OM SYSTEM OM-1 Mark II レビュー|過酷な環境になるほど真価を発揮するカメラ
はじめに
OM SYSTEMのフラッグシップ機であるOM-1が更なる進化を遂げ、OM-1 Mark IIとして登場する。ボディサイズやボタン配置は変わらず小型・軽量なスタンスもそのまま継承し、レンズを含むシステム全体がコンパクトなのでどこにでも持ち出せるカメラだ。外観やサイズは同じだがスペックは前モデルを遥かに凌ぐ能力をもっており、撮影者の想像力を掻き立て、カメラ1台で様々な表現をすることができる。
脅威の防塵・防滴性能
OM-1 Mark IIは「IP53」の防塵・防滴性能を有している。完全防塵である最高レベルが「6」なので、この「5」という数字がどれほど高いレベルの防塵性能なのかがわかるだろう。その次にある「3」は防水性能を表しており、垂直60度の範囲から落ちてくる水滴でも有害な影響がないことを表す。完全防水ではないものの、雨の中での撮影であれば気にすることなく撮影できるので、他のカメラでは故障を恐れて撮影できないような環境でもじっくりと構図を考えて撮影する事ができる。
下の写真は通常でも滝の飛沫がすごい場所なのだが、この日は大粒の雨も重なりひどい環境であった。通常ならカメラを出すのもためらう状況だが、OM-1 Mark IIであれば雨に恐れることなくじっくりと構図を考え撮影する事ができた。写真にはレンズについた雨や飛沫が多く写り込んでいる。
コンピュテーショナルフォトグラフィのパイオニア
OM-1 Mark IIには最先端のコンピュテーショナルフォトグラフィ機能がいくつも盛り込まれている。今回のモデルには前モデルよりもさらに機能が1つ追加された。まずはこれまでの5つの機能を振り返る。
1つ目はハイレゾショット機能。
ハイレゾショットは8,000万画素の三脚ハイレゾショットと5000万画素の手持ちハイレゾショットの2種類があり、ボタン1つで通常撮影からハイレゾショットへの切り替えができるので気軽に使うことができる。ハイレゾショットは画素数があがるだけではなく、解像感が向上しノイズも抑えるので積極的に使用したい機能だ。今回のモデルから12bit設定だけでなく14bit設定での撮影もできるようになり、写真現像を行う人ならば14bit設定で撮影しておけば多少むちゃな現像をしても画像が破綻しにくい。
下の写真は三脚ハイレゾショットで撮影した8000万画素の写真になる。手前の砂粒の細かさや立体感を見事にとらえている。
三脚ハイレゾショットは8枚の写真を合成する事で作り出されるの、夜に撮影すれば比較明合成のように光跡を捉えることができる。
2つ目はライブコンポジット機能。
シャッターボタンを一回押すだけで、複数の長時間露光の写真を自動で重ね合わせてくれる。星や車の光跡を撮るのに非常に便利なうえ、撮影中は光跡の伸び具合もディスプレイに表示されていく。星の軌跡は方角や焦点距離で軌跡の長さが変わるが、ライブコンポジット機能を使えば誰でもイメージ通りの星の軌跡写真を撮ることができる。Photoshopなどのソフトがなくともカメラ内で画像を生成してくれるので、カメラを始めたての人でも簡単に撮れるのも嬉しい。
下の写真は15秒に設定したものを80コマ重ね合わせたものになる。合計20分の写真である。撮影後半に薄雲が出現し、これまで撮影した星の軌跡が消えそうであったため、途中で停止した。撮影の経過がその場で確認できるので非常に便利だ。
3つ目はライブND機能。
レンズ前面に設置するフィルターを使用することなく、カメラ1つでNDを使用したかのような写真を撮ることができる。レンズ前面に設置するフィルターでないので画質の劣化がなく透明感のある写真を撮ることができる。
ND濃度はND2~ND128まで選択可能。今回のモデルからND128が追加され、これまで以上に表現の自由度があがっている。ライブNDは濃度変更などでのフィルターの取り替え作業が必要ないので素早く撮影できるのも魅力だ。
こちらはND128を使用して海岸沿いの水の流れをとらえた。長時間露光で波を撮影すれば非現実的な表現ができる。
4つ目は深度合成機能。
マクロ撮影でよく使われる機能で、マクロレンズはピントの合う深度が非常に浅く、通常撮影であれば昆虫の目の先端にしか合わないほど浅い。昆虫の顔全体にピントを合わせるには、異なる焦点距離で撮影した複数枚の写真をPhotoshopなどで合成するのが一般的だ。
しかしOM-1 Mark IIであればシャッターボタンを一度押すだけで、カメラ内で瞬時に深度合成した写真を作り出してくれる。前モデルよりも合成処理能力が向上しているのでさらに精度の高い写真が撮れるようになった。
私はこの機能をマクロ撮影ではなく風景撮影でよく使用している。レンズから1番近い被写体が近すぎるとどうしても奥にある風景がぼやけてしまうのだが、そんな時はこの深度合成機能を使用すると近景から遠景までしっかりとピントの合った写真を作り出せる。
5つ目はHDR機能。
異なる露出で複数枚撮影することで、1枚では出せない広いダイナミックレンジを再現し、黒つぶれや白とびを抑えた写真を撮ることができる。明暗差のあるシーンで役立つ機能だ。自然な表現ができるHDR1と絵画調のHDR2から選択ができる。
新たな機能!待ち望んだライブGND グラデーションND機能
今回、新たに追加された新しいコンピュテーショナルフォトグラフィの機能がライブGNDだ。風景写真を撮るものならば、一度はカメラ内でGND効果を与える事ができればいいなと考えた事があるのではないだろうか。そのあったらいいなが現実となりOM-1 Mark IIに実装された。減光濃度はGND2 / GND4 / GND8と3段階から選べ、グラデーションもSoft / Medium / Hardと3段階から選ぶ事ができる。日の出前や日没後などではGND2、太陽が入る構図ではGND8と使い分けができ、山波のある風景ではSoftを、水平線や地平線などまっすぐなラインの時はHardと、様々なシチュエーションに対応できるようになっている。
効果をかける領域もカメラのダイヤルで自由に傾きを調整できるので、実際のGNDフィルターと同じで自由度は高い。しかも、レンズ前面に設置するフィルターではないので装着などの面倒な作業が必要なく、太陽に向けた時のフィルター内での光の屈折もなく画質が劣化しないなどメリットも大きい。9種類ものGNDフィルター分の荷物も削減できるのも良い点だ。
下記の写真はライブGNDありとなしの比較写真になる。太陽が昇り出す前であったので一番効果の弱いGND2で緩やかなグラデーションのSoftを選択した。
GNDなしでは空が白とびし、雲のディテールも損なわれ朝焼けのオレンジ色も出ていないが、ライブGNDありのものはしっかりと再現できている。
▼GNDあり
▼GNDなし
さらに強化された機能たち
OM-1 Mark IIになりこれまであった機能がさらに強化されている。プロキャプチャーモードでは遡り設定が99コマまで可能になり、決定的な瞬間をこれまで以上に撮り逃さない仕様になった。AFにはAI被写体認識AFに「人物」が追加。元々の被写体検知機能も向上している。
新機能として、カメラを縦位置に構えて撮影する事で縦位置動画として記録される縦位置動画機能の追加。スマートフォンアプリ「OM Image Share」を使えばその場でスマートフォンに転送し、そのままSNSに投稿ができるようになっている。さらに、ゴミ箱ボタンをMENUボタンとして設定できるなど撮影時の操作性も向上している。
手持ち8秒に挑戦。 さらに強力になった手ぶれ補正能力
前モデルではボディ単体で最大補正能力7段であった手ぶれ補正が、OM-1 Mark IIでは更に強力になり、最大補正能力が8.5段とさらに強力になった。ボディの手ぶれ補正段数が上がった事で手持ちハイレゾショットでの撮影時の合成精度もあがり、これまで以上に解像感と繊細な描写が可能になっている。下の写真は夜の9時ごろに手持ち撮影8秒で撮影をおこなったものだ。風が強い日でたまに身体をふられたりしたが、それでもこれほどシャープな写真を撮る事ができた。撮影していた筆者も驚かされた一枚だ。
まとめ
今回アイスランドの旅で使用をしてみたが、OM-1 Mark IIだからこそ撮ることのできる写真が非常に多かった。アイスランドの自然は本当に過酷で-12℃の時もあれば大雪と強風でホワイトアウトの時もあり、かと思えば大雨にもさらされる。目まぐるしく天候が変化する本当に過酷な環境であった。しかし、カメラはそんな自然環境をもろともせず撮影する機会を与え続けてくれた。大雨や強風、マイナスの気温の中でフィルターを出しての撮影ならば諦めていただろうが、ボタンを押すだけでライブNDやライブGNDの機能を呼び出し、素早く撮影できたので諦めずに撮影する事ができた。
このOM-1 Mark IIはどのようなシチュエーションでも対応でき、イメージ通りの写真を撮る事ができる。「どこにでも持ち歩け、感じたものが思ったままに撮れる」というOM SYSTEMのブランドコンセプトを実現させている。過酷な環境になればなるほどその真価を発揮する、自然風景を撮るために最も適したカメラだと感じた。
■写真家:藤原嘉騎
米国 Walt Disney Company、 National Geographic とフォトグラファー契約を結び、世界を旅してまだ見ぬ風景を求め撮影を行っている。受賞歴にはNational Geographic Travel Photo Contest `People’ 世界2位。International Photography Awardプロ部門 `Nature’ 世界2位、 Tokyo InternationalFoto Award プロ部門 `People’ Gold受賞 など国内外のコンテストで多数の賞を得ている。 多くの企業から依頼を受け写真を提供すると共に、 国内外の新聞・書籍・雑誌など多くのメディアで活躍している。 元プロスノーボーダーという異色の経歴を持つフォトグラファー。