ニコン NIKKOR Z 20mm f/1.8 S レビュー|星空撮影にもバッチリ使える超広角大口径レンズ
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はじめに
みなさんはf1.8のレンズと聞いてどんなイメージを持ちますか。実は私はf1.8と聞くと「良さそうだな」と勝手に解釈をする癖があります。聞いた話によると、レンズ設計においてf1.4とf1.8の差はかなりあるようで、両者の差は価格にも顕著に現れてますね。それだけf1.4の明るさと描写性能を両立させるのは難しいことなんですが、こんなこと言っていいのかわかりませんが、f1.8は「そんなに設計を無理していない」という印象を持っています。つまり、なるべく明るく作ってるけど設計的に無理をしていないので、明るさと描写性能のバランスがとりやすい・・・というのが私の勝手な解釈です。
でも思い返してみてください。確かにフイルムカメラの頃から今に至るまで、f1.8のレンズって良いレンズが多くなかったですか?私の経験上、f1.8のレンズはハズレが少ない!というのが持論です。おっと、前置きが長くなってしまいました(笑)そろそろ本題に入ろうと思います。
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「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」は2020年3月に発売されたニコンZマウント用大口径広角レンズ。時期的にはZ 5と同じ年に発売されています。私がNikon Zを自身の機材に導入したのは2019年でしたが、当時は星空向けの広角レンズがなく、このレンズが発売された時はとても嬉しかったことを記憶しています。この後に発売される「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」とどちらが星空向けですか?という質問をよくいただきますので、今回は星空の撮影に特化して「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」をレビューしていこうと思います。
外観をチェック
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Nikon Z 6IIに装着した状態。まず目につくのは大きなピントリングです。手袋をしたままでもピント合わせに苦労しません。そして重量は505gと他社同等機種と比べるととても軽いのが特徴です。軽量化されていてもビルドクオリティはさすがのニコン。手ブレ補正はついていませんが、防塵防滴性能が備わっているので地味に安心感があります。最近のニコンレンズに多い鏡筒長が長いタイプのデザインで、Z 6II、Z 7IIとのバランスはとても良いです(Z 50やZ fcだとフロントヘビーに感じるかも)。
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レンズフードを取り付けた状態。大型の花形レンズフードが付属します。レンズフードからレンズ先端までがなだらかなラインになっています。星空撮影時にレンズヒーターを巻く時は布製のヒーターよりも細い電熱線タイプのヒーターを使用するのがよいでしょう。
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フィルター径は77mm。超広角レンズにありがちな「出目金レンズ」のタイプではありませんので、通常のフィルターワークも楽しめます。丸型フィルター・角形フィルターも専用のものを手配しなくてOK!気軽にフィルターワークが楽しめます。
周辺像の描写性能を星空で確認
それでは気になる周辺の星像をチェックしていきましょう。
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■撮影環境:ISO3200,f1.8,SS15秒,AWB
画像処理なし
実はこのレンズ、一般的な評価では開放時の周辺像が少々緩いこと、周辺減光が発生することが挙げられているのですが、この画像見る限りは全く問題のなく実用範囲のようです。むしろf1.8でここまでの描写ができることが素晴らしい。通常はISO感度を6400まで上げて撮影しているのですが、f値が明るい分、ISO感度を下げて(今回はISO3200)撮影することができます。その分、ノイズレスに撮影することができるので、星空撮影ではf値が明るいことの恩恵はとても大きな影響を及ぼします。もちろんISO感度を6400にすれば、露出は半分で済みます。なんと素晴らしいことでしょう。周辺減光もありますが、レタッチで補正できるレベルです。
倍率色収差を感じることはありませんが、少々軸上色収差があるようです。この画像でも中央付近の星の周りに若干のパープルフリンジを感じます。ですがこれは非常に軽微なものなのでレタッチですぐに消せるレベルですし、気になる場合は少し絞ってf2、f2.8にすると良いでしょう。f2に絞ると周辺減光・色収差は改善され、f2.8まで絞るとほとんど気にならないレベルになりました。
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■撮影環境:ISO12800,f2.5,SS15秒,AWB
Photoshop CC(ノイズ低減、ホワイトバランス調整)
参考までに、中途半端ですがf2.5での作例です。軸上色収差・周辺減光、ともに気にならないレベルに改善しました。
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■撮影環境:ISO6400,f1.8,SS8秒,AWB
Photoshop Lightroom Classicで画像処理
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■撮影環境:ISO12800,f1.8,SS10秒,AWB
Photoshop Lightroom Classic、DxO Pure RAW2で画像処理
f1.8で撮影できることはほんとに撮影が楽になります。例えばこの2つの構図のように風景部分の水面に星がリフレクションしているときなどは、シャドー部分を明るめに撮りやすくなります。表現の幅が広がるのは間違いないでしょう。
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■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 20mm f/1.8 S + VIXEN 星空雲台Polarie U
■撮影環境:ISO3200,f1.8,SS15秒,AWB
Photoshop CCで画像処理
19枚の流星画像・風景部分を一枚に合成
ライブ配信をしながらタイムラプス用に仕掛けておいたカメラに大きな流星(火球)が写りました。赤道儀で追尾しながら撮影すると流星群の輻射点がよくわかりますが、流星の流れた方向からすると群流星ではないものであることがわかります。こうした流星群の撮影では暗い流星を明るく写すために、ISO感度を上げることよりも物理的な集光力が必要となります。f2.8よりも明るいレンズはこうした流星群の撮影で活躍します。
星空タイムラプスにも最適!
■撮影環境:ISO AUTO,f1.8,SS10秒,AWB
絞り優先、露出平滑化ON、撮影間隔優先ON、感度自動制御ON、カメラ内インターバル撮影
f値が明るい、露出が短く済むということは、短時間でたくさんの画像を撮影できるということになり、時間の経過(星空の動き)をゆっくりを表現できるようになりますので、星空タイムラプスではめちゃめちゃ活躍します。
星景写真における20mmとは
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■撮影環境:ISO8000,f2.8,SS25秒,AWB
Photoshop CCで画像処理
「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」との差を考えたときに、f値をとるか、ワイドさをとるかで悩む方は多いでしょう。よく聞くのが「夏の天の川を撮影するときに、さそり座から夏の大三角まで入れたい!」というものです。20mmですとこれは厳しくて、15mmくらい必要になる構図になります。
ただ、近年15mm程度の超広角レンズもスタンダード化し、似たような構図が増えたのも事実です。そのため、20mmという画角が逆に新鮮で個性を出せるようにも感じています。そして両者には決定的な差として価格差があります。おおよそ倍程度価格が変わってきますから、初めての超広角レンズに「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」を選ぶのは最適解かもしれませんね。
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■撮影環境:ISO6400,f1.8,SS5秒,AWB
Photoshop CCで画像処理
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■撮影環境:ISO6400,f1.8,SS5秒,AWB
Photoshop CCで画像処理
漁火とネオワイズ彗星(2020年ですがもう懐かしい!)。20mmでも風景に重きを置くか、空に重きを置くかで、かなり印象を変えることができます。こうした風景をメインに捉えた星景写真は最低20mmはほしいところですね。
普段使いにも優れた「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」
今回は星に絞ったレビューをしましたのでさらっと触れますが、最短撮影距離が0.2mとけっこう寄れます。また、フォーカスブリージングがないと言ってもいいくらい少ないので、動画撮影や深度合成の撮影ではかなり重宝するレンズになります。逆光耐性も素晴らしく、ゴーストやフレアはめちゃめちゃ少ないです。昼も夜も万能に使用できるレンズであると言えるでしょう。
太陽を真正面に撮影した作例があったので参考までに。ゴースト・フレアの発生は感じられませんね。
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■撮影環境:ISO800,f5.6,SS1/50秒,AWB
最後に注意点を一つ
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冒頭で説明した布製レンズヒーターがつけにくいこと。そして後ろから見ると分かりやすいですが、レンズフードとレンズの間に隙間があります。夜景撮影など、強い光源が後ろにあるときは気をつけたほうがいいかもしれません。
今回のレビューは以上になります。星の写真ばかりで少々色の少ない作例ばかりのレビューになってしまいましたが、「NIKKOR Z 20mm f/1.8 S」は星空撮影だけでなく普段使いにも適した1本。いろいろな被写体を撮りたい!というビギナーさんには特におすすめです。ぜひ星空撮影にも挑戦してみましょう!
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員