ニコン NIKKOR Z MC 50mm f/2.8 レビュー|優しい描写力が魅力の常用できるマイクロレンズ
はじめに
ニコンユーザー待望の、Zマウントのマイクロレンズが発売されました。今回レビューする「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」は、気軽に持ち歩ける小型・軽量なボディーと使いやすい50mmの焦点距離、高性能な描写力が魅力の日常使いできるマイクロレンズに仕上がっています。
スナップやポートレート、テーブルフォトなど様々な被写体で楽しめるレンズですが、今回は筆者がこれまで「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」で撮り続けてきた水族館作品を、本レンズに持ち替えて撮影。長年ニコンのマイクロレンズを使用してきた、ユーザーの観点からレビューしたいと思います。
難しい被写体をしっかりと捉える高速AF性能
水族館ですのでもちろん館内は暗く、すべての被写体はアクリルの水槽の中で、素早く動いています。撮影レビューするにはなかなか厳し目の条件が揃っていますが、それだけに、描写性能やAF性能をしっかりと体感できる撮影状況とも言えます。
この水槽は中に造花がオブジェとして入っていて、そこをカクレクマノミが泳いでいるシチュエーションでした。水族館写真は、ともすれば魚の標本写真のオンパレードになってしまいがちですが、水槽の中のオブジェやサンゴ、水草などをボケに使用すれば、奥行き感のある写真を撮ることができます。この造花は背景のボケとして役立ってくれました。
AF性能ですが、Nikon Z 6IIに装着して絞り開放で撮影した感触として、今まで使用してきたマイクロレンズと比べても遜色なく、むしろ速さを感じました。AFモードはコンティニュアスAFサーボ(AF-C)で、AFエリアモードはオートエリアAFを使用し、タッチAFを使用して、魚の顔を背面液晶でタッチしてピント合わせを行い、シャッターボタンでシャッターを切る方式で撮影しています。
体長2~4cm程度のカクレクマノミは、かなり素早い泳ぎをする魚なので、AFの性能を試すにはちょっと意地悪な被写体とも言えるのですが、しっかりとピントの合った写真を撮ることができました。
「有効F値」について
まず筆者の水族館での撮影スタイルを説明しますと、反射を防ぐためと、水槽の枠など余計なものを構図に入れたくないので、水槽のアクリルにくっ付くくらい近付いて撮影しています。また、絞りを開けて主役の魚以外は大きくボカして、ポートレートのように撮ることを主としています。ですので、今回の作例もすべて絞りは開放で撮影しています。
それを踏まえて撮影データをご覧いただくと、絞り数値に「有効F値」という、あまり見慣れない言葉があると思います。本レンズの開放F値はF2.8で、絞り開放で撮影しているはずなのに、なぜ「有効F値4.5」のように表記しているかについて、お話したいと思います。
マイクロレンズは近接撮影時にはレンズが伸びるため、無限遠のときよりも、撮像素子面に写る像に届く光の量が減少します。レンズ面で受ける光の量は同じなのですが、被写体に近付けば近付くほど、レンズは撮像素子面の像から離れるため、受けた光は拡散されて全体の明るさが暗くなってしまうのです。
照明をレンズ、モデルを撮像素子面に写る像に例えてみましょう。ポートレート撮影で照明をモデルに当てるとき、モデルの近くから当てれば、強い光が狭い範囲でモデルの顔を照らしますが、モデルから離して当てると、弱い光がモデルの全身の広い範囲を照らしますね。つまり、光が弱まることで暗くなるのです。この光の減少を真面目に表したのが「有効F値」なのです。
どこのメーカーのマクロレンズも構造は同じなのですが、現在、この「有効F値」を表示している日本のメーカーはニコンだけとなっています。マイクロレンズを使用する上でこの「有効F値」を知っておくと、撮影時に「どんなに操作してもF2.8にならない!」なんてパニックになることがなくなりますので、頭の片隅に知識として置いておいてあげてください。
被写体の質感を丁寧に表現する描写力
お互いの体を枕にするように寝ているコツメカワウソも、水槽のアクリル越しの撮影になります。描写の難しい暗い色の毛の質感と、動物らしい鼻のリアリティーを、高い解像力で表現してくれました。ピント面からボケへのグラデーションも、自然で好感の持てる描写です。マイクロレンズのキモは、被写体の質感をいかに丁寧に表現できるかとも言えます。
小さくて軽いので常用レンズにオススメ
本レンズの長さは約66mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで)、重さは約260gで、マウントは違いますが前身のレンズとも言える「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」と比べると、長さは約23mm、重さは約165gもの小型・軽量化に成功しています。特に長さに関しては「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」は、この焦点距離にしてはちょっと長いなと感じることも多かったので、見るからに短くなったのは筆者的にポイントが高いです。
Nikon Z 6IIとのバランスも良く、寄りたいと思ったらどこまででも寄れるお散歩レンズとして、常に持ち歩けるサイズ感なのが、本レンズの大きなメリットだと思います。
鮮やかな被写体を色にじみなく表現
水族館にはカラフルな魚や、彩り鮮やかな水槽が多く、色飽和に気をつけなくてはいけないシチュエーションでもあるのですが、色味が鮮やかで濃いこの魚の体も、色にじみなく、シャープに描き出しています。
本レンズはEDレンズを採用して軸上色収差を抑え、非球面レンズを採用して球面収差と像面湾曲を補正しています。ボケの綺麗さが写真の印象を左右するマイクロレンズなので、余計な色にじみが生じていないことは大切です。
優秀な逆光耐性
逆光撮影時に起こりやすいフレアとゴーストについて、館内以外でも撮影してみましたが「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」に比べて、格段に抑えられていました。「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」も、フレアやゴーストのような不要な光が写真内に発生することは稀でしたが、本レンズは日中の外での逆光撮影でも、さらに強い耐性を感じられました。
本レンズは、ネジ込み式のレンズフード「HN-41」が付属品として同梱されています。通常のレンズフードのようにレンズボディに付けるのではなく、レンズの先端に、フィルターを付けるようにくるくるとねじ込んで装着する方式のレンズフードです。フードと言うにはかなり短い(薄い)もので、フレアとゴーストの発生を抑える意味で言えば、試用した限りではなくても問題は感じませんでした。
ただ、どんどん被写体に近付きたくなってしまうマイクロレンズの特徴を考えると、被写体とレンズがぶつからないように、このフードを装着しておくことにはメリットを感じました。筆者の好みで言えば、小さくていいので、丸型のレンズボディに付ける通常タイプのフードが欲しかったです。
MF撮影しやすい便利な機能
マイクロレンズは狙った箇所にピッタリとピントを合わせたいので、AFだけではなくMFも多用します。本レンズのコントロールリングには機能を割り当てられますが、ここは「M/A」にして、ワンアクションでMF撮影ができるようにするのがお薦めです。また、鏡筒を繰り出すと撮影倍率と撮影距離が表示されており、撮りたい倍率に合わせてMF撮影することも可能です。ただ、かなり大きく印字されているので、わかりやすくはあるのですがデザイン的には……ちょっと目立ち過ぎかな(笑)
日常レンズには必須の防塵・防滴・防汚性能
標準画角の明るいレンズとして常用するために、あって欲しい仕様が防塵・防滴性能です。鏡筒の可動部分などに、埃や水滴の侵入を防ぐシーリングが施されています。特にレンズの繰り出し部分は埃や雨などが付着しやすいので、防塵・防滴性能が高いのは助かります。
レンズの前面にはフッ素コートが採用されており、防汚性能も備えています。マイクロレンズは被写体に近付ける分、汚れやすくもあります。花を接写していて花粉がついてしまったり、ステーキを接写していてソースが飛んでしまったり、犬に舐められたり……。そんなアクシデントがあっても、レンズ面を優しく拭くことで汚れを落とすことができますので、より積極的に撮影ができます。
総評
レンズはスペックだけではわからないことが多く、今回も、試用して見えてくること、感じることが沢山ありました。
マイクロレンズ好きを誇る筆者が本レンズを総評すると、かっちりしすぎない優しい描写はかなりの高得点で、今まで使用したレンズの中で1位、2位を誇る地位に輝きます。マイクロレンズを多用する水族館写真では、シャープすぎると作品が幻想的でなくなってしまうし、ボケボケじゃさすがに何だかわからない写真になってしまうしで、ピント面のシャープさとボケの滑らかさ、その2つの繋がりのナチュラルさを大切にしています。マクロ系のレンズだと、かっちり描きすぎてしまうレンズもあるのですが、本レンズはその辺のバランスがとても良かったです。
AF性能も暗い水族館でこれだけ素早く、正確に合わせられるなら問題はありません。音が静かなのも、館内で音が響きやすい水族館撮影にはありがたい性能でした。デザインにはもう少し改善を求めたいところですが、小型・軽量化はこれが本当にマイクロレンズか?と思えるほどの小ささになっているので、両手を上げて喜びたいです。
今回は水族館での撮影でしたが、街なかでも溶け込めるサイズのレンズですので、次は街歩きのスナップで使ってみたいと思いました。常用できるマイクロレンズなんて、素敵じゃないですか。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。