ニコン NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR S|飛行機撮影でのファーストインプレッション
はじめに
ニコンからNIKKOR Z 400mm f/4.5 VR Sが2022年7月15日に発売された。この新しいZマウント超望遠レンズは、果たしてどのようなパフォーマンスを持っているのだろうか。飛行機写真を通じたファーストインプレッションをお届けする。
軽さと画質を両立した400mm
昨年まで超望遠ラインナップが少なかったニコンZマウントだが、今年に入って2月にはNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR SとNIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S、4月にNIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S、そして7月にはこのNIKKOR Z 400mm f/4.5 VR Sと、約半年という短期間に4本もの超望遠レンズを登場させ、一気にその遅れを取り戻した。
そのうち3本は400mmで、ニコンがこのクラスのレンズを重視していることがうかがい知れる。この3本の400mmのそれぞれの特徴を一言で表すと、ズームで汎用性に優れたZ 100-400mm f/4.5-5.6、明るさと究極の描写性能を誇るZ 400mm f/2.8 TC VR S、そして軽さと画質の両立を目指したのが、今回登場したZ 400mm f/4.5 VR Sといえよう。
Z 400mm f/4.5 VR Sは全長234.5mm、最大径104mm(フィルター径95mm)、三脚座なしの質量が1160g(三脚座を含むと1245g)と、このクラスのレンズとしては非常に小型軽量だ。サイズ感が近いZ 100-400mm f/4.5-5.6の400mm時の全長が273mm、最大径98mm、三脚座なしの質量が1355gであることと比較すると、いかにこのZ 400mm f/4.5 VR Sがコンパクトであるか理解しやすい。
とくに全長が234.5mmという短さは特筆すべきで、予め公開されていたロードマップ上のシルエットの小ささから判断するに、光学系にはPFレンズ(Phase Fresnel:位相フレネル)が採用されていると信じられてきた。しかしフタを開けてみるとPFレンズは組み込まずに小型化を達成している。
先に発表されたZ 800mm f/6.3 VR Sのように、超望遠レンズにPFレンズを採用すれば大幅な小型軽量化を期待できるが、画質面とくに逆光性能には多少なりとも影響がある。ゆえにZ 400mm f/4.5 VR Sは通常レンズで構成されているというだけでも画質面では期待できるというわけだ。13群19枚の光学系には、EDレンズ1枚、スーパーEDレンズ2枚、SRレンズ1枚と高級硝材をふんだんに採用し、MTF性能曲線図からもその性能の高さをうかがい知れる。
現場での使い勝手
梅雨の戻りで悪天候が続く中、つかの間の晴れ間を狙って飛行機写真の現場に持ち込んでみた。Z 9に装着して手に持った第一印象は、軽量で手持ち撮影しやすいということである。実写ではまず着陸機を狙ってみた。機体毎に上昇コースが異なる離陸機とは異なり、着陸機はどの機体も滑走路の同じ接地点を目指してアプローチするため、各種設定や比較用レンズを取っ替え引っ替えしてテスト撮影する際に条件を揃えやすい。また離陸機と比べて着陸機の方が機体までの距離が近く陽炎(かげろう)の影響を受けづらいため、レンズ本来の性能を評価しやすいのである。
実写における評価ポイントは、やはりAF性能と手ブレ補正など全般的な扱いやすさである。AF駆動は静粛性とレスポンスに優れたSTM(ステッピングモーター)で、高速・高精度なAF撮影が可能。爆速ではないものの、Z 100-400mm f/4.5-5.6と比べるとAF合焦は速い。
手ブレ補正機能VRは5.5段分の補正効果を持ち、シンクロVR対応カメラとの組み合わせではより高い6.0段の補正効果が得られる。もっとも、飛行機撮影では機体の動きに合わせてカメラを振って撮影するため、補正効果の段数よりもファインダー像の滑らかさ、すなわちフレーミングしやすい挙動をするかどうかが重要だ。Z 9においてはVRモードがノーマルとスポーツの2種類があるが、動体撮影ではスポーツモードが適している。本レンズはZ 9との重量バランスも良好で、手持ち撮影しやすい超望遠レンズに仕上がっていると好印象を得た。
操作部のレイアウトはこれまでのZ単焦点超望遠レンズと同じく、レンズ先端側から手前側に向かってゴムローレット、L-Fn2ボタン、コントロールリング、フォーカスリング、三脚座が配置され、マウント近くにL-Fnボタン、A/Mスイッチ、フォーカスリミッタースイッチ、メモリーセットボタンが並ぶ。レンズ情報パネルは無いので、マニュアルフォーカス時にどちらに回せば∞になるのか、また現在どの位置にフォーカスがあるのかのステータスは分かりづらい。
画質
気になる画質はというと、他のZマウントの単焦点レンズと同様、絞り開放からきわめてシャープで、飛行機のメカニカルな質感を余すところなく描写してくれるのは期待通り。もちろん1-2段程度絞るとさらに鮮鋭感が増してくる。
比較対象になりやすいZ 100-400mm f/4.5-5.6と比べてみると、Z 400mm f/4.5 VR Sは常に最高画質をキープしているのに対し、Z 100-400mm f/4.5-5.6はほんのわずかに安定感に欠けるという印象がある。とくに画像周辺部の解像力や周辺光量、そしてボケ味については明らかに単焦点レンズに分がある。もちろん2/3段という明るさの差があるので、光量が十分でない撮影条件下におけるアドバンテージも高い。
レンズコーティングにはナノクリスタルコートを採用しており逆光耐性も高く、フレアやゴーストなどの有害光が効果的に抑制されている。飛行機のランディングライトのような強い点光源を撮影する場合でも気になるゴーストが出ないので、薄暮から夜間の撮影時にも使いやすい。
旅客機において400mmという焦点距離は扱いやすいが、ときにはもうひと伸び欲しくなることもある。Z 400mm f/4.5 VR Sはもちろんテレコンバーターにも対応しており、1.4倍のZ TELECONVERTER TC-1.4xと組み合わせると560mm f/6.3、2倍のZ TELECONVERTER TC-2.0xと組み合わせると800mm f/9.0として使用可能だ。
カメラ本体のDXクロップで1.5倍の望遠効果を得た場合、400mm単体では600mm f/4.5相当、TC-1.4x使用時には840mm f/6.3相当、 TC-2.0x使用時には1200mm f/9.0相当で使える。DXクロップすると1.5倍の望遠効果と引き換えに画素数が目減りする。Z 9では4,544万画素(8256×5504ピクセル)から1,936万画素(5392×3592ピクセル)になるが、1,900万画素あれば画質的には十分といえるだろう。
まとめ
NIKKOR Z 400mm f/4.5 VR Sは、圧倒的な軽さと際立った描写性能を両立したレンズで、飛行機写真には最適な一本だ。カリカリシャープな解像力や素直なボケ味は、ズームレンズでは味わえない、単焦点超望遠レンズならではの描写といえるだろう。
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■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」、「飛行機写真の実践撮影マニュアル」など多数。