ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 S|シャープな描写が心地良い標準ズームレンズ
はじめに
2022年1月28日に発売された「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」は、24mmから120mmまでの幅広い画角をカバーしながら、高い光学性能を有するS-Lineの標準ズームレンズです。今回は、本レンズのレビューをポートレートをテーマにお届けいたします。
フレアとゴーストを徹底的に抑えたシャープな描写
ポートレートでは、まず望遠端の120mmの描写が気になるところです。このカットは絞り開放で、画面右とモデル後方にある窓からの自然光で撮影しています。逆光や半逆光で撮影することの多いポートレートは、フレアやゴーストが発生しやすい状況とも言えます。フレアとゴーストは、見る人の意識を散漫にすることがありますので、意図して作り出すとき以外は極力抑えて、ストレートな描写にするのが筆者の好みです。
本レンズは、レンズに対して斜めから入ってくる光の反射を低減させる「ナノクリスタルコート」と、レンズに対して真っ直ぐに入ってくる光の反射を低減させる「アルネオコート」の、ふたつの反射防止コーティングが施されています。このふたつが施されているレンズは、びっくりするほどフレアとゴーストに強くて、構図内に光源を入れてもスッキリと抜けのある画を撮れるのが特徴です。
その反射防止コーティングの恩恵もありますが、最初に強く感じた本レンズの印象は、切れ味の良いシャープな描写だということでした。ピントが合っているマツゲと、その被写界深度内に収まっている髪の毛の描写が繊細で、こまかい被写体をくっきりと綺麗に描き出してくれています。
ピント面からボケ部分へのグラデーションも自然です。この描写が大雑把なレンズだと、髪の流れが美しく見えないのですが、ストレートな髪のラインと毛先の軽いハネがナチュラルに、でもくっきりと描かれています。
絞り開放時のナチュラルなボケ味
続いて広角端24mmの描写です。絞りは開放で撮影。主な光源は構図内にあるレースのカーテン越しの自然光と、構図の左奥にある、少し遠いモデルの背中側からの自然光です。手前のボケている黒い物は、椅子の背もたれです。広角で室内ポートレートを撮るときは、最短撮影距離を超す被写体を手前に入れて大きくボカすと、覗き見しているような構図になるのでストーリー性が増します。
色にじみも雑味もない、好感の持てるストレートなボケの描写は、このようなポートレートには最適でした。F4の絞り値はボケ過ぎず、写り過ぎず、ナチュラルな見え方をするので、標準から広角の焦点距離で撮影するときに使いやすい絞り値ですね。
本レンズは13群16枚で、ED非球面レンズ1枚、EDレンズ3枚、非球面レンズ3枚で構成されています。特にED非球面レンズは、EDレンズの色収差補正効果と、非球面レンズの各収差補正効果を1枚のレンズで得られるレンズで、高い描写性能を実現させています。これによって、光軸のずれによる色にじみや、焦点位置のずれによる画像のぼやけが効果的に抑えられて、画面の隅々まで収差のない、解像度の高い綺麗な画を生み出してくれます。
モデルの集中力を削がない静かなAF駆動音
120mmの望遠端では、ポートレート撮影ではそんなに被写体に近付くことはありませんが、唇やマツゲに注目したカットを撮りたいときは、あと一歩寄りたいことが多々あります。本レンズは最短撮影距離が35cmなので、手を伸ばせば触ってしまえるほど、モデルに近付くことができます。
近接撮影で気になるAFのモーター音ですが、STM(ステッピングモーター)を採用しているので、素速く静かにピント合わせを行えます。モデルと数メートル離れているときは気にならないAF駆動音ですが、1m前後の距離になると、モデルの集中力を削いでしまいそうで、心のなかで「もっと静かに!」と祈ることもしばしば。最近は、動画撮影も考慮して、レンズに求めるものの上位に”AF駆動音が静か”という項目が増えました。
フットワーク軽く動けるコンパクトなサイズ
24-120mmという広範囲をカバーしながら、重さ約630g、大きさ約84mm×118mmと意外とコンパクト。2時間程度の撮影なら、片手で支えていても疲れは感じません。
特に室内のポートレート撮影では、狭い空間にしゃがみこんだり、高いところから見下ろすように撮ったりと、人目を気にしない分アクティブな撮影をすることが多いので、レンズの重さはもちろん、長過ぎないレンズのほうが便利に扱えます。本レンズは、その点で大きなメリットを実感できました。
シンプルなデザイン、使いやすい操作系
撮影を邪魔しないシンプルなデザインと金属的な質感は、S-Lineのレンズらしくて、持っていて安心感がありました。見やすいサイドの操作ボタンや、手に馴染むフォーカスリングは、撮影者に余計なことを考えさせずに、いつもの撮影をさせてくれます。
ポートレートながら望遠端での撮影が多くならず、広角や、標準画角など、様々な画角で撮影したくなるのは、すぐにこのレンズに慣れたからでしょう。どんなにいいレンズでも、操作系に引っかかりを感じたり、一度考えてから操作をしなくてはならないデザインのレンズでは、そのような撮影はできません。
グラデーションと質感に驚かされたアンダー部分の描写力
シャープな描写性能のお陰でしょうか、本レンズではアンダー部分の描写が気に入って、落ち着いた露出のカットを多く撮影していました。黒の締りが綺麗で、影の部分の暗い黒と、光が当たっている部分の明るい黒の色味のグラデーションが美しくて、撮影後に大きなモニターで確認したときには、質感まで綺麗に描き出していることにあらためて感動しました。
レンズのスペックを見ると、旅行やスナップに向いていそうなレンズですが、ポートレートでも十分活躍してくれるレンズだと、この撮影を通して実感しました。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。
NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sのレビューはこちらでもご覧頂けます。
「Z」標準ズームレンズの新基軸|ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sで撮る
三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485391707/
ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sで描く旅と日々
クキモトノリコ
https://www.kitamura.jp/shasha/article/485904132/