『OM SYSTEM M.ZUIKO DIGITAL PROレンズセレクトガイド 現行ラインナップ全レンズの特徴と使い所を解説』第三回 望遠焦点距離域レンズ編
はじめに
OM SYSTEMのPROレンズを紹介するこの企画も今回で三回目。これまで標準域と広角域のレンズの特徴と使い所についてお話ししてきたが、この最終回ではPROレンズシリーズの望遠域レンズについてその特徴と使い所について、実写作例とともに解説しよう。
ところでマイクロフォーサーズ規格を採用したカメラでは、センサーサイズの関係からレンズの実焦点距離数を2倍とした数値が、35mm判フルサイズセンサーを採用したカメラでの焦点距離数のレンズと同等の画角となる。これにより焦点距離100mmのレンズは、35mm判換算にして200mmレンズとして用いることができる。なお一般的に望遠レンズでは焦点距離が大きくなるに伴いレンズ全体が大きく重くなることから、どうしても撮影時の負担は大きくなってしまう。
一方マイクロフォーサーズ用レンズでは、フルサイズ用レンズにして1/2の焦点距離のレンズでも同等の画角が得られることから、サイズ・重さともに撮影時の負担が大きく軽減されることになる。これがマイクロフォーサーズ規格は望遠撮影においてメリットが大きいと言われる所以だ。この特徴を最大限活かして35mm判換算にして最大1000mm相当となる超望遠効果を持つレンズまでもラインナップされている。このことからも、OM SYSTEMが望遠域でのレンズ展開を重視していることが判るだろう。
PROレンズ 望遠域編
PROレンズシリーズには望遠焦点距離域をカバーするズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO」の三本と、単焦点レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO」「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」の三本がラインナップされている。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROはいずれも35mm判換算で80mmから300m相当までをカバーした焦点域を持ったズームレンズとなっているが、開放絞り値がそれぞれF2.8とF4.0と異なる設定とされていることで、それぞれが独立した設計思想を持ったレンズであることがわかる。M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROは2014年に発売された製品であり、既に10年以上にわたりPROレンズの代表的な一本となっているが、そこに新たなレンズとして2022年にM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROが発売された経緯があることを考えると、より軽量かつコンパクトな製品がユーザーに望まれていることがわかる。
一方、ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROはレンズ本体内に切り替え式の1.25倍テレコンバーターを組み込むことで、レンズ単体にて最大で35mm判換算1000mm相当となる超望遠撮影を可能にした野心的なレンズとなっている。それまでOM SYSTEM/OLYMPUSの交換レンズには、PROレンズ・スタンダードレンズを含めてもレンズ単体ではM.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 ISが最も望遠となるレンズであったが、ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PROは超望遠撮影時における画質低下を最小限に収めるなど最新の設計を導入したうえで、プロユースを前提とした初めての超望遠ズームレンズとして登場することとなった。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
PROレンズ登場初期に発売され、現在でも代表的なレンズとして人気のレンズ。35mm判換算で80~300mm相当と使用頻度の高い焦点域をカバーしていることからもさまざまな被写体に適している。トルク感の高いズームリングは操作性も良い。開放絞り値はF2.8と明るく、限られた明るさの下でも速いシャッタースピードを得ることができる。また望遠域での焦点距離と被写界深度の浅さの掛け合わせによる前後ボケを活かしたポートレート撮影などにも最適だ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
35mm判換算で80~300mm相当となる望遠ズームレンズ。同じ焦点距離を持つM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROとの大きな違いは開放絞り値がひと絞り暗いF4.0であることだ。それによりレンズ全体の大きさと重さを抑えたうえ、沈胴式の鏡筒を採用することで携行時にはさらにコンパクトにすることができる。まさに機動性重視の設計だといえる。それでいてレンズの基本画質はM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROにも引けを取らない。ユーザーはレンズの明るさを優先するか、レンズの小ささと軽さを優先するかにより、いずれかのレンズを選択するとよいだろう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
PROレンズのなかで最も長い焦点距離を持つズームレンズに内蔵1.25倍のテレコンバーターを組み合わせることで、35mm判換算にして300mmから1000mmまでをこのレンズ一本でカバー。これにより自在に画角を変化させながら超望遠撮影を行うことができる。予測し難い動きを繰り返す鳥・動物の撮影やスポーツの撮影、車や飛行機の撮影など機動力を必要とする撮影で真価を発揮するレンズだ。そのうえズーム全域で最短撮影距離が1.3mと短いので、クローズアップ撮影も可能であるなど使い勝手がとても良い。レンズ構成には大口径EDAレンズやスーパーEDレンズなどを採用すると共に 「Z Coating Nano」と呼ぶ高性能なレンズコーティングを施しており、大口径の超望遠レンズでありながら諸収差やフレアを極限まで抑えることで、レンズ解像度も極めて高い。高い解像力を必要とする風景撮影においても力を発揮することができるレンズだ。何より1000mmクラスの超望遠レンズでありながら、強力な手ぶれ補正機構により手持ち撮影が可能であるなど、これまでの常識を覆すレンズだ。唯一の欠点は価格だがマイクロフォーサーズ規格のメリットを最大限引き出してくれるレンズであることを考えると、このレンズを選択する意味はとても大きい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
35mm判換算600mm相当の超望遠単焦点レンズ。2016年に発売され現在までロングセラーとなっており、解像力の高さには定評のあるレンズ。シンプルなデザインの鏡筒は組み込み式のフードと合わせて高級感が高い。レンズ内に手ぶれ補正機構が搭載されており、対応カメラとの組み合わせで「5軸シンクロ手ぶれ補正」となり最大6段分の手ぶれ補正が可能。600mm相当の超望遠ながらフルサイズ用600mmと比べてとても小型なので、機動性が求められる撮影に最適。さらにテレコンバーターMC-14/MC-20との併用も可能で、MC-20との組み合わせでは最大1200mm相当にまで拡張できる。
M.ZUIKO DIGITAL ED 45mm F1.2 PRO
35mm判換算90mm相当の単焦点中望遠レンズ。高い解像力とぼけの柔らかさを両立させた個性的な描写が特徴。中望遠の画角と開放絞り値F1.2の組み合わせが生み出す極めて浅い被写界深度を活かしたポートレート撮影が楽しめる。同じくPROレンズのF1.2シリーズ M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO、M.ZUIKO DIGITAL ED 25mm F1.2 PROと合わせて楽しみたい。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
最大撮影倍率が35mm判換算 2倍相当となるマクロレンズ。S-MACROモードであれば35mm判換算4倍相当に、さらにテレコンバーターMC-20との併用で8倍相当となるほど驚きのマクロ撮影が可能。そのうえ画像周辺にいたるまで極めて高い解像力を発揮する。同時にアウトフォーカスとなる前後はとても柔らかな描写となり至極のマクロレンズと言っても良いだろう。さらに強力な手ぶれ補正機構が搭載されていることで、通常はしっかりと固定しなければ難しいマクロ撮影でさえ、手持ち撮影を可能としている点も驚きだ。マクロ撮影を愛する方はぜひこのレンズを試していただきたい。
PROレンズシリーズに属する望遠レンズはいずれも実用性と高い画質を兼ね備えた製品だ。マイクロフォーサーズ規格の特性となる小型軽量化の恩恵も大きく、超望遠であってもフルサイズ用の同焦点距離レンズと比べるとおよそ半分の大きさや軽さである点は機動性の面で何物にも替え難いメリットだ。それでいて画質には一切の妥協はなくプロユースには欠かせない高い解像力を持っている。
AFの精度およびフォーカス追随速度も高いレベルを誇っており、特に近年大きく進化した被写体認識を活かした被写体追尾においても最適化がなされていることで、ほとんどの被写体で被写体認識による自動追尾を実用レベルで実現している。あとは撮影者が求める焦点域に合わせて的確に各レンズを選ぶことで、ベストな撮影を行うことができるはずだ。さらにマクロの世界から35mm判換算1000mmの超望遠の世界までを、強力で精密な手ぶれ補正機構により手持ちでの撮影を可能とするシステムは、これまで以上に撮影可能領域を大きく拡大してくれるはずだ。
なお今回取り上げた各レンズも詳細な情報は過去の以下記事にてレポートしている。気になるレンズがあればぜひこちらを参考に最適なレンズを見つけていただけると幸いだ。
被写体の魅力を余すことなく表現するOM SYSTEM PROレンズシリーズ
今回、「標準焦点距離レンズ編」「広角焦点距離レンズ編」「望遠焦点距離レンズ編」の三回に分けてOM SYSTEM PROレンズシリーズを紹介したわけだが、PROレンズが持つ画質の高さと幅広い焦点距離設定はプロユーザーの高いレベルでの要求に的確に応える製品であると同時に、一般ユーザーにとっても実用的な選択肢となっていることをあらためて確認することができた。
もちろん写真における表現手法は画質のみに縛られるものではないが、被写体の魅力を余すことなく写真として表現するためにはよりよい性能のレンズを的確に選択する必要がある。そのためにもマイクロフォーサーズ規格におけるPROレンズの存在意義はとても大きいと考える。このレンズセレクトガイドをご覧いただき、心惹かれるレンズがあれば、ぜひカメラ店などで実際にレンズを手に取ってみていただきたい。そこにはきっとワクワクするような世界が拡がっているはずだ。
■撮影協力:
ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム
https://saitama-criterium.jp/
K.S JAZZ DANCE FACTORY
https://ks-dance.com/
SwingCrystal Orchestra
http://swingcrystal.g2.xrea.com/
北海道立総合博物館 北海道開拓の村
https://www.kaitaku.or.jp/
■モデル:夏弥
https://ameblo.jp/beautiful-summer12/
■写真家:礒村浩一
広告写真撮影を中心に製品・ファッションフォト等幅広く撮影。著名人/女性ポートレート撮影も多数行う。デジタルカメラ黎明期よりカメラ・レンズレビューや撮影テクニックに関する記事をカメラ専門誌に寄稿/カメラ・レンズメーカーへ作品を提供。国境離島をはじめ日本各地を取材し写真&ルポを発表。全国にて撮影セミナーも開催。カメラグランプリ2016,2017外部選考委員・EIZO公認ColorEdge Ambassador・(公社)日本写真家協会正会員