まるで自然環境で撮影したかのような写真が撮れる?美しくインパクトのある動物園撮影テクニックをご紹介
はじめに
皆さんこんにちは。写真家の虫上です。私は普段複数のテーマの写真を撮影していますが、その中でもShaShaで連載となった全国水族館巡り記事では水族館撮影に特化した表現方法をお見せしました。水族館での撮影は大きく分けて水族館の生き物を表現する方法と、生き物だけに焦点を当てた方法とで大きく二つにわかれると思います。
▼全国水族館巡り連載記事はこちら
https://www.kitamura.jp/shasha/recommendation/aquarium-tour/
今回紹介する動物園での撮影では、人工物はなるべく写らないよう動物だけに焦点を当てて、まるでサファリパークや自然の中で撮ったような撮影方法をご紹介します。水族館の生き物と比べて被写体のサイズが大きい「動物」の撮影は、周りの人工物が目立ちすぎて動物園で撮影したイメージが強く出ることが多いので、そうならない表現方法をこの記事で解説できたらと思います。
動物園撮影について
動物園は世界中に生息する動物が近くで観察できるとても貴重な存在です。下の写真は猿の仲間であるワオキツネザル。寒い時期になり猿団子を屋根の上で形成していたところを撮影しました。この写真はできるだけ屋根の部分が写らないようフレーミングしています。このように来園する季節によって様々な作品が撮影できるとても素晴らしい場所です。
動物園撮影で便利な機材
動物園は各県に数か所しか無いところが多く、中には設備が古く、細かいケージメッシュで囲まれた展示が多い動物園がまだまだ沢山あります。作例のようにメッシュを逆にデザインのように利用して作画することもできますが、今回は自然の中で撮影したような写真を目指すので、できるだけフェンスなどの人工物をとりのぞいた作画を心がけます。そうした時には手前の網などをぼかすことのできる、明るい望遠ズームレンズが特におすすめです。
カメラ本体については特に指定はありませんが、動物撮影ですから微妙なタイミングでも確実にシャッターが切れる、使い慣れたカメラがおすすめです。また、基本的に動物園では三脚は使用できませんので、ボディに手ブレ補正機能のついたミラーレスカメラならより安心です。
筆者が愛用しているのは、カメラ本体に手ブレ補正機能がついたOM SYSTEMのミラーレス一眼、OM-1 Mark II。従来機のOM-1から手ブレ補正アルゴリズムを見直し、更に進化した最大8.5段の補正効果を実現した最新機種です。なんと10秒を超える手持ち長秒撮影も可能となり、星景写真も手持ちで手軽に撮影することができるようになりました。
動物園にはケージメッシュや柵などが邪魔をすることが多々ありますので、望遠レンズを使用してメッシュ部分などをぼかして目立たなくさせることが多いです。筆者が一番よく使用するレンズは望遠ズームレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO。35mm判換算で80-300mm相当になります。F2.8通しの明るさを誇り、前ボケや後ろボケも美しく表現でき、1.4倍や2.0倍のテレコンバーターも使用可能。三脚座も取り外すことができ、軽量なため動物園撮影には必ず持参しています。
もう一つ常用しているレンズは、高倍率ズームレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO。35mm判換算で24-200mm相当、遠近の幅広い焦点距離をF4通しでカバーしたレンズです。動きの速いリスなど動物の機敏な動きにも対応でき、シャッターチャンスを逃すことなく撮れるので重宝しています。メッシュや柵などが無い、触れ合える動物園ではこのレンズの方が出番が多くなったりします。
動物撮影のテクニックあれこれ
輝いて見える瞬間を切り取る
動物をよく観察していると、とても生き生きとして輝いて見える瞬間があることに気がつきます。それは目の中にあるキャッチライトであったり、可愛らしさであったり、カッコいい姿かたちであったりと様々です。気に入った被写体はゆっくりじっくり観察してチャンスをうかがいましょう。
孔雀が羽を広げた瞬間を撮影。動物園にいる孔雀はこの二種類が多く、ここ、岡山県の「渋川動物公園」は春に来園するとこのように羽を広げた瞬間を撮影できます。一度羽を広げると暫くの間は広げたままになるので撮影はしやすいです。まるで写してくれ!といわんばかりのパフォーマンスですね。また、羽を広げると背景が目立たなくなるメリットがあります。
冬、北の国の狐村では雪の中で休んでいる狐をよく見かけます。雪で背景が簡素化できているのでとても絵になります。狐村などではこのようなチャンスが多くあります。
大空を羽ばたく二羽のルリコンゴウインコ。左下に雲のみを入れることで空の上を飛んでいるような印象に。
頭の部分がとてもユニークなパプアニューギニアの森に暮らす世界最大のハト、オウギバト。森の中の日陰で暗い場所に居ることが多く、目立たないのでうっかり通り過ぎる事が多いのですが、写真に撮ると顔の部分がとてもフォトジェニック。森の茂みの背景を玉ボケにしてみました。
同じ場所で背景やカメラアングルを変えて、鳥の目の部分を前ボケにしてみると全く違う印象に。
真正面のインパクトを狙う
動物たちの顔はみんなユニークですが、真正面からの視線はとてもインパクトがあります。ぜひ、正面に向いた時のシャッターチャンスを狙ってみてください。
オオカミの目を開けた正面の写真。貫禄があります。
一方で、目をつぶるととても優しい表情に。
こちらはハシビロコウの真正面左部分の顔だけで表現してみました。目を空けているときと閉じているときの違い。
レッサーパンダの真正面。こちらはどの角度でも可愛らしい表現になりますね。
正面より横顔の方が絵になる動物たちもいます。こちらのヤギさんは横顔が良いなと思い、前ボケ、後ろボケを意識してファンタジックな雰囲気に。
神戸動物王国のように触れ合える動物園ではじっくり粘っていると様々な被写体に近くまでアプローチでき、背景はもちろん、様々な角度や向きで撮影できます。
光と影など自然現象を利用する
写真は光が無いと絵になりませんが、この光を利用するととても印象的な作品を作り上げることができます。なかでも斜光線が入り込むと光の反対方向に影が出ますから、被写体に立体感を生み出すことができます。
建物だらけの動物園でも時間帯によって、光と影を意識して作画することができます。
この孔雀のように特徴のある姿をした動物は影だけでも絵になることがあります。
こちらは雨に打たれているかのようなハシビロコウ。実は真夏の温室内でシャワーで水を降らせていました。上部から太陽光が差し込んでいたので背景も黒くでき、手前に植物の前ボケを入れることでより自然な感じに表現できました。
反射率の高い白い鳥は、露出補正をマイナスにすると上の写真のように背景をより真っ黒にすることができます。背景が少し暗い場所を選ぶのがポイントです。
こちらも背景が暗い場所での撮影。左から太陽光が差し込んでいたので右半分を影にして表現しました。顔半分を見せてもう半分を見せないことで、美しいながらも怖い印象を与える表現に。
こちらのフラミンゴの写真は広島県の「福山動物園」で夕方に撮影したものです。上のペリカンの時のような強い光でなく、優しい夕方の光が斜め左から当たっていたのでとても雰囲気の良い表現になりました。フラミンゴの視線と少し見える口元に惹かれてシャッターを切りました。
春は動物たちの出産ラッシュの時期です。この子羊はとても変わった模様でしたので木の影をアクセントにして作画してみました。
個性を生かした作画
容姿がとても個性的な動物たちも世の中に多々存在していますが、部分的に切り取ることでより印象的になったりします。
爬虫類科の動物でもワニの目はとても印象的です。映画などにもこのような目の部分の表現を使われたりしますね。
カメレオンはとても色彩がユニークです。
七面鳥の横顔は魔女のようにも見えてとてもインパクトがありますね。
カンガルーの赤ちゃん。親のお腹から出ていたところを撮影しました。親のお腹をどれだけ入れるかがポイントです。
可愛らしく優しい印象の動物は背景を明るく綺麗に見せて、コミカルに見える瞬間を狙うと良いと思います。こちらは「旭山動物園」のキングペンギン雪中お散歩イベントでのショットです。
動物以外にもこんな珍しいものを見つけられるのも動物園ならでは。この卵から何が生まれてくるのか想像できるように、周りの植物を取り入れて撮影しました。
おわりに
いかがでしたでしょうか。人工物が沢山ある動物園でも、できるだけ取り入れずに季節感や植物、光や影を意識しながら撮影すると自然の中で撮影したような写真にすることができます。
今回は作例にインパクトのある、印象的な作品ばかりですので単写真のフォトコンテスト等に挑戦される方には特に参考になったのではないでしょうか。涼しくなるこれからの秋から春にかけての季節は絶好の撮影場所だと思いますので、ぜひ皆さんも近くの動物園に出かけてみてください。
■写真家:虫上智
1968年岡山県生まれ。高校を卒業後、写真家 緑川洋一氏に師事。地元のカメラ店で撮影業務などを学び2000年に独立。現在はスタジオ撮影、フォト講座、執筆、フォトコン審査、講演等を受け持つ。ライフワークでは心象風景、自然写真、水中写真を撮影。
日本写真家協会(JPS)会員、日本写真講師協会 認定フォトインストラクター、OM SYSTEMゼミ講師、フォトカルチャークラブ講師、フォトマスターEX(総合)一級