ニコン Z f|モノクロ撮影が楽しくなるクラシカルなデザインのフルサイズ機
はじめに
昨年10月に発売されてから、クラシカルなデザインと骨太な性能で、今も根強い人気を誇るNikon Z fのレビューを、特にモノクロ系のピクチャーコントロールに注目してスナップとムービーでお伝えします。
新搭載の3種類のモノクロ系ピクチャーコントロール
本機に新しく搭載された、ふたつのモノクロ系のピクチャーコントロールは、コントラスト低めで優しいイメージの軟調モノクロ「フラットモノクローム」と、中間調がアンダー目になるので、全体にシックな印象になりながらも赤の感度が高く、青の感度が低い特徴的な陰影を描き出す「ディープトーンモノクローム」です。
これに従来からの「モノクローム」を併せると、3種類のモノクロモードを楽しむことができます。他のZ機でも、アップデートを行うことで新しいモノクロ系のピクチャーコントロールを使うことができますが、本機にはカチッと回すだけのワンタッチ操作でモノクロの撮影が可能になる、「静止画/動画セレクター」という専用のレバーが付いています。
通常は静止画と動画を切り替えるレバーに、モノクロを選択肢として入れるというのは、なかなかマニアックで、モノクロ好きとしては心を掴まれました。
こうして3種類のモノクロを撮り比べてみると、従来からある「モノクローム」の完成度の高さに改めて気付かされました。
下の比較写真の構図中央下にある、錆びたネジやボトルはモノクロとの相性が良く、見つけるとシャッターを切りたくなる被写体です。ピクチャーコントロール:スタンダードの色のある状態と見比べてみると、「モノクローム」では赤錆と黒錆の質感が高コントラストでしっかりと描かれているので、暗い被写体なのに黒ツブレすること無く、豊かな階調で表現されています。
また「ディープトーンモノクローム」は赤の感度を高く描くので、構図右上にある車の赤いテールランプが、他のモノクロモードに比べて大きな丸ボケになっています。
「フラットモノクローム」も全体が平板なモノクロになるのではなく、メリハリはありながら、アンダー部の黒が優しいニュアンスの黒色になり、被写体の質感を柔らかく感じさせるので、人物撮影で活躍しそうです。
ディープトーンモノクローム・ショートムービー
ショートムービーはモノクロで撮ると決めていたのですが、3種類のどのモノクロモードを使うか迷っていました。ですが、上の写真の撮り比べをしたときに「ディープトーンモノクローム」の、「モノクローム」よりも抑えめなコントラストながら、中間色の濃いグレーの色味の美しさと、映像にしたときに白浮きしないハイライト部の落ち着きが気に入って、全編「ディープトーンモノクローム」で撮影しました。
明るさや色味は撮影時のままで、編集時に調整などは行っていません。シーンによって、可変NDフィルターを使って減光しています。電子手ブレ補正をオンにして、手持ちで撮影しました。この電子手ブレ補正の性能が高く、ジンバルなしでここまでブレのない映像を撮れるようになると、荷物を減らしたい旅先でのムービー撮影の敷居がぐっと下がりますね。
スナップ・カラー編
画像処理エンジンはZ 9やZ 8と同じEXPEED 7を搭載していて、動きモノの撮影にも威力を発揮します。逆光の中の小さな飛行機も、しっかり捉えてくれました。今回Z fとの組み合わせで多用した「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」は、2020年にZ 5のキットレンズとして同時に登場したレンズですが、主張のないシンプルなデザインとコンパクトなサイズで、Z fの常用標準ズームレンズとして使用するのに丁度良かったです。
クラシカルな外観は持つ喜びを感じさせてくれるので、カメラバッグに入れるよりも、肩や首から下げて使いたいと思う方が多いでしょう。カメラボディーの前面カバーとトップカバーはマグネシウム合金仕様で、衝撃に強く作られています。防塵・防滴性能もZ 8と同等なので、「見せたい」と「撮りたい」を併せて叶えてくれます。とはいっても、何をしても壊れない訳ではないので、人混みや悪天候時には大事に仕舞っておくなど、カメラには優しくしてくださいね。
水族館撮影編
もちろん、筆者のホームベースの水族館での撮影も行いました。カメラ上部にあるシャッタースピード、ISO感度の設定ダイヤルは、露出モードはマニュアルをメインで使用する筆者にはとても便利でした。特に暗い水族館では、大きな背面液晶の画面をあまり光らせたくないので、ぱっと確認・操作できる物理ダイヤルは重宝します。
また、このダイヤルは真鍮製なので、触り心地がとても良いのです。シャッターボタンも触り心地の良さと、深過ぎも浅過ぎもしないストロークで、シャッターを切る楽しさが増す作りになっています。
おわりに
マイクロレンズの「NIKKOR Z MC 50mm f/2.8」と本機のボディバランスも良く、このストレートなボディは、レンズの形をあまり選ばない形状なのだと感じました。
記録媒体は、SDカードとmicroSDカードのダブルスロットになっています。最初はmicroSDカードの採用に驚きましたが、この薄型ボディを実現させるには、最適な方法だったのでしょう。
FM2にインスパイアされた外観と、上位機種の機能を詰め込んだ高い性能の本機は、フルサイズ機に移行したい方はもちろん、初めてニコンのカメラを買う人にもお勧めできる撮影が楽しくなるカメラでした。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。