オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO レビュー|木村琢磨
はじめに
フィッシュアイレンズと聞くと「特殊レンズ」というイメージが強いのではないでしょうか?「歪む」というフィッシュアイレンズ特有のレンズ効果が、強烈なインパクトを植え付けているのかもしれません。が、思い切ってフィッシュアイレンズだけ持ち出して世界を覗いてみると、そこには通常のレンズでは味わえない景色や視点を見つけることができるはず。
OMデジタルソリューションズのM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROは、防塵防滴に加えてF1.8という驚異的な明るさを有しています。また、OM-Dシリーズにはフィッシュアイレンズの歪曲を補正して超広角レンズとして使う「Fisheye補正」モードも搭載されており、新時代のフィッシュアイレンズと言っても過言ではありません。
フィッシュアイレンズの魅力
フィッシュアイレンズの魅力といえば全てを包み込むような広い画角と独特な歪み。結果的にこのフィッシュアイのレンズ効果によって苦手意識を持っている人も多いかもしれないが、この独特なレンズ効果が創作意欲を掻き立ててくれる。
まずはその画角。とにかく広いので適当に撮影していると自分自身が写り込んでしまう… なんてこともよくあるので、撮影するときには自分が写り込んでいないかチェックしながらシャッターを切ってみよう。特殊なレンズということは、普通に撮影していてはレンズに負けてしまうのでこちらも特殊な撮り方や視点を持って挑みたい。
意識してほしいことの一つがアングルだ。アイレベルでの撮影でもフィッシュアイレンズの効果は発揮されるが、超ローアングルや超ハイアングルなど極端なアングルで構えてみるとより効果的だ。 ただし、極端なアングルを狙うときは自分が写り込んでしまう可能性も大きくなるため、OM-Dシリーズに搭載されているWi-Fiリモート機能を使って遠隔撮影するといいだろう。
また、小技として「バリアングルモニターを三脚代わりに使う」ことで、超ローアングルからの撮影も容易に行うことができるのでぜひ試してみて欲しい。
個人的な話になるが、フィッシュアイレンズを使うときは縦位置に構えて撮影することが多い。木を写すことが好きで被写体にすることが多いが、根本から天辺までダイナミックに写し撮りたいと思いカメラを構えるので縦位置構図が多くなるのだが、フィッシュアイレンズの効果もより強調されるため無意識に縦位置で景色を見ている。
そしてフィッシュアイレンズの最大の魅力といえばその「歪み」だろう。 カメラを上に下に向けると大きく景色が歪んで写る、そのレンズ効果を体験するときっとフィッシュアイレンズを好きになるはずだ。
カメラを下に向けて写すと上部がアーチ状に大きく歪む。フィッシュアイレンズのレンズ効果を使って水平線を曲げて写すと丸い地球の感じが表現できる。そしてOM-DシリーズのE-M1XとE-M1 Mark IIIには、ライブNDというデジタル処理でND効果を得る機能が搭載されているので、物理的にフィルターがつけられないフィッシュアイレンズでも日中のスローシャッターを切ることができる。ライブND機能のおかげでフィッシュアイのレンズ効果を生かしつつ波を抽象化した表現が可能となった。
またマイクロフォーサーズのセンサーと、8mmという焦点距離が生み出す深い被写界深度によるパンフォーカスは、マクロ域~遠景までピントを合わせて写すこともできる。F5.6まで絞ると全域ピントが合うので、ピント固定でシャッターチャンス優先の撮影もいいだろう。
フィッシュアイレンズでの撮影はいかに面白い視点を見つけられるかがポイントとなる。せっかくなら一枚撮影した後に大胆にアングルを変えて撮影してみて欲しい。そうすることでフィッシュアイの効果が生きてくるシチュエーションに自ずと出会えるはずだ。
F1.8の驚異的な明るさ
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROは、フィッシュアイレンズとしては珍しいF1.8という驚異的な明るさを持っている。そのため夜景や星景写真でも活躍してくれる。
F1.8の明るさのおかげでISO400でも天の川を撮影することができた。シャッタースピードを20秒に抑えることで天の川が流れることなく写っている。本来であれば赤道儀を使用して撮影するシーンだが、F1.8の明るさのおかげで星が流れてしまう前に撮影が完了する。画角も広いため天の川を広く捉えることもできる。
また、F1.8の明るさとOM-Dシリーズに搭載された強力な手ぶれ補正、そして手ぶれが起きにくい8mmという焦点距離の組み合わせにより、手持ちでも星景写真を撮影することができる。
もともと焦点距離が小さな広角レンズは手ブレが発生しにくいこともあるが、手持ちで6秒や10秒が実現できているのはOM-Dの強力な手ぶれ補正のおかげで、まさにレンズとボディー相乗効果によるものだ。
手ぶれ補正が効くからといい加減な持ち方では手ぶれを起こしてしまう。特に秒単位のスローシャッターとなるとカメラの持ち方や構え方が大きく影響する。
10秒単位のスローシャッター時の撮影のコツとしては、ネックストラップを使うこととカメラがぶれないように体に密着させること、そして体のブレを抑えるために何かにもたれかかるかしゃがんで重心を低くすることだ。私の場合はネックストラップをテンションがかかるようにピンと張り、カメラを膝に固定してバリアングルを見ながら構図などを調整することが多い。チルトモニターだとモニターが干渉して構えるのが難しいが、外にモニターが開くバリアングルモニター搭載の機種であればこのような構え方ができる。三脚がないけど星を撮りたい時などにぜひ試してみて欲しい。
F1.8の明るさは暗所撮影でのメリットだけでなく被写界深度の浅い表現も可能になるということ。前ボケや後ボケを活かした作品撮りも可能となるので、パンフォーカスだけでなくボケを活かした構図やアングルなども模索してみて欲しい。最短撮影距離も短くマクロ撮影的なアプローチも可能で、その場合は開放で撮影すると後ボケが実に綺麗だ。また、遠くにピントを合わせたシーンでは前ボケを狙うことも可能だ。前ボケを作ることで奥行き感も演出できる。大胆なアプローチほどこのレンズは活きてくる。
フィッシュアイレンズを超広角レンズとして使う
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROとOM-Dを組み合わせることで「Fisheye補正」を使うことができる。 この機能を使うことでフィッシュアイレンズの歪曲を補正して、歪みのない超広角レンズとして使うことが可能となる。
この補正、驚くほど歪曲が取り除かれるので超広角レンズとしても十分に使えるクオリティだ。デジタル補正なので周辺の画質は多少劣化するが、元の解像度が高いため劣化も最小限だ。PROレンズに7-14mmがラインナップされているが、このFisheye補正を使うと換算11mm、14mm、18mmと切り替えながら使うことができる。
そしてカメラ内ではなく純正RAW現像ソフトOlympus WorkspaceでFisheye補正を行うことで、最大換算焦点距離9mm(アスペクト比16:9)まで拡張することができる。さらに、ハイレゾショットで撮影したRAWもFisheye補正が可能なので、ここぞという一枚はハイレゾショットで撮影してOlympus WorkspaceでFisheye補正をするのがベストだ。
7-14mmを既に所有している人でもう少し広い画角が欲しい…という人にはちょうどいい選択肢になるはずだ。この画角があれば風景だけでなく、屋内での撮影も容易に撮影できるため建築写真などを撮影する人にもオススメしたい。
まとめ
いかがだったでしょうか。フィッシュアイレンズのイメージが少し変わったのではないかなと思います。OM-Dシリーズとの相性が素晴らしく、良いボディを生かすのは良いレンズがあってこそ。逆もまた然りです。他にはないスペックのフィッシュアイレンズなので、マイクロフォーサーズユーザーの方にはぜひ一度使っていただきたい一本です。星を撮る人、風景を撮る人…どんなジャンルを撮影する人にもきっと良い刺激を与えてくれるレンズだと思います。このレンズに限らずですが、なかなか出番がないレンズがきっと手元にあると思います。そんな時はそのレンズだけ持って撮影に出かけてみるのはいかがでしょうか。きっとそのレンズが今までとは違う景色を見せてくれるはずです。
このM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROも同じく、常用レンズとしては扱いが難しいかもしれませんが、この一本だけ持ち出して撮影に出かけることで今までと違った視点を持つようになります。またその経験値が次の撮影に必ず活きてきますので、一度フィッシュアイレンズの世界を覗いてみてはいかがでしょうか。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。