度、障害物などを明るいうちに調査しておきます。私の場合は、その際に散歩をしている地元の方や警備員さんなどと話す機会が多いので、現地のルールや夜になった時の人の混み具合などを聞きます。毎年見ている地元の方は詳しく、上がる高さやプログラムまで把握している方もいてとても参考になります。その交流も含めて花火大会の楽しさだと思っているので、マナーやルールをしっかり守って良い写真を撮影してもらえたらと思います。
まとめ
ここまで書いてきて改めて花火ポートレートは難易度が高く、考えることも多い撮影であることを感じました。毎年1つの花火大会で何百枚撮影しても、ブレずにかつタイミングがしっかり合っている写真は数枚~十数枚程度です。花火が理想の形をしていても風が吹いて衣装がブレてしまったり、ベストなタイミングでシャッターは切れていても肝心の背景が真っ白に飛んでいたりと、なかなか上手くいかないのが花火ポートレートです。
しかし、その分成功した時の感動は大きく、これだと思える理想の1枚が撮れた時はファインダーを何度も見返してガッツポーズをしてしまうほど嬉しいものがあります。1人ではなくモデルさんとの呼吸や信頼が合ってこそ完成するものだと思っているので、自分だけで完結する撮影とはまた違った喜びがあります。
今年の夏も全国で数々の花火大会が開催されます。花火師さん達も気合いを入れて準備をしていると思うので、夏の夜空に咲く大輪の花をぜひ堪能してみてください。
最後に、撮影に夢中になりすぎて自分の目で楽しむのを忘れてしまいがちな花火撮影でもあります。撮影はもちろんですが、美しい花火を自分の目に焼き付けるのも忘れないようにしてくださいね!
■モデル
ketty(@ayaketty1685)
お湯(@oyu_oyu_oyu_)
■フォトグラファー:Koichi (岩松晃一)
岐阜県高山市出身のフォトグラファー。東京を中心に活動。主な作品は風景の中に人を入れた情景写真や、Photoshopを使ったアート作品。「心に響く写真」をコンセプトに、日常を切り取る。最近はフィルムカメラを通して写真の楽しさを伝える活動をしている。