『OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL PROレンズセレクトガイド 現行ラインナップ全レンズの特徴と使い所を解説』第二回 広角焦点距離域レンズ編
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はじめに
OM SYSTEMのミラーレス一眼カメラはマイクロフォーサーズ規格に準拠したカメラシステムだ。マイクロフォーサーズ規格は、2003年にOM SYSTEMの前身であるオリンパスと米国のイーストマン・コダック社により開発されたデジタル一眼レフ専用規格であるフォーサーズ規格を、カメラからレフレックスミラーを撤廃した発展規格として2008年に制定されたものだ。それによりデジタル一眼カメラは、それまで大きく重いことが高性能の証となっていたデジタル一眼レフカメラから、高性能と小型軽量の両立を実現するミラーレス一眼カメラへと、各メーカーの移行を促すきっかけとなった。
マイクロフォーサーズ規格の登場はカメラ本体の設計を変えただけではなく、交換レンズにおいてもカメラ内のレフレックスミラーに合わせた設計を行う必要がなくなったことで、小型のレンズであっても高い画質を持ったレンズの開発ができるようになった。それをいち早く実現したレンズ群が、現在OM SYSTEMから発売されている「PROレンズシリーズ」である。
PROレンズはフォーサーズ規格時代のテレセントリック性能(センサーに光を垂直に送り届けるレンズ性能)などの高性能を引き継ぎつつ、ミラーレス一眼に最適な設計となっておりプロ写真家ユーザーのみならず多くのマイクロフォーサーズユーザーにも支持されている。この『OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL PROレンズセレクトガイド』は、前回に引き続きPROレンズの特徴と使い所について解説する記事の第二弾だ。前回の標準焦点距離域レンズに続き、今回は広角焦点距離域を持った各レンズについてお話をしよう。
PROレンズ 広角域編
PROレンズシリーズには広角焦点距離域をカバーするズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO」のニ本と、単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO」の二本がラインナップされている。
ニ本の広角ズームレンズの広角端は、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROが7mm(35mm判換算14mm相当)、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROが8mm(35mm判換算16mm相当)と、その違いは僅かである。数値上では1mmではあるが、実際に撮影するとその画角の差は思った以上に大きい。室内をより広く写真に収めたい撮影や、より広大な景色の魅力を表現したい風景撮影などにおいてはM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの広い画角は圧倒的である。
一方、望遠端はM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROが14mm(35mm判換算28mm相当)、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROが25mm(35mm判換算50mm相当)と大きく異なっている。広角レンズでありながら望遠端が標準域までの幅広い画角をカバーしているズームレンズは珍しく、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROは街中でのスナップ撮影や料理写真などのテーブルフォト等においてとても使い勝手の良いレンズとなっている。
開放絞り値の違いの点からこれらニ本のレンズの違いを見ると、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO はF4.0であるのに対して、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROはF2.8のより明るいレンズだ。もちろん通常の風景撮影など被写界深度を深める意図を持った上である程度絞りを絞り込んで行うような撮影では、開放絞り値の違いはさほど影響はない。しかし夜景撮影や星景撮影など微少な光を取り込む必要がある撮影ではM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの明るさは極めて有利となる。ただしF2.8を実現するためにもレンズの前玉は「出目金レンズ」とも形容される所以となっているドーム型の張り出し形状となっており、マイクロフォーサーズのレンズの中では特筆するほど大きく重いレンズであるのみならず、レンズ前にねじ込み式フィルターを装着することができないといった制約がある点は考慮が必要だ。
一方、M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO は開放絞り値をF4.0に抑えていることで、レンズ全体が小型軽量化されているのが一番の特徴だ。さらに使用してない時には鏡筒の長さを縮めることができる沈胴機構を採用することで、携行時のダウンサイジングを可能としている。さらに一般的なレンズと同様にねじ込み式フィルターを装着することもできるので、広角レンズにおいても手軽にフィルターワークを楽しめる点も嬉しい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
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OM SYSTEMの全交換レンズのなかで魚眼レンズを除き最も焦点距離の短いレンズ。35mm判換算14mm相当となる広い画角でありながら、画面周辺まで歪みがなく解像力も極めて高いハイエンドに相応しい超広角ズームレンズ。コマ収差や色収差も徹底的に抑えられており、風景撮影から夜景、星景撮影まで圧倒的な表現力で作品制作を支えてくれる。ただしF2.8の明るい開放絞り値となっていることもあり、出目金レンズと称されるドーム型の前玉となっているため取り扱いには注意が必要。
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■撮影環境:F16 30秒 ISO200 絞り優先モード +0.7EV WBオート-5STEP(G) 仕上がりモードVivid MF
■撮影地:北海道室蘭市
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■撮影環境:F5.6 1/400秒 ISO200 絞り優先モード WB晴天 仕上がりモードi-Finish S-AF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:小笠原諸島母島
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■撮影環境:F5.6 1/1000秒 ISO200 絞り優先モード WB晴天 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:北海道利尻島
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■撮影環境:F2.8 8秒 ライブコンポジット撮影225コマ ISO1600 マニュアルモード WB4200K 仕上がりモードVivid MF
■撮影地:岩手県奥州市
■撮影協力:国立天文台水沢VLBI観測所
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
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35mm判換算で広角16mmから標準50mm相当までを1本でカバーするズームレンズは、日常での撮影からプロの業務使用においても便利に使える画角を持つ、とてもユニークなレンズといえる。レンズの解像力は全焦点距離において高く、作品制作での使用にも十分に応えてくれる。ただし絞りをF16以上に絞ると小絞りの影響が出てくるので絞りすぎには気をつけたい。特筆すべきは開放絞り値をF4.0に抑えたことにより411gの軽量さを実現していることと、幅広い焦点域のズームレンズでありながら沈胴式の鏡筒を採用したことにより携行時はコンパクトなサイズに収めることができる点だ。これらのメリットを鑑みると、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8よりも現実的な選択肢と考えることもできるだろう。
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■撮影環境:F5.6 2秒 ISO200 マニュアルモード WBオート 仕上がりモードVivid S-AF 静音+単写 S-IS AUTO ライブND32
■撮影地:千葉県鴨川市 四方木不動滝
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■撮影環境:F8.0 1/160秒 ISO200 絞り優先モード WB晴天 仕上がりモードNatural S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:沖縄県石垣島
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■撮影環境:F5.6 1/640秒 ISO200 絞り優先モード+0.3EV WBオート 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:沖縄県石垣島
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■撮影環境:F5.6 1/1250秒 ISO400 絞り優先モード WBオート 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:沖縄県与那国島
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
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画角にして最大180度の範囲を撮影できる単焦点対角魚眼レンズ。通常の広角レンズでは捉えきれない広い範囲を画像に収めることができるのが魚眼レンズの魅力だ。ただし極端なデフォルメがなされるため被写体の選び方と構図構成には慣れが必要。風景撮影の場合は基本的には水平線を画面中央に据えることで違和感を抑えることができる。さらに天空に向けることで全天を収めることも可能だ。開放絞りがF1.8という明るさと共に星景撮影でも威力を発揮する。
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■撮影環境:F5.6 1/800秒 ISO200 絞り優先モード WBオート 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:沖縄県石垣島
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■撮影環境:F5.6 1/250秒 ISO200 絞り優先モード+1.3EV WBオート 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:沖縄県波照間島
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■撮影環境:F5.6 1.2秒 ISO200 絞り優先モード WBオート 仕上がりモードVivid S-AF+MF 単写 S-IS AUTO
■撮影地:東京都中央区
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■撮影環境:F1.8 15秒 マニュアルモード ライブコンポジット撮影206コマ ISO1600 WB4800K 仕上がりモードNatural 星空AF+MF IS-OFF
■撮影地:北海道利尻島
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROはOM SYSTEMの対応カメラに搭載された[フィッシュアイ補正撮影]機能を適用することで、デフォルメされた歪みを補正し魚眼効果なしの超広角レンズで撮影した画像のように記録することができる。これを利用することで、35mm判換算にして焦点距離11mm、14mm、18mm相当のレンズと同様となる。たとえばM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの7mm(35mm判換算14mm相当)では収めきれない被写体をフィッシュアイ補正撮影画角設定1(11mmモード)で撮影することで画角に収めることもできる。実はこの機能がとても便利かつ実用的なので筆者は日頃から利用している。ただしフィッシュアイ補正の効果はJPEG記録された画像にのみ適用されるので注意が必要だ。(RAW画像はOM SYSTYEMのRAW現像ソフトOM Workspaceにて補正可能)
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROでのフィッシュアイ補正撮影機能例
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M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
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35mm判換算34mm相当の単焦点広角レンズ。開放絞り値がF1.2と極めて明るく、低照度下でも光を多く取り入れることができると共に、ごく浅い被写界深度ではぼけを活かした印象的な撮影が可能。更にあえて滲むようなぼけ味を生み出す設計を取り入れることで、柔らかで滑らかな描写としていることから、女性ポートレイト撮影では絶妙な印象の画像を得ることができる。高い解像力と組み合わせることでフォーカスを合わせた箇所はキリッとした描写でありながら、周縁は溶け合うような描写にすることも可能。被写体に対する光の方向を見極めながら、順光・逆光と撮り分けることで印象が大きく変わる面白さを味わっていただきたい。
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■撮影環境:F1.2 1/1000秒 絞り優先モード+1.7EV WBオート ISO200 仕上がりモードNatural S-AF IS-AUTO
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■撮影環境:F1.6 1/250秒 マニュアルモード WBオート ISO800 仕上がりモードNatural S-AF IS-AUTO
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■撮影環境:F1.2 1/30秒 絞り優先モード+2.0EV WBオート ISO200 仕上がりモードNatural S-AF IS-AUTO
■撮影協力:北海道立総合博物館 北海道開拓の村
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■撮影環境:F1.4 1/2500秒 絞り優先モード+1.0EV WBオート ISO200 仕上がりモードNatural S-AF IS-AUTO
■撮影協力:北海道立総合博物館 北海道開拓の村
次回はPROレンズ望遠域レンズ編
PROレンズシリーズの広角レンズは、いずれもとても個性的なレンズだ。超広角レンズでありながらF2.8という明るさであったり、日常的に使用頻度の高い広角から標準域を一本のズームレンズでカバーするなど、ユーザーが求める物を具体化している。また広角レンズとしては珍しくポートレイト撮影を前面に押し出した「ボケの質」にこだわる単焦点レンズなどは強烈な個性といえるだろう。PROレンズだからと画質一辺倒ではないこれらのレンズを、ユーザーは的確に選ぶことが求められるといっても過言ではない。
さて今回は広角域のレンズを紹介したが、次回はいよいよマイクロフォーサーズが得意とする望遠域画角のレンズを紹介する。まさに真骨頂とも言える超望遠の世界を楽しみにしていただきたい。
なお今回取り上げた各レンズの詳細な情報は過去の記事にてレポートしているので、気になるレンズがあればぜひこちらを参考に最適なレンズを見つけていただけると幸いだ。
■モデル:夏弥
https://ameblo.jp/beautiful-summer12/
■撮影協力:国立天文台水沢VLBI観測所
https://www.miz.nao.ac.jp/vlbi/mizhome.html
■北海道立総合博物館 北海道開拓の村
https://www.kaitaku.or.jp/
■写真家:礒村浩一
広告写真撮影を中心に製品・ファッションフォト等幅広く撮影。著名人/女性ポートレート撮影も多数行う。デジタルカメラ黎明期よりカメラ・レンズレビューや撮影テクニックに関する記事をカメラ専門誌に寄稿/カメラ・レンズメーカーへ作品を提供。国境離島をはじめ日本各地を取材し写真&ルポを発表。全国にて撮影セミナーも開催。カメラグランプリ2016,2017外部選考委員・EIZO公認ColorEdge Ambassador・(公社)日本写真家協会正会員