M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroレビュー|迷ったらこれ!世界観が広がる中望遠マクロレンズ
3本のマクロレンズ
2023年2月にOM SYSTEMから新しくM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROが発売になった。これでOM SYSTEMのマクロレンズのラインナップは、M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 MacroとM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroと合わせて3本となる。OM SYSTEMの前身であるOLYMPUSは医療機器メーカーとしても名を馳せており、事に顕微鏡分野では定評のあるメーカーであった。OM SYSTEMにとってマクロレンズは最も得意な分野とも言える。
そんな関係もあってだろうか、マクロレンズが中心レンズとなる昆虫写真家はOLYMPUS(OM SYSTEM)ユーザーが圧倒的に多い。他のメーカーのマクロレンズ事情を見てみると、ラインナップはOM SYSTEMと同様に広角系・標準系・望遠系と揃えている場合が多い。そこで素朴な疑問が湧いてこないだろうか。なぜマクロレンズにバリエーションが必要なのだろうか?そもそもマクロレンズの定義とは?
マクロレンズとは?
一般的にはマクロレンズとは、等倍撮影もしくは等倍に近い倍率で撮影出来るレンズの事を言う事が多い。平たく言うと接写距離が極端に短く、被写体に近づいて撮影出来るレンズの総称としてマクロレンズと言う事が多い。等倍とは撮像素子(センサー)上に実物大に被写体が写ると言う意味である。例えば100円玉を等倍撮影したとき撮像素子上に100円玉が実物大の大きさで反映させると言う事だ。一般的なレンズは大きくても0.7倍程度だ(注:焦点距離やレンズの銘柄によって異なる)。等倍として写る事は無い。
最初の疑問に戻りたいのだが、等倍で撮影出来るのがマクロレンズならば焦点距離のバリエーションは必要ないのではないかと思えてくる。この辺りを考え始めると混乱してくると思うが、30mmでも60mmでも90mmでも等倍撮影(注:OM SYSTEMのマクロレンズは、撮影倍率は焦点距離で異なる)ならば、どれで撮っても同じであり焦点距離のバリエーションは必要ないのではと疑問が残る。
ここで変わってくるのがワークスペース問題である。ワークスペースとはOM SYSTEMのRAW現像ソフトの事ではなく、ここではレンズ先端から被写体までの距離の事を言う。商品撮影等はレンズと被写体の間で作業をする事から、このように呼ばれていると聞いたことがある。昆虫など近づくと逃げてしまうような被写体の場合はワークスペースが広い(長い)ほうが有効である。しかし、ブツ撮りなど被写体の向きをファインダーを覗きながら変える撮影の場合はカメラマンの手が届くワークスペースで無ければ作業効率が悪くなる。
また、撮影現場、例えばレストランのテーブルの上など限られた空間で撮影をするときもワークスペースは短く、そして画角が広めであることで作業効率向上へと繋がっていく。だから、同じ撮影倍率だとしても撮影空間や被写体の性質によって焦点距離が選べることはとても重要なのだ。そう言った意味ではOM SYSTEMはやっとマクロレンズのバリエーションが充実したといえるのである。
3本の中で何を選べば良いのか?
マクロレンズの話をしてきたが、写真愛好家は3本のうちどの焦点距離を選んだら良いのだろうか?昆虫撮影中心のユーザーは迷うこと無くM.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PROを選ぶべきだと思う。その理由はワークスペースにある。離れた場所から昆虫を等倍撮影出来るし、それよりも大きく撮影することが出来るので利点が多い。また、ボケ効果に重点を置くユーザーにもおすすめである。なぜなら長焦点ゆえにボケ効果も高いからだ。
次に旅の時に撮影するツーリスト系、もしくはスナップシューター系で料理や小物の撮影が多いユーザーはM.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroがベストチョイスである。なぜなら画角が広くテーブルフォトには丁度良い焦点距離だからだ。
昆虫も撮るしテーブルフォトも撮る、花だってキノコだって雫だってアップで撮りたいと思っているユーザーは迷うところではあるがM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroがバランスが良くおすすめである。90mmと30mmの良い所どりをしていると考えても良いだろう。3本のラインナップの中で最も早く発売された事からも需要の高さが伺える。
90mm F3.5 Macro | 60mm F2.8 Macro | 30mm F3.5 Macro | |
最短撮影距離 | 0.224m (S-MACRO時) | 0.19m | 0.095m |
最大撮影倍率 | 2.0倍 (S-MACRO時) (35mm判換算 4.0倍相当) |
1.0倍(35mm判換算 2.0倍相当) | 1.25倍(35mm判換算 2.5倍相当) |
画角 | 14° | 20° | 40° |
レンズ内手ぶれ補正 | 〇 | – | – |
マイチョイス M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
いろいろマクロレンズについてお話をしてきたが、今回は僕が撮影の時に必ず持っていくM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroについてお話していこうと思う。と言いながらも僕はマクロ専門の写真家ではない。どちらかと言うと雄大な風景を好む写真家である。しかし、必ずカメラバックの中にM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroを入れている。その訳は、写真展などで構成を考えるときに必ずマクロ的なカットが必要になるからだ。マクロ系があるから雄大な風景が活きてくる。
しかし、マクロに適した被写体はいつ出会えるか分からないし、小さな世界を探す旅は性に合わない。ふと気が付いたときや何気ない出逢いに対応するために毎回持ち歩くのだ。「それって大変!」と思うかもしれないが、このレンズはコーヒーのショート缶よりやや小さく軽い、持ち歩きは楽だ。何しろポケットに入れておくと何処に仕舞ったのか分からなくなるくらいなのだ。少しの体積で写真の世界観が広がるのだから、これなら持ち歩かない手はないと思う。皆さんも1本カメラバックに忍ばせておくと良い事があるはず。
僕の山岳風景の代表作
僕の代表作と言っても良い作品。登山の休憩している最中に見つけたチングルマ。ピントを雫に合わせるか穂に合わせるか迷ったが、雫の縁にピントを合わせて絞りを開放から1段絞って撮影。背景のボケを活かし、雫にも穂にもピントがあった想像通りの作品が出来上がった。
AFは静粛性に優れて速い
マクロレンズと言う事で被写体に近づいて撮影出来ることは周知の事。被写界深度は被写体との距離が近くなればなるほど浅くなりボケ効果が増す。本レンズのボケ描写は言わずもがな、とても綺麗である。AFのスピードも「MSC機構」(Movie and Still Compatible)採用により高速かつ静粛性に優れている。
綺麗な玉ボケと信頼のZEROコーティング
このレンズを語るときに玉ボケを語らずにはいられない、と言って良いほど見事な玉ボケを作ることが出来る。60mmマクロはエッジの色づきなど収差を抑えた設計になっており、美しい玉ボケを作り出すことが可能。
それから、ZUIKOレンズを語る上で忘れてはならないのが「ZEROコーティング」(Zuiko Extra-low Reflection Optical)。フレア・ゴーストを抑制し高画質を実現させるコーティングだ。このZEROコーティングが採用されているレンズはフレア・ゴーストが目立ちにくい。厳しい条件ではフレア・ゴーストは現れるが、気をつけて確認しないと分からないくらいだ。素晴らしく逆光に強いレンズである。
小型で手ぶれもしにくい
小型である事がZUIKOレンズの最大の特徴と言って良いと思う。そして、手ぶれ補正機能の充実。本レンズには手ぶれ補正機能は搭載されていないが、ボディー内手ぶれ補正機能で充分対策が可能である事は使っていて実感している。
この作品は雨上がりの北アルプス高天原近くの竜晶池の畔で撮影したものである。暗い状況だったが三脚でベリーの木を傷めたくなかったので手持ち撮影。雫とベリーの実の輪郭をハッキリ出したく絞りはF5.6まで絞り込んだ。重たい登山装備を担いでここまで来た、疲れた身体でもブレることなく撮影できた。
中望遠の枠組み
レンズ名に60mmとあるので標準レンズより少し長い焦点距離のようなイメージかもしれないが、マイクロフォーサーズなのでフルサイズ換算で2倍の120mmマクロとなる。焦点距離は中望遠の枠組みに入るレンズだ。意外と離れた被写体も大きく撮影することが出来る。
こちらの作品はE-M1 Mark IIに水中ハウジングを装着し、黒部川源流の沢の中で岩魚を撮影している。なかなか近づくことが出来ない魚だが、このように大きく撮影する事が出来る。
単焦点レンズとしても活躍
マクロレンズと言う事で接写の話が続いてきたが、普通の60mm(フルサイズ換算で120mm)のレンズとしても活躍してくれる。フィルター径は46mm。ZUIKOレンズはレンズ径が小さいものが多いが本レンズは極めて小さいと言える。これで絞りがF2.8~F22まで使用出来る。単焦点レンズとしても抜群の活躍が期待出来る。
コンピューテショナルフォトグラフィー【深度合成】
▼深度合成あり
▼深度合成なし(絞りF16)
OM SYSTEMのカメラにはデジタルカメラならではのコンピューテショナルフォトグラフィーと言う撮影機能が備わっている。代表的な機能はライブコンポジット、ハイレゾショット、ライブNDとなるが、ここでは「深度合成」のお話をしたいと思う。
深度合成とは簡単に解説すると、フレームを固定し(三脚を使用し)ピント位置をずらしながら複数枚撮影しカメラ内合成をする。こうすることで狙った被写体全体にピントを合わせながら浅い絞りで撮影したような背景ボケを表現する事が出来る。違う言い方をすると、F22まで絞っても被写界深度の中に納める事が出来ない撮影条件、例えば昆虫標本などでもシャープなピントで表現が可能だ。この一連の作業はスタートとストップをカメラマンが設定する必要があるが、深度合成自体はカメラが自動で行ってくれる。
フォーカスリミットスイッチ
AFの駆動範囲を限定し作業効率を上げるための切り替えスイッチ。指標を「1:1」に合わせると最短撮影距離(19cm)でピント位置が固定となるので、カメラ自体を前後させながらファインダーもしくはモニターでピントの山を探り撮影する。これで等倍撮影となる。フォーカスリミットスイッチを指標とし撮影倍率の確認もできる。
まとめ
ひとえにマクロレンズと言っても焦点距離が異なる3本のレンズがあり、それぞれ得意なフィールドがある。どれを選ぶかは本文の中で紹介しているポイントからチョイスして良いと思う。それでも迷うユーザーは、今回の記事で紹介したM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroがおすすめだ。
迷うという事は様々なシチュエーションの中で撮影したい気持ちがあると言うことで、平均点が高いレンズは60mmマクロだと僕は断言できる。実際、僕のメインマクロレンズはこの60mmマクロだ。様々なレンズが存在するが、マクロレンズほど世界観を広げてくれるレンズは無いと思うので取り敢えず1本いっておきましょう!
■写真家:秦達夫
1970年長野県飯田市(旧南信濃村)生まれ。後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め写真に自分の可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・Foxfireフィールドスタッフ