究極のマルチロールカメラ?|Nikon Z 9 レビュー
はじめに
皆様こんにちは。bird and insectの林です。以前からWeb記事やSNS等で何度か使用感などをお伝えしているNikon Z 9ですが、再びお借りしてじっくり使用させていただける機会に恵まれました。足掛け1ヶ月程度使用して手に馴染んできた感のあるZ 9、改めてレビューしていきます!
■今回お借りしたセット
・Nikon Z 9
・NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
・NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S
・Z TELECONVERTER TC-2.0x
極端な広角と望遠が使いたい!と無理を言ってリクエストさせて頂きました。結果的には望遠が楽しくてほぼ望遠で撮るという…
Nikon Z 9という機種
Nikon Z 9はニコンの最新鋭フラッグシップミラーレスカメラで、言うなれば「全部入り」の機種になります。昨年末に非常に話題になったカメラで、基本性能などは調査済の方が多いかと思います。初めてニコンと打合せをさせていただいたとき、あまりにも多くの機能が進化していて「これはニコンさん本気だな…」と思った記憶があります。
D6やZ 7IIと比較してたくさんのブラッシュアップされた機能があるのですが、集約すると「最高のAFと連射性能、手ブレ補正に裏打ちされたどんな場面でも撮れるスチールと、8K 30pまたは4K 120pで非常に高画質な内部収録が可能なムービーのマルチロールカメラ」といったところでしょうか。
マルチロールカメラとは、スチールとムービー両方が「実用できる」カメラを指します。スチール中心でムービーも撮れますではなく、逆にムービー中心でスチールも撮れますでもない、両方が同等に扱えるカメラのことです。本機Z 9、まさにマルチロールカメラ。スチール機として、またはムービー機として、どちらか一方の目的のために買うのは非常に勿体ない機種です。
実売で約63万円(税込)。このスペックであれば、この価格だけ聞いてもバーゲンプライスですが、マルチロールと思うとスチール30万円/ムービー30万円。30万円ずつでハイエンドなスチールとムービーの撮影性能が手に入ると思うと、さらに安く感じるのではないでしょうか。と思いましたが、これはなんとか買う理由を探すときに自分が使う言い訳のひとつです。
ムービー性能について
今回はまだまだ世の中に情報があまりないムービーの作例を中心に、より詳細な使用感を見ていきます。作例はNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR SにZ TELECONVERTER TC-2.0xを付け、さらにクロップモードを使用。最大望遠約920mmで撮影しています。さらに全編手持ち、4K120p N-Log 10bit H.265にて収録しています。
従来機であればこれほどの望遠を手持ちで振り回すのは大変骨の折れる撮影ですが、Z 9は超望遠の世界をどう切り取ってくれるでしょうか。
今回は車と鳥という二大動体撮影に挑戦してみました。撮影した車種「スカイライン 370GT」に因んで、大空を飛ぶ鳥が一本の線を描くようなイメージで撮影・編集しております。実は筆者、普段基本的に50mmのレンズしか使用しないため望遠領域での撮影は不慣れです。加えて、鳥の撮影は今回が人生初…果たして映像に使用できるレベルの素材が撮れるのか?と不安いっぱいでしたが、撮影を始めてすぐにその不安は払拭されました。
全ミラーレスカメラ中トップクラスの見やすいファインダーと圧倒的な手ブレ補正性能で、920mm端でも200mmくらいのイメージで構えることが出来ました。加えてAFの信頼感が非常に高く、一発目のピントを外すことがほぼありません。
AF-Cは「非常に高いレベルだが癖はある」という印象。最初から「全部カメラ任せで上手くいくでしょ」と思っていると痛い目を見るかもしれません。被写体によって追従感度や速さを微細にチューニングしてあげれば、バチッとはまるところが見つかる筈です。
以前、「Z 9は使いやすすぎて使いこなす楽しみは皆無」という感想を書いたことがあるのですが、訂正いたします。AFに関してはチューニングすることでより最強のものになります。使いこなす楽しみもあるとは…とZ 9のことがさらに好きになりました。
また、N-Logは多少色が黄色めですが、グレーディングによってかなり深みを出せるLogだと感じています。参考までにグレーディングのbefore/afterです。
何度やってもLogの薄い画が色づいていく様は楽しいですね!いくつかムービーのキャプチャも貼っておきます。
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実は夕方でISO3200で撮影していますが、羽のディテールまで写っていて驚きました。
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Logは機種よって「良いLog」と「悪いLog」があり、後者は色が出づらいのですが、N-LogはRAWに近い重みが出せるLogだと感じます。
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空の青も綺麗な出方です。
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NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR Sのすっきりとした描写が見て取れます。
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青の出方と雲の雰囲気の再現性はとても良好です。
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このようなシチュエーションはLogが苦手とするところ。RAWであればもっと良い色が出るはずです。
ムービーからの切り出しですが、スチールだと言われても遜色ない美しさですね!4K120pのスーパースローでこの画質は素晴らしいと思います。8K30pになるとさらに凄みを増しますし、今後アップデートで8K UHD/60p(12bit)のRAW動画の内部収録が解禁となれば、さらに深みのある色が作れる筈です。どこまで進化していくのか、本当に楽しみです。
スチール性能について
スチールについては素晴らしいレビューがたくさんありますので、今回は軽く触れる程度にしておこうと思います。
言わずもがな、スチールも非常に高い性能を持っています。ニコン特有の素直なRAW(ほぼ全メーカーのカメラを触っていますが、ニコンが一番素直な気がします)で、ハイライトからシャドウまで階調を使い切っても破綻しない粘りのあるRAWです。
左の木々と右の空には思った以上の明るさの差があり緊張するところですが、余裕で階調が保持されていました。ダイナミックレンジは15ストップ近くあるように思います。特にハイライトが強いのはニコンの良いところですね!
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■撮影環境:F6.3 1/30秒 ISO280 焦点距離24mm
こちらも階調を使い切って思いっきりHDRっぽい仕上げに。車のフロントグリルの奥と上部に少し見えている空、とんでもない光量の差ですがどちらも救えています。恐ろしいまでのダイナミックレンジです。色乗りもとっても良く、パンチのある現像にできるのがとても良い感じです。彩度は下げることは出来ますが上げる方向は破綻するので、元のRAWにどれだけ色が乗っているかはとっても重要です。
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■撮影環境:F5.6 1/30秒 ISO220 焦点距離24mm
こちらは逆に、ハイライトを残しシャドウは現像で捨ててみました。HDR感は減ってより湿度のある写真になっています。この雲の表現、フルサイズでも安っぽくなりがちなカメラが多い中素晴らしいですね…!
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■撮影環境:F6.3 1/250秒 ISO72 焦点距離24mm
一転、テレコン+200mmの最望遠まで寄ってみました。Zシリーズのレンズは本当に癖がなく、テレコンがついても全く描写に陰りを見せません。画面全域までクリアで気持ちのよい写りなので、望遠で空気のかすみを越した先の被写体でも山肌の質感が現れています。色味が全く飛ぶ気配を見せない空の描写にも注目です。
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■撮影環境:F6.3 1/250秒 ISO64 焦点距離400mm
最後に最も思い切って階調を捨てたものも。階調が豊富だからこそ、それを捨てる選択肢が面白くなると感じました。富士山の3枚はどれも同じ場所からほぼ同時刻に撮影。構図と階調で色んな表現が出来るのが、写真って面白いなと毎日思います。
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■撮影環境:F6.3 1/250秒 ISO72 焦点距離140mm
今回のスチール作例ですがごめんなさい…全然AF性能を活かしていない…。動画でたくさん使ったので大目に見ていただけると嬉しいです…。
さいごに
スペックは良い作品を生む手助けをしてくれますが、良い作品が必ずしもスペックの高いカメラで撮られているわけではありません。撮影意図・被写体の力・どの時を切り取るか・光・色・構図…その上にようやく現れるのがカメラのスペックであることを自戒しつつ、それでもやっぱり「撮れた」までの最短経路になるのがZ 9だなと感じています。
そして最終的には、カメラ選びの肝は自分のスタイルにしっくり来るかどうかだと思います。写真も動画も多分に身体的な行為なので、カメラが手に馴染むか、目に馴染むか、違和感なく扱えるかという部分が一番大事だと思っています。そこはスペックでは語れない部分であり、可能であればぜひ一度店頭で納得いくまで触ってみてから購入するのをおすすめします。ただこのZ 9、触ったらほぼ買ってしまうと思いますが笑。
※2022年2月23日現在 一部カメラのキタムラ大型店および中古買取センターにて展示中。詳しくは最寄りのカメラのキタムラ店頭にお問い合わせください。
■フォトグラファー:林
bird and insect COO/Evangelist。リコーにてカメラ設計に従事した後、フォトグラファー/シネマトグラファーとしてbird and insectを立ち上げ。現在は写真・映像に関する感覚を言語化して理論に落とし込むことと、逆に理論を感覚化することが仕事。