飛行機写真の基本テクニック Vol.2|飛行機写真の基本構図
はじめに
飛行機写真の基本テクニック Vol.1「飛行機撮影のカメラ/レンズ選び」の公開からだいぶ経ってしまったが、今回紹介するVol.2は「飛行機写真の基本構図」をお届けする。基本構図といっても定型があるわけではないが、日頃より飛行機写真を嗜む者の撮り方としては、大別して次の3つの傾向がある。
・スポッティング写真
・迫力系写真/アクションショット
・風景的飛行機写真
もちろんこれらに明確な線引きは無いし、どれかひとつにこだわる必要も無いので、多くのフォトグラファーは状況に応じて撮り分けているといえよう。飛行機を撮影する人の多くは、もともと飛行機が好きでその延長として写真を撮る人が多く、機体全景を写し込むスポッティング写真や迫力系写真など飛行機そのものを大写しすることを好む。風景的飛行機写真を撮影するときも、飛行機が小さくても機種の特徴が分かるよう写し込むことを是とする傾向があり、やはりどこかに飛行機好きがにじみ出てくるものである。
スポッティング写真は「記録」としての要素が強く、迫力系写真/アクションショットと風景的飛行機写真は「表現」としての要素が強いといえよう。
スポッティング写真
スポッティング写真とは、飛行機の真横または真横に近いアングルから撮影する、記録としての要素が強い飛行機写真である。同一アングルで撮影することで、機種の違いや塗装の違いはもちろん、登録番号の違いなどをコレクションして楽しむための撮り方である。画面いっぱいに飛行機を撮るだけなので一見すると簡単そうだが、光線状態に合わせて撮影ポジションを考慮したり、機体全体を画面いっぱいにバランス良くフレーミングしたりするなど、飛行機写真の基礎が詰まっている基本中の基本といえる撮り方である。
飛行機趣味が盛んでディープな世界が繰り広げられているヨーロッパでは、飛行機を見て記録することを「プレーンスポッティング」といい、飛行機を見たり撮影する人たちを「プレーンスポッター」または単に「スポッター」と呼ぶ。彼らの記録とは、写真撮影のみならず、見た飛行機のレジ番(レジストレーションナンバー:登録番号)を紙に記録することも含む。スポッター達はこうした記録をコレクションしていくことが目的なのである。
スポッティング写真の撮り方としては、機体が左右8-9割の大きさで写っており、真横または真横に近いアングルで撮影されていればひとまず成立する。だがその先には撮影者毎にこだわりポイントがあり、「晴天順光」、「機体左向き」、「地上シーン」、「前景・背景に他の被写体被り無し」、「左右の主脚が揃った真横」などさまざまだ。
古くはこれらのルールに則って撮影されたスライドフィルムの交換が行われており、当時は「フィルム銘柄はコダクローム64またはコダクローム25に限る」、「50mm標準レンズを使用」など厳格なものもあった。これらのルールに従う必要は無いものの、撮影条件にこだわればこだわるほど結果に表れてくるので、一連のスポッティング写真を見ればその撮り手の力量が分かってしまうともいえる。
筆者はスポッティング写真といっても真横写真にはこだわっておらず、どちらかというと斜め前または斜め後ろのアングルで撮ることが多い。また、真横写真では空きがちな写真の上下の空間を満たすために、背景に雲や地上風景を取り入れたり、飛行コースにやや近づいて画面上下方向の厚みを増すことで構図の安定に努めており、スポッティング写真をアレンジした撮り方を好んでいる。
迫力系写真/アクションショット
飛行機の魅力は、大空を自由に飛ぶことと、空を飛ぶために獲得した機能美である。それを撮影するのが迫力系写真/アクションショットだ。飛行機に迫力を感じるのはどのようなシーンであろうか。それは旅客機であれば離着陸シーンであったり、戦闘機であれば機動飛行であったり。はたまたコックピットやエンジンなどを大胆に切り取ったときであろう。
規格化された撮り方で個性を出しづらいスポッティング写真とは異なり、迫力系写真/アクションショットではアングルの自由度が高いので、撮り手のイマジネーションを発揮できるといえよう。その分スポッティング写真のような決まり事が無いので、初心者は先人達の写真を参考に、光線の使い方や立ち位置を読み解いてみると良いだろう。その上で自分の世界を追求していくのが上達の早道だ。
風景的飛行機写真
スポッティング写真と迫力系写真/アクションショットが飛行機をアップで捉える撮り方なのに対し、風景的飛行機写真はどちらかというと飛行機を小さく点景で捉える撮り方である。ただしあくまでも主役は飛行機なので、風景のなかに飛行機が埋没してしまわないよう配慮が必要だ。
風景的飛行機写真を撮る上で重要なのはロケーションである。飛行機を撮影できて自然風景もしくは都市風景が画になる場所で狙うことになる。自然風景を背景にした作画では、春夏秋冬の季節の移ろいや、雲の表情を狙うといいだろう。風景写真的なセンスと自然への繊細な気づき、状況変化への咄嗟の対応力が求められるので、仕上がった作品の伸びやかさとは裏腹に、撮影現場には独特の緊張感が漂う。
風景的飛行機写真では風景の美しさのピーク時に飛行機が絡む必要があり、それは得てして離発着便数の少ない地方空港であることが多い。風景が美しいタイミングであったとしても、風向き等で望みどおりのコースで飛行機が来ないこともしばしば。狙いどおりの条件が来ないとそのテーマは翌年以降に持ち越しとなりかねないため、無事撮れたときの感動はひとしおだ。
まとめ
以上、飛行機写真の3つの基本を紹介したが、冒頭でも述べたようにこれらに明確な線引きはなく、多くの飛行機写真撮影者は撮影条件によってこれらを撮り分けている。自分が求める撮り方を優先しつつも、他の撮り方にもチャレンジしてみると、撮り方の引き出しが増えるし作品群に厚みが出てくるので、柔軟な発想でぜひトライしてみてほしい。
飛行機撮影をより深く学びたい人は、今年5月に発売された拙著「飛行機写真の実践撮影マニュアル」(玄光社刊)も参考にしていただきたい。
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■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。