OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macroで描く旅と日々
はじめに
カメラメーカー各社のレンズラインナップを調べてみると、35mm判換算で50~60mmと100mm前後の焦点距離を持つ2種類のマクロレンズを揃えていることが多いことがわかります。OM SYSTEMのマクロレンズは先日新製品が発売となり、現在M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro、M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F.3.5 Macroの3本となりました。
これまでの記事でも触れたように、マイクロフォーサーズ規格のセンサーを持つカメラは、撮影時の画角としては35mm判換算で2倍となりますので、OM SYSTEMのマクロレンズはそれぞれ180mm相当、120mm相当、そして60mm相当となります。今回はその中で最も焦点距離が短く、レンズの大きさ・価格ともにお手頃なM.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F.3.5 Macro、つまり各社が揃える短い方の焦点距離を持つマクロレンズに相当するものをご紹介します。
最大撮影倍率2.5倍、最短撮影距離9.5cmのマクロ撮影
「マクロレンズ」という単語は、一眼カメラを持つ方ならばよく耳にするかもしれませんが、実は厳密に決まった定義があるわけではなく、「被写体に近づける、接写できるレンズ」「被写体を大きく撮影できるレンズ」という案外ざっくりしたものだったりします。
ではこの「被写体を大きく撮影できる」の「大きく」とは一体どのくらいなのかというと、通常 1/2倍~1倍以上を指します。この「1倍」とは、センサー上に実物大で写すことができるということ。つまり、36mm×24mmの35mmフィルム(またはフルサイズ機のイメージセンサー)上に、1cmのものを1cmで写すことができる、ということで「等倍」とも呼ばれます。そして、本レンズの最大撮影倍率は2.5倍。実物大の2.5倍大きく撮影することができる、ということです。
幅2cm、高さ1.8cmの小さなカメラモチーフのアクセサリーを、それぞれ1倍(等倍)、2倍、そして2.5倍で撮影してみました。(尚、比較用に等倍撮影のみ他社フルサイズ機を使用。アスペクト比が異なりますが、おおよその大きさの感覚は伝わるかと思います)
並べてみると「小さなものがめっちゃ大きく撮れる!」ということがおわかりいただけるのではないでしょうか。
▼等倍(他社フルサイズ機 + 50mmマクロレンズにて撮影)
▼35mm判換算2倍(OM SYSTEM機上での等倍)
▼35mm判換算2.5倍
また、本レンズの最短撮影距離の表記を見るとなんと「0.095m」。様々なレンズにおいて、最短撮影距離の表記で小数点第3位を目にすることはあまりないのではないでしょうか。もう少しわかりやすく、単位を「cm」に直すと、「9.5cm」。この「最短撮影距離」とはレンズの先端から被写体までの距離ではなく、カメラのセンサー面から被写体までの距離のこと。
では実際、どのくらいの距離感なのでしょうか。10cm四方の2枚のアクリル板に気泡を閉じ込めたシャンパンプレート。この気泡の中に、石川県の観光PRマスコット「ひゃくまんさん」を写りこませたものを例に見てみると……
かなりギリギリまで被写体に近づけることがわかりますね。
尚、上記は室内で三脚を使用しましたが、筆者自身は普段、屋外での撮影時にマクロ撮影であっても三脚を使わないことが多いです。カメラ本体の強力な5軸の手ぶれ補正機構のおかげで、あまり手ブレの心配をすることなく被写体に大接近して撮影できます。
きれいな円形ボケ
本レンズの開放絞りはF3.5であり「大口径の明るいレンズ」というわけではありませんが、玉ボケができた際にきれいな円形のボケが表現できます。
尚、玉ボケの大きさは、カメラと被写体、被写体と背景の光源(この光源が玉ボケになります)との距離関係によって変わります。カメラと被写体の距離が近いほど、また被写体と背景の光源の距離が長いほど、玉ボケは大きくなります。
フォーカスブラケット機能を用いたカメラ内深度合成にも対応
絞りの開き具合を変えることで被写界深度が変わり、ピントの前後のボケ具合が変わります。F値を大きくして絞りを絞ることで、ピントの手前から奥までボケ感の少ない写真を撮ることができるのですが、それでも多少はボケが生じてしまいます。
被写体全体にピントが合った写真を撮りたい場合、OM SYSTEMの一部のカメラであれば手前から奥までピント位置をずらして撮影する「フォーカスブラケット」機能を用いて撮影した写真を重ね合わせ、被写体全体にピントの合った写真にする「深度合成」モードを用いることで、そのような写真を撮影することが可能です。
深度合成モードが搭載されているカメラはOM-1/OM-5/E-M1 X/E-M1/E-M1 MarkII/E-M1 MarkIII/E-M5 MarkII/E-M5 MarkIII (2023年4月現在)。そして深度合成はこの機能に対応したレンズを使用する必要があるのですが、本レンズは深度合成に対応したレンズとなっています。
尚、この深度合成モードを使用すると、合成する際に画面の周囲が切り取られ、上下左右それぞれ約7%狭くなります。今回撮影に使用したOM-5やOM-1などは、撮影時に画面モニターに合成後の仕上がり範囲の目安となるガイド線が表示されるため、とても撮影しやすくなっています。(今回は比較のために通常撮影時の写真を同等の範囲までトリミングしています)
絞りは開放のF3.5、ピント位置は手前のデルフィニウムのしべですが、奥の花のしべ、そして花弁にもしっかりピントが合っています。通常の撮影同様、F値を11に設定し、絞りを絞ることで被写界深度を深くした写真と比べても、その差がはっきりと見て取れます。
ちなみに深度合成に用いられたカットのうちの一枚を見てみると、F3.5という設定だけに後ろのお花は大きくボケています。
▼深度合成モードで撮影
▼F11で撮影
▼F3.5で撮影
▼深度合成モードで撮影
▼F11で撮影
▼F3.5で撮影
小型軽量&遠近両用!旅や日々でのスナップ撮影
マクロレンズと聞くと接写専用レンズのように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。ピントが合う距離は、最短撮影距離(本レンズの場合は0.095m)から無限遠、つまりうんと遠くにもちゃんとピントは合います。ということは、シンプルにそれぞれの焦点距離の単焦点レンズとしても使うことができるのです。
本レンズの焦点距離は30mm。35mm判換算で60mmの画角を持ち、レンズのすぐ目の前にある被写体でも、うんと遠く離れた被写体でも、どちらにもピントを合わせることができます。このとても便利な「遠近両用単焦点レンズ」はマクロ撮影のみならず、様々な場面でのスナップ撮影といった用途にも使うことができます。
また、サイズは最大径×全長がφ57×60mm、重さはわずか128g。女性でも手のひらにすっぽり収まるほどの小ささと軽さゆえ、旅先に連れて行くにも持ち運びのストレスがほとんどありません。
ちょうど桜の時期に、カメラと本レンズ1本のみで灘の酒蔵を訪ねました。次の3枚はすべてこの日に撮影したのですが、引きの写真と寄りの写真、そして写したいものと背景が程よく収まる写真がこの1本で完結。
鳩の形に折られた「鳩みくじ」、そして「おみくじ100円」ではなく、このサイン。そのどちらもがうまく収まりました。私自身、最近はほとんどおみくじを引かないのですが、この後、久しぶりに引いてみました。結果は……確か悪くはなかったような記憶が。(笑)
空港にて、搭乗前に展望デッキへ。中型のジェット機ということもありますが、フェンスが写らないようにギリギリまで近付いて、機体全体がほぼピッタリ収まる画角でした。
ハウステンボスで一番高いタワーの展望室から、アートフィルターのジオラマモードで撮影してみました。画角が広すぎると周囲のリアルな世界が写ってしまいますが、パークの世界観のみでまとめることができ、より一層「ミニチュアの世界」っぽい一枚になりました。
夜の繁華街をスナップ。「標準レンズ」とも呼ばれる25mm(35判換算50mm)に比較的近い焦点距離ということもあり、肉眼と比較しても自然な画角と遠近感でまとまっています。また、アートフィルターのドラマチックトーンを用いることで、暗い部分が起こされて夜の街も肉眼での印象に近い仕上がりとなりました。
路地裏の猫に大接近!怖がらせないように、すこーしずつ距離を詰めて行き、嫌がられていないことを確認。シャッターを静音モードにして音のストレスもできるだけ減らして撮影させてもらいました。
テーブルフォトにも程よい画角と自由なワーキングディスタンス
35mm判換算で60mmという画角は、標準レンズと呼ばれる換算50mmよりも少し狭い画角を持つレンズですが、食事の記録撮影などの際に周囲の余計なものが写り込みにくいという利点があります。また、最短撮影距離が近く被写体にかなり近付いて撮影することが可能なので、お料理の美味しそうな部分にぐっと寄った撮影も可能です。
次の2点は以前のM.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8でご紹介した作例の別カットです。それぞれ25mmでは高めの視点から見下ろすアングルでしたが、レンズを付け替えたことで食事をいただく際の自然な目線に近くなり、そのアングルでうまくまとまりました。
石川の美味しいものをちょっとずつ楽しめる豆皿御膳。とても可愛らしい九谷焼の豆皿が並んだ素敵なお膳も、いい塩梅に画角内に収まりました。
味噌カツの赤味噌が美味しそうだったので、付け合わせのお椀やお漬物も画角の隅に入れながら被写体に寄ってみました。こんなふうにワーキングディスタンス(レンズの先端と被写体との距離)を気にせず寄ったり引いたり自由に撮影することができるという点は大きなメリットです。
長崎で美味しいと評判のおでん屋さんを紹介していただきました。何気なく頼んだ2品でしたが、お店の大将が「あなた、いいもの選ぶね~!」と言いながらおでんを掬うと一旦奥の厨房へ。そうして出されたお皿がこちら!
この時は他の機材は宿に置いて本レンズ一本のみで出かけていたのですが、大きなお皿を中心に卓上の小物を周囲にアクセントとして入れつつ、とてもインパクトのある1枚となりました。
まとめ
M. ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro は、開放F値はF3.5と少々暗いながらも最短撮影距離が9.5cm、最大撮影倍率が2.5倍、という点がまず大きな特徴です。しかも、とにかく小さくて軽く、カメラバッグのちょっとした隙間に忍ばせておくことができます。
35mm判換算で60mm相当という画角は、標準画角と言われることの多い50mmにも近く、こういった点から、日常的に連れて歩くにもよいですし、機材を少なくしたい旅行の際の「高倍率ズームレンズ+単焦点レンズ」の単焦点レンズとして本レンズを選ぶのもオススメです。
■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員