リコー GR IIIレビュー|小さなボディに詰まった多彩な機能で日常を切り取ろう
はじめに
フィルムカメラの頃から瞬間を切り取るスナップシューターとして定評のあるリコー GRシリーズ。携帯性の良いサイズ感であることから女性にも人気が高いそう。いわゆる「高級コンデジ」と言われるGR IIIには一眼レフに匹敵する魅力的な機能がたくさん詰まっています。
発売されてから約2年になるGR III。その間、日常のテーブルの上から海外旅行まで使用してきた筆者のよく使う機能設定やイメージコントロールなどをご紹介したいと思います。
よく使う機能をレバー、ダイヤル、ボタンに割り当てる
コンパクトカメラと思えないほど機能が豊富なので、撮影時にわざわざメニューの中を探らなくても必要な設定がすぐ変更できるよう、よく使う機能をボディの外側にあるダイヤル、ボタン、レバーに設定しています。
■ADJレバー:筆者はイメージコントロール、アスペクト比、測光モード、記録形式、フォーカスの5項目を割り当てています。
■Fn.ボタン:クロップ機能を割り当てています。ボタンを押下するたびに28mm、35mm、50mmと切り替わります。
■USER設定:MENUの「静止画設定画面」からフォーカス設定、スナップ撮影距離、測光モード、NDフィルター、イメージコントロール、タッチAFなど自分好みの設定を全て反映し、6種類登録可能。
登録した中から3つをダイヤルのU1~3に割り当てることができます。
ここまで設定してしまえば、その日の天候、光の強弱、被写体、によってWBの調整と、露出補正を行うだけであまり細かい事を気にせずに撮影に集中できます。
レスポンスのいい起動とタッチAFはテーブルフォトでも活躍
突然のシャッターチャンスを逃がさず撮影できる約0.8秒の起動とコンパクトなボディサイズは、スナップ撮影だけでなくテーブルフォトでも優位。食事を前にして一眼レフを構えるのは何かと人目も気になる上、料理を提供してもらうというシーンを考えれば少々ナンセンスかもしれません。そんなシーンでもGR IIIは最適なカメラとして応えてくれます。
狭いテーブルでも邪魔にならないサイズがGR IIIの良さ。オートAF設定からモニター画面をタッチすることでタッチAFに切り替わるので、ピントを意図したところへすぐ移動させ、サッと撮ってお料理の冷めないうちに頂く。それこそが、料理写真の極意です。
単焦点レンズ+高画質センサーだから可能なクロップモード
明るいF値、広角28mm単焦点レンズが魅力のGR III。ズームができないと言われますが、クロップ機能を使えばGR IIIを使うシーンの想定内でほとんどの物が撮影可能だと言えます。
私がよく使うのは50mmクロップ。28mmの約1.8倍となり、いわゆる標準ズームレンズの画角です。広角レンズの歪みがなくなり、被写体に正対できるのでポートレート撮影にも向いています。
小さなボディだから、モデルさんに近づく時もお互いに表情が見て取れ、会話を楽しみながらの撮影ができて安心です。安定した光源さえあれば物撮りにも最適。
クロップはいわゆるデジタルズームですが、50mm時最大7Mb /長辺3360pixelで画質を損なうことなく、A4サイズのプリントでも十分な画質が得られます。
6cmまで寄れるマクロモードで美しいボケの表現
コンパクトカメラでボケの表現はなかなか難しいものですが、マクロモードではGRレンズと2,400万画素の高画質センサーの威力感じます。マクロモードはレンズ先端から6~12cmの範囲でピントが合焦。ただ寄れるだけでなく、クロップ50mmとの相性が抜群で、玉ボケ、前ボケ、背景ボケなど美しくぼかすことができます。
スマートフォンのカメラで背景画像処理が優秀になったとはいえ、このボケ感は得られないもの。傘の縁にピントを合わせたことで画面奥の街中の明かりが彩りのある玉ボケとなりました。
コートに着いた雪。東京で降る雪は水分が多すぎてキレイな結晶は見えませんが、ここまで写すことができました。水滴も小さな玉ボケになっています。雨や雪が降っても、傘の下片手でちょっと撮影できるサイズ感がGR IIIの良いところ。
ちなみに、マクロモードと通常モードの切り替えは手動のみ。背面のマクロボタンをひと押しして切り替えます。マクロモードのままでは無限遠にはならないので覚えておきましょう。
イメージコントロールをカスタマイズしてこだわりの色づくり
モノクロ4種、カラー7種(+カスタマイズ2種)のイメージコントロールは、被写体によって選ぶ楽しみがあり、さらに、それぞれの色をパラメーターで詳細に調整できます。色を作り込んで自分らしく表現する楽しさも特徴的です。ここでは筆者の設定を少しばかり紹介いたします。
<スタンダード>
鮮やかさもありながら階調を損なわないのがスタンダード。できるだけ忠実かつ、イメージに相応しく仕上げたい時の設定で、抜け感と透明感に重きを置いた設定にしているので私の中で〝さわやか〟と命名しています。
飽和しやすい赤や黄色がメインの場合には彩度は0~+2の間で微調整。明るい被写体の時にはハイライト補正オンにしておくことで効果が発揮されます。
<レトロ>
筆者がGR IIIを手にしてまず気に入ったのがレトロ。その名の通り、下町の商店街や町工場、廃墟などの懐かしさを感じる被写体にしっくりとハマります。また、夜の人工光で使用すると柔らかくふんわりとしたムードのある表現が可能なので、ぜひ試して頂きたいイメージコントロールの一つ。ただし、デフォルトの設定のままだと眠たい印象が強いのでコントラストとシャープネスを調整しています。
昭和を醸し出すトタンも、路地裏のネコもどこか寂しげ。こんな時はやはり明るい色よりは雰囲気を優先してレトロを選びます。
<クロスプロセス>
GRならではの色とも言えるクロスプロセス。独特な色転びをするモードですが、原色はより印象的で鮮やかに発色する面白さがあります。夏空や強い日差しの下使うことが多い色です。快活で元気なイメージに仕上げたい時に使っています。
青空はより青さが強調されます。下の写真は花壇を撮影したものですが、壁の黄色と花の赤が強調されアメリカンテイストのPOPなイメージになりました。色が派手過ぎると感じたら彩度はマイナスに。
紹介した3つのイメージコントロール以外にもポジフィルム調、ブリーチバイパス、HDR調などの個性的な色があります。また、PCのRAW現像では得られないGR IIIならではの色を楽しみたい方にはカメラ内RAW現像がおススメです。撮影時には「RAW+」で撮影しておき、後からカメラ内RAW現像でパラメーターを調整しながら作り込んだりすると、いろいろ試せるので自分好みの色を探るのに相応しい機能と言えます。
手持ち撮影で長秒に耐えうる手ぶれ補正
シリーズ初搭載となる手ぶれ補正はセンサーシフトタイプ。磁石の力で撮像素子を動かすことで、3軸方向の補正に対応しています(シャッター速度換算で4段の補正)。一般的に手ぶれの起きるシャッタースピードは、「1/レンズ焦点距離」を超える(それ以上に遅くなる)と言われますが、手持ち撮影でも1秒を超える露光が簡単にできてしまうことに驚きます。
街中なら、ガードレールなどのカメラを固定できる場所を利用すればさらに速度の遅いシャッタースピードで撮影が可能に。
この時役立つ機能が「ISO感度設定」の中にある「低速限界値」の設定。設定したシャッタースピードを下回ると感度が上がるというもの。ISO感度をオートにし、上下限値の幅を持たせておくことで撮影がしやすくなり、手ぶれも起こりにくくなります。私は低速限界値を1/15に設定。
この設定はスナップ撮影でも活用できるので、モーションブラー(動体をカメラで撮影した時に生じるブレ)の表現も可能です。
日中屋外でも長秒撮影を活かした撮影が楽しめます。波が寄せ返す様子は幻想的になりました。
人がカメラを構えて1秒以上震えずに止まることはほとんど無理に近いですが、手ぶれ補正の恩恵を受けることにより撮影シーンが大きく広がります。
多重露光でクリエイティブな表現を楽しむ
筆者が作品づくりに取り入れている多重露出は背面ボタンのドライブモードの中にあります。
多重露出は、1枚目に撮影した画像にさらに画像を重ねて写し込み、1つの画像として記録する撮影方法。筆者の撮影する多重露出は始めに撮影する被写体にピントを合わせ、次に撮影する被写体はマクロモードを使ってぼかす二枚を重ねる方法です。
大輪の紫陽花を引きと寄りで大小重ねて淡く優しい印象にしてみました。
おうちフォトでも多重露出が楽しめます。鈴なりになったトマトをサラダの上に重ねてみました。
様々なモノを重ね、工夫次第でカメラでしか見えない世界が生まれるのが多重露出の面白さ。あまり使用したことがない方も身の回りの被写体でぜひ一度試してみてほしい機能です。
おわりに
今回は日常の中で撮影できるシーンをメインに紹介しましたが、その他にもまだまだ使い込んでいる機能はたくさんあり、〝本当にコンパクトカメラなのか?〟と思うほど充実した機能満載のGR III。
機動性・携行性がよく、スナップ撮影に最適なカメラですが、街中を歩くのは何かと気が引ける昨今、コンパクトなサイズ感を活かし、身近な場所、身の回りにある被写体でGR IIIの機能を引き出しながら撮影に挑戦し、自由な表現を楽しんでみてください。
@kobayashikaworu_gr では、その他のスナップ写真もご覧いただけます。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。