山で出会った秋の花々|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
山で出会った秋の花々|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

今回は秋に咲く山の花々をご紹介します。山の花は春から秋まで楽しめますが、平地よりも花の季節は短め。それでも季節ごとの花が次々と咲き、同じ場所であっても時期を少し変えるだけで違った花に出会え、いつ歩いても新鮮な気持ちで楽しむことができます。花がメインの登山では、どこにどんな花が咲いているのか探しながら歩くので、まるで宝探しのような気分ですよ。園芸種のような派手さがないため、背景に彩りを入れるのは難しいですが、緑一色では平凡なので、空が背景になるようなアングルを選んだり、草の輝きをぼかしたりと工夫してみましょう。珍しい花に出会ったからといって、ただ撮るだけにならないよう、ボケや光の選択など、写真的な工夫をしましょう。

シャープな印象で秋を表現

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F8.0・ISO200・1/160秒

房状に小さい花を咲かせるアキノキリンソウ。日本では北海道から九州に広く分布し、8月から11月にかけて開花します。日当たりの良い場所を好むという通り、登山道の開けた草地に群生していました。この日は天候に恵まれ、秋の澄んだ青空が美しかったので、空の色が濃く出るように順光を選びました。被写体に対して正面から光が当たるので、花も山もくっきりと写ります。右下にアキノキリンソウ、左下にススキ、中央の上部には山とバランスよく被写体を配置しました。風景的な撮り方をしているので、広角を選びつつ、絞りをF8にしました。光と被写界深度、双方の選択で、全体的にシャープな印象に仕上がっていますね。

花の色が映えるポジションをとる

■撮影機材:OMシステム E-M5 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・75mm・F2.8・ISO200・1/320秒

日当たりの良い場所を好むアザミ。湖畔の斜面にはいくつもの花が咲いていました。花色は赤紫でとても目立ちます。アザミは種類によって春に咲くものもあれば、夏から秋にかけて咲くものもあり、世界はもちろん、日本国内でも〇〇アザミという仲間が多数存在しています。頭状花序といって、たくさんの小さい花が集まってひとつの塊を成しているのですが、棒状の花が特徴的です。花はきれいでも、葉に鋭いトゲがあり、これが足に当たるととても痛いです。服の上からでも刺さるので、アザミの茂った登山道を歩く時は要注意。背景に見える青い部分は湖面の色で、空の色を反射して青く見えています。花の部分がこの湖面と重なるようなポジションをとり、より花の色が映えるように工夫しました。

真上から撮るときは背景重視で

■撮影機材:OMシステム E-M5 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先150mm・F2.8・ISO200・1/400秒

上から撮る方がいいのか、横からがいいのか、それは花の形によって変わります。フウロソウは真上を向いて花びらを広げるので、横から撮ると平たくなるため、上から見下ろすように撮ると花の形が綺麗に写ります。しかし、花を見下ろすと背景が地面になるので、茶色い土の色が入ると画面が重たく感じます。そのため、葉の緑で覆われた場所を選ぶといいですね。また、ピントを合わせた花と葉っぱとの距離が近くなるため、背景がボケにくくなります。なるべく望遠系のレンズで絞りを開け、花には近づいて、背景をぼかす工夫をしましょう。この望遠ズームは結構寄れるのですが、更なる寄りが欲しい時はマクロレンズに切り替えます。

逆光で周囲を明るく表現

■撮影機材:OMシステム OM-5 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F4.5・ISO200・1/800秒

ツリガネニンジンの名は、花が釣鐘のような形をしていて、根が朝鮮人参に似ていることから付けられました。花は7月から9月にかけて見られ、薄紫の小さなベルのような花が下向きに咲きます。登山道の両端にロープが張られていたので花には近づけなかったのですが、望遠ズームの望遠端150mm(35mm判換算300mm相当)で迫りました。距離があったため、アップでは撮れませんでしたが、草地の中で二輪がちょこんと咲いている様子が感じられて愛らしいです。逆光で撮影したので周囲の草が光を透過して明るく見えています。プラス1EV補正をかけ、色が濁らないようにしました。

大幅なプラス補正で花色を鮮やかに

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/125秒

湿原でリンドウを狙いました。霧が立ち込めた林を背景に入れたかったので、低い位置にカメラを構えて、広目の画角で、見上げるように撮りました。背面の液晶モニターが可動式なので、ローアングル撮影がしやすいのはありがたいです。霧が出ている時は画面全体が白っぽい色で覆われるので、カメラは暗めの露出になってしまいます。そこで、大幅なプラス補正をかけて明るく写しましょう。ここではプラス1.7EVの補正をかけて適正露出になりました。このような天候のシーンでは色が濁りやすいので、見た目よりも少し明るめぐらいの露出を選ぶといい雰囲気で仕上げることができます。彩度もやや鮮やかにすると花色が冴えて綺麗です。

前ボケで更なる華やかさをプラス

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・125mm・F2.8・ISO200・1/500秒

私にとってヤナギランは山の花の女王のような存在です。一輪の花は小さいですが、房状に咲くのでボリュームがありますし、濃いピンクの花はとても目を惹きます。また、草丈が高く、群生するので、とても華やかなのです。そんなヤナギランを囲むように黄色い花を前ボケで入れました。両者が近くに咲いている場所を探すのに苦労した思い出がありますが、おかげで彩り豊かな画面になりました。花がランに似ていて、葉が柳のように枝垂れていることからヤナギランと呼ばれますが、アカバナ科ヤナギラン属でランの仲間ではありません。北海道から本州の山地の草地に分布し、開花期は7月から9月。一部の地域では絶滅が危惧され、貴重な存在となっています。

澄んだ秋の空を背景に

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/640秒

ワレモコウは日当たりの良い山野で見られます。枝分かれした茎の先端に赤茶色の穂をつけ、一見すると硬そうで実のようにも見えますね。開花期は夏の終わりから秋にかけて。花としては色合いが地味で、華やかとは言えないので、写真にするのはなかなか難しいかもしれません。一輪をアップにするのではなく、数輪を一つの塊として捉えるといいでしょう。登山道から斜面を見上げるように撮影しています。そのため、見上げるようなアングルになっています。すると背景が空になるので、順光を選ぶことで、澄んだ秋の空と重ねることがきでました。派手さはありませんが、揺れる秋草とともに素朴な雰囲気が醸し出されました。

花数が少ないときは画面をボケで埋めつくす

■撮影機材:OMシステム OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・100mm・F2.8・ISO200・1/400秒

ユウスゲの開花期は7月から9月。“夕菅”の名の通り、夕方に花を開き、翌日の午前中には閉じてしまう半日花。ニッコウキスゲよりも、より黄色に近いレモン色で、別名キスゲ(黄菅)とも呼ばれています。撮影したのは日も暮れかかった午後5時過ぎ。日中の鋭い日差しはすでになく、弱々しい斜光に照らされていました。木道から逆光で狙える花の向きのものを探しました。背景の草も逆光で照らされ、キラキラと輝いていたので丸ボケが生じています。残念ながら花数は少なかったのですが、前ボケと丸ボケを入れることで画面を埋めることができました。

まとめ

登山と写真はともに相性のよい趣味で、山を歩きながら出会った風景や花をカメラで撮る方はとても多いです。しかし、機材の重量がネックでもあります。スマホでも撮影はできますが、広角ならではの遠近感を引き出したり、望遠特有のボケを生かしたり、マクロレンズでクローズアップするなど、レンズが交換できる一眼カメラのメリットが大いにあります。軽量化を図るために小型・軽量のモデルを選んだり、高倍率ズームを使うのもいいでしょう。景色を眺めながらも、ふと足元に目を向けて、可憐に咲く花をじっくりと撮影してみてはいかがでしょう。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

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