飛行機写真の基本テクニック Vol.1|飛行機撮影のカメラ/レンズ選び

中野耕志
飛行機写真の基本テクニック Vol.1|飛行機撮影のカメラ/レンズ選び

はじめに

デジタルカメラやスマホの普及で誰もが日常的に写真撮影を楽しめるようになり、空港や自衛隊基地の周りには常に撮影者の姿を見かけるようになった。大空を飛ぶ飛行機をカメラで追う作業はとても楽しく、適度に難しいためうまく撮れたときの感動は大きい。

飛行機写真は自由なので撮り方に決まり事はないが、定番の撮り方はもちろんある。まずは飛行機写真の基礎を身につけ、その上で自分の撮影スタイルを確立していくことも悪くないはずだ。そこで今回より数回にわたり飛行機写真の基礎を紹介するので参考にしていただきたい。

第1回目は「飛行機撮影のカメラ/レンズ選び」である。筆者のような筋金入りの飛行機マニアは、飛行機写真に必要な機材は目をつぶってでも分かるが、これから飛行機写真を始めてみたい人や、一眼レフカメラからミラーレスカメラへ移行を考えている人向けに、飛行機撮影の機材選びのヒントをお届けする。

飛行機撮影のためのカメラ

■撮影機材:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S
■撮影環境:F6.7 1/1000秒 ISO100

飛行機撮影では望遠レンズがメインレンズとなるため、レンズ交換式のミラーレスカメラまたは一眼レフカメラが基本で、とくに望遠レンズが充実しているメーカーのものが望ましい。

カメラに求められる性能は動体捕捉力が高いことで、ポイントはファインダー性能、AF性能、高速連写性能の3つである。フォーマットはフルサイズ、APS-C、マイクロフォーサーズなど各種ありどれを選んでも飛行機撮影を楽しめるが、ミラーレスカメラではフォーマットの違いというよりもEVF性能が重要で、現時点では高性能なEVFが採用されているフルサイズ機が飛行機撮影に向いているといえる。

もっとも重要なのはファインダー性能

飛行機撮影用カメラでもっとも重要なのはファインダー性能で、望遠レンズ使用時の正確なフレーミングのためにはファインダーが付いているものが必須だ。ミラーレスカメラであればEVF(電子ビューファインダー)の付いているものを、一眼レフカメラであればファインダーが明るく見やすいものを選びたい。

一眼レフカメラでは光学ファインダーなので表示遅延とは無縁だが、ミラーレスカメラはイメージセンサーが捉えた映像をEVFに表示しているため表示遅延が避けられないのと、1秒間に60回などといったリフレッシュレートで表示され、コマ落ちで映像が見えているため若干の不自然さは残る。動体撮影性能を謳っているミラーレスカメラではこのEVF性能が高く、上位機種ではブラックアウトフリーのEVFも登場している。このようなEVFであれば表示遅延はそれほど気にならず、一眼レフカメラ並みのフレーミング精度で撮影できる。

動体捕捉力を司るAF性能

■撮影機材:ニコン Z 8 + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S
■撮影環境:F5.6 1/2000秒 ISO400

飛行機は高速で動くので、AF性能は高い方が楽に撮影できる。一般に上位機種のカメラほど高性能で、高速でより正確なAF撮影が可能だ。飛行機撮影に使用するAFモードはピントを合わせ続けるコンティニュアスAFが基本で、メーカーによりAF-CやAIサーボ、C-AFなどと呼ばれる。

一眼レフカメラでは専用AFセンサーが備わっており高性能なものが多いが、構造上AFカバーエリアがフルサイズ機では画面中央付近にしか分布せず、フレーミングの自由度はやや低い。一方ミラーレスカメラではAFセンサーがイメージセンサーに埋め込まれており、従来は一眼レフカメラより動体撮影時のAF性能が劣っていたが、最新の上位機種では一眼レフカメラを超えるAF性能を持つものも登場している。

連写は10コマ/秒もあれば十分

■撮影機材:ニコン Z 8 + NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
■撮影環境:F8 1/1500秒 ISO200

飛行機写真におけるシャッターチャンスはほんの一瞬で、連写性能は高い方がより確実に狙ったシーンを記録できる。といっても飛行機写真ではファインダー性能やAF性能さえ良ければ連写性能はそれほど重要ではなく、10コマ/秒もあれば十分だ。もちろんそれ以上の連写性能があればより撮影精度を上げられるのは言うまでも無い。

撮影を妨げない操作性

■撮影機材:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S
■撮影環境:F9.5 1/500秒 ISO100

カタログスペックでは判断しづらいのは操作性である。一瞬のシャッターチャンスに対応するためには操作性の良さはとても重要で、自分の手に馴染むサイズ感であることはもちろん、ボタン操作やダイヤル操作がしやすく、メニューが直感的で理解しやすいことが求められる。

とくに飛行機撮影では望遠レンズの手持ち撮影がほとんどなので、カメラを構えた状態で物理ボタンやダイヤルを各種操作ができることが望ましい。設定変更するのにいちいちメニューを開く必要のあるカメラでは、設定のために撮影スタンバイの状態を崩す必要があるためシャッターチャンスを逃しやすい。

メインは望遠レンズ

■撮影機材:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S
■撮影環境:F6.7 1/2000秒 ISO200

飛行機写真のメインレンズは望遠レンズである。必要な焦点距離は撮影環境や狙いにより異なるが、旅客機撮影や戦闘機の離着陸撮影であれば100-400mmまたは180-600mmといった超望遠ズーム、戦闘機による機動飛行の撮影であれば600mmや500mmといった単焦点超望遠レンズが人気だ。

戦闘機は旅客機と比べて機体サイズが小さいため500mmや600mmでも焦点距離が足りないことが多く、1.4倍テレコンバーターを併用することを前提としているため単焦点超望遠レンズが有利だ。超望遠ズームにテレコンバーターを組み合わせることもできるが、開放F値の暗さに起因するシャッター速度の低下またはISO感度上昇による画質の低下はもちろん、AF速度や精度の低下などの諸条件で歩留まりは単焦点ほど高くない。

超望遠ズームも一昔前に比べるとはるかに性能向上しているが、800mm域の超望遠撮影ではまだ単焦点超望遠レンズに分がある。超望遠ズームでもピーク画質は単焦点超望遠レンズに匹敵することもあるが、常にその性能が出るわけではない。戦闘機は旅客機に比べると好条件での撮影チャンスが少ないだけに、機材選びは慎重にならざるを得ない。

標準・広角レンズの出番も多い

■撮影機材:ニコン Z 9 + NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
■撮影環境:F8 1/1500秒 ISO200

超望遠以外のレンズとしては、24-105mmや24-70mmといった標準ズームや14-30mmや16-35mmといった広角ズームの出番もある。とくに風景的な飛行機写真や展望デッキからの撮影、航空祭の地上展示機やブルーインパルスなどを撮るときは欠かせない。レンズ選びは超望遠ほどシビアではないが、画質が良いに越したことはない。ただ日中の撮影においては絞って使うことがほとんどなので、開放F値は必ずしも明るくなくてよい。

システム構築

飛行機撮影用のシステム構築例として、カメラとレンズの組み合わせを3つの段階で提案すると以下の通り。ここでは筆者のシステムに合わせてニコンにしているが、各メーカーの同程度のスペックを持つ機種でももちろんかまわない。

ミラーレスカメラ

●梅
Z6III
NIKKOR Z 28-400mm f/4-8 VR

●竹
Z8
NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S

●松
Z9
Z8
NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S
NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR または NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S
NIKKOR Z 24-120mm f/4 S
NIKKOR Z 14-30mm f/4 S

一眼レフカメラ

●梅
D7500
AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VR

●竹
D850
AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR
AF-S TELECONVERTER TC-14E III

●松
D6
D850
AF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VR
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S TELECONVERTER TC-14E III

まとめ

一眼レフカメラの方が比較的安価でシステム構築できるし撮影時の充実感は大きい。性能的にも全く問題ないのだが、今後の発展性は見込めず今後どれくらい長期間使い続けられるかの不安はある。これから機材を揃えるのであればミラーレスカメラを導入するのが無難だが、ひとまず一眼レフカメラで写真の練習をして、高性能ミラーレスカメラの値段がこなれてきたらミラーレスカメラシステムを再構築するというのも手だ。

できる限り最新の上位機種を選ぶことで結果は出しやすくはなるが、機材に課金しすぎて撮影のための費用が出ないようでは本末転倒。できるかぎり多く現場に出ることを最優先にし、その上で自分に合った機材を選びたい。

飛行機撮影をより深く学びたい人は、今年5月に発売されたばかりの拙著「飛行機写真の実践撮影マニュアル」(玄光社刊)も参考にしていただきたい。

(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止

 

 

■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。

 

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