オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO レビュー|旅に出たくなるレンズ
はじめに
一眼レフカメラ、ミラーレスカメラ問わずレンズ交換式カメラの魅力は撮影の状況に応じてレンズを交換し自分のイメージを写しとることだ。しかし、天候や撮影環境によってはレンズ交換が困難なこともありレンズ交換をしなくても様々なシーンに対応できる一本があれば・・・と誰もが一度は思うことだろう。そんな願いを叶えてくれるのがオリンパスのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROだ。今回はこのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとOM-Dを持ち出してみることにした。
スペック上の主な特長
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROは製品名からも分かる通り広範囲の焦点距離をカバーしてくれるレンズだ。マイクロフォーサーズ規格のレンズになるため35mm判換算で24mmから200mmをカバーするまさに「便利ズーム」だ。しかも質量は約561gとカバーしている焦点距離を考えると、とても軽いのが魅力だ。
更にレンズにIS(手ぶれ補正)が搭載されておりE-M1XやE-M1MarkIIIと組み合わせることで5軸シンクロ手ぶれ補正7.5段と驚異的な補正効果を得ることができる。オリンパスのレンズにはスタンダード、プレミアム、PROと3つのグレードがあり、このレンズはその中でも最もグレードの高いPROレンズにラインナップされている。PROレンズには防塵・防滴性能が備わっており、その信頼性はメーカートップクラスと言ってもいいだろう。AFも高速・高精度で静物から動体までオールマイティーに活躍してくれる。
便利なだけじゃない!高い「描写力」
「便利ズーム」と聞くとカバーする焦点距離は凄いけど、F値も暗くて描写も甘いんじゃないの?そう思う人も少なくないはず。しかしこのレンズの凄いところはF値は全域F4通しで明るく、そしてなんと言っても解像度が高いのが特徴だ。広角側12mmから望遠側100mmまで全域で描写性能が高く、まるで短焦点レンズの様なキレ味は撮影のモチベーションが自然と上がってくる。
富士山と茶畑を写したものだが画面の中央から周辺まできっちりと描写されており実に気持ちが良い。上の写真の一部分を拡大したのが下の写真になるがトリミングしても非常に精細な写りで高倍率ズームとは思えない描写だ。
OM-D E-M1Xが約2000万画素だが今後更に高画素化していっても十分に性能を発揮してくれるレンズであることは間違い無い。マイクロフォーサーズのレンズはF値開放から既に解像感がピークのものが多いがこのレンズも例外では無い。F4.0が開放F値となるが、開放から解像感は高い。より均一な描写を求める場合はF5.6がベストだろう。更に被写界深度を稼ぎたい時はF8.0が画質と被写界深度のバランスが最も良い。F11あたりから回折現象が発生し描写が甘くなってくる。ピントの合う幅が広い被写界深度か描写性能のどちらを優先するのかでF値を決めると良いだろう。マイクロフォーサーズはAPS-Cやフルサイズと比べて元々の被写界深度が深いためF8.0より絞るシーンはスローシャッターを狙う時くらいで実際に使用するシーンはほとんどないかもしれない。僕が最もよく使うF値はF5.6で、画質もレンズのピークであり標準域の焦点距離で遠景を撮影するのであれば被写界深度もパンフォーカスを狙える深さになる。私自身、元々絵を描く方面から写真に転身したためボケで表現するよりも画面の隅々まで描写するパンフォーカスでの表現が性に合っているのだ。そのためセンサーサイズが一回り小さいマイクロフォーサーズはパンフォーカスでの撮影が容易であり自分の表現したいモノ・コトと合っているのだ。
手持ちでスローシャッターを楽しめる「5軸シンクロ手ぶれ補正」
極端な暗所での撮影やスローシャッターを切る時は三脚を使うのが「あたりまえ」だと言われていましたが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとOM-Dの組み合わせはその「あたりまえ」を見直すきっかけを与えてくれました。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROは対応ボデイと組み合わせることで5軸シンクロ手ぶれ補正が有効となり最大7.5段の補正効果を得ることができます。簡単にいうと秒単位のスローシャッターでも手持ちで撮影できるということです。三脚を使用せずスローシャッターを切ることができるということはアングルの自由度が増すということになります。いいアングルを見つけたけど三脚だとセッティングが難しい、極端なローアングルなど今まで諦めなければいけなかったシーンを手ぶれ補正を使うことで実現することができます。
スローシャッターが活躍してくれる代表的なフィールドといえば滝や川など水の流れるロケーションだ。流れる水はシャッタースピードにより表情が変化する被写体であるためスローシャッターで撮影することでまるで絹の様な表情に変化する。スローシャッターといえばレリーズケーブルもしくはセルフタイマーと三脚を使って手ぶれしない様に撮影するのが定番だった。しかしM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとOM-Dの組み合わせはそんな「常識」を覆してしまった。
一般的に手持ち撮影で手ぶれしないで撮影できるシャッタースピードの目安は「シャッタースピード=1/焦点距離 秒」が目安となっているが、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとOM-Dの5軸シンクロ手ぶれ補正を使うことで7.5段分の補正が効くためより遅いスローシャッターを手持ちで撮影することができるのだ。例えば35mm換算で50mmのレンズを使用した場合、手ブレしない手持ち撮影の目安のシャッタースピードは「1/50秒」だが、5軸シンクロ手ぶれ補正が効いている状態だと「3秒」でも理論上では手ぶれを抑えてくれることになる。最近は高感度での画質が向上し高感度で手ぶれを防ぐことが増えてきたがその場合シャッタースピードが早くて流れる水を抽象化することはできない。手ぶれする前に露光が終わる補正方法ではなく、長時間シャッターを開けても手ぶれしない補正が重要となるのだ。
三脚を使って撮影しているのでは?と思うシャッタースピードだが全て手持ちで撮影している。もちろん三脚を使うことで安定した撮影が可能だが、三脚が立てられない足場であったり、川に入って撮影する場合は三脚を立てると川の流れで逆にブレが発生してしまうこともあるのだ。三脚を持ち歩く必要がなくなるということは身軽になること、つまり撮影にも余裕が出てくるためより多くのシャッターチャンスと出会えるようになる。
注意したいのは5軸シンクロ手ぶれ補正を使うことで必ずしも手ぶれを全て抑えてくれるわけではなく、あくまで「補正」であり撮影をサポートしてくれる機能であることを忘れては
いけない。まずは手ぶれを抑えるために自分自身の撮影時の揺れを防ぐ姿勢を保つことが重要だ。手ぶれ補正があるからもう三脚はいらないではなく、状況に応じて三脚を使わない、と言う選択肢が新たに増えたということだ。
すべてのシーンがシャッターチャンスに
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROは遠景も近景も、広角も望遠もカバーしてくれるレンズであるため周りにある全てのものが被写体になる。写真を撮る上で心身ともに「気軽さ」は重要であり、写真を撮りたいときに撮れると言うのもスペックの一つと言ってもいい。個人的にはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROを使い始めてから今まで積極的に撮影してこなかった望遠域での撮影も増えた。今まではレンズ交換をしないと撮れなかったシーンがレンズ交換する事なく撮れる様になったことは非常にありがたいこと。高倍率は描写に満足出来ないと思っていたがM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとの出会いはその概念を覆してくれた。
高倍率ズームを使う上で忘れてはいけないのは、あくまで自分の足で稼ぐこと。ズームができるからその場で望遠までズームして撮影・・・というのはもったいない。あくまで被写体と自分の距離感+焦点距離の組み合わせで一枚の写真は完成するのでそれぞれの焦点距離が持つレンズ効果を知った上で高倍率ズームを使うとより一層写真撮影が楽しくなる。まずはファインダーを覗く前に被写体と向かい合い、距離感を決めてその後にファインダーを覗いて一枚の写真に仕上げて欲しい。一つアドバイスができるとすれば広角で撮影する場合はいつもより一歩寄り、望遠で撮影する場合は一歩引く、それだけでもいつもと違った一枚と出会えるだろう。
さいごに
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROは発売日に購入し、それ以来マイクロフォーサーズのメインレンズになっています。高倍率だからと避けている人も多いと思いますが、間違いなくその不安は杞憂に終わります。M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROはマイクロフォーサーズの一つの答えと言ってもいいのではないかと使えば使うほど実感します。この一本がマイクロフォーサーズを使う理由になる、まさにTHE・マイクロフォーサーズなレンズなのです。遠出をしなくてもM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROとOM-Dを手にした瞬間から旅が始まります。見慣れた景色もきっと新鮮な気持ちで向き合うことができると思います。自分だけの旅の記録を一枚でも多く残してください。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。