ニコン NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRで描く旅と日々
はじめに
ニコンZシリーズ初の、APS-Cサイズセンサーを持つDXフォーマットミラーレス機「Z 50」とともに、2019年11月22日に発売された標準ズームレンズ、NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR。質量が約135g、沈胴式で収納時は長さが約32mmになるという非常に小型かつ軽量であることが、まず大きな特徴です。
発売当初、Z 50には食指が動かず購入を見送ったものの、その年の年末・年始に使用する機会をいただき……結果的に手放せなくなり注文したのですが、その理由がこのレンズでした。そんな経緯で手に入れた本レンズを、発売からは時間が経っていますが改めてご紹介します。
使いやすい画角、高い解像力とやわらかい描写力
冒頭でもお伝えしたように、発売当初はそもそもZ 50の購入を考えていませんでした。その理由は、これ以上カメラを増やしたくなかったから(笑)。メイン機としてフルサイズのZ 6IIを使っている身としては、小型軽量のZ 50はサブ機としての魅力はあるものの、防湿庫のラインナップを眺めて……「まぁいっか」と、とりあえず見送ることにしました。そんな中、発売から1ヶ月ほど経った年末・年始にしばらくお借りして使う機会をいただきました。そうして日々のあれこれを撮影している中で「お!」となったのがこの1枚でした。
食卓の上に置いていたお気に入りのナッツ(特に奥の袋入りの燻製ピスタチオが絶品!)を何気なく撮ったのですが、その時に液晶モニターに表示された画像を見て目が留まりました。ガラス瓶とナッツのディテール、色の仕上がり。全体として光の捉え方が素敵だと感じ、この瞬間に購入したい!と思ったことを今でも覚えています。
そうしてZ 50とともに手に入れた本レンズ。広角側が35mm判換算で24mmという画角は、28mmだと狭く感じることが多い私にとって嬉しいポイントで、望遠側の75mmも含めて画角、大きさ(重さ)、そして画質のどれをとっても、つけっぱなしにしておく普段使いのズームレンズとしては理想的でした。
大阪港を望む展望室からの夕景は、16mmだと手前のフェリーターミナルから奥の淡路島まで、大阪湾のスケール感を伝えてくれます。尚、右手奥には明石海峡大橋の2本の主塔が小さく確認できます。カメラ側でアクティブDライティングを「より強め」に設定することで、暗部もしっかりディテールが表現できています。一方50mmにすると明石海峡大橋の2本の主塔の構造、そして橋のケーブルまでしっかり見て取れます。
▼広角端16mmで撮影
▼望遠端50mmで撮影
狭い路地に並ぶランタン。24mmだと奥行きが感じられますが、75mmでは圧縮効果によりその距離が非常に短く感じられます。
▼広角端16mmで撮影
▼望遠端50mmで撮影
阪神淡路大震災からの復興のシンボルとして建てられたこちらの像は、高さ18m。広角で撮影するとともに人物を入れることでそのスケールの大きさが伝わります。
強い光に対して絞りを絞り込むことで現れる光条ですが、レンズによってその出方が変わります。本レンズは「針のような」とはいきませんが、しっかりした光条が出てくれます。
子どもの肌の色、背景の淡いお花の色、そして小さな子どものほっぺたの柔らかさが伝わる描写力に、正直なところ「キットレンズなのに!」という驚きとともに満足感でいっぱいになりました。
最短撮影距離20cmとボケを活かした描写
本レンズの最短撮影距離、つまり最も被写体に近づいてピントが合う時の、被写体と距離指標マーク(センサー面の位置)との間の距離は0.2m(20cm)。ただし、一般的なズームレンズでの最短撮影距離は焦点距離によって変化し、望遠になるほどその距離が長くなります。ということは、最も広角側の16mmで撮影した時に、最短撮影距離である0.2mまで被写体に寄れる……と思いがちですが、
本レンズの最短撮影距離は
0.25m(焦点距離16mm)、0.2m(焦点距離24mm)、0.23m(焦点距離35mm)、0.3m(焦点距離50mm)
となっており、レンズの仕様上最も被写体に寄れるのは焦点距離が24mmの時となります。これはレンズの表記だけではわからないので、レンズの仕様はやはり一通り目を通しておきたいものですね。
実際に焦点距離24mmでピントが合うギリギリまで被写体に寄って撮影してみました。開放絞り値は焦点距離に応じて変化し、24mmではF4.2となります。35mm判換算で36mm相当の画角は標準レンズとも呼ばれる50mmよりも広く、またその分背景も広く入り、テーブルフォトなどにも使いやすい画角です。
台湾ロケ中に、大好きな小籠包をできるだけアップで!(笑) この画角は個人的に好きな35mmに近くてとても使いやすい印象なのですが、この時はちょうど蒸籠がぴったり収まりました。F4.2のボケ感ですが、うしろの小籠包の形がわかる程度の、程よいボケ味となっています。
ボケに関しては焦点距離が長くなるほど大きなボケを得られます。そこで一番望遠側の50mmとその近辺で、できるだけ被写体に寄ってみました。背景の中央付近はしっかりまぁるい玉ボケとなっています。
おうちの中で大活躍!
Z 50とともに本レンズを購入してすぐに新型コロナウイルス感染症が広がり、自由に外を撮り歩ける状況ではなくなってしまいました。それまで家の中で写真を撮ることはあまりなかったのですが、この時期はむしろできるだけ日々の「ステイホーム」を撮影し、SNSで発信することにしていました。とにかく、撮りたくなったらすぐに撮る。ふと思いついたらすぐに撮る。そのために、本レンズを装着したZ 50を常に食卓に置いておき、いつでも手に取れるようにしていました。
春から初夏のお花が綺麗な季節なのになかなか外に出られない。そこで、部屋に切花を花瓶に挿しておくように心がけ、気が向くとレンズを向けていました。それは綺麗な花を撮りたい、ということもありますが、普段は見逃したり気付かずにいた部屋に差し込む光や、窓の外に広がる空の色に目が留まったことも大きかったように思います。
結果として夕方にシャッターを切ることが多くなったのですが、アンダー寄りの設定で撮影することで、被写体と背景の輝度差を活かして背景を見た目よりもうんと暗く落としたり、シルエットが浮かび上がるように撮影したりと色々な撮り方を楽しみました。
夏の午後のティーブレイク。夏の強い陽射しを感じさせるためにカーテンを開けて敢えて陰影がはっきり出るように撮影。一番望遠側の50mm(35mm判換算で75mm)は、実は雑然としている卓上のあれこれをうまく画面から外してくれました。
「ステイホーム」の期間はとにかく時間があったので、気が向くと色々なものの手作りに挑戦し、そこそこの出来栄えとなった時はせっかくなのでちょこっと整えて記念に撮影していました。
ケークサレ(甘くないパウンドケーキ)と万能ニラだれは、それぞれ焦点距離が44mmと42mmで近いのですが、切り取り方と被写体への寄り具合でかなり印象が変わりました。そしてケークサレの断面の色がとても綺麗であることと、ニラだれの表面の描写から、ここでもいい仕事をするレンズだなぁと感心したものです。
コロナ禍が落ち着いた頃に友人が遊びに来ました。とても素敵な手土産を携えてきてくれたので、開封前にパチリ。卓上の状況に合わせて自在に画角を決めることができるズームレンズはやはり便利です。
近場から遠出まで、日々のお出かけに「基本の1本」
その後徐々に気兼ねなく外出できるようになり、遂に旅行も自由に行けるようになって今に至りますが、家の近所のお散歩から少し遠くへのお出かけまで、機材を小さくしたい日には迷わず持ち出すレンズとなっています。
夕方から日没の頃はとてもフォトジェニックな時間帯です。近所で足を止めた西陽がさすお花も日没直後の明石海峡大橋の夕景も、暗部をしっかり描写しつつ、空や雲のグラデーションなどの色を綺麗に描き出してくれています。
琵琶湖に浮かぶ沖島へ出かけました。この沖島は、日本で唯一淡水湖に浮かぶ有人島だそうです。猫の島としても知られる沖島ですが、三輪自転車がとても多いことも大きな特徴です。後ろからやってきた三輪自転車に追い越されたところをスナップ。咄嗟にズームを一番望遠側にしてシャッターを切りましたが、三輪自転車という特徴と、ここでは多くの女性たちが着用している作業着により「沖島らしさ」を感じさせてくれる一枚となりました。
今や滋賀名物ともなっている飛び出し坊やの「とび太くん」。滋賀県内各所でそれぞれの「ご当地とび太くん」がいるのですが(ぜひ探してみてください!)狭い路地の片隅に沖島バージョンのとび太くんを発見。一番広角側でとび太くんを大きく捉え、遠近感で路地に奥行きを持たせました。
三重県の赤目四十八滝へ。さすがに等倍まで拡大するとグレードの高いS-Lineレンズとの差は明確に出てしまいますが、PC画面で全体表示をする限り、またA4サイズ程度のプリントや、SNSにアップしてスマートフォンやタブレットで楽しむには十分な描写力です。
身軽な旅のお供に
旅の装備はやはりできるだけ軽くしたいもの。本レンズは重さが約135gととても軽く、APS-C規格のDX機はボディもFX(フルサイズ)機と比較すると全体的に小型・軽量で、旅の機材としてもとてもおすすめです。
台湾では店先の歩道も1階店舗の敷地なのか、客席が設置されていることは当たり前(ついでに台南では歩道の高さも店舗に合わせて作られているため、隣の店舗と歩道の高さが違って歩道の高さがまちまち……。皆さん、歩く際には十分お気をつけて!)。そんな台南でのある飲食店の店先でまったり休憩中の看板猫。サイレントモードでシャッター音は消して、背景ができるだけ広く入るように一番広角側で撮影。絞りは開放のF3.5ですが、広角は被写界深度が深くなるという特徴から「うしろの看板には漢字が並んでいることがわかる」程度のボケ感で街の雰囲気を伝えてくれています。
台南の市場にて。台南名物のひとつ、虱目魚(サバヒー)という日本では馴染みのない魚を捌いているお兄さんを撮らせていただきました。相手の仕事の手を止めたり邪魔をすることのないよう、瞬時に画角を決めて撮影できる点、やはりズームレンズは使い勝手が良いです。
暗くなった通りでポツンと営業を続ける果物屋さん。周囲の暗さに静けさが漂う中、目の前を通り過ぎるバイクで画面内に動きをつけてみました。
ちょうど日没の時間に西陽を受けた台北101が綺麗でした。こちらも大通りを走るクルマをぶらすべくシャッター速度を遅くして。手持ちでの撮影ですが、最大で4.5段分の高い手ブレ補正機能を有することで、1/20秒のシャッター速度でも手ブレをすることなく撮影ができました。
飛行機の中で迎えた日没。刻々と変わる空の色をスケッチするようにシャッターを切りました。収納時にパンケーキレンズ並みに小型となる本レンズは、機内持ち込みの手荷物として手元に置いておいても邪魔になりにくく、機内で過ごす時間の記録にももってこいです。
まとめ
解像度という点においては当然S-Lineのレンズには敵わないものの、光の捉え方と発色においてキットレンズとしては非常に高いパフォーマンスを得られるレンズと言えます。それゆえに、個人的には日常生活の中でふと撮りたくなった時や、特に目的がある場合ではない際のお出かけ時に連れて行く「常用レンズ」として今もとても気に入っています。
また、ニコンのZシリーズはFX機もDX機もマウントが同一なので、FX機を持ち出す際にどうしてもレンズを小さくしたい、またはボディキャップ代わりにつけておき、いざとなったらすぐに撮影ができる……そんな使い方も可能です。DXとFXどちらのユーザーにとっても「持っておいて損はないレンズ」としておすすめできる1本です。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員