ニコン NIKKOR Z 24-120mm f/4 S|多くのシーンに対応できる万能レンズ
はじめに
Nikon Z 8の導入に関連して、前回は同時に購入したNIKKOR Z 40mm f/2について書きましたが、今回は同じタイミングで購入したNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sについてまとめてみたいと思います。
NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sは、前回も書いた通り、基本的には雑誌の取材や各種商業写真などの現場で用いることを前提に購入したレンズです。ただし、万能なレンズであることから、普段持ち歩くための常用レンズとしての選択も悪くないということで、今回は肖像や風景などを捉えた写真も交えて私なりの使い方を解説してみたいと思います。
商業撮影でのレンズセット
実際の作例について触れる前に、私が普段仕事で撮影に関わる際に必要となるレンズセットを紹介したいと思います。フォトグラファーという仕事は、それこそフォトグラファーの数だけそのスタイルがあるため、あくまで私の現場においてということですが、なにかしら参考になる部分もあるかもしれません。
以下にレンズをリストアップしてみました。ここでは、詳細な商品名やメーカーは省き、焦点距離と開放F値のみを示します。カメラボディは、フルサイズの撮像素子であることを前提としています。
・50mm f/1.4
・28mm f/1.8
・24-120mm f/4
・100-400mm f/4.5-5.6
・45mm f/2.8 Tilt Shift lens
以上の5本になります。それぞれ用途は明確です。まず、24-120mm f/4ですが、基本的にはこれを標準ズームとして用います。このレンズで対応できない場合、その他のレンズを使うというかたちです。
例えば、50mm f/1.4や28mm f/1.8は浅い被写界深度を得たい場合。また、必要な背景の広がりに応じて50mmと28mmを使い分けます。120mm以上の望遠が必要なときには、100-400mm f/4.5-5.6。ティルトやシフトが必要な場合、45mm f/2.8 Tilt Shift lens。このレンズは、具体的にはPC-E Micro NIKKOR 45mm f/2.8D EDを使っているのですが、最大倍率が1/2倍のハーフマクロレンズでもありますので、接写が必要な場合にも用います。
単焦点、ズーム共に、さらに大口径の明るいレンズを加えることも考えられますが、持ち運びを前提としたときの身体的負担を考えると、これくらいのサイズと重量感が最も良いバランスだと考えています。この5本を使い分けることで、私が行うほぼ8割程度の商業撮影は可能です。現状のZマウントレンズのラインナップから揃えるとすれば、50mmはNIKKOR Z 50mm f/1.8 S、28mmはNIKKOR Z 24mm f/1.8 Sに置き換えることになると思います。
それ以外のシチュエーションというのは、細部までの解像を求められる仕事において、より大口径で解像度の高いレンズが必要になる場合や、中判カメラや大判カメラを使うという場合、あるいは超広角や等倍のマクロが必要になるといった場合です。そのようなときには、それに応じたレンズを選択しますが、普段はこの5本を持っていて対応できない仕事というのはあまり想像できません。ズーム系は開放F値が暗いのですが、高感度を使うかストロボを用いればそれほど問題になりません。F2.8通しの大口径ズームレンズなどは、スタジオで使う他には、重さを考えるとあまり外の現場に持ち出す機会はありません。
考えてみると、私はこのセットでキャリアの初期から仕事をしていますので、約20年(レンズそのものはアップデートしていますが)使い続けているということになります。その間、これは困ったなというような状況に出くわした記憶はほぼありません。
私なりの使い方
さて、そんなわけでNikon Z 8を用いたミラーレスシステムの導入にあたって、まず用意しなければいけなかったのがこのNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sだったわけです。特殊な用途のレンズはとりあえずのところアダプターを用いてFマウントのレンズを使うことで事足りますが、常用的に用いる24-120mmについては、解像力やAF性能の点で、Zシステムに最適化されたレンズを用いる必要があります。
今回は、いくつか写真を眺めながら私なりの本レンズの使い方についてお話ししてみたいと思います。まず、最初の二枚はスタジオでコンテンポラリーダンサーの川合ロンさんと北川結さんのお二人を撮影した写真です。これらは、ストロボでの撮影とは別に、記録用として定常光のライトが当たっている状態を撮影したものになります。高感度で撮影しているためノイズが感じられますが、モノクロームで仕上げたことにより、明瞭で豊かな質感が再現されています。絞りは開放F値となるF4ですが、解像感も高いことが感じられます。
次の写真は、結婚式に参列する娘の肖像を捉えた写真です。目にかかる黒髪にピントを合わせ、顔を少しぼかしながら撮影を行なっています。焦点距離は94mm付近を用いており、奥に向かって徐々にぼけが大きくなっていきますが、非常に自然なぼけ方が感じられます。レンズそのものから得られるコントラストも十分で、明瞭な像を描いています。
この日の式と披露宴は、NIKKOR Z 24-120mm f/4 S一本で全て撮影したのですが、焦点距離のレンジも最適で、記録用のレンズとしては非常に勝手の良いものであったと言えます。数百人規模が収容できる広い会場などでは100-400mmもあると良いでしょうが、さほど大きくない会場であれば、24-120mmで会場風景から人物撮影まで十分対応することができるでしょう。記念や記録としての写真撮影に適しており、様々なシチュエーションが想定される現場では、使い勝手の良いレンズであることが分かります。
風景や静物で使う
普段は、商業写真や記録写真の現場に持ち出すことが多い本レンズですが、今回は風景や静物にも使ってみました。室内や暗い場所でも撮影を行いましたが、開放F値がF4であることの暗さはほとんど感じませんでした。ミラーレスシステムで使用しているため、電子ビューファインダーではレンズの暗さそのものはファインダー像に影響がありませんし、ボディ内手ぶれ補正を用いることである程度遅いシャッター速度でも手持ち撮影が可能なため、必要最低限の高感度設定に抑えることができます。
また、最短撮影距離は0.35mで、最大撮影倍率が0.39倍となるため、クローズアップ撮影にも対応できます。実際に近接撮影も試してみましたが、結像性能も高く、細部までシャープに解像されていました。
その他の撮影距離においても、ワイド側からテレ側までズーム全域で高い解像性能が感じられ、S-Lineに位置付けられているレンズであることを実感できます。MTF曲線を見てみると、ワイド、テレどちらにおいても画面中心から周辺まで十分なコントラストが実現されていることが示されており、解像力は、特にテレ側において周辺に向かうに従い落ちていくグラフを描いています。
モノクロームの写真は、岩手の厳美渓の巨岩を、絞り込んでテレ側で撮影した写真ですが、絞り開放時のMTF曲線から読み取れるような、周辺部の解像力の低下はほとんど感じられませんでした。解像力チャートを写すとすればまた別でしょうが、実写上では、風景などある程度絞り込むシーンをはじめ、多くの被写体であまり問題にはならないでしょう。
さいごに
改めて外に持ち出してみると、万能で多くのシーンに対応できるレンズであることが実感できました。私自身は、Z 8を使う普段のスナップや風景撮影は40mm一本で通しているのですが、重さや大きさを考慮しなければ常用レンズとしては申し分のないものだと言えます。今回改めて本レンズを見直してみて、特にクライアントワークには、やはりこのレンズが必要不可欠だということを再確認できました。
■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。