どんなシーンも逃がさない、高い信頼性と機動性のオールマイティミラーレス機 ニコン「Z 8」
はじめに
今回は、ニコンのフラッグシップモデル「Z 9」と同等の高い機能と性能、堅牢性・信頼性を小型化した、人気モデルの「Z 8」を紹介いたします。このモデルは2023年5月に発売され、発売初期は製品上のトラブルが報告されましたが、ニコンはこのようなトラブルにも迅速に対応した事で、半年経過した今でも人気のあるモデルとなっています。そんなニコン「Z 8」の魅力と実力、そしてその写りをご紹介します。
ニコン「Z 8」の特徴と魅力
ニコン「Z 8」は、よく「Z 9」と比較をされて小型になったと紹介されていますが、ほぼ同じ画素数の「Z 7II」と比べると明らかにボディは大きく、重量も約200g重いのも事実です。同じミラーレス機でありながら、この違いは少し気になるところです。気になるポイントをピックアップして一覧にしてみました。
Z 8 | Z 9 | Z 7II | |
発売日 | 2023年5月26日 | 2021年12月24日 | 2020年12月11日 |
センサーサイズ | フルサイズ | フルサイズ | フルサイズ |
センサー | 積層型CMOSセンサー | 積層型CMOSセンサー | 裏面照射型CMOSセンサー |
有効画素数 | 4571万画素 | 4571万画素 | 4575万画素 |
画像処理エンジン | EXPEED 7 | EXPEED 7 | デュアルEXPEED 6 |
シャッター | 電子シャッター | 電子シャッター | 電子制御上下走行式 フォーカルプレーンシャッター、 電子先幕シャッター、 電子シャッター |
手ブレ補正 | イメージセンサーシフト方式 5軸補正 |
メージセンサーシフト方式 5軸補正 |
イメージセンサーシフト方式 5軸補正 |
フォーカス検出方式 | ハイブリッドAF(位相差AF/コントラストAF) | ハイブリッドAF(位相差AF/コントラストAF) | ハイブリッドAF(位相差AF/コントラストAF) |
測距点数 | 493点 ※静止画モード、撮像範囲FX、 シングルポイントAF時 |
493点 ※静止画モード、撮像範囲FX、 シングルポイントAF時 |
493点 ※静止画モード、撮像範囲FX、 シングルポイントAF時 |
ファインダー | 電子ビューファインダー1.27cm/0.5型 Quad-VGA OLED | 電子ビューファインダー1.27cm/0.5型 Quad-VGA OLED | 電子ビューファインダー 0.5型 Quad-VGA OLED |
ファインダー総ドット数 | 約369万ドット | 約369万ドット | 約369万ドット |
最大ファインダー倍率 | 約0.80倍 | 約0.80倍 | 約0.80倍 |
モニターサイズ | チルト式8cm/3.2型TFT液晶モニター | チルト式8cm/3.2型TFT液晶モニター | チルト式3.2型TFT液晶モニター |
モニタードット数 | 約210万ドット | 約210万ドット | 約210万ドット |
RAW出力形式 | RAW 14ビット(ロスレス圧縮、高効率★、高効率) | RAW 14ビット(ロスレス圧縮、高効率★、高効率) | RAW 12ビット/14ビット(ロスレス圧縮、圧縮、非圧縮) |
記録メディア | ダブルスロット・CFexpress/XQDスロット・SDスロット | ダブルスロット・CFexpress/XQDスロット | ダブルスロット・CFexpress/XQDスロット・SDスロット |
連続撮影 | 最高約20コマ/秒 | 最高約20コマ/秒 | 最高約10コマ/秒 |
バッテリー | EN-EL15c | EN-EL18d | EN-EL15c |
静止画撮影可能枚数 | ファインダー使用時:約330枚 液晶モニター使用時:約340枚 [パワーセーブ(静止画モード)]が[OFF] |
ファインダー使用時:約700枚 液晶モニター使用時:約740枚 [パワーセーブ(静止画モード)]が[OFF]の場合 |
ファインダー使用時:約360枚 液晶モニター使用時:約420枚 [パワーセーブ(静止画モード)]が[OFF]の場合 |
質量(g)(バッテリーとメモリカードを含む) | 910g | 1340g | 705g |
ボディサイズ | 約144×118.5×83mm | 約149×149.5×90.5mm | 約134×100.5×69.5mm |
実売価格(2023年12月18日キタムラ調べ) | 539,550円 | 694,980円 | 386,100円 |
大まかな項目を比較してみると、「Z 8」は「Z 9」のスペックを引継いで一体型縦位置グリップを無くし、バッテリーを「EN-EL15c」に変更して小型化を図り、SDカードスロットも採用するなどして、一般的なユーザーにも扱いやすいハイスペックなカメラという事が分かってきます。
「Z 9」と同様の積層型CMOSセンサーを使用する事で、電子シャッターの弱点であるローリングシャッターひずみを最小限に抑えることができるため、メカニカルシャッターを搭載していないのも大きな特徴です。メカニカルシャッターが無いことによりボディが軽量化され、高速連写によるシャッターの摩耗を気にせず大量の撮影をおこなう事ができます。
メカニカルシャッターが無い「Z 8」では、シャッター幕の様な「センサーシールド」を採用しており、電源オフ時には「センサーシールド」でセンサーをカバーできるので、レンズ交換時にもセンサーへのホコリが付着しにくく、指も触れにくくなっています。
この機能は初期設定では「OFF」になっているので、メニューから設定変更する事をおすすめします。センサーへのホコリ付着対策は「Z 7II」や「Z 6II」は対応していないので、大きな違いのポイントにもなります。
「Z 9」「Z 8」「Z 7II」の3機種を比較した場合、それぞれの性格は、「Z 9」は動体撮影を得意とするプロフェッショナル機、「Z 7II」は風景・スナップなどの撮影をメインに扱いやすいハイアマチュア機。「Z 8」は「Z 9」の性能を持ち、「Z 7II」のフットワークの軽さを兼ね備えたオールマイティな機種と言えると思います。プロの要求にも対応でき、従来の機種から乗り換えても扱いやすいカメラ、それが「Z 8」です。
ただ「Z 9」に比べて軽量になったと言われている「Z 8」ですが、他社の同クラスの機種と比べると明らかに重量は重いですし、ボディ・グリップも少し大柄です。筆者の様に手が小さい人などは、この大柄のボディは少々手に余る大きさです。
オートフォーカス性能
「Z 8」は、「Z 9」の高い被写体検出性能とオートフォーカス性能を引き継ぎつつ、さらなる性能向上を実現しています。「Z 9」と同様に人物、動物(犬、猫、鳥)、乗り物(車、バイク、自転車、列車、飛行機)の9種類の被写体を自動的に検出し追尾し、「Z 8」では、新たに飛行機の検出に優れた専用の[飛行機]用モードが追加されました。
被写体検出は、ワイドエリアAF(S)、(L) 、(C1)(C2) 、オートエリアAF、3D-トラッキングで動作。動物の検出は、犬、猫、鳥以外でも、類似した動物に枠が表示される場合があります。人物は顔/瞳/頭部/胴体、犬、猫、鳥は頭部/瞳/全身、飛行機は全体/先頭部/コックピットを検出します。
被写体検出においては細かな設定による切替もできますが、「オート」に設定しておけば自動的に被写体認識をしてピントを合わせてくれるのはありがたい機能です。
※静止画の場合は” 3D-トラッキング“、動画の場合は”ターゲット追尾AF”となります
オートフォーカスのエリアも幅広く用意されています。通常のワイドエリア設定以外にもカスタムワイドエリアAFがあり、より自由な設定をすることが可能になっています。フォーカスポイントの縦と横の数の設定で、パターンは静止画撮影時が20種類、動画撮影時が12種類もあります。
ニコンの一眼レフカメラで追尾性能が好評だった「3D-トラッキング」を搭載しています。優れた被写体検出性能と相まって、高速で動く車や、素早く動くスポーツシーンでも遠く離れたところから追尾し続けることが可能になっています。
下の画像は、オートフォーカスのエリアは「オートエリア」・被写体認識は「オート」で撮影した様々な画像を、ニコンが提供するパソコン専用の閲覧・現像・編集ソフトウェア「NX Studio」でピント位置を確認したところをピックアップした画像になります。カメラ任せのオートフォーカスのエリアは「オートエリア」・被写体認識は「オート」でも、狙ったところにしっかりとピントが合っているのが分かります。ただ大きく激しく動く被写体では、ややフォーカスが遅れるシーンも見受けられましたので、そういったシーンでは、エリアを絞ったり、「3D-トラッキング」にしたり、被写体認識を絞り込む必要があると感じました。
約20コマ/秒の連続撮影や今まで撮れなかった瞬間が撮れる「プリキャプチャー」機能
「Z 8」は高画素機ですが、連写機能も優秀です。「CFexpress Type B」の記録メディアを使用すれば高速書き込みによって、JPEG FINE(サイズL)または高効率RAW(★マーク無し)設定時に、約20コマ/秒で1000コマ以上の連続撮影が可能で、決定的瞬間を捉えることができる確率が格段に上がります。
また「Z 8」には、今まで撮れなかった瞬間が撮れる「プリキャプチャー」機能も搭載されています。この「プリキャプチャー」機能は、少し設定等に制限があるので注意が必要ですが、「ハイスピードフレームキャプチャー+」時に、シャッターボタンを半押ししたまま狙いを定めて全押しすると、最大1秒前から最大4秒後まで画像を記録する設定(プリキャプチャー記録設定)が可能になります。狙った瞬間を確認してからシャッターボタンを全押ししても、その瞬間を逃さず撮影できます。
1. 全押し後にさかのぼる時間[プリ記録時間]
2. 全押し後の撮影時間[レリーズ後記録時間]
3. 1回のハイスピードフレームキャプチャー撮影
下の写真はプリキャプチャー記録「C30」の設定で、1秒間に30コマ連写で撮影した内の一枚です。予測の難しい瞬間も高速連写とプリキャプチャー機能でシャッターチャンスを逃さないので、こういったシーンなどでは非常に有効なモードです。
「プリキャプチャー」機能は、スポーツや鳥・昆虫などの撮影をするユーザーにとってはとても魅力的な機能で、積極的に使ってみたい機能の一つです。
ニコン「Z 8」を持って様々なシーンを撮影
「Z 8」と様々な「Zマウント」レンズを持って、いろいろなシーンを撮影してみました。「Z 9」に比べれば小型化された「Z 8」ですが、ミラーレス機としてはやや大柄な部類に入るカメラです。大きなレンズを装着した場合のバランスは非常に良いのですが、一日カメラを持っていると少し重いかな~と感じます。
バッテリーの持ちに関しては、一般的な撮影であれば一日の撮影を1本のバッテリーでこなすことができるミラーレス機のレベルでは、標準的なレベルと言えると思います。実際に使っていてフル充電で一日の撮影をこなすことができましたが、終盤ではバッテリー残量が少々気になる場合もあり、予備バッテリーを1本合わせて持ち歩いた方が安心して撮影に集中できる感じです。
実際に撮影した画像を見ても分かるように、非常に解像感の高い描写をしています。「Z 8」は初期設定のままでも、必要にして十分なパフォーマンスを提供してくれるカメラです。また高画素だけでなく、動きのある被写体にも対応できるオートフォーカス性能と相まって、オールマイティに様々なシーンに対応できるカメラになっています。
まとめ
積層型CMOSセンサーを搭載し、メカニカルシャッターを無くしてもローリングシャッターひずみの少ない描写ができる「Z 8」は、電子シャッターのウィークポイントを無くした事で、安心して使い込めるカメラになっています。そういった点でも従来からのニコン一眼レフユーザーが、この「Z 8」に乗り換えてもスムーズに使えるカメラになっているでしょう。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー