超軽量×超望遠 M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS レビュー《野鳥編》
野鳥撮影とOM SYSTEM
AI被写体認識AF(鳥)や、ブラックアウトフリー高速連写など、野鳥撮影に便利な機能満載のOM-1が発売されたことに伴って、野鳥撮影におけるOM SYSTEMへの注目度も以前より増しているようだ。
OM SYSTEMのレンズの中で、野鳥撮影に必須と言える超望遠域をカバーするものは、M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO (テレコン併用)、M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISとある。そのうち、もっとも手頃な価格設定なのが、今回紹介するM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISだ。200-800mm相当もの広いレンジをカバーしながら、わずか1,120g(三脚座込みで1,325g)と軽量なこともあり、最初の選択肢になるだろう。
AF精度と速さ
レンズ全体が小型に仕上がっていることもあって、フォーカス駆動は早い。特にOM-1との組み合わせでは、AI被写体認識AF(鳥)を使えば、カメラが鳥の体、または瞳を見つけて追いかけてくれるので、画面内における鳥の位置が変化しても問題なく顔に合焦する。詳細は以前に掲載されたOM-1のレビュー記事『OM SYSTEM OM-1×菅原貴徳|野鳥撮影における実力を徹底レビュー!』を参照されたい。
OM-1と本レンズの組み合わせで、AI被写体認識AF(鳥)を使用して撮影したもの。それまで泳いでいたキンクロハジロが、おもむろに起き上がり、羽を広げた。従来のグループターゲットを使用した撮影では、手前にある翼に合焦しやすい場面だが、AI被写体認識AF(鳥)を使えば、カメラが鳥の「瞳」を見つけ、追いかけてくれるので安心だ。
魚を狙い、湖上を旋回していたミサゴ。特に問題ない精度・速度でピントが追従していた。OM-1に新設のSH連写(ブラックアウトフリー高速連写)では、最大25コマ/秒の速さで対応。こちらも多くの場面で必要十分だろう。
幅広い撮影レンジ
野鳥撮影では、ハクチョウ類や都市公園のカモ類・サギ類など、大型でかつ警戒心の弱い一部の対象を除けば、300mmや500mm相当の一般的にいう望遠レンズを使っても、思った大きさに捉えるのは難しい。いきおい800mm相当とか、1000mm相当を超えるレンジが日常的に必要となる。するとどうしても機材が大型化するのだが、鳥を探して歩き回る時にはどうしても邪魔になってしまう、という問題が起きる。
その点、マイクロフォーサーズ規格は、センサーサイズの関係で、レンズ表記の2倍相当の望遠効果が得られるので有利だ。フルサイズの半分の長さのレンズで、同等の望遠効果を得られるということでもある。
上の3枚は、最広角となる200mm相当から、ズームし切った800mm相当、そして2倍テレコンバーター MC-20を使用し、1600mm相当で撮影したもの。アオゲラが梢で鳴いているのを見つけ、撮影したものだ。200mm相当では鳥の存在には気づく程度、ズームして800mmでアオゲラとわかり、さらにテレコンを装着して1600mmでようやく表情までわかる写真になった。テレコンバーターは、地形的な制限や、このように木の高いところから降りてこないなど、近づき難い場合に役に立つ。
なお、テレコン使用時に注意したいのは、空気の揺らぎとブレだ。1000mmを超える超望遠が必要なシーンでは、鳥との距離が遠いことが多い。すると空気の揺らぎでシャープネスが損なわれがちなので、朝夕や曇りの日など、その影響が少ない時間に撮影するとよい。ブレに関しては、F値の低下と、望遠効果により被写体ブレ、カメラブレとも起きやすくなっているので注意。上記のアオゲラは比較のため三脚で固定して写しているが、OM-1に新設された「静音2秒セルフタイマー」を使用して、カメラブレを抑える工夫をした。
テレコンバーターは、鳥の生活を妨げないために使うべき時もある。特に初夏の時期は鳥たちの繁殖する季節で、子育ての放棄など、残念なことに撮影行為が原因となるトラブルも多い時期。テレコンバーターの使用頻度も上げて、いつもより距離を置いて撮る工夫もしたい。また、一箇所で長時間の撮影はせず、少し撮らせてもらったら次の鳥を探す、というようにして、一個体(一つがい)に負担をかけすぎないことを意識することが必要だ。身軽に動こう。
都会の公園で出会ったユリカモメの凛々しい表情を800mm相当で切り取った。画角が狭いので、少しの立ち位置・カメラ位置で背景の色合いが変わる。この場合は、鮮やかなピンクを背景に配した。斜光で明暗の大きい状況だが、各部の表現やシャープネスは良好に感じる。輪郭にも色の滲みは感じない。
ズームを引き、200mm相当で写したカット。背景のピンクの正体がわかるだろう。ユリカモメは、冬の間は頭が白いが、春、まさに桜が咲く頃に、頭が黒くなる鳥だ。野鳥撮影では、基本的にズームを最大にした状態で使う機会が大半だと思うが、運良く近づけた時には、このようにズームを引いてやると、生息環境の情報がわかる写真になる。
防塵・防滴設計
本レンズはPROレンズではないが、各所に密閉シーリングが施してあり、対応するOM-1やOM-Dシリーズと組み合わせた際にIPX1、M.ZUIKO PROシリーズのレンズと同等の防塵・防滴性能を備える。フィールドで使う道具として、万が一の雨で濡れても平気というのが心強いのはもちろん、表現の一つとして雨粒を取り入れる選択肢をも与えてくれるのは大きい。
写真のモズは、雨の日に訪れた都市公園で出会ったもの。普段より人が少ないのもあって、園路のすぐ脇で落ち着いて止まっていたようだった。なお、手ブレ補正は「レンズ優先」が推奨されているので、それに従った。3段分の補正効果がある。この写真では、手ブレ補正効果にはまだ余裕があるが、雨粒の写り方を鑑みて、シャッタースピードを決めている。
OM-1は高感度の画質が向上しているので、本レンズが活躍できる時間帯・気象条件も広くなったといえる。写真はモズと同じく、雨の降る日に撮影したアオジ。林床に届く光は乏しい状況。手ブレに関しては、レンズ内蔵手ブレ補正を頼ってシャッタースピード1/100程度まで下げても問題ないが、小刻みに動くアオジの被写体ブレを防ぐためには1/400程度のシャッター速度を確保したい状況だったため、感度を3200まで上げて撮影した。
望遠マクロも楽しめる
野鳥撮影における本レンズの活用を紹介してきたが、個人的にはこのレンズはもう少し広い役割を担えると思う。野鳥観察のみならず、自然観察全般の楽しみを広げるレンズとしての役割だ。このレンズを持って野山を歩くと強く実感するのだが、まずフィールドをいく足取りが軽い。そして、上空から足元まで、自然と被写体を探すようになるのだ。というのも、本レンズの最短撮影距離は1.3mで、撮影倍率は0.57倍相当(35mm判換算)。そのため、ふと見つけた昆虫や野花などを、レンズの交換などすることなく望遠マクロ撮影が可能だ。細部を拡大してもシャープ、かつとても自然な描写。散策の視野を広げる、最適なレンズの一つだと思う。
最短撮影距離付近で撮影。小さなシジミチョウもこの大きさに写る。昆虫にうまく接近する技術を持たない筆者でも、超望遠マクロなら逃さずに撮影できる。
湿原にめぐらされた木道から、咲き具合の良い花を選んで引き寄せることもできる。
おわりに
野鳥撮影で最初のハードルは、鳥を見つけること。そして、鳥の行動に影響を与えないよう、そっと近づく術を身につけること。すなわち観察力を磨くことだ。いきなり重量級の機材を持つことで情報頼りになり、結果観察力が身につかない…という例をいくつも見てきた。本レンズのように軽量な機材を使い、探索時の体力的な負担を減らすことができれば、自分だけの被写体に会える機会も増えるし、それが作品のオリジナリティにもなる。鳥への負荷を考えても、大勢で長時間、同じ鳥を囲むよりも優しいアプローチとなり得るはずだ。そしてなにより、鳥を探してフィールドを歩くのはとても楽しい。ぜひ、みなさんのフィールドに持ち出して欲しい1本だ。
■写真家:菅原貴徳
1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、海洋学や鳥の生態を学んだ後、写真家に。野鳥への接し方を学ぶ講座を開くほか、鳥が暮らす景色を探して、国内外を旅するのがライフワーク。著書に最新刊『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)ほか、『SNAP!BIRDS!』(日本写真企画)などがある。日本自然科学写真協会会員。