ニコン NIKKOR Z 70-180mm f/2.8 レビュー|柔らかいボケ味が魅力の望遠ズームレンズ
はじめに
2023年7月14日に発売されたニコンの「NIKKOR Z 70-180mm f/2.8」は、開放F値2.8一定の、小型・軽量なフルサイズ(FXフォーマット)対応のZマウントレンズです。今回は、殺陣師で女優の兼田玲菜さんにモデルになっていただき、和のシチュエーションをテーマに作品撮りを行いました。小道具のキセルは、実際に火を点けたり吸ってはいませんので、ご安心ください。
最近のニコンにしては柔らかいボケ味
焦点距離70-180mmの画角で開放F値が2.8であれば、どの焦点距離でも十分にポートレート撮影が楽しめるはずのスペックですが、レンズというのは実際に撮影してみないとボケの柔らかさや、ピント面のシャープさはわかりません。
細かいことを言わずに「ピントが合いやすい」とか、「F値に相応するボケが出る」かでレンズを選ぶのであれば、カタログスペックを見ればいいのですが、同じスペックでもボケの硬軟や形状、ピントの山のピーキーさなどはレンズによって違いがあり、これがレンズの個性となります。
まず本レンズのボケは、最近のニコンにしては柔らかい方向に振っていると感じました。ピントを合わせたところ以外、いわゆる被写界深度内から外れた箇所はふわっと優しくボケます。F2.8の開放値なので顔の半分だけが大きくボケることもなく、絞り開放でもナチュラルな表情の描写ができます。
また、顔以外の小道具を持った手や衣装、背景なども大げさではなく自然にボケるので、ポートレート初心者の方も撮影しやすいレンズといえるでしょう。
「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」との違い
この記事をご覧になっているみなさんは、価格帯は違いますが同じ開放F値2.8と、同じくらいの焦点距離を有する「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」との違いが気になるところでしょう。
筆者の個人的な実感としてお読みください。「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」は、ピントのシャープさが本レンズよりも鋭く強いカリッとタイプなので、ふんわり仕上げのポートレートよりも、シャキっと仕上げの風景やスナップのほうが似合うレンズだと思って使っていました。
本レンズは、「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」よりもボケがとても柔らかく感じました。また、ボケからピントが合っている面へのグラデーションの山がなだらかなのか、ピント面への移り変わりも、柔らかい描写であるとの印象を受けました。
Sラインか、そうでないかの違いも加味するべきでしょうが、優しい描写が好きな筆者としては単純に生み出す画だけを見ると、本レンズのほうがポートレートで使用するには好ましく感じました。
団体の撮影会でお守りになる一本
70mmから180mmの焦点距離をカバーしているので、前後に余裕がないような場所での撮影でも、全身からアップまで撮り残すことなく撮影できます。また、モデルとの距離を自分の自由にできないような団体の撮影会などでは、お守りとして一本持っておけば「全然思うような撮影ができなかった……」と泣きながら帰ることもなくなるでしょう。
高コントラストで美しい描写!
ポートレートですので強い逆光と日陰での撮影がメインでしたが、日陰でのコントラストの高さと描写の美しさは、この価格帯のレンズとしては素晴らしかったです。ポートレートもですが旅先に持ち出すと、近くも遠くも撮れる万能レンズとして大活躍すると思いました。
STM搭載で静かで素早いAF
Nikon Z 8との相性もあるのでしょうが、AFはとてもスピーディー。STM(ステッピングモーター)搭載なので音も静かです。外撮影ではAFの静音性はそれほど重要ではないのですが、AF音は撮影している自分に一番聞こえる音なので、あまりにもジーコジーコ言うレンズは、正直ちょっと気持ちが疲れちゃいます。静かなのに越したことはないですね。
ぐぐっと寄れる撮影最短距離
撮影最短距離は70mmの広角側で0.27m、180mmの望遠側で0.85m。別売の「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を使用すれば、最大撮影倍率0.96倍の撮影も可能です。ポートレートでは、そこまでの倍率が必要になることはなかなかありませんが、望遠端で1m以内まで寄れるのはメリットのひとつですね。
小型・軽量だからこそ常用レンズになる!
いいレンズなら大きさ、重さを気にしてはいけない……なんていうのは、平成で終わりにして、令和の現代であればコンパクトさにもこだわりたいところ。本レンズの最大径は約83.5mm、全長は約151mm、重さは約795gと、F2.8の開放値の割には小さくて軽いです。感覚的には、500mlのペットボトルをちょっと潰して少し短く、少し太くしたサイズ感。
今回の撮影は約3時間ほど、撮影時間以外もほとんどの時間はレンズを手に持っていましたが、筆者の小さな手にも馴染みが良く、撮影後も重量による疲れは感じませんでした。これなら、スナップなどで一日中撮り歩いても大丈夫そうです。こういうレンズを、常に持ち歩いて使えるレンズと呼ぶのでしょうね。
■モデル:兼田玲菜
twitter:@renakaneta instagram:renakaneta4_samurai
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。