オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO × 旅|クキモトノリコ
はじめに
以前の記事でも書かせていただきましたが、コロナ以前は1年に2〜3回は海外へ撮影に出かけていました。中でもここ数年最もよく訪れていたのが香港。その街の持つ独特、かつエネルギーに満ち溢れた雰囲気に魅せられ、またLCCを利用することで非常に手頃な旅費で行けることもあって足繁く通っていました。
多くの場合はズームレンズを数本(オリンパス機は小型軽量のため、超広角〜望遠まで、その時々でレンズは様々)と、17mmの単焦点を持っていきます。そんな中である時M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PROをメインに、比較用としてM.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PRO、この2本のみを持って渡港したことがありました。その中から今回は「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」をご紹介します。
換算約35mmの、感覚的に使いやすい画角
もともとフルサイズ換算で35mmの画角が非常に撮りやすいと感じている私は、マイクロフォーサーズ規格のオリンパス機では17mm(フルサイズ換算するには焦点距離を2倍にするので34mm)のレンズを常用しています。一般的にはフルサイズでの50mm(マイクロフォーサーズでは25mm)が標準の画角と言われることが多いですが、個人的にはちょっと狭い……と感じてしまいます。
空港から市街地までの移動は各都市様々ありますが、もう何度も訪れてある程度勝手知ったる街となった香港では、空港リムジンバスをよく利用します。電車よりも時間はかかるものの、お昼過ぎに空港に着陸するとホテルのチェックインの時間との兼ね合いでちょうどいいのも理由のひとつ。
ダブルデッカーのバスに乗り込むと、目指すは2階席の最前列。人気が高くて塞がっていることも多いのですが、この時は運よく座ることができました。この席からの眺めは言わずもがな抜群に良いのですが、ここで撮りたかったのがこちら。
尚、大きく揺れる2階席での撮影は、バスの揺れに合わせて画面の揺れも激しくなってしまっている点についてはご容赦を!
ご覧の通り、香港国際空港から街の中心部である九龍や香港島まではいくつかの島を繋ぐ高速道路を走り、その眺めはなかなかに絶景ともいうべきものなのですが、ズームレンズのワイド端(マイクロフォーサーズ規格であれば12mmや14mm)ほどの画角でなくとも、17mmであれば十分にその雄大な光景を収めることができます。尚、オリンパスのカメラでは仕上がり設定をアートフィルターの「ジオラマ」に設定したまま動画撮影をすると、このようにパラパラ漫画のようなタイムラプス動画を簡単に撮ることができます。
逆に高層ビルの林立する街中でも、トラムの2階席からだと焦点距離が広すぎて必要以上に間延びしてしまったり、狭すぎて極端に圧縮されたりすることなく、伝えたい雰囲気をそのまま切り撮ることができます。
一方で市場の雑踏に身を置いて水平方向に撮影すると、狭い路地にずらりと並んだ露天の奥行きは表現しつつ、人いきれの感じられる雑踏の様子もしっかり伝わってきます。こんな「密」な光景でも安心して撮影できたことが今となっては懐かしいものです。
横位置だけでなく縦位置として使うことでビルの高さを伝える(空が狭い!)一方で、食事などテーブルフォトを撮る際にも「広すぎず、狭すぎない」画角が非常に扱いやすいと感じられます。
花屋さんばかりが集まった花墟道(フラワーマーケット)で、店先の女性に声を掛けて撮らせてもらいました(でも彼女自身はあまり写りたくないらしく、そっぽを向いてしまった……!)。少し引いて店先全体を入れつつ、日本のものとは少し見せ方の違う造りの花束をクローズアップ。街中でのスナップでも、このように寄りと引きの両方を1本のレンズで手軽に楽しむことのできるレンズです。
香港というと摩天楼が立ち並ぶ大都会のイメージが強いのではないかと思いますが、実は街を少し離れると自然豊かな光景が広がっているのもまた魅力のひとつ。香港島の南側にある、日本人や欧米の観光客にはまず会うことのないローカルビーチへ、路線バスに乗って出かけました。
山を越えるようにして走るバスに揺られること約30分。突然視界の開けた車窓から目的地の石澳が見えた瞬間反射的にシャッターを切った一枚は、眼下に広がるビーチに続く急な山肌、その向こうに広がる海と島々まで、十分にこの景色を伝えてくれる写真となりました。その後ビーチに到着したらその光景も一枚。このように風景を収めておくことにも十分使える画角のレンズと言えます。
この石澳のビーチの周りには民家や別荘と思しき瀟洒な家が立ち並んでいるのですが、そんな家々の中に素敵な郵便受けを発見。その奥には一般的な香港の郵便受けが無造作に吊るされている様子も見て取れます。17mmの画角だと、このように主役に寄って大きく写す一方で、背景もそこそこ広く入れることができるのもまたポイントで、使いやすいと感じている点です。
ブリキのような金属でできた四角くて薄い、でもさまざまな色のバリエーションのある香港の郵便受けは、他ではまず見ることのない、一目で香港らしさの伝わるアイテムのひとつであり、お土産などの雑貨のモチーフとしても人気があります。
精緻な質感を描くレンズ
この時は九龍側にホテルを取り、到着後に荷物を置いて一段落したら海を渡るスターフェリーを使って香港島へ。桟橋から長い渡り廊下を歩いていて、ふと振り返ると夏らしい雲が遠くに立ち上がっているのが印象的で、こう言っては何ですがあまり深く考えずに撮った一枚がこちら。
というのも、早朝のフライトで到着した7月末の香港は、日本と同じように暑い……だけでなく、日本とは比べ物にならないほど湿度が高く、到着早々にしてすぐバテ気味に。ところが、撮ってすぐに背面液晶モニターに映し出されたこの写真を見てびっくり。雲の立体感があまりにもリアルで一気にテンションがアップ、二度見どころかその場で何度も見入ってしまいました。この時、このレンズに惚れた、と言っても過言ではないほどです。
香港島の南側にある石澳のビーチへ出かけた際に、日陰に置いてあったデッキチェアを絞り開放のF1.2で撮影。ピントを合わせた座面を拡大してみると、クロスの質感、細かな繊維の織りの様子までしっかり描写されており、これまたまじまじと見入ってしまうものでした。
一方で街中のビルとその写り込みを、絞りをF8に絞って撮影するとパキッとした直線とガラス面のゆらぎがしっかりと写し出され、絞りを開いて良し、絞っても良しであることを実感したものです。
開放F1.2の大きなボケを楽しむ
本レンズは開放F値が1.2と大口径であることが何よりも大きな特徴です。開放F値が小さいとそれだけ被写界深度が浅くなる、ピントの前後のボケが大きくなります。この被写界深度は、カメラの持つセンサーの大きさとも関係があり、センサーサイズが大きいほど被写界深度は浅くなる、つまり大きなボケを得られやすくなります。
一方で、OM-DやPENシリーズなどマイクロフォーサーズ規格のカメラはセンサーサイズが小さいため被写界深度が深くなり、レンズによっては開放F値で撮影しても思ったほどのボケを得ることができないケースも見受けられます。そんな中で開放F値が1.2の本レンズは、マイクロフォーサーズ規格のカメラでもこの通りのやわらかくて大きなボケを得ることを実感できるものです。ピントの合った目の周辺の毛はシャープに、そこからなだらかにとろんとしたボケへ繋がっていることが見て取れます。
尚、カメラに搭載されている静音シャッターを使用することで、乾物屋さんの軒先で商品の上に陣取って気持ちよさそうにお昼寝をする猫の邪魔をすることなく撮影させてもらうことができました。
夜の手持ち撮影で威力を発揮する開放F1.2
開放F値が小さいということは、それだけ絞りを大きく開くことができ、光を取り込む能力が高くなります。そうすると、光の少ない暗所や夜の撮影に有利であり、暗い場所でもブレにくい、低感度でも撮影がしやすいといったメリットが挙げられます。カメラの手ブレ補正機能が非常に優れている恩恵もありますが、作例のように夜の街中スナップや、三脚を使わずとも夜景が撮れるなどそのメリットは非常に大きいと感じられます。
しっかり絞って綺麗な光条を活かす
真昼間の逆光など、画面の中に強い光がしっかり入ってしまうような場合、絞りをしっかり絞ってカッコイイ光条を出したくなってしまいます。今回は街の中心部にある「Above the clouds」というタイトルの、雲の上でふたりが闘っている姿の彫刻の背後、ビルのガラスに強い太陽光が当たっていたため、この光を片方の人物に持たせて、まるで光の球を投げようとしているかのように見立ててみました。しっかりとした光条を出すことで、何だかより強そうに感じられませんか。
また夜の街角で、スローシャッターで車や歩行者をブラして撮影したのですが、この時もF8まで絞ると街灯や車のヘッドライトにこのような綺麗な光条ができました。光の筋を数えてみると、その数は18本。このことから、このレンズの絞り羽根が9枚であることがわかります。尚、絞り羽根の枚数が偶数の場合は羽根の枚数と同じ数、奇数の場合はその倍の数の光条ができます。
最短撮影距離の近さ
マイクロフォーサーズ規格のレンズは総じて最短撮影距離が短く、被写体にぐっと寄れるのが大きな特徴でありメリットです。本レンズも最短撮影距離は20cmと「非常に寄れるレンズ」。美味しいと評判の雲呑麺屋さんにて、大きな雲呑がゴロゴロ入った菜肉雲呑麺にぐっと迫ってみました。レンズの描写力もあってプリプリした食感がイメージできる、そんな一枚になりました。
急な雨にも安心な防塵防滴設計
雨季となる夏の香港において、この時は概ね晴れる日が多かったものの、ある日街を歩いていると、突然空が暗くなって雷まで鳴り出し……文字通りスコールがやってきました。ちょうどフラワーマーケットの近くだったので、雨に濡れたお花をパチリ。さらに雨が上がってすぐのタイミングで、大きな蓮の花を抱えた女性とすれ違い、咄嗟にパチリ。
本レンズはしっかりした防塵防滴仕様となっており、防塵防滴の性能においては定評のあるカメラ本体(この時はOM-D E-M1 Mark II)との組み合わせで、急な雨でも機材の心配をせずに撮影できるのは大きなメリットです。とはいえもちろん、撮影終了後はしっかり乾かしてメンテナンスも怠らないようにしたいものです。
撮影後記
「とにかく撮っていて気持ちのいいレンズ」それがこのレンズを実際に使ってみての感想でした。もともと好きな画角な上に明るくてヌケの良さを兼ね備えたレンズは、旅のお供にはやや大きめながらも、カメラ本体の小ささもあるので十分に連れて行きたいアイテムとして手元に置いておきたい一本です。
まだ当面、香港はおろか海外への旅がなかなか叶わない状況ですが、いずれまた活気と混沌としたエネルギーに満ち溢れた、一方で豊かな自然をあわせ持つ香港へ自由に撮影に出かけられるようになる日を心から願っています。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員