ニコン NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sレビュー|とろけるボケを体感できる最高性能レンズ
はじめに
ニコンZマウントS-Lineの最高峰レンズ「NIKKOR Z 50mm f/1.2 S」が、2020年12月11日に発売になりました。開放F値1.2と浅い被写界深度ながら、STM(ステッピングモーター)を複数搭載したAF駆動で、素早く正確にピントを合わせられる本レンズの性能を、ポートレート撮影に主眼を置いて見ていきたいと思います。
とろけるボケに心も溶かされる
まずなによりもそのボケ味にノックダウンされました。もちろん、開放F値が1.2の大口径レンズということもありますが、スペックのF値だけではボケの描写性能まではわかりません。その描写性能を体感できるのは、肉眼で見えている状況と、撮影した画像を見比べたときです。
作例は、ニコンプラザ東京内でライブシュートの公開収録を行ったときに、実際にその場で撮影したカットです。天井の小さなスポット照明は、色にじみのない玉ボケになっています。この玉ボケのフチが二重になってしまうレンズもあるのですが、本レンズは強い玉ボケも、弱い玉ボケもうるさくないクリアーな描かれ方をしています。また、テーブルや人までふんわりとボカしてくれるので、背景に沢山のスタッフがいるのが信じられないような画になりました。
ピントはカメラに近い方のモデルの左目に合わせ、絞りは開放で撮影しています。被写界深度が浅いので奥の目である右目はボケていますが、ピントを合わせた左目から右目へのボケのグラデーションがなめらかなので、違和感を感じることなく目力の強さを演出できました。
大口径レンズはいかに大きくボケるかに主眼を置かれがちですが、ピントが合っているところから最大ボケまでが、自然でなめらかなグラデーションで繋がれているかが、とても大切だと筆者は常々思っています。
被写体を主役に仕上げる立体感
木の緑色をふんわりとボカして人物を浮き立たせるのは、ポートレートの基本テクニックになりますが、本レンズだと被写体の存在感が段違いです。
また、後ろのボケに硬さがないので、水彩画のように柔らかい背景になりました。不自然な色にじみがないので、ハイライトを飛ばし気味にした描写も楽しめるレンズです。このカットも、自分の目に見えている状況と、背面液晶に写った撮影画像を見比べたときに、しみじみと「いいレンズだな」と感じたカットでした。
本レンズは複数のSTM(ステッピングモーター)を搭載しており、AF駆動時の静音化が成されています。ピント合わせのジーッという音が極めて小さいということは、動画撮影でAFを使用できるレンズだということです。
ニコンでは現時点で初めて開放F1.2のレンズでSTMを搭載したとのことですが、これからは高性能、高解像度のS-Lineのレンズで動画を楽しめるラインナップになっていくのでしょうか。
瞳AFとの相性GOOD!
今回使用したボディはすべて「Nikon Z 6II」です。AFモードはオートエリアAFで、瞳AFを使用しています。先月レビューした「Nikon Z 6II」の動体AFの精度が上がっているおかげか、本レンズとの相性がいいのか、瞳AFのヒット率はとても高かったです。
全身や膝上のカット、横顔、振り向きの動きのなか、強い逆光など、撮影していて楽しいレンズだったので色々なカットを撮影しましたが、どんなシーンでもすっと瞳にピントが合うので、余計なことを考えずに光や構図に集中できました。
ポートレートで多い状況が逆光での撮影ですが、本レンズは角度のある入射光の反射率を抑えるナノクリスタルコートと、レンズに垂直に入射する光の反射率を抑えるアルネオコートを併用しています。ゴーストやフレアの低減はもちろん、構図内に強い光があっても画面内が霞んだりくすんだりせず、ヌケの良い清涼感のある画が得られました。
コントロールリングでワンアクション操作が可能
本レンズは、コントロールリングに「絞り値」「露出補正」「ISO感度」のいずれかを充当できます。筆者はポートレート撮影時はマニュアル露出で撮影することが多いので、テスト撮影時はISO感度を割り当てて使っていました。
作例は室内のカットですが、背景を変えるためにモデルを中心に自分がぐるぐるとまわって撮っていたので、くるくる変わる露出にワンアクションで対応できるのは便利でした。
ただ、リングのトルクが軽いので、レンズを支えている左手の指が当たってしまい、意図しないときに露出が変わってしまうこともありました。筆者個人的には、もう少し重めのトルクのほうが好みです。もしくは、筆者はカメラとレンズの重量を支えるために、かなり左手に頼っているので、右手でしっかりホールドできる方なら、そのような誤動作は少ないのかなと、感じました。
街なかのポートレート撮影が楽しくなるレンズ
画像周辺部までゆがみが少ないレンズだと、街なかでのポートレート撮影がさらに楽しくなります。本レンズは、線対称を突き詰めた光学設計と非球面レンズを3枚使用し、歪曲収差を極限まで抑えています。
ポートレート撮影だと、人物をゆがみが出るような構図に配置しないだろうと思われるかも知れませんが、人物の背景には縦横のラインが気になる建物があったりします。それが、ボケてはいても不自然なゆがみが見られると、写真を見ている人の目がそちらに引っ張られてしまって、主役の被写体の存在感が薄くなってしまいます。
また、EDレンズ2枚を配置した光学設計で軸上色収差を補正して、たとえばモデルと背景に明暗差のあるシーンでも、色にじみを抑えたクリアーな画に仕上げてくれます。人物が浮き立つように背景を飛ばしたり、暗く落とし込んだりすることのあるポートレート撮影では、この色収差を抑えてくれるレンズはとても助かります。
圧倒的な解像感で素材の質感まで再現!
ピントが合っているところはもちろん、ボケている部分の、たとえば衣装のふわふわとした柔らかい質感まで再現してくれる本レンズの基本性能の高さは、シャッターを切るたびに感じました。
アップの画を奥行き深く仕上げてくれるレンズは、撮影して楽しい、PCの大きな画面で見てもう一度楽しい、撮る楽しみを教えてくれるレンズでもあります。絞り開放の描写性能が高いので、このレンズを手にした方は、ぜひ、開放での描写をまずは楽しんでいただきたいです。
さすがのS-Lineレンズ!
今回はポートレートでのレビューでしたが、50mmという使いやすい画角なので、スナップや風景撮影をしても楽しめるレンズでしょう。ポートレートではモデルとコミュニケーションを取りながら撮影するのにちょうどいい距離になり、スナップでは何かに注目したときの自然な視線を表現しやすい。撮り手のイメージを具現化してくれる、さすがニコンのS-Lineは違うと感動できるレンズでした。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。 (社)日本写真家協会(JPS)会員。