ニコン NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR レビュー|飛行機写真用レンズはこれで決まり!コスパ抜群の超望遠ズーム
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はじめに
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ニコンから機動性に優れた超望遠ズーム「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」が8月31日に発売された。テレ端600mmの超望遠域をカバーしつつも、開放f/6.3とすることで質量約2kgと軽量コンパクト化を実現。実勢価格も約23万円と超望遠レンズとしては手を出しやすい価格設定だ。
本レンズは、Zマウントレンズロードマップに長らく掲載されていた“200-600mm”であり、ロードマップ初掲載からじつに約4年の年月を経て180-600mmとしてついに登場した。筆者も発売日に入手して以来、飛行機撮影用レンズとして常用している。
AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6 ED VRから大きく進化
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本レンズはFマウントのAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRのZマウント版ともいえる製品で、全体的なサイズ感や値ごろ感はそのままに、大幅なスペックアップを図っている。
まず、カバーする焦点域がワイド端テレ端ともに広がったことと、ズーミング時の全長変化がないインターナルズーム機構としたことで、高画質の維持と重心の安定に成功している。200-500mmの画質は価格の割には健闘しているが、180-600mmではとくにテレ端の画質が大幅に向上しており、撮影条件が良ければ単焦点超望遠レンズに匹敵するほどである。
また、180-600mmではズームリングの回転角を70°とすることで、ワンアクションでワイド端からテレ端まで素早くズームできる。200-500mmのズームリングの回転角は155°と大きく、ワイド端からテレ端までのズーミング時は一旦ズームリングを持ち替える必要があった。
180-600mmのズーミングによる開放f値の変化は、ワイド側180~300mmはf/5.6、300~500mmはf/6、テレ側500~600mmはf/6.3で1/6ステップで変化する。
飛行機写真に最適な焦点域をカバー
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F8 1/1000秒 ISO100 WB晴天
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F8 1/1000秒 ISO100 WB晴天
着陸するエアバスA380を撮影。まずはテレ端600mmで胴体アップを狙った直後、ズームリングを回してワイド端180mmで機体全景を撮影。ズーム操作しやすいため終始安定したフレーミングで撮影できる。非S-LineのZレンズながら、テレ端ワイド端ともに安定した画質が得られる。
180-600mmという焦点域は飛行機写真にはちょうど良く、システム的にはNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sと組み合わせれば、レンズ2本で飛行機写真におけるほとんどのシーンをカバーできてしまう。
操作系
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操作系は鏡筒左側に集中しており、ボディ側から順にフォーカスモード切り替えスイッチ、フォーカス制限切り替えスイッチ、三脚座、コントロールリング、ズームリング、L-Fnボタン(4箇所)が配置されている。なおコントロールリングはデフォルトではフォーカスリングとなっている。
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三脚座は着脱可能で、三脚座を取り付けた状態のレンズ質量は2,140g、三脚座を取り外すと1,995gとなる。ちなみに筆者は三脚座に150mm長のレンズプレート(マーキンスPL-15N)を取り付けることで、手持ち撮影時における左手のホールドをよくするとともに、ズーミングしやすいようカスタマイズしている。もちろんアルカスイス互換雲台にもそのまま載せられるので一石二鳥だ。
最大5.5段のVR(手ブレ補正)
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F8 1/1500秒 ISO200 WB晴天
レンズ質量は約2kgと600mmとしては軽量ではあるが、Φ95mm径のレンズにしてはやや重く感じたというのが最初の印象だ。ただし、Z 8およびZ 9を組み合わせてのホールディングバランスも良好で、VRも最大5.5段の手ブレ補正効果が得られるため手持ち撮影も楽々。VRの設定はNORMALモードでは「露光前センタリング」を行うので連写時にファインダー像がカクつくため、動体撮影時はSPORTモード推奨だ。SPORTモードなら超望遠撮影時もファインダー像は安定しているので、正確なフレーミングをサポートしてくれる。
STMで高速・静粛AF
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F6.7 1/2000秒 ISO200 WB晴天
AF駆動はZレンズ定番のSTM(ステッピングモーター)で、高速・静粛なピント合わせが可能。爆速というわけではないが、戦闘機のような高速で動く被写体に対しても十分なAF速度を持つ。
ズーム全域で高画質
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F8 1/1500秒 ISO200 WB晴天
本レンズはS-Lineではなく廉価版の位置づけだが、期待以上の高画質に驚かされる。とくにテレ端400mm以上の超望遠ズームレンズの傾向として、テレ端に近づくにしたがって画質が低下していくものだが、本レンズはワイド端180mmからテレ端600mmまでの画質が非常に安定しているのだ。
また、青空バックで撮影する機会の多い飛行機写真においては周辺光量不足があると特に気になるものだが、本レンズはワイド端テレ端ともに顕著な周辺光量不足が見られない。撮影時にボディ側でヴィネットコントロールを強めに設定していることもあるが、それでもS-LineのNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sよりも周辺光量不足が目立たない。
加えて、ズームレンズながら別売のZ TELECONVERTER TC-1.4xおよびZ TELECONVERTER TC-2.0xの各テレコンバーターにも対応しており、1.4倍テレコン使用時は252-840mm f/8-9として2倍テレコン使用時は360-1200mm f/11-13のさらなる超望遠撮影が可能だ。
優れた耐逆光性能
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F11 1/1500秒 ISO200 WB晴天
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F8 4秒 ISO1600 WB電球
レンズ構成は17群25枚で、EDレンズ6枚、非球面レンズ1枚を採用している。他のZマウント超望遠レンズにはナノクリスタルコートやアルネオコート等の耐逆光性能を高めたコーティングが施されているが、本レンズにはその表記がない。
だからといって逆光に弱いわけでもなく、夕陽バックや夜間の飛行機撮影など、画面内に強い光源が入るような条件下でも試してみたが、フレアやゴーストが盛大に出るということもなく、極めて優秀なレンズであることを実感した。
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F8 1/1000秒 ISO200 WB晴天
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F8 1/2000秒 ISO200 WB晴天
まとめ
NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRはS-Lineではないこともあり、正直なところそれほど期待していなかったレンズであった。しかし実写してみてその描写性能に驚き、今では自分の飛行機写真に欠かせないレンズとなりつつある。
もちろん操作系や高級感など細かいことを言えば上位クラスのレンズに劣るが、画質面での不満はほぼ無い。これまでの超望遠ズームにありがちな、テレ端の画質が甘いこともなければ、周辺光量不足が目立つこともない。
これから飛行機写真や野鳥写真を始めてみたい超望遠初心者や中級者はもちろんのこと、ベテランや他社からの乗り換えユーザーにも自信を持ってオススメできる一本だ。
※(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止
■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。