表現の可能性は無限大!OLYMPUS アートフィルター徹底解説 Part.1
はじめに
撮影した写真を見栄えよくドレスアップさせるツールは、スマートフォンが普及した今となってはさまざまなアプリが開発され、広く一般的に認知されて使う人も多いものとなっています。そしてこのツールの先駆けとなったのが、2008年12月にオリンパスから発売されたデジタル一眼レフ「E-30」に搭載された「アートフィルター」ではないでしょうか。
ミラーレス一眼カメラであるPENシリーズ向けに開発が進められていたものが一足先に一眼レフのE-30、その後のE-620を経て、2009年7月に発売されたミラーレス一眼(当時はマイクロ一眼)カメラであるPENシリーズの第一弾「E-P1」に搭載され、以来今日までPENシリーズとOM-Dシリーズ(2012年3月に初号機「E-M5」が発売)に引き継がれています。
アートフィルターが世に出た当初は「こんな機能を誰が使うんだ?」と言われることもあり、かなり風当たりが強かったと開発に携わった方からも伺ったことがあります。しかしその後、スマートフォンユーザーが増えてアプリによる画像処理やレタッチ、またSNS投稿の際にエフェクト機能を利用することが特異なことではなくなった今では、もはやこういったフィルター機能を使うことに対してナンセンスだ、などいう意見はほぼ聞かなくなったように思います。
そんなフィルター効果で写真をドレスアップするツールのパイオニアともいえる、アートフィルターも登場からはや10年以上が経つのですが、今でもまだ意外と知られていない面や、オリンパスユーザーであってもいつの間にか増えてあまり知られていない機能もあると思われるので、今回改めてご紹介したいと思います。
アートフィルターの種類と特徴
アートフィルターは当初全6種類(ポップアート、ファンタジックフォーカス、デイドリーム、ライトトーン、ラフモノクローム、トイフォト)からスタートしましたが、その後PEN/OM-Dシリーズの新機種発売とともに徐々に増えてゆき、またベースとなるアートフィルターのバリエーションタイプやエフェクト(効果)の追加などが加わり、今では16種類をベースに31タイプにまで増えました。
そこにエフェクト(効果)を足していくと194通り、さらにモノトーン系のバリエーションとして加わったフィルター効果と調色、パートカラーの色の選択も入れて数えるとなんと962通り(!)もの写真を撮ることができます。これがすべてパソコンのソフトを使わず、カメラ上でできてしまうということには驚くばかりです。さらに、ここに最近の機種に追加された「ファインチューン」機能、またのちに紹介する様々な設定と組み合わせることで、もはや表現の可能性は無限大といっても過言ではないでしょう。
まず今回は最初にベースとなるアートフィルター(と効果の追加の一部)を簡単にご紹介します。尚、これだけでも相当なボリュームであることを先にお伝えしておきます。
1. ポップアート
ピクチャーモードのVividよりもさらに彩度を上げて色の美しさを際立たせ、文字通りポップな印象にしてくれます。色鮮やかに表現したいときに仕上がり設定(オリンパス機ではピクチャーモード)をVividにしても期待したほどの効果が得られない、そんなときに非常に活躍してくれます。明るめかつ彩度が高くてビビッドな仕上がりのタイプ1と、彩度は高いものの全体的な明るさを抑えて落ち着いた印象となるタイプ2があります。
2. ファンタジックフォーカス
ソフトフォーカスをかけたような幻想的な雰囲気となるファンタジックフォーカスは、ふんわりやわらかい印象ながらもピントの芯はしっかり残した仕上がりが特徴です。
3. デイドリーム
白昼夢の中にいるかのような、明るめでコントラストが低くやわらかい印象でありつつ、全体的にブルーがかったタイプ1と、アンバー系の仕上がりとなるタイプ2があります。
4. ライトトーン
コントラストが低くゆるくてやわらかい、またかわいらしい印象の写真に適したアートフィルターです。一方で、白飛びや黒潰れをしにくい、暗い部分を起こしてくれるという特徴から、輝度差がある場面にも適しています。
尚、コントラストが低めになるライトトーンは、被写体の「角が取れてやわらかい印象になる」という特徴もあるため、毎年桜のシーズンに活躍してくれます。
5. ラフモノクローム
ピクチャーモードにある通常の白黒モード「モノトーン」よりも、白と黒のコントラストがはっきりしていて、かつ高感度のモノクロフィルムで撮影し、増感現像を行ったときのようなざらっとした粒状感が楽しめます。その粒状感とコントラスト具合の違いでタイプ1と2があります。さらにはモノクロ撮影時に使用するカラーフィルター効果で、例えば空の色を濃くすることなどや、調色でセピアや青などのバリエーションも楽しめるようになっています。
モノトーン | ラフモノクロームⅠ | ラフモノクロームⅠ+フィルター効果(Yellow) |
ラフモノクロームⅠ+フィルター効果(Orange) | ラフモノクロームⅠ+フィルター効果(Red) | ラフモノクロームⅠ+フィルター効果(Green) |
6. トイフォト
プラスチックレンズでできたトイカメラやオールドレンズを使う古いカメラで撮影したような、画面の四隅が暗く落ちる周辺減光を大きな特徴として、全体的に少し緑がかったような色になるタイプ1、青みが強くなるタイプ2、赤みがかぶるタイプ3があります。
7. ジオラマ
本物の風景をまるでミニチュアの世界のように見せるには、本来ティルトレンズという特殊なレンズが必要ですが、デジタル処理によってピントを合わせた位置から周辺にかけてを急激にぼかすこと、また彩度を高くすることで簡単に実現してくれます。またこのモードで動画を撮影すると、以前の記事でお伝えした通りパラパラ漫画のようなタイムラプス動画となります。
8. クロスプロセス
ネガフィルムをポジ現像、またはポジフィルムをネガ現像することをクロスプロセスと言いますが、その際に得られる「不思議な色に転ぶ」現象をデジタルで意図的に再現したもの。タイプ1はグリーン系、タイプ2はマゼンタ(赤)系の仕上がりとなります。
緑が強く出るタイプ1は、茶系にくすんだ葉や冴えないグレーの背景が鮮やかな緑となる一方で、紅葉の赤や黄色を鮮やかに表現してくれるため、紅葉シーズンによく活躍してくれます。
9. ジェントルセピア
セピアは他にモノトーンのバリエーションとしての「セピア」がありますが、「ジェントルセピア」は全体的に赤みが足され、また暗い部分が引き締まったセピアとなっています。
10. ドラマチックトーン
急激なコントラストの差によって立体感を強調し、彩度は高めで高コントラストなまま、暗部の暗さは残しつつ黒く潰れてしまいがちな部分を持ち上げることでディテールを表現し、肉眼で見ている世界とは違った表現ができます。タイプ1はカラー、タイプ2がモノクロームになっていて、タイプ2はさらにラフモノクローム同様のフィルター効果の追加や調色の選択が可能です。
11. リーニュクレール
難しい発音のネーミングですが、フランス語である”Ligne claire”は訳すとクリアライン。つまり「明確な線」という意味になる言葉の通り、色の縁にラインが引かれ、また階調を飛ばしてしまうことでペタッとした絵画調になる、ポスタリゼーション効果を楽しむアートフィルターです。タイプ1と2があり、タイプ2の方が引かれるラインがしっかりしたものとなります。
12. ウォーターカラー
名前の通り、写真のはずがまるで水彩画のような仕上がりとなります。水や空の青や、お花の色など、はっきりした色やカラフルな被写体と相性がいい一方で、黒い部分が白く抜けてしまう特徴があります。被写体の輪郭を強調するタイプ1と、色のみで表現するタイプ2があります。
13. ヴィンテージ
フィルムプリントが経年劣化したことによる写真の変色や退色を再現する、そんなコンセプトで開発されたヴィンテージは、レトロな雰囲気や懐かしさを表現するのにぴったりです。雰囲気の異なる3タイプがありますが、どんな被写体を選んでもいずれかのタイプがフィットしやすい、万能フィルターとも言えます。
14. パートカラー
特定の色だけを残してあとはモノクロームで表現する、というパートカラーは他社のカメラでも見かけますが、オリンパス機の特徴は「赤」「緑」のようにシンプルな色を選択するだけではないこと。色相環になった6色18パターンから強調したい色を選択し、さらにタイプ1から3により残す色の幅(色相環で選択した色だけでなく近い色までを残す)を選ぶことができるのが大きな特徴です。効果の追加と組み合わせることで、このパートカラーだけでなんと432通りものパターンから選ぶことができるのはなんとも驚きです。
15. ブリーチバイパス
フィルムや印画紙での「銀残し」という手法の再現を楽しむアートフィルターで、タイプ1と2があります。金属のメタリックな質感を印象的に伝えたり、街並みに古い映画のような味わいを持たせたり。一方で、タイプ1が意外とお花の撮影に活躍してくれます。
16. ネオノスタルジー
公式WEBサイトによると「ノスタルジックな雰囲気を残しつつ現代風に仕上げる」ということですが、インスタントフィルムカメラで撮影した写真のイメージというコンセプトのアートフィルターです。
効果の追加とファインチューン
それぞれベースとなるアートフィルターに「効果の追加」(エフェクト)を足すことができるのですが、効果の数は下記の通り最大で9種類、「効果なし」を入れると最大10パターンとなります。
「ソフトフォーカス」「ピンホール(周辺減光)」「ホワイトエッジ」「フレーム」「スターライト」「上下/左右ぼかし」「上下/左右シェード」(上下/左右で2種類をここではまとめて表記)
ただし、ベースとなるアートフィルターによって選べる効果の数が異なり、例えばヴィンテージ、ブリーチバイパス、ネオノスタルジーは効果なしを入れると最大の10パターン、逆にトイフォトとジオラマはフレーム効果か効果なしの2パターンのみとなっています。
Natural | |
ヴィンテージ | ヴィンテージ+ソフトフォーカス効果 |
ヴィンテージ+ピンホール効果 | ヴィンテージ+ホワイトエッジ効果 |
ヴィンテージ+フレーム効果 | ヴィンテージ+スターライト効果 |
ヴィンテージ+上下ぼかし効果 | ヴィンテージ+左右ぼかし効果 |
ヴィンテージ+上下シェード効果 | ヴィンテージ+左右シェード効果 |
また、一部のアートフィルター(ポップアート、ファンタジックフォーカス、トイフォト、クロスプロセス、ネオノスタルジー)に対して、基本となるアートフィルターの効果を調整できる「ファインチューン」という新たな機能が2019年11月に発売されたE-PL10より搭載され、アートフィルターのさらなる可能性を広げてくれています。
以上、ここまでは基本となるアートフィルターの種類やバリエーションについてご紹介してきました。「基本」だけでもこれほどバリエーション豊かなことから、アートフィルターがどれほど様々な表現の可能性を秘めているかについて理解いただけたでしょうか。
後編は「ただアートフィルターを使っただけ」で終わらせず、自分の作品に取り入れるために素材としてのアートフィルターのポテンシャルを最大限に活かし、いかにオリジナリティを持たせるかについてをお伝えします。
→続編のアートフィルター解説記事 Part.2はこちら
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員