オリンパス E-M5 MarkIII レビュー|堅実な機能向上と上位機に迫る性能
OM-DはE-M5モデルの登場から始まった!
ここ数年で主なメーカーから出揃った感のあるミラーレス一眼カメラ。高解像度を売りとしたフルサイズモデル、動き物撮影に特化したハイパフォーマンスモデル、高感度撮影を重視した低ノイズモデルなど特徴の際立ったモデルも数多く登場しており、もはやミラーレス一眼がデジタル一眼カメラのメインストリームとなったと言っても良いだろう。そのなかでもいちはやく登場したオリンパスOM-Dシリーズは、マイクロフォーサーズならではのコンパクトサイズと貪欲に取り込んできた先進の機能により独自の進化を辿ってきている。
OM-Dシリーズの初代機として2012年3月に登場したE-M5は、フィルム一眼レフカメラのスタイリングを踏襲しつつ、最新のEVFを搭載することで意欲的なモデルとなったカメラだ。さらにその後継機として2015年2月には手ぶれ補正機能の強化やバリアングルモニターを採用したE-M5 MarkIIが登場した。このE-M5 MarkIIでは他のモデルに先駆け、ボディ内センサーシフト式の手ぶれ補正機構を利用するハイレゾショットが搭載され、1605万画素のセンサーでありながらJPEGでは約4000万画素相当、RAW記録では約8000万画素相当の高解像度画像が得られるという画期的な機能が搭載された。このようにこれまでE-M5モデルにはOM-Dのコンセプトモデルとして、いち早く先進的な機能が投入されてきた経緯がある。
そして2019年11月。E-M5 MarkII発売からおよそ4年9ヶ月の沈黙を破り、ついにE-M5 MarkIIIが発売される。まさに待ちに待っての登場だ。そこで今回はE-M5 MarkIIIについて、実際にこのカメラで撮影した作例も交えて詳しく解説していきたいと思う。
スペックと外観
OM-D E-M5 MarkIII 主なスペックは下記の通り。
・マイクロフォーサーズ規格マウント
・有効画素数約2037万画素4/3型Live MOS センサー採用 スーパーソニックウェーブフィルター搭載
・常用ISO感度200-6400 拡張ISO感度 L64(ISO64相当)・8000-25600
・連写H 最高10コマ/秒・連写L 最高6コマ/秒・低振動連写L 約5.5コマ/秒・静音モード連写H 最高30コマ/秒・静音モード連写L 最高10コマ/秒
メカニカルシャッター1/8000〜60秒・電子先幕シャッター1/320〜60秒・静音シャッター(電子シャッター)1/32000~60秒
・ハイスピードイメージャAF 121点(クロスタイプ位相差AF)/121点(コントラストAF)
・撮像センサーシフト式ボディ内手ぶれ補正 5軸5.5段分(対応レンズ使用で6.5段分)
・視野率約100%/約1.30倍~約1.48倍 アイポイント約27mm 約236万ドットOLEDビューファインダー
・3.0型2軸可動式背面液晶モニター
・UHS-I/II対応 SDXC/SDHCシングルメモリーカードスロット
・MOV(MPEG-4AVC/H.264) C4K 30p・4K 24p/30p, 4Kタイムラプス動画対応
・三脚ハイレゾショット(50M画素相当、25M画素相当)
・無線LAN・Bluetooth内蔵
・防塵防滴耐寒仕様 動作保証気温-10℃~+40℃(動作時)
▼製品外観
E-M5 MarkIIIにキットレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6 IIを装着した。10.7倍の小型・軽量ズームレンズとの組み合わせは見た目のバランスも良い。このレンズとの組み合わせでも防塵防滴性能を発揮する。
有効画素数2037万画素4/3型Live MOS センサーを搭載。E-M5 MarkIIIでは上位機種のE-M1 MarkIIと同等のセンサーとなった。センサーゴミの写り込みを防ぐ、オリンパス伝統の極めて強力なSSWFダストリダクションシステムを搭載。前面から見るカメラデザインは、グリップが若干太くなった点以外はE-M5 MarkII(上)ととても似ている。
カメラ上面。E-M5 MarkII(上)と比べても、やはり形状は非常に似ている。しかしダイヤルやボタン類の位置は大きく変更されており、上位機種であるE-M1 MarkIIとの共通点が見て取れる。
カメラ背面。EVFは約236万ドットの有機ELパネルとなり、E-M5 MarkIIと比較すると色乗りとコントラストが高くなったように思える。さらにアイポイントが約27mmになったことで、メガネをかけた状態で覗いてもファインダーの周囲までケラれることなく見ることができるようになった。
その代わりにファインダー倍率が約約1.20倍~約1.37倍と若干小さくなっているのは仕方ないところ(E-M5 MarkIIは約1.30倍~約1.48倍)。十字キー周りのボタン配置はほぼ変わらず。親指グリップの形状が大きくなると同時に右肩にISOボタンが配置された。これもE-M1 MarkIIと同様の配置だ(E-M1 MarkIIではFn1ボタン)。またFnレバーの形状がE-M1Xと同じ形状のものに変更された。
2軸可動のバリアングル方式を採用した背面液晶モニターは104ドット3.0型静電式タッチパネルと従来から変わりない。
カメラ右側面にUHS-I/II対応 SDXC/SDHCメモリーカードスロットを一基搭載。ゴムパッキン入りの防塵防滴仕様。
カメラ左側面には入出力ポートが用意されている。E-M5 MarkIIのデータポートはオリンパス独自規格のUSB2.0 Hi-Speed対応USBポートだったが、E-M5 MarkIIIでは汎用のmicroB USB2.0 Hi-Speed対応USBポートとなった。
HDMIはタイプDマイクロコネクター。リモコン端子はØ2.5ミニジャックとなったことで、E-M1 MarkII / E-M1Xと共通のリモートケーブルRM-CB2が使える。外部マイク入力端子はØ3.5ステレオミニジャック(プラグインパワーOn / Off 可)。端子カバーは三分割となっている。
充電池室は底面に。充電池はE-M10 MarkIIIと同じBLS-50を使用。E-M5 MarkII用のBLN-1は使用できない。なおE-M5 MarkIIIではバッテリーグリップが用意されていないため、充電池を同時に二個使用しての運用ができなくなってしまった。
E-M5 MarkIIIはかつてのフィルム一眼レフカメラOMシステムのデザインを積極的に取り入れている。特にファインダー部の、いわゆるペンタプリズム部のとんがり形状がクラシカルな印象をより強くしている。このようにE-M5 MarkIIIをOM-1N(右)と並べて見ると両者がとても似ていることがわかるだろう。
前モデルからおよそ5年の間に進化したもの
前モデルE-M5 MarkIIからおよそ5年間という時を経て登場するE-M5 MarkIII。その間にオリンパスからはOM-Dシリーズだけでも、E-M10 Mark II、E-M10 Mark III、E-M1 Mark II、E-M1Xと4台ものカメラが登場した。いずれも当時の最新技術を織り込んだカメラとなっていることを考えると、5年間近くも現行機として販売されていたE-M5 MarkIIは、デジタルカメラのなかではロングセラー製品であったということがよくわかる。きっと、そこには単なるデジタルデバイスというだけではない、カメラとしての魅力があったからだろう。とはいえ、最新の機種と比べてしまうとどうしても見劣りをしてしまう点があるのも事実だ。では、新登場したE-M5 MarkIIIは前機種からどう進化しているのか、ここからは刷新された機能や新たに搭載された機能などについて検証を行っていこう。
イメージセンサー
まずはデジタルカメラの心臓部ともいえるイメージセンサーについてだ。前モデルE-M5 MarkIIでは約1605万画素であった解像度が、E-M5 MarkIIIでは約2037万画素に引き上げられた。
加えてISO感度の設定枠が、IS0200-25600(拡張ISO100)からIS0200-25600(拡張ISO64)へと、より低感度であるISO64相当も設定することができるようになった。これにより、水の流れを表現するなど日中の長時間露光において露出オーバーとなることを防ぐことや、開放絞りが明るい単焦点レンズなどでも開放絞りのまま撮影しても露出オーバーを避けられる可能性が増えるなど、表現の幅の広がりにつなげることができる。
また画像処理エンジンが、ひと世代新しいTruePic VIIIへと変更された。この変更により上位機種であるE-M1 Mark IIおよびE-M1Xと同等の解像度、画像処理となったことも大きな進化だ。つまりこれら三機種のどのカメラで撮影したとしても、基本的には同じ解像度、同じ画質の仕上がりを得られるようになったということになる。
これは二台以上のカメラを同時に使用して撮影を行うようなシーンにおいては、撮影後のRAW現像においても同じパラメータでの現像処理で済む可能性が高くなることから作業効率の改善に繋がる。
そもそも他のカメラメーカーのデジタルカメラでは、カメラのクラスが変わるとフルサイズとAPS-Cサイズといったように、センサーサイズが異なってしまうことが多い。これらを混在して使用すると同じ焦点距離のレンズを使用しても写る範囲に違いが出てしまう為、これを補うための気遣いが必要となる。
その点ではオリンパスのカメラのようにどのカメラを選んでも同じセンサーサイズであるということは、実際の運用においてとても分かりやすく余計な気遣いも不必要になるというメリットがある。
E-M5 MarkIIIではイメージセンサーの解像度が大きくなったことで、手ぶれ補正機構を利用して高解像度画像を生成するハイレゾショット機能も、E-M5 MarkIIのJPEG記録で約4000万画素相当(RAW記録では約6400万画素相当)から刷新され、JPEG記録で約5000万画素相当、RAW記録では約8000万画素相当の画像の生成が可能となった。
この機能を使用すれば、被写体が静止している場合のみという条件があるものの、超高解像度フルサイズ機にも引けを取らない精彩な画像を得ることができる。ただしE-M1Xに搭載されている手持ちハイレゾショットの搭載は見送られている。
AFシステム
次に大きな進化として挙げられるのはAFシステムの刷新だろう。E-M5 MarkIIではコントラストAFのみで81点しかなかったAFポイントだが、E-M5 MarkIIIでは像面位相差AFとコントラストAFの両方式に対応した121点のクロスセンサーAFポイントが搭載された。これによって像面位相差AF+コントラストAFのハイスピードイメージャAFが可能となり、より速くより正確なAFを実現している。
また露光中の測距も可能としたことで連写撮影における動体追従精度も上がったという。またAFポイントの選択もシングルの1点、全面自動の121点に加え、グループターゲット(5点、9点、25点)も選択可能になった。さらにC-AFモードでは中央優先および中央スタートからの追従AFを行うこともできるようになっている。
これらのAFシステムはE-M1 MarkIIに搭載されているものと同等ということだ。これもクラスを超えた進化の一つと言えるだろう。
なお、最近のトレンドとなっている瞳検出AFだが、オリンパスのデジタル一眼ではかなり早い時期から顔認識AFと共に搭載されているのになぜかあまり注目されずにいる。もちろんE-M5 MarkIIIでも顔認識AF/瞳検出AFの利用が可能だ。
手ぶれ補正
E-M5 MarkIIIに搭載された手ぶれ補正機構は、E-M5 MarkIIに搭載されているそれをさらに上回る強力なものとなった。いずれのモデルでも角度ぶれ補正(ヨー、ピッチ)、シフトぶれ補正(上下、左右)、回転ぶれ補正に対応したボディ内5軸手ぶれ補正が可能ではあるが、E-M5 MarkIIIでは小型なボディサイズに最適化した新開発の5軸手ぶれ補正ユニットを採用することで、シャッタースピードにして最大約5.5段分の効果を実現した。
また「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」のようにレンズ内に手ぶれ補正ユニットを内蔵した対応レンズとの組み合わせでは、より強力な5軸シンクロ手ぶれ補正として最大6.5段分の補正効果となる。これらはいずれもE-M1 MarkIIと同等の効果となっている。
シャッター性能
カメラがミラーレス一眼になったことがきっかけで一般的になってきたシャッターの機構に、電子シャッターというものがあげられる。それまで一眼レフカメラでのシャッターはフォーカルプレーンタイプのメカニカルシャッターが主流であったのだが、ミラーレス一眼が登場したことでライブビュー撮影に対応しやすい電子シャッターが普及してきたのだ。
物理的なシャッター幕を高速で動かすメカニカルシャッターにくらべ、電子シャッターは電気的な処理により直接、撮像センサーに届いた光を必要な時間だけ取り込むことができるので、構造上より高速なシャター速度を実現することができる。
たとえば、このE-M5 MarkIIIに搭載されたメカニカルシャッターの最速値は1/8000秒と、現在販売されている一眼カメラのなかでは最速な部類に入る。しかし、これ以上の速いシャッター速度をメカニカルシャッターで実現するのは容易なことではない。
一方、電子シャッターはメカ的に駆動する部材を必要とせず、電気的に露光量をカットするため、E-M5 MarkIIIでは最高1/32000秒という超高速なシャッター速度を実現している(E-M5 MarkIIは最高1/16000秒)。
デジタルカメラならではの先進機能が満載
日進月歩の進化が激しいデジタルカメラの世界では、ここ数年でさまざまな先進的な機能が次々と生まれ続けている。E-M5 MarkII発売からの約5年間のあいだに生まれた新しい機能も、E-M5 MarkIIIには多く搭載されている。
今回新たに搭載されたフリッカーレス撮影およびフリッカースキャン機能もそのひとつだ。これは撮影環境において室内の蛍光灯照明やLED照明の明滅周期とシャッター速度の関係で、撮影画像に露出ムラや色ムラが出る現象を、シャッターのタイミングを制御することで抑制または低減する機能だ。メカニカルシャッターではフリッカーレス撮影が、電子シャッターおよびムービー撮影時はフリッカースキャン機能により、フリッカーによる影響を抑えることができる。
またプロキャプチャーモードは、シャッターボタンを押したタイミングから遡って画像を記録できる画期的な機能だ。これまで鳥や蝶などが飛び立つ瞬間の撮影など熟練が必要であった撮影でも、このプロキャプチャーモードの機能を使うことでより簡単で確実に行うことができる。
その他、被写体のピント位置をずらしながら複数回撮影を行い、その画像をカメラ内で合成することで被写界深度を擬似的に深める深度合成モードや、夜景撮影において星や飛行機のライトなど、暗い中で移動する輝点を比較明合成によって輝線として表現することができるライブコンポジットなど、デジタル撮影ならではの楽しみ方ができる機能も満載されている。(E-M5 MarkIIのファームウェアアップデートで追加搭載された機能も継承された)
E-M5 MarkIII作例
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/640 絞り優先モード +0.7EV WBオートVIVID
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/800 絞り優先モード +0.3EV WBオートVIVID
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/250 絞り優先モード +0.3EV WBオートVIVID
■使用機材:E-M5 MarkIII,M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO200 F2.8 1/1000 絞り優先モード +0.3EV WBオートVIVID
■撮影環境:ISO200 F2.8 1/500 絞り優先モード -0.3EV WBオートVIVID
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/400 絞り優先モード +0.7EV WB晴天 Natural
■使用機材:E-M5 MarkIII,M.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6 II
■撮影環境:ISO200 F5.6 1/800 絞り優先モード -0.3EV WBオート Natural
■撮影環境:ISO4000 F4.0 1/500 絞り優先モード +0.7EV WBオート Natural
■撮影環境:ISO64 F16 1/13 絞り優先モード +0.7EV WB晴天 Natural 手持ちでのスローシャッター撮影
■撮影環境:ISO400 F2.8 1.3秒 絞り優先モード +0.3EV WB蛍光灯 Natural 手持ちでのスローシャッター撮影
■使用機材:E-M5 MarkIII,M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:ISO1600 F2.8 60秒x12コマ マニュアル +0.7EV WB4200K i-Finish ライブコンポジット
※RAWデータよりパラメーター調整のうえJPEG現像
E-M5 MarkIIIはE-M1 MarkIIの夢を見たのか
このように新たに追加された機能やグレードアップされた基本性能などによって、E-M5 MarkIIIは最新のミラーレス一眼として生まれ変わった。現在のOM-Dのラインナップのなかではエントリー機のE-M10 MarkIIIとE-M1 MarkIIの間に位置するE-M5 MarkIIIではあるが、その機能のほとんどは上位機のE-M1 MarkIIと同等といっても良いだろう。
これら二機種の違いは本格的なプロ仕様であるE-M1 MarkIIと、伝統的でスタイリッシュな小型ボディのままで最新のデジタル一眼として性能を向上させたE-M5 MarkIIIという方向性の違いである。金属外装だったE-M5 MarkIIから外装を樹脂製に変更したことによりE-M5 MarkIIIの方が55gほど軽くなっている点も機動性を重視した結果だろう。
ただ、方向性の違いを明確にしたことによりE-M5 MarkIIIは前機種のE-M5 MarkIIとは若干趣が変わってしまったことも事実である。金属外装による高級感を前面に出していたE-M5 MarkIIにくらべ、樹脂製外装となったE-M5 MarkIIIの質感は高級感に乏しくなり、またミドルクラス下位モデルとして割り切るためか、外部ストロボ用シンクロターミナルの廃止や縦位置レリーズボタンを装備したバッテリーグリップの廃止などが行われた。その結果ユーザーによる活用の選択肢を狭めてしまっている。
せっかくイメージセンサーが約2037万画素となったことで現行E-M1系モデルと解像度が揃ったにも関わらず、これら二機種を併用する際の使い方に差異が生まれてしまったことは非常に残念だ。(オプションとして外付けグリップ ECG-5が用意されているが、縦位置シャッターボタンはなく、充電池BLS-50をセカンドバッテリーとして装填することもできない)
とはいえオリンパスのことなのでE-M5 MarkIIのときのように、今後のファームウエアのバージョンアップにより驚くような機能追加がなされるかもしれない。また、かつてE-M5 MarkIIの限定モデルとしてチタンカラーモデルを登場させたように、E-M5 MarkIIIでもチタン風金属外装限定モデルが登場したりするかもしれない。そんな期待さえ抱かせてしまう魅力を、この新しいOM-Dコンセプトモデルから感じ取ることができるのだ。