日常から旅まで、使い勝手のよいニコン NIKKOR Z 40mm f/2
はじめに – NIKKOR Z 40mm f/2を購入した理由
標準ズームレンズ域での単焦点レンズでは「とにかくまずはこの1本」と言われることの多い50mmよりも、35mmの方が感覚的に使いやすいと個人的に感じている私は、Zシリーズの単焦点レンズの中でもNIKKOR Z 35mm f/1.8 Sを気に入って使っていました(Z 35mm過去記事はこちら)。このレンズはニコンが誇るSラインシリーズということで非常に素晴らしい写りをしてくれる一方で、ズームレンズともあまり変わらない大きさが時として心理的・物理的なネックとなることもある……のは私だけではないのではないでしょうか。
そこに片手に収まるくらいのサイズ感という小型軽量さはNIKKOR Z 40mm f/2の非常に大きなポイントであり、かつ、このサイズ感で開放の絞り値がF2、さらに50mmと35mmの中間という焦点距離の利便性もまた魅力でした。
発売日は昨年10月だったものの世の中の様々な事情によりあっという間に品薄となり、私の手元に届いたのは年が明けてからしばらく経ってからになってしまいましたが、以来「撮影に出かける日ではなくても、ちょっとしたお出かけにとりあえず連れて行く際につけておくレンズ」として、現在出動率が1、2を争うレンズとなっています。今回はこれらの理由で手に入れたその後、実際に使用してみての所感をお伝えします。
▼35mm・40mm・50mmの画角比較
扱いやすい画角、40mm
肉眼での見た目に近いとされる50mmと、それよりは広くて画面内の情報量も増える35mmとの中間となるこのレンズは、50mmだと案外狭いと感じる人、35mmはちょっと広いと感じる人、そのどちらにも寄り添うような焦点距離であり、使いやすい画角と感じる方は多いのではないでしょうか。被写体に寄ったり引いたりすることで背景の入り具合の他、遠近感を強調したり見せたい被写体を大きく捉えることも可能です。
奈良公園へ向かう途中、集まってのんびり寛ぐ鹿たちに遭遇。背景が抜けた場所では遠景までしっかり捉えつつ「まずは押さえておく一枚」を撮るのにちょうど良い画角です。
人に慣れた奈良公園の鹿たちは、かなり近付かせてくれることも。仲良く寄り添って日向ぼっこする2頭にそっと近寄り、サイレント撮影に設定し、シャッター音を消して撮影。鹿の毛並みや鼻先の質感まで伝わる1枚になりました。背景の入り具合やボケ加減もちょうど良い塩梅です。
尚、奈良公園でも生まれて間もない子鹿に近づくのは厳禁!その場合は遠くから望遠レンズでそっと見守りましょう。
京都の酒蔵で有名な伏見。焼杉の外壁がずらりと並んだ町の雰囲気を伝えるため、壁に対して少し斜めから撮影。しっかり奥行きまで伝えることができました。
古い仕込蔵や赤煉瓦の煙突を今も保存、活用されている酒造会社さんのそばを流れる河川敷には、春になると菜の花が咲き並びます。訪れた時期によるものかもしれませんが、この時は思ったよりも菜の花が少なかったものの、画面の端に少し入れて。
水の都、大阪の中心を流れる堂島川越しにビル群を望んで。望遠レンズのような大きな圧縮効果がなく自然な遠近感となり、またカメラを水平に構えることで建物の歪みも感じることなく撮影できています。
一方で、高速道路の高架をすぐ近くに見上げる場所から撮影すると、印象的な道路のカーブをしっかり伝える一枚になりました。
いちご狩りで、摘んだいちごを入れた籠を両手に抱えてもらい、被写体にぐっと寄って撮影。周囲に余計なものを入れずにまとめることができました。最短撮影距離が29cmとそこそこ近付けるため、このようなシチュエーションにおいて安心して寄って撮影することができます。
60mm相当の中望遠レンズとしてDXでの使用も可能
今回はFX(フルサイズ規格)のカメラを前提として話を進めていますが、ZシリーズはFXとDX(APS-C規格)のカメラでマウント口径が同じなので、どちらのカメラでも同じレンズを使用することが可能です。(ただし、DX用のレンズをFXに装着しても、DX用レンズと認識して焦点距離の1.5倍相当の画角となります)
ゆえに、本レンズはDX規格であるZ 50やZ fcでも35mm判換算で60mm相当の画角を持つレンズとして使用することができます。
■FXフォーマットのZ 6IIで撮影(焦点距離40mm)
■DXフォーマットのZ fcで撮影(焦点距離60mm相当)
絞り開放F2のボケ感と暗所での撮影
開放絞り値がF2ということは大きなボケを期待できるとともに、採光能力が高いので暗い場所においてISO感度を大幅に上げなくてもブレにくいというメリットがあります。
咲き始めの梅の花を撮りに行った日の一枚。40mmの焦点距離では小さな梅の花を画面内に大きく捉えることは難しいものの、背景を大きくボカすことで主役の存在感を引き立てることができました。また、背後にいる蕾は、F2ゆえに存在感のある玉ボケとなりました。
川の土手に咲く菜の花をできるだけローアングルで撮影。奥の方のお花にピントを合わせることで、レンズのすぐ前にいる菜の花を大きくボカしつつ、背景にある酒蔵と赤煉瓦の煙突は絞りが開放のF2でもさほどボケずに撮影できました。
コロナ禍において、お家でキャンプ……略して「家キャン」が流行っていると聞いて私もやってみたくなり……ということではなく。笑
少し前に、自宅のダイニングの照明が故障してしまい、数日間部屋が暗いまま過ごさなくてはならなくなってしまいました。これは困った!というところでたまたま見つけたのがLEDのランタン。防災グッズを兼ねて備えておくのもいいなと思い購入したのですが、これが間接照明としてなかなかにいい雰囲気を出してくれました。でもこの明かりだけではさすがに暗く、例えばダブルズームキットの標準ズームレンズではおそらくISO3200程度まで上げないと手持ち撮影は厳しいところ、ISO500でも1/100秒のシャッター速度を得ることができました。(その後部屋の照明は無事に直してもらうことができ、家キャン体験は一週間ほどで終わりました笑)
旅レンズとしてもおすすめの理由
日頃、様々な写真教室の講師をさせていただいている中で、よくいただく質問またはお悩みの一つが「旅支度の機材」について。旅行に出かける際はやはりできるだけ荷物を少なく、軽く整えたい。でもやっぱりスマホ写真では飽き足りないし、一眼カメラならではの写真を撮りたい。そんな声をよく耳にします。そこでオススメなのが、高倍率ズームレンズと単焦点レンズを1本、という組み合わせです。そしてこの時の単焦点レンズとしてこのNIKKOR Z 40mm f/2は最適解のひとつだと言えます。
これまでご紹介したように、スナップでも風景でも活躍してくれる一方で、より広い画角や望遠が欲しいときのために広角から望遠まで1本で済む高倍率ズームレンズがあると便利。一方で旅ごはんの記録や暗い場所での撮影に、開放F値の小さい、明るい単焦点レンズがあると重宝します。
この時に、本レンズは広すぎず狭すぎない画角を持ち、開放絞りがF2、そしてなんといっても約170g(バナナ1本分程度)の重さで、女性の手のひらにもすっぽり収まる大きさ(野球ボール程度)。これだとためらわずに旅に連れて行くことができます。もちろん日常使いとしても活躍してくれることは間違いなく、撮影目的ではないお出かけ、例えば友人とごはんを食べに行くような場面でも、この小さくて軽いレンズならとりあえずカメラを連れていこう、という気になるのではないでしょうか。
品数の多いランチセットがちょうどよい画角に収まりました。
自分のごはんだけでなく、向かいの人を入れることで「食事風景」を伝える写真になりました。
画面端の方はどうしても歪みが出てしまうため、縦横・アングルなどは工夫すると良いですね。
まとめ
一眼レフ機に比べてミラーレス機は小型軽量がメリットとはいえ、フルサイズ機だと結局カメラもレンズもそこそこの大きさになってしまいがち。そんな中で、何しろ小さくて軽くて画角も使いやすいので迷ったら連れて行く、というより常に鞄に入れておける、むしろ普段はつけっぱなしにしておく……そんな1本として手元にあると重宝するレンズではないでしょうか。日常のお散歩から旅行まで幅広く対応してくれる、しかもお値段もお手頃となると、是非とも持っておきたいレンズです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員