秋色に装うバラを撮ろう!|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
バラの開花期は主に春と秋。“春バラ”“秋バラ”などと季節の違いで呼び方を分けています。咲き方も春と秋では異なり、春バラは暖かい中で咲くので一気に咲き揃い、秋バラは気温が下がっていく中で咲くため、長い期間花を楽しむことができます。春は咲くけど、秋には咲かせない品種もあり、同じバラ園に行っても、春に比べると、ちょっと花数は乏しく感じます。しかし、花の少ない時期にもかかわらず、こんなに美しい花が楽しめるなんて、とても嬉しいものです。せっかく秋バラを撮るのですから、今回は秋の空や秋の光、色づいた木々など、作品に秋を感じさせてみましょう。
優しい光に包まれて
全体的にふんわりとしていますが、これは前ボケがかかっているためです。複数のミニバラの隙間を抜くように、奥に咲いた一輪にピントを合わせています。ピントはオートフォーカスでも合いましたが、花を覆うように前ボケがかかっているので、ピントがうまく合わない場合はマニュアルフォーカスに切り替えましょう。また、主役のバラにも前ボケのバラにも強い光が当たると、白く反射した状態でボケるので、写真のようなやわらかさが出ませんでした。花に直接光が射さない頃合いを見て、何度か時間を変えて撮りなおしています。光を選ぶことは写真を撮る上で、とても大切な作業ですね。
秋晴れの空
春バラの時期は初夏の空ですが、秋バラの時期は空が澄んで、雲にも秋らしさを感じます。そのような空を入れることで季節を感じさせるのもいいでしょう。青空を背景に入れるときは、順光がおすすめ。実際に空を見上げると、順光側は色が濃く、逆光側は色が薄く見えるので確認してみてください。太陽を背に向けた順光で撮ることで、青色が濃く鮮やかに写し出されます。雲と青空のコントラストが欲しいときはPLフィルターを使用することでメリハリを出すことができます。また、花に迫りつつも、広角レンズや標準ズームでも広角側を選び、空の広がりを感じさせましょう。
秋色に染まる
秋バラが咲く時期は木々の葉が色づき始める頃と重なります。背景に見える黄色は色づいた木々の葉の色。これも秋ならではですね。春は青々としていた木々も秋バラの頃にはほんのりと色づいてくるので、これを背景に入れれば秋の雰囲気が漂います。黄色一色だと変化がないので、所々にピンクのバラをぼかして入れました。背景を活かしたいので、花を画面いっぱいに写すのではなく空間を作っていますが、この花は右下を向いて咲いているので、右下に空間を作り、画面に流れを作りました。どんな背景を入れるのかによって、作品の印象が大きく変わります。
雨降りの後に
秋晴れが続くこともあれば、秋雨続きのときもあります。撮影に出かける日がたまたま雨ということもあるでしょう。しかし、バラについた水滴を撮るチャンスと思えば、雨の撮影も苦にはなりませんよ。花全体を画面に収めるような迫り方では水滴が目立ちにくいので、このように花の中心部をクローズアップして、水滴の存在感を出しましょう。もっとクローズアップして、水滴を主役にするような撮り方もいいですね。傘やレインウエアといった自身の雨対策はもちろん、機材が防塵防滴でない場合は、機材が濡れないようにカバーなどを用意しましょう。
ひとやすみ
バラにはハチがよくやってきますが、ハチの他に、秋にはトンボがひと休みするシーンがよくみられます。昆虫の中でも、トンボは同じ場所でじっとしてくれるので撮りやすいです。しかも一度飛んでも、また同じところにとまるので、初心者の方でも落ち着いて撮れるはずです。バラが主役の構図とは違い、昆虫が主役になるのでバラは少し控えめな入れ方をしています。これはトンボを目立たせるためです。バラ全体を入れるのではなく、あくまでも主役のトンボを引き立てる舞台のような存在です。光選びは花写真と同様、逆光で撮ると、翅が輝いて綺麗ですよ。バラの葉は光が当たるとテカるので、その反射のボケが白く丸いボケを生み出しました。キラキラと輝いて、綺麗ですね。
Pink Wave
花びらの一部をクローズアップしました。花全体を撮るときは雰囲気を重視していますが、ここでは美しい形や色を意識しています。どんな花と説明する必要はないので、バラとわからなくてもOK。ただ、何も考えずにクローズアップするだけでは面白い写真にはなりません。形と色だけでも魅力を感じるような部分、例えば写真のような2枚の花びらの先端や花びらが重なったところや、中心の渦巻くような部分を探します。
これほどの高い倍率は通常のレンズでは得られないので、マクロレンズが一本あるといいですね。使い方は普通のレンズと同じで、オートフォーカスでのピント合わせもできます。しかし単焦点レンズは、体の寄り引きで被写体の大きさを変える必要があります。花全体ではなく、花の一部に視点を合わせて被写体を探してみましょう。
白い光
秋は空気が澄んでいる上、一日を通して太陽は傾いているため、強い光が斜めから射し込みやすい状況です。逆光でバラを撮ると、白くモヤったように写りました。これはフレアと言って、レンズ表面に直接強い光が差し込み、レンズ内で反射したために起こります。シャープネスがやや低下するので、普通はフードをつけたり、太陽から少し角度をつけるようにして抑えますが、映像では眩しさを感じさせる効果として使われたり、ソフトフィルターをかけたようにやわらかく写るので、あえてフレアを入れてみました。レンズによってフレアの出方も変わりますが、自然な雰囲気で撮ることができました。
光放つ花
バラには光が当たり、背景は日陰という状況。明暗差が強いので、陽の当たったバラに露出を合わせると、日陰の背景はとても暗く写ります。このときの露出補正はどれくらいだと思いますか。花が明るいからプラス補正か、背景が暗いからマイナス補正か。答えは補正なしで適正露出になりました。画面の面積を見ると明部と暗部がほぼ半々なので、補正なしで適正露出です。この黒い背景は目で見た時には暗くは見えますが、真っ黒くは見えていませんので、たくさん撮影しながら、どれくらいの明暗差があれば黒く写るのかという勘を養っていけるといいですね。前ボケのバラにも光が当たっているので、明るいボケが主役のバラを包み込みました。
おわりに
バラは近所の公園や庭先でも目にしますが、多くの品種を揃えたバラ園やガーデンを訪れると、その品種の多さに驚きます。見たこともない美しいバラに出会えるはずですよ。お気に入りのバラをただ写真に収めるだけではなく、被写体としての色や形、バラが持つ雰囲気の魅力にこだわって、写真作品として撮影してみてください。今回ご紹介した中でも、いろいろなバリエーションがありましたね。秋を感じさせつつ、バラのいろいろな魅力を引き出すことができれば、バラのことも、写真を撮ることも、もっともっと好きになるはずです。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員