ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sで描く旅と日々
はじめに– NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sを買い足した理由
ニコンのZシリーズでFX(フルサイズ)規格の標準ズームレンズは、2018年9月にZシリーズの初号機Z 7とともに登場した「NIKKOR Z 24-70mm F/4 S」があり、私も同年11月に発売されたZ 6を手に入れて以来愛用してきました。今回登場した「NIKKOR Z 24-120mm f/4 S」は、望遠側が70mmから120mmに伸びたものの同じ画角をカバーしており、開放F値は全域でF4と同じ。にもかかわらず、発売が決まるや否やすぐに予約をしました。
その理由はまず、やはり望遠側が70mmでは足りないことが多いということ。遠くの被写体をあとちょっと大きく撮りたい……というケースもありますが、もう少し圧縮効果を出したいのに……!という場合も多く、わざわざ望遠レンズに付け替えなくてもこの「あとちょっと」に手が届くのが120mmという焦点距離の良いところではないでしょうか。
【焦点距離:70mm】
【焦点距離:120mm】
また今回、事前に「びっくりするほど解像度が良い」と耳にしていたこともあり、迷わず予約をしました。今回はそのあたりも含めて実際に使ってみた感想を、小旅行となった雪山と日常の範囲で撮影した写真とともにご紹介します。
あとちょっと、に届くズーム域
Zシリーズの発売以来、標準ズームレンズはNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sを使ってきたのですが、このテレ端70mmという焦点距離は「レンズ交換するほどしっかり望遠で撮りたいわけではないけれど、あとちょっと望遠にしたい時に足りない」という場面がちょこちょこあり、同じように感じていた方は案外多いのではないでしょうか。そして、私自身がそうなのですが、以前Fマウントで24-120mm f/4のレンズを使っていた方なら尚更ではないかと思われます。今回、そのレンズと同じ24-120mmというズーム域で、開放F値も同じく全域でF4というレンズが登場し、これで以前と同じ感覚で使うことができる……!と思われたのではないかと思います。
明石海峡大橋の袂にある舞子公園へ出掛けた日。この日は穏やかないいお天気と思って出掛けたにもかかわらず、突然お天気が急変し、まっすぐ歩くのも困難なほどの強風とともに低い位置まで白いものが立ち込めた雲が迫ってきました。よく見ると対岸の淡路島側の橋脚付近は白く煙っています。これはあのあたり、雪が降っているな〜と思い、引いて広角で全景を捉え、望遠側にズームして細かい雪に包まれた対岸を撮影。するとまた急にスポットライトのように陽の光が差してきて……。とてもじゃないけれどレンズ交換なんてできそうにない(したくない)強風の下、目まぐるしく変わる天候と同様に焦点距離もどんどん変えられるのはズームレンズの有り難い点であると実感したのでした。
奈良公園の主ともいうべき、鹿。自由すぎるくらい自由に闊歩する彼・彼女たちは、鹿せんべいを求めて間近に寄って来たかと思うと、お目当てのものがないと知るや否や次のターゲットへ移動……こちらは広角から望遠まで、ズームリングをくるくる回しながらその姿をファインダー越しに追う……。こんな時にもやはりズームレンズは有り難いものです。
人は立ち入れない場所でのんびり鹿会議。さらにもう少し望遠にしたいところですが、ひとまず120mmであればこのくらいで撮ることができました。70mmだと「遠すぎる……」と確実に諦めていたところです。
見事な解像感
とはいえ、24mmから70mmまでは既に同じ開放F4というズームレンズを所有しており、今更同じ焦点域のレンズを持つことへの躊躇いは多くの方が持つのではないでしょうか。通常であれば私も同じように感じて購入を躊躇った……少なくとも「ちょっともう一度お財布と相談しよう」となっただろうと思うのですが、今回は迷わず予約を入れました。その理由は、事前に先行して使用していた写真家の方から「あのレンズはいいよ!解像度がすごい」と伺っていたからです。
2月中旬、三重県と滋賀県の境界にある御在所岳へ出掛けました。今年の冬は雪が多かったものの、この日はあいにくと(?)よいお天気すぎて期待していた樹氷や霧氷には出会えませんでしたが、私の生活圏ではまず見ることのできない雪景色を堪能しました。ここではニコンの画像編集ソフト「NX Studio」で100%に拡大した際のキャプチャーと合わせてご紹介します。
地面すれすれの高さまでカメラを下げて、モニターを見ながら開放(F4)とF8とで撮影。雪の表面のキラキラしたようすから細かな質感までを見事に捉えてくれています。
テレ端の120mmでギリギリまで寄って撮影。陽射しに寄って溶けかけ、触れるとすぐに崩れてしまう繊細な氷のドームや、結晶のように連なるさまはファインダー越しに見惚れてしまいました。
スキー場や展望広場の周囲を取り囲む遊歩道からの眺めが素晴らしく、肉眼で見て「あれはどこだろう?琵琶湖?!」「あそこに見えるのはもしかして名古屋駅じゃない?」「望遠で撮って拡大しみよう!」ということで撮った2枚。滋賀県彦根市の市街地と思しき街越しに広がるのは琵琶湖、そしてその対岸(海津大崎あたりでしょうか)までで直線距離にして約56km。さらにその奥で雪を纏った比良山地の山々までをしっかり捉えています。
広大な濃尾平野の一角にそびえ立つビル群。もしかして名古屋駅周辺?と思って拡大してみると……ビンゴ!でした。名古屋駅まで、直線距離で約45km。そのはるか向こうには中央アルプス方面の山々までが見て取れます。
絞り開放のボケ感とF16での綺麗な光条
開放絞りが広角から望遠の全域でF4となるこのレンズのボケ感を、広角側と望遠側のそれぞれで試してみました。
近くの被写体にピントを合わせると背景がボケやすくなりますが、そもそも広角ではどうしてもボケは小さくなりがちです。ここではまず鹿の顔の毛並みの解像感に見入ってしまいますが(笑)、場所の雰囲気や状況がわかる程度に背景がボケて、木立の隙間の光がまるい玉ボケになっています。
望遠にすることでボケ味そのものが大きくなり、また玉ボケの直径も大きくなります。画面の端の方では玉ボケのフチが欠けていますが、中央ではきれいな丸になっています。
また、ピントから前後のなだらかなボケ味も非常にきれいです。
逆に、画面内に強い光がある場面で絞りをうんと絞ると現れることのある光条。光条の出方はレンズによって異なり、その光が木立などの小さな隙間から漏れている場合や、一部が建物に被さっている場面では比較的出やすいものの、作例のように真っ青な空が背景だったり、ましてや薄く雲が掛かるときれいに出ないことも多い中、見事なまでのしっかりした光条を出してくれました。
雪山スナップ
御在所岳の山麓、標高約400mに位置する御在所ロープウエイの乗り場から山上公園駅(標高1,180m)を見上げて。焦点距離120mmであれば、そのスケール感が感じられる程度の画角と圧縮で、途中には日本一高い支柱(高さ61mの白鉄塔)も見て取れます。
ロープウェイを降りて朝陽台広場へ出てみると彩雲が。逆光でもこの通りのクリアな写真に。つめたく、透明な空気感まで伝えてくれるようです。
歩行通路などの雪はもう固くなっていたものの、脇にはまだ積もったままの雪が残されていました。雪のふわふわさが感じられる質感を捉えています。
レストハウスからゲレンデを望むと、24mmでは山全体、空に浮かぶ雲の立体感までをクリアに写し出し、120mmではゲレンデに刻まれたスキーの滑走跡をとてもリアルに描き出してくれています。
日々の動物スナップ
人間に物申したいことがあるとかで県庁を訪れたものの、この日は週末とあって役所はお休み!シカたなく向かいの奈良公園に帰るところだそうです……知らんけど笑。ご存知、奈良では鹿が街中を闊歩する場面によく出くわします。背景を見ながら動き回る彼らをフレームに収めるためにはやはりズームレンズは便利です。
雨上がりの夕方、長く伸びる鹿のシルエットを追いかけて。やはり逆光に強いレンズであることを実感します。
神社の入口で、みゃーという声に呼び止められました。AFエリアモードを動物AFに切り替えて。エメラルドグリーンの猫の目の透明感が際立ちます。
ネコ撮影にはやはり望遠域のレンズがマストアイテム。今回はそこそこ近寄ることを許してくれましたが、それでも気持ちよさそうなくつろぎタイムの邪魔をしないように、距離を取って望遠側で。ここでも70mmでは足りないところでした。
まとめ
NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sはとにかく撮っていて気持ちのいいレンズ!なのです。シャッターを切った、その時の感覚や記憶は時間とともに薄れていってしまうものですが、家に帰ってPCで見る時に蘇る臨場感を、より一層鮮やかで生き生きとしたものにしてくれる、そんな力を持つレンズだと感じます。
私自身の今回の購入心理を振り返ると、「70mmではあとちょっと足りないというときに、痒い所に手が届くような画角を持つ」点で食指が動き始め、「息を呑むほど見事な解像度」が決定打となりポチッとしてしまった、と言えます。NIKKOR Z 24-70mm F/4 Sよりも少し長く(約3cm)、重く(約130g)はなるので、少しでも荷物を小さく軽くしたい時には24-70mmを選ぶことになると思いますが、それでも一度使ってみると基本的には日々こちらを連れ出したくなること請け合いです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員