ニコン NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S|望遠系の撮影には必須のレンズ
はじめに
これまで、Nikon Z 8の導入を機に、ミラーレスシステムにおいて私に最低限必要なレンズセットのラインナップを順番に紹介してきました。詳しくは、NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sについて書いた記事にまとめておりますので、ご興味ある方は読み直して頂ければと思いますが、その中で、必須のレンズとして挙げたもののひとつに、100-400mm f/4.5-5.6がありました。
従来から所有していたFマウントの同レンズを用いることもできるわけですが、Zシステムをフル活用するのであれば、やはりマウントアダプターを介さずに専用のレンズを使いたいところです。そんなわけで、今回はNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sについてまとめてみたいと思います。
なぜ100-400mmなのか?
さて、まずはそもそもなぜ100-400mmが私にとって必須なのかということを説明した方が良いでしょう。以前の記事で、私が仕事の撮影でまず必要になるのは以下のレンズ群であることを紹介しました。
・50mm f/1.4
・28mm f/1.8
・24-120mm f/4
・100-400mm f/4.5-5.6
・45mm f/2.8 Tilt Shift lens
これは、Fマウントを使ってきたなかで構成されたものですので、Zマウントに置き換えた場合にはそれぞれの焦点距離やF値も変わってきますが、ここで今回注目しておきたいのは、望遠側をカバーするレンズとして、70-200mm f/2.8ではなく、100-400mm f/4.5-5.6を選択している点です。ちなみに、24-70mm f/2.8ではなく、24-120mm f/4を選択している理由については、NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sについてまとめた記事に書いておりますので、気になった方はチェックを。
私が望遠側の焦点距離を必要とする仕事を具体的に考えてみると、舞台や演奏会といったロングレンジからの撮影、風景の一部を切り取る撮影、鳥類や昆虫などの撮影、圧縮された遠近感を利用したスナップ撮影などが挙げられます。
例えば、舞台現場などを撮影する場合、演者の上半身や顔まで寄ろうとすれば、会場の広さにもよりますが200mmではカバーできない状況が多くあります。舞台やコンサートを撮影する場合に写真家が陣取る位置というのは、1000人以上を収容できる大きなホールでは客席中ほど、200人収容の小さめのホールでは一番奥というのが多いのですが、この位置から狙うと、100mmでおおよそ舞台全体、400mmでは顔、あるいは上半身がうまく収められます。
それが200mmですと、大体演者の膝から上、または全身が写るくらいの焦点距離になるわけです。もう少し身近なシチュエーションで考えると、例えば小学校などの運動会を考えても同じだと言えます。私も二人の娘の父親として、以前は運動会で彼女たちを撮影していましたが、バストショットやアップショットまで寄ろうとすると、200mmだとどうしても足りないということが多かったように思います。
自分の立ち位置を自由に設定できるポートレートなどでは、70-200mmのほうが使いやすく、背景ボケもより自由に用いることができるのですが、撮影位置が自由にならない撮影では、圧倒的に100-400mmのほうが使い勝手が良いというのが私の考え方になります。また、野鳥などの動物、鉄道等をモチーフにされる方にとっても、400mmまでの焦点距離を確保することは非常に有効だろうと思います。
ちなみにレンズの大きさや重さですが、Zマウントレンズにおける70-200mmは寸法が89mm x 220mm、質量が1440gなのに対して、100-400mmは寸法が98mm x 222mm、質量が1435gとさほど変わらないものになっています。
「S-Line」の冠が誇る優れた画像
今回の撮影では、普段メインカメラとして使用しているZ 8ではなく、Z 5を使用しました。理由としては、少しでも軽くしたいという一点なのですが、よりオートフォーカスの精度を高めたい方は、Z 8 やZ 9を選ばれるとよりスムーズな撮影が実現できるでしょう。
NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sは、その名の通り「S-Line」を冠した、NIKKOR Z レンズの中でも、さらに高い基準を満たしたレンズになっていますので、画質としては非常に優れた画像が得られるレンズとなっています。メーカーのウェブサイトで公開されているMTF曲線を確認しても、ワイド側テレ側共に非常に良い結果を示しており、特にコントラストを示すグラフは画面中心から周辺までほぼ一定に保たれています。
実際の撮影でも、絞り開放から非常にクリアで精細な画像が得られました。新宿歌舞伎町の夜をスナップ撮影した写真では、望遠特有の圧縮効果と同時に、輝度差の高い様々な色が明瞭に再現され、ハイライトからシャドウまで豊かなトーンが得られています。
最短撮影距離はワイド側で0.75m、テレ側で0.98mとなっており、最大撮影倍率はそれぞれ0.16倍、0.38倍となっていますので、マクロとまではいきませんが、同じクラスのレンズと比較すると、より近接で大きく写すことが可能です
近距離で撮影した蝋燭の写真を見てみると、手前のガラスのススの質感や炎のトーンが豊かに再現されると共に、背景の大きなボケにより印象的な画作りが可能なことが分かります。
望遠レンズにおける手ブレ補正機能は非常に有効
撮影をアシストする機能としては、レンズシフト方式のVR機構が搭載されており、5.5段分の手ブレ補正効果が得られます。Z 9などと組み合わせることで、ボディー内手ブレ補正と連動させ、さらに高い補正効果が得られることもあり、手ブレの影響を受けやすい望遠レンズとしては非常に有効な機能だと言えるでしょう。手ブレ補正は、撮影時のフレーミングにおいても非常に有用です。400mmである程度近い場所を捉えようとすると、標準や広角では気にならないような微細なブレが大きく影響し、正確なフレーミングを維持するのが難しいのですが、手ブレ補正機能を用いることで、より安定したフレーミングが可能になります。
例えば、河津桜の花をついばむヒヨドリを撮影した写真では、400mmを用いていますが、手ブレ補正により的確なフレーミングが実現されています。
絞り開放を用いた犬の写真では、圧縮された遠近感と共に、遠くの被写体の輪郭が際立つように再現されています。雪山で撮影した写真はある程度絞り込んでいますが、画面中心から周辺まで高い解像感が得られ、霧の柔らかさとその間から見える木々のコントラストもよく描写されました。降りしきる雪片も大きく写され、印象的です。
狛犬などの彫像を撮影した写真では、極端に絞り込み、F32を用いています。通常は、小絞りボケを回避するためにF16程度までに抑える方が多いと思いますが、画面全体でボケがなく、フラットな描写を得ることを優先してギリギリまで絞り込む撮影方法を選択しました。土門拳が仏像などを撮影するときによく用いていた方法でもあります。拡大してみると、若干小絞りボケの影響によるシャープネスの低下は感じられるものの、実用上ほとんど問題はないと判断できます。それ以上に、絞り込んだことで得られる画面全体のフラットな密度感が効果としては強く感じられるのではないでしょうか。
おわりに
今回は商業撮影の場ではなく、普段のスナップに本レンズを持ち出してみたわけですが、流石に重量感はあるため、軽快に撮り歩くというような感覚ではありませんが、望遠を用いた撮影には、標準や広角の画角では得られない様々な発見があったように思います。また、商業撮影の場においても高い光学性能と強力な手ブレ補正効果により、現在常に活躍している一本になります。望遠系が必要となる撮影において必須であり、また必要十分な機材であることは、今回の撮影でも改めて実感しました。
■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。