RICOH GR IIIx レビュー|テレコンバージョンレンズGT-2でポートレートスナップを楽しむ
はじめに
焦点距離40mmレンズのGR IIIx登場に驚いた方も少なくないと思いますが、2021年11月26日にはテレコンバージョンレンズGT-2も発売され、さらに中望遠域の撮影が可能になりました。
〝GRで望遠!?〟そんな未知の領域を広角好きな筆者が実際にGT-2を装着し、ポートレートスナップを中心に撮影してきました。モデルさんとの距離感、レンズによる描写、中望遠レンズならではの表現など、実際に撮影した感触をお伝えします。
テレコンバージョンレンズGT-2について
GR IIIx専用のテレコンバージョンレンズGT-2は、ボディ(マスターレンズ)の先端部に装着する形のフロントコンバージョンレンズ(フロントコンバーター)です。レンズアダプターGA-2を使用することによりボディに装着可能になります。
【テレコンバージョンレンズGT-2の仕様】
・GR IIIx専用の1.5倍テレコンバージョンレンズ
・3群5枚のレンズ構成
・最大径:約65mm / 長さ:約45.1mm / 質量:209g
・GT-2使用の際、26.1mmの焦点距離は39.15mm相当の実焦点距離になります。
【レンズアダプターGA-2の仕様】
・最大径:約59.0mm / 長さ:約25.8mm(部分的突起含まず)/ 質量:12.5g
・テレコンバージョンレンズGT-2を自動検知。クロップや手ぶれ補正の最適化を図ります。
ボディと接続するレンズアダプターGA-2には電子接点があり、GT-2を装着すると50mmクロップの状態で自動的に認識され75mm相当の焦点距離に。ボディ側で71mmクロップすれば107mm相当の焦点距離を実現し、いわゆる中望遠レンズとなり、これらの撮影時にはEXIF情報もデータに反映されます。
GA-2は単体で使用することもでき、レンズフードの役割や、市販品の49mm径のレンズフィルターを装着可能で撮影表現の幅を広げられます。ちなみ、テレコンレンズの外側のフィルター径は62mmです。
GR IIIxボディ約262g(バッテリー、SDメモリーカード含む)にアダプターGA-2、そしてGT-2を合わせると約484g。多少重量感があり、バランスが前傾になりやすいことと、接点部に重量がかかるので撮影時にはしっかりとホールディングが必要など、取扱いには少々注意をしたいところです。
同じ撮影位置からの画角の違い
モデルさんと一緒に街中を歩く前に、同じ位置から画角の違いを撮影してみました。モデルさんまでの距離は約1.5m。75mmの焦点距離は、どちらかと言えば中望遠よりも標準レンズ感覚の使いやすさを感じ、人物を対象とすると真っ直ぐに見つめるような画角で撮影ができます。107mmを使うことではじめて中望遠らしい画角とボケを具体的に感じられるようになります。
中望遠レンズでポートレート撮影の場合は、特に周辺の情報量と人物が引き立つ背景・ボケが肝心です。背景の路面に注目してみると、よりボケ方が大きくなり人物がより引き立っていきます。
ポートレート撮影時の距離感
最短撮影距離は焦点距離75mmでセンサー面から約60cm。人物を目の前に顔全体を入れる位の距離で撮影が可能です。焦点距離107mmで全身を入れるとなると4~5mの距離が必要になります。
街中でポートレート撮影をする際4~5mの距離となると、気になるのがカメラの存在です。カメラと被写体の間をすり抜ける人や自転車・バイクなどの往来にも迷惑行為にならないよう細心の注意が必要です。
撮影中は、速やかに場所を移動したり、撮影を止めたり、こちらから挨拶したりといった周囲への配慮、気配りもスムーズにできる余裕さえ感じられました。大きなレンズを付けてカメラを構え、ファインダーの中に集中していると気が付かないことも、GR IIIxというコンパクトなサイズによって撮影者として守るべきマナーにもしっかりと配慮できる良さを実感しました。
車の通りすぎるタイミングを待ちながら、自然な表情をキャッチ。
移動中、壁に写った影をアクセントにしてニーアングルで。撮影距離は1.5mほど。ちょっと立ち止まってサッと撮る。というテンポのいい撮影がGRならではの心地よさです。
75mmでの最短撮影距離60cmでの撮影。威圧感がないので親しい仲なら近づいて1m以内の距離での撮影も。
街に溶け込み、人にも安心感を与える見た目とサイズ感はスナップにもポートレートにもジャストフィットして、撮影のしやすさを感じるはずです。
光をキャッチする大口径レンズならではの表現
大口径のテレコンバージョンレンズGT-2によって焦点距離が伸び、光を取り込む量も増えるため、いわゆる“GRぽくない”大きな柔らかいボケとソフトな描写が可能になります。このレンズは光を捉えるのが得意で、特に逆光時の描写はベールをかけたようなソフトでハイキーな表現ができます。まさにポートレート向きです。
逆光を浴びた柔らかい描写の中にも、髪の毛一本一本をしっかりと写し出してくれました。
深度の浅さを利用してモデルさんに視線を集中するように奥行きを表現。
植栽をレンズ前に位置させて前ボケに。日陰で撮影したことによって、より一層柔らかく優しい雰囲気が出ています。
夜の人工光も硬くならずにふんわりと光がよく回ります。レンズフィルターは装着していないのですが、まるでソフト系フィルターをかけたような雰囲気さえ感じます。
マクロモードに切り替えてあえてピントを外して玉ボケを捉えれば、これまで以上に大きく柔らかいボケ表現が可能です。
ここまで撮影していて、「これはコンパクトカメラ?」と一瞬信じられなくなることも。それだけ懐が広い表現がGR IIIx1台だけでできてしまうのは革新的ではないでしょうか。
遠景を引き寄せる圧縮効果を発揮
もちろんポートレート撮影以外でも大いに役立ちます。風景撮影をはじめとする遠景、高所などの撮影も軽々とできるのが望遠レンズの魅力です。公園の柵越しに遊具を撮影してみました。背景が大きく迫ってくるように引き寄せる圧縮効果も発揮されます。
高枝の紅葉の撮影でも背景のイチョウが引き寄せられ、密集した感じが出せました。紅葉一枚、一枚しっかりと細部まで描写してくれます。
自分自身がアプローチできない場所からの遠景撮影はスナップや風景などでも役立ちます。
望遠レンズがないと撮影ができない状況もテレコンバージョンレンズによって撮影可能になり、撮影シーンや被写体が広がることは間違いありません。
おわりに
コンパクトなボディが一段とパワーアップするテレコンバージョンレンズGT-2。以前紹介したGRらしいシャープな描写のワイドコンバージョンレンズGW-4(GR III専用)による超広角21mmから、GRとは思えないほど柔らかい描写の中望遠107mmまで格段に表現領域が広がりました。
GR IIIxとテレコンバージョンレンズの組み合わせは、広角レンズが苦手という人にも、ポートレートを気軽に撮りたい人にも、風景写真が撮りたい人にも寄り添ってくれるはずです。見た目に威圧感の無いサイズ、気負わず撮影できる距離、優しく包んでくれる光。それだけでも撮りたいものがより具体的になるように思いますし、日常的に撮影する機会が増える気がしました。テレコンバージョンレンズGT-2という新たな表現を手に入れることで、今までとは違う被写体を求めて撮影に出かけるのも楽しみの一つになりそうです。
■モデル:ひらまつ まな
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。