華もみじ 花のように紅葉を撮る|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
普段は花のクローズアップをメインに撮影していますが、今回は花ではなくモミジの作品をご紹介したいと思います。主役が花ではなく葉だからといって撮り方に違いはなく、花撮影と同じテクニックがさまざまに散りばめられています。
今回であれば背景ボケ、前ボケ、丸ボケ、シルエット、逆光、広角接写といった花の撮影によく使われるワードも出てきます。光の選び方、背景の選び方、レンズの選び方など、普段の花撮影のときと変わりありません。しかし、モミジは葉の形が綺麗に見える正面から撮ることを意識し、また、葉の重なりが多いと煩雑に感じるので枝先の葉を主役にすることが多いです。背景に入ってくる色といえば紅葉の赤い色なので、それを積極的に入れるようにしています。花を撮る感覚でモミジを撮影してみましょう。
明暗差を生かす
夕暮れの木漏れ日を背景にしてモミジを撮りました。背景の輝きがとても眩しく、一方、モミジには陽が当たっていないので、主役と背景とに明暗差が生じました。露出を背景に合わせることでモミジのシルエットが出来上がりました。形がはっきりとした被写体はシルエットにも向いています。
シルエットを作るには暗めの露出を選ぶだけではできません。このシーンのように、主役と背景に明暗差があることが重要です。肉眼では葉が真っ黒く、シルエットになって見えませんので、どれくらいの明暗差があるとシルエットになるのかは感覚が養われるまで、実際にさまざまなシーンで写してみましょう。
広角で存在感を出す
地面に落ちた葉が逆光で輝き、色鮮やかに写し出されました。葉の形が綺麗に見えるよう、正面向きになっている葉を選びました。ちょうど下に草があったので、縦に刺さっている状態でした。そんな地面の落ち葉に迫るには、ローアングルで撮る必要があります。背面の液晶モニターが可動式のカメラなら低いアングルの撮影も容易にできるので便利ですよ。
レンズは標準ズームのワイド端である12mmで撮影しました。広角でも主役に迫っているので存在感を出すことができます。それでいて背景の写る範囲が広いので、周囲の雰囲気を伝えることができます。これが望遠との違いですね。望遠のような大きなボケは得られませんが、程よいボケと遠近感が得られます。
枝先の葉を主役に
モミジをクローズアップするときは枝先の葉を主役にしましょう。先端部分は葉の重なりが少ないので、主役が目立ちやすくなります。また、葉の面とカメラの面を平行にすると葉の形が綺麗に見えます。この枝先が面白かったのは赤く色づいた葉とまだ緑の葉が混在していたところです。季節の移り変わりを感じますね。
背景は紅葉したモミジをぼかしています。木漏れ日のボケがキラキラした明るい雰囲気を醸し出しています。全体の面積の割合を見ると、主役と背景と半分ずつほどです。これは背景が綺麗なので広い面積で見せたかったことと、主役より上の葉の重なった部分は入れたくなかったことと、葉を小さく配置して可憐に見せたかったという3つの理由があります。
PLフィルターを効かせる
福島県の裏磐梯にあるホテルの前の小さな池で撮りました。色々な種類の落ち葉が浮かんでいて、色も形もさまざま。それでいてうまく調和して、着物の柄のようにも見えました。水の表面は白く反射した部分もあったのですが、暗い水面に白い部分があると目立ってしまうので、そこはPLフィルターを効かせて反射を取り除きました。
スイレンのような水生植物を撮るときにもPLフィルターが活躍すると解説しましたが、それと同じ使い方です。水面と濡れた葉の表面のテカリも取り除けるので画面が締まります。童謡の「紅葉」の歌詞に「水の上にも織る錦」とありますが、まさに水の上に錦、つまり美しい織物が広がっているという情景でした。
大きな前ボケを作る
ほとんどボケているように見えますが、画面の中央にシャープな葉が見えます。ピントはこの中央に合わせて、ボケている部分は前ボケです。下から木を見上げて撮影しているのですが、いちばん高いところにある葉にピントを合わせ、下の方の葉はぼかしたというシーンです。ちょうどトンネル状に空いた手前側の葉の間から奥の葉を狙うという感じです。
大きなボケを得たいので、レンズは望遠を選択します。手前の葉と奥の葉の距離が離れていないと大きなボケにならないので、ぼかす葉とピントを合わせる葉の距離も大切です。真っ赤に染まる前の色が変わっていく途中の木だったので、緑、オレンジ、黄、赤と色も豊かに仕上がりました。
意図的にピントを外す
これはピントが合っていませんが、むしろ、意図してピントを外しています。すると、画面全体が曖昧になって、夢の中のような、幻を見ているような、現実感のない画面になります。少しぼかしたぐらいではただのピンボケと間違えられてしまいそうなので、明らかにぼかしている、けれども、被写体の雰囲気は伝わるというぐらいのボケが欲しいですね。
形がはっきりしているモミジだからできる手法で、どんな被写体でも合うわけではありません。作品として成立させるには難しいですが、トライしてみてはいかがでしょうか。障子に写った葉陰のようで、部屋に飾って、ぼんやりとした雰囲気を味わうのもいいかもしれませんね。
ライトアップを活用する
背景の丸いボケは夕陽のように見えますが、これはライトアップされた紅葉を撮りに行った時にあった灯りのボケです。ライトアップ用のライトは光量が強すぎるのですが、これは足元をぼんやりと照らすような弱い灯りなので、ほんのりとしたオレンジ色になりました。その光のボケと重ねるようにモミジを配置してクローズアップしました。
ライトは明るく、夜のモミジは当然暗いので、明暗差によってシルエットになります。モミジの大きさとボケの大きさを調整して、円の中にすっぽりと収まるようにしました。ボケ量をコントロールするのは焦点距離や撮影距離で行います。絞りでコントロールすると、絞り込んだ時にボケが角張るので注意してください。
露光間ズーミングのテクニック
イルミネーションの撮影で光が飛び出したような写真を見たことはありますか。露光間ズーミングというテクニックで、シャッターを開けている間にレンズのズーム操作を行うものです。広角から望遠、望遠から広角と画角が変化することで被写体の大きさが小から大、大から小へと変わる、その軌跡が写されるのですが、ここでは隙間の曇り空の部分の軌跡が白い線となりました。
あらかじめ、主役の葉が画面の中心に来るようにフレーミングします。この写真は広角で露光をスタートし、3.2秒の露光中に望遠にズームすると出来上がりました。ズーム操作ができる程度のシャッター速度が必要なので、シャッター速度が遅くなりがちな暗いところで撮るかNDフィルターを使用しましょう。三脚に据えて行うといいですね。
さいごに
花を撮る感覚でモミジを撮るというイメージはおわかりいただけましたでしょうか。被写体が花からモミジに変わっても、撮り方に違いはなかったかと思います。ただ色づいた葉を撮るのではなく、主役が魅力的に見えるような背景作り、画面の整理、色の組み合わせ。そして、ワンランクアップするためのテクニックを取り入れてみてください。紅葉前線も山から平地にやってきました。皆さんの住む街でも紅葉が楽しめるいま、身近な花を撮るように、モミジを気軽に、楽しく、それでいて美しく撮影してみてはいかがでしょうか。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。