思い出の詰まったカメラ「リコー GR」| 佐々木啓太
はじめに
今回紹介するのはRICOH GRです。2013年発売で同シリーズのデジタル世代で初のAPS-Cサイズのセンサーを使ったカメラになります。
主な仕様
・撮像素子:APS-Cサイズ相当の有効1,620万画素CMOS
・アスペクト比:3:2
・レンズ:28mm相当F2.8
・手ブレ補正:なし
・外形寸法:117x61x34.7mm
・撮影時質量:245g
外形寸法は、35mmフィルムを使用するシリーズ第1号機「GR1」(1996年10月発売)と同寸で、ひとつ前のGR DIGITAL IV(1/1.7型CCD)からのサイズアップは幅8.4mm、高さ1.2mm、奥行き2.2mmとなっていました。
きっかけはレンズ
このカメラに初めて触れたのは2013年5月に竹芝で開催された「GR」体感&トークライブの会場でした。それも一般の皆さんと同じ観客として参加しました。当時はすでにカメラ雑誌などでプロとして執筆活動もしていましたが、GRとはあまり縁がなく一般の皆さんと同じタイミングでしたが、この会場に行きたいと思ったのは新規設計のレンズが気になったからです。
レンズ構成は非球面レンズ2枚を含む5群7枚。新規設計により小型化と高性能化を両立したレンズで画像エンジンによる歪曲補正は従来通り行なっていない、というのが謳い文句でした。画像エンジンによる補正なしで歪みを全く感じないことが気になって、実機に触れたいと思い小雨のなかを出かけて、プリントされた作例を見ながら改めてレンズの良さを実感したのを覚えています。
使って感じた衝撃と難しさ
上の写真のように細かいタイルの目地を見ても画面の周辺までほぼ歪みを感じません。画像処理を使わないでこの描写をこのサイズのレンズで実現していることには衝撃を覚えました。しかし、同時にこの歪みのなさが難しさになるとも感じました。広がりだけを考えると少し歪みがあったほうが良いときもあります。
実はGRを使ったのはこのカメラが初めてでした。フィルム時代から街角写真と呼ぶ、なにげない片隅が中心のモノクロ写真を街中で撮り歩いていましたが、昔からなぜかGRには縁がなかったんです。当時は50mmの単焦点レンズがもっとも好きなレンズで、28mmの画角に苦手意識を持っていたように思います。その苦手意識がこのレンズの描写力の高さで少し思い出されたというのもこのカメラとの楽しい思い出になっています。
苦手意識の克服はデジタルエフェクトの力を借りて
苦手意識を少しでも緩和するために、このとき考えたのはデジタルエフェクトを活用することでした。この当時はまだデジタルエフェクトに対する考え方もまちまちで、ちょっと邪道という方もいらっしゃったように思いますが、個人的には積極的に使っていました。
セピアは別にして、ハイコントラスト白黒はある意味ではGRの定番と言われそうなデジタルエフェクトですが、使ってみると安心感があり、やっぱりこれだよね。と、納得できるものがありました。その納得感が妙に気になって強めのオーバー露出で自分にあった設定を模索し始めるとGRが少しづつ手に馴染んで来るようになりました。
オレ流のクロスプロセス
GRでもっとも定番になっているのが、自分流にカスタマイズしたクロスプロセスです。特徴はコントラストが高く黄色が強くでることです。
ケイタ流クロスプロセスの設定
色調 イエロー / 彩度 9 / コントラスト 8 / シャープネス 5 / 周辺減光 弱 / WB マルチパターンAUTO A:7 M:3
独特な色調とコントラストの強さで暗部は潰れたようになることもしばしばですが、そんなことを気にせずしっかりとアンダー気味にするのが使い方のコツです。暗部の締まりが画角の広がりに程よい締まりを与えてくれます。
まとめ
ちょっと語弊はありますが、私にとってGRは決してメインにはならないカメラです。それでもちょっと持っていたいかも。同時にそんなことを感じるカメラでもあります。これは多くの皆さんに共通することでもあると思います。そうでなければ、これほど根強い人気があるはずがないです。そして、日本の工業プロダクトとしては珍しくそのデザイン的なフォルムやコンセプトが何十年もほとんど変わっていないのもオンリーワンな存在でしょう。そして、このカメラのおかげで GRist の末席に座らせていただくことができたのが個人的にはもっともうれしい思い出です。
■写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。