ニコン NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S レビュー|手持ちで振り回せる超望遠レンズを試す
ニコンZマウントで一番長い焦点距離を誇るレンズ
プロフェッショナルフォトグラファー向けフルサイズミラーレス機「Z 9」が大好評のニコン。対応する高性能なニコンZマウントレンズも続々と拡充され、システムとしてラインナップが充実してきています。今回はその中でも一番長い焦点距離を持つ「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」をインプレッションします。800mmなのに手持ち撮影が可能な珠玉の一本でしたよ。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sの特徴
このレンズの特徴は小型・軽量であるということでしょう。800mmという超望遠レンズながら手持ち撮影を可能にした点が素晴らしいですね。一眼レフ用の「AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VR」と比較して、全長で約76mm、重量で約2205gも短くて軽くなっているのです。開放F値が1/3段暗くなっていますが、「PFレンズ」を採用してグンと機動性が高まっています。
この「Phase Fresnel(位相フレネル)」レンズは、光の回折現象を利用して色収差を補正する性質を持っており、通常のガラスレンズとともに組み合わせると優れた効果を発揮するとのこと。この威力によってレンズを薄くしたりより軽い硝材の使用ができ、手持ち撮影が可能な軽さと機動力を得ることができたのです。一眼レフ用のニッコールレンズ、「AF-S NIKKOR 300mm f/4E PF ED VR」、「AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VR」でおなじみですよね。
設計もプロ仕様になっています。レンズの鏡筒にファンクションボタンを各所に複数備え、ホールドしやすいようにラバーコーティングが手にかかる部分にしっかりと施されています。さらに、フォーカスリングとコントロールリングの感触も指で触れただけでわかるようにハッキリと分けられていて、とても操作しやすいと感じました。
過酷な環境下での使用も可能なように防塵・防滴性能ももちろん備えていますし、三脚座も移動時に持ちやすいようにクッションを設けたり、片手で脱着しやすいようにロック機構を改良したレンズフード HB-104も付属します。フォトグラファーが撮影に専念できるようにしっかりと配慮された設計と言えるでしょう。もちろんx1.4のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-1.4x」とx2のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」にも対応しているので、より遠くの被写体も迫力満点に捉えることができます。
超望遠ブラブラ実写手持ちスナップ!
このレンズをニコン「Z 9」に装着して手持ちでブラブラと撮影をしてみました。三脚や一脚から解放されて、身軽かつスピーディーにシューティング可能な超望遠レンズだと感じました。カメラとの重量バランスがいいので、長時間河川敷を撮り歩いても疲れ知らず!野生動物や風景撮影などで大いに活躍するレンズになると思います。
カワセミのホバリングを2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着して撮りました。「Z 9」の高速連写性能と手ブレ補正効果5.0段の手ブレ補正(VR)機構、シンクロVRのおかげで1600mm相当の画角でもしっかりとキャプチャーできました。
まずは肩慣らしです。河川敷に咲く花を800mm、絞り開放で撮影してみました。超望遠レンズですがファインダー内の像がピタリと止まり、花を精細かつ立体感溢れるように捕捉できました。しかし本当にレンズの重さを感じませんね。
ウェーディングしているアングラーを狙いました。ロッドからガイドを通して伸びていくラインの線をよく描いています。ヌケ感もいいですね。
エサを探しているサギを逆光で。しゃがんでのローアングル撮影ですが、「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」なら撮影態勢に問題がありません。レンズ先端部などに施されたラバーコーティングがホールド感を高めてくれるので安心です。水面の反射も美しいですね。
だんだんと日が傾き光が色づいてきました。そのデリケートは色合いはSRレンズ1枚、EDレンズ3枚採用というレンズ設計の恩恵でしょう。美しい前ボケと後ボケの中にシルエットのサギが浮かび上がりました。ヌケ感も好みです。
ふと振り向くと土手の向こうに見える、遙かな稜線に太陽が沈むところでした。すかさず「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」を向けてシャッターを切りました。手持ちだからこそ機動性を活かした撮影が可能になりますね。
日が暮れたので土手を歩いていると、雲間から満月が姿を現しました。こちらも手持ち800mmでラクラク撮影できました。レンズを上方に向けても本当にホールド感が高いですね。
2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着してムービーを撮ってみました。手持ちの1600mm相当でこれだけ撮影できるのが驚きです。カメラが動いていますが、フォーカスは正確にサギの眼に合焦し続けていますね。カワセミの声も録れているのが分かるかと思います。
こちらはフレーム一杯になるようにカワセミに迫ったムービーです。同じく2倍のテレコンバーター「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着して1600mm相当の手持ち撮影です。風が強くカワセミもカメラも振られていますが、フォーカスはカワセミの瞳を捉え続けているのがわかるでしょう。ときおり上を見るカワセミがかわいいですね!
枝に止まるカワセミのオスです。こちらも「Z TELECONVERTER TC-2.0x」を装着して1600mm相当のカットですが、鮮明にその様子をキャプチャーできました。
上のカットを等倍で確認してみましょう。カワセミの表情、そして羽毛の精細感、色合いがとてもよく撮れています。「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」の性能がよく出ていると言えるでしょう。
このカットは異なる枝に止まっているときのものです。カワセミの小さな足がカワイイですね。それにしても「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」の軽さ、ホールド感の高さはバツグンです。800mmそしてテレコンバーター使用でこんなに快適に手持ち撮影ができるのが夢のようだと感じました。1600mm相当でも本当に楽チンなのですから。
また上のカットをほぼ等倍で確認してみましょう。実にシャープに撮れています。「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」と「Z 9」の組み合わせは鬼に金棒といった印象です。オートフォーカスも高速かつ確実で、動き回る被写体でも正確にピントを追い続けてくれるのでフレーミングとシャッターチャンスに専念できます。野鳥撮影にピッタリですね。
太陽光の反射を入れてサギを狙いました。「PFレンズ」は特性上強烈な点光源の影響で独特のフレアが出るのですが、この程度では問題ないようです。街灯やクルマのヘッドライトなどで「PFフレア」が出た場合は、ニコンが無料で配布しているソフトウェア「NX Studio」、「Capture NX-D」の「PFフレアコントロール」機能で軽減することが可能になっています。
小魚を捕食するサギを800mmで。手持ち可能でこれだけの長焦点距離レンズを使えると、フィールドでのフットワークが格段に軽くなり、広範囲にわたって撮影フィールドを移動可能です。それだけシャッターチャンスが増えるわけです。このレンズ、実に頼もしいですね。
同じシーンを[DX(24×16)]のクロップで。1.5倍の約1200mm相当で。飲み込もうとする瞬間を捉えることができました。「NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR S」は「Z 9」との相性が抜群だと感じます。ワイルドライフフォト撮影には最適な組み合わせではないでしょうか。
NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sの主要諸元
型式:ニコン Z マウント
焦点距離:800mm
最大口径比:1:6.3
レンズ構成:14群22枚(EDレンズ3枚、SRレンズ1枚、PFレンズ1枚、ナノクリスタルコートあり、最前面のレンズ面にフッ素コートあり)
画角:3°10′(撮像範囲FX)
2°(撮像範囲DX)
ピント合わせ:IF(インターナルフォーカス)方式
手ブレ補正:ボイスコイルモーター(VCM)によるレンズシフト方式 手ブレ補正効果:5.0段 CIPA規格準拠 VRモード:NORMAL/SPORT 三脚使用時ブレ補正:有り
最短撮影距離:5m
最大撮影倍率:0.16倍
絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
絞り方式:電磁絞りによる自動絞り
最大絞り:f/6.3
最小絞り:f/32
フォーカス制限切り換えスイッチ:FULL(∞~5m)と∞-10mの2段切り換え
アタッチメントサイズ(フィルターサイズ):46mm(組み込み式)
三脚座:位置指標(90°)付きの360°回転三脚座リング
寸法:約140mm(最大径)×385mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで)
質量:約2385g
付属品:・レンズキャップ LC-K106
・裏ぶた LF-N1
・レンズフード HB-104
・ストラップ LN-3
・レンズケース CL-L3
まとめ
本レンズは「PFレンズ」を採用し、800mmという異次元の長焦点距離を手持ち撮影可能にした画期的なレンズだと言えるでしょう。軽くて短く、フィールドで振り回して長時間持ち歩いても疲れません。日ごろ超望遠レンズを使っているフォトグラファーならそれを実感できると思います。
もちろん描写も精細かつ色再現もよく、野鳥をはじめ生き物などを被写体としている人には垂涎の1本になることは間違いないと感じます。2種類のテレコンバーターとの相性も素晴らしく、マスターレンズの良さをそのまま拡張できるところも気に入りました。撮影フィールドを大幅に拡大してくれるニッコールレンズという印象を持ちました。
■写真家:三井公一
新聞、雑誌カメラマンを経てフリーランスフォトグラファーに。雑誌、広告、Web、ストックフォト、ムービー、執筆、セミナーなどで活躍中。有限会社サスラウ 代表。