第5回フィルムカメラを始めよう!GRの歴史はここから始まった!初代GRに迫る:フィルムGR編
はじめに
こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回はフィルムカメラを始めよう!シリーズ第5回として、デジタルでも大人気のRICOH GRのご先祖様にあたる、フィルムカメラ「GR」シリーズを紹介していきます。今でこそコンパクト&高解像度で大人気のGRですが、フィルムGRはどうだったのでしょうか。その魅力を紐解いていきたいと思います。
GRのご先祖様?RICOH R1シリーズ
RICOH GRの初代はフィルムカメラですが、その前身となったモデルが存在します。それが、RICOH R1シリーズです。GRは非常に人気かつ有名なカメラになっていますが、その輝かしい歴史の裏にR1というカメラが存在します。
35mmフィルムカメラは写真を写すために必要な「パトローネ入りフィルム」以下の厚さにすることは不可能で、ボディの厚みはパトローネの外形25mm+外壁の厚さを加えた30mm以下にすることは難しいとされていました。その限界に挑戦したカメラが1994年発売のRICOH R1。パトローネが入っている部分をグリップとし、小型モーターや二段沈胴レンズを採用することで、グリップ以外の部分のボディの厚みを25mmという驚異的な薄さにすることに成功したのです。
AF精度も高く、30mm F3.5と広角で使いやすい画角のレンズに加え、145gという超軽量のフィルムカメラは、日本を含めて世界で5つのグランプリを獲得し、大人気カメラとなったのでした。R1は翌年、レンズをマルチコート化したR1sにバージョンアップ。人気を不動のものとします。
R1シリーズが大ヒットした中で、多くの写真家やハイアマチュアからはR1のコンパクトさを維持したまま、更なるレンズの性能向上と使いやすさが求められました。その回答として絞り優先AE、堅牢なボディ、デジタルでも定番画角となった28mm F2.8の新レンズを採用したGR1が1996年に誕生しました。
その後のヒットから現在に至るまでの過程は皆さんがよく知ることでしょう。プロのサブカメラとして高級コンパクトフィルムカメラ市場を牽引することになり、今のデジタルGRにつながるのです。
さて、ここでは初代GR1のスペックを確認していきましょう。
発売年月 | 1996年10月(デートなし)、1996年11月(デートつき) |
フォーマット | 35mmフィルム(135) |
レンズ | GRレンズ 28mm F2.8 4群7枚構成(最短撮影距離:0.35m) |
フォーカス | パッシブオートフォーカス 被写体自動選択マルチフォーカス |
ファインダー | 採光式フレームファインダー |
シャッター | 2 – 1/500 セルフタイマーつき |
露出制御 | プログラム露出または絞優先AE 、ISO25 – 3200対応 (DXコード読み取りのみ手動感度変更不可、DXなしの場合ISO100) |
電源 | リチウム電池 CR-2(1個使用) |
大きさ | 横117mm 高さ61mm 奥行き 26.5mm (グリップ部34mm) |
質量 | デートなし:175g デートつき:177g (電池別) |
GRの造形上のコンセプトは「本物の道具感」をいかに表現するか、に重点が置かれています。プロカメラマンが使う硬派な道具として、シンプルかつミニマルなデザインは30年近くたった現在でも、不動の人気となっているのは納得できるところですよね。レンズの詳細に迫る前に、フィルムGRで撮影した作例をご覧ください。
一眼レフ用レンズを超える性能を持つGRレンズ
現在のデジタルGRシリーズに至るまで、GRのレンズはコーティングや非球面レンズの進化、レンズ枚数の削減等あるものの、構成について大きく変更はありません。これはGR1から既に完成の域に達していることの裏付けになっているのではないでしょうか。GR1はレンズを設計したのち、レンズ鏡胴部の設計、さらにボディ薄型化を達成するため2段沈胴ヘリコイド方式を採用する等、レンズの性能を発揮できるような開発がされています。
レンズは4群7枚、当時コンパクトフィルムカメラには珍しかった非球面レンズの採用に加え多くのマルチコートを付加するという徹底ぶり。コンパクトにもかかわらず一眼レフ用レンズより高性能となるレンズは、プロのサブカメラという枠を超えて、ハイアマチュア、そして現在のフィルムユーザーのメインカメラとしての使用も多く見受けられます。
僕もフィルムGRを手にしてからというもの、家族写真撮影や旅行用カメラ、スナップ用、そしてポートレートのサブカメラと多岐にわたるシーンで使用してきました。高級コンパクトフィルムカメラの中でもCONTAX T2は最短撮影距離が0.7mなのに対し、本機は最短撮影距離0.35mと非常に使い易いのも特徴です。28mmと広角ながら、最短撮影距離&開放F2.8での撮影は、大きなボケを作り出すことができます。
最も解像度が高いのは2m~5m程度のスナップ距離と感じますが、遠景の描写も見事。ポケットにスッと忍ばせて、デジタルカメラのサブ、ではなくメインのフィルム機として活躍してくれることでしょう。ミラーレス(α7 IVやLeica M10等)をメインにフィルムはGRが僕の日々のスタイルですが、これは本当におすすめできる組み合わせです。
前置きはここまでにして、その描写力をご覧いただきましょう。僕の基本スタイルはプログラムオートを多用しますが、ボケを大きく出したいときは開放F2.8、風景などではF8を中心に使用します。プログラムオートでは極端に暗い場合を除き、F4スタートの絞りとなるようにプログラムされており、GRレンズの高解像度を自然と享受できるようになっています。このあたりの仕組みが、誰が撮っても良く写るカメラと認知させるポイントだったのかもしれませんね。
フィルムGRシリーズ購入のポイント
フィルムGRシリーズは中古市場にも多く、入手は難しくはありません。ですが、天面の液晶が劣化し映らなくなってしまうという持病を抱えており、発売から30年近くたった現在、液晶が完璧に写る個体を探すのは至難の業です。いわゆる完動品に近い部類の個体は中古価格も高く、購入にも勇気がいるでしょう。
フィルムGR1の本流はGR1、GR1s、GR1vとありますが、今フィルムGRを少しでも安く買うのであれば、GR1を購入するのがおすすめです。ここで簡単にフィルムGRの歴史を振り返り、その理由を説明していきます。
GR1発売の2年後、1998年に専用レンズフードの取り付け、ファインダー内に照明点灯が可能となったGR1sがリリースされました。フィルムGRの最終形としてオートブラケット露出、手動フィルム感度設定 、MFモードを搭載したGR1vが2001年に発売され、終了となります。1sと1vは1の後継機となりますが、マイナーアップデートに近く、GR1でほぼ完成形に至っているため、GRの描写を堪能したい方であれば、最も安価なGR1がおすすめというわけです。
GR1はDXコード自動読み取りにしか対応しておらず、フィルムパトローネにDXコードがないフィルムを使ってしまうとISO100固定になってしまうのが欠点。個人的にはDXコードがないフィルムは基本使わないので欠点にはならないのですが、多種多様なフィルムをGRで使いたい!という方には向かないでしょう。その場合は高くても1vを購入する必要があります。また、GR1vはGR1と比べ発売年が5年遅いということもあり、故障が少ない可能性もあります。
余談ですが、裏蓋のフィルム窓付近のモルト劣化は必ず補修する必要があり、補修せずに使うと上記作例のように縦に感光するため、注意が必要です。
直系ではありませんが、レンズはGRと同様のものを使用し、ライトユーザー向けに販売したGR10は隠れた名機と言えるでしょう。プログラムオートしか使えず、露出補正もできないため割り切りが必要ですが、GR1より更に安価です。
液晶の劣化はフィルムGRシリーズ最大の欠点となり、フィルム残数がわからない、モード変更がわからないといった辛さがありますが、海外の修理工房では2023年末時点で修理可能であり、思い切って液晶劣化品を購入するのもひとつの手かもしれません。
まとめ
ざっとですが、今も続くGRの歴史や描写に触れていただく事ができたのではないでしょうか。今回詳しくは紹介しきれませんでしたが、超広角21mm F3.5のレンズを採用したGR21や、ファッションブランドELLEとコラボしたRICOH ELLE(R10)というモデルもあり、その人気の高さをうかがい知ることができます。
今回は終始フィルム機の紹介となりましたが、現行モデルのGR IIIやGR IIIx、最新のHDFモデルなどデジタルGRも大人気となっていますので、ぜひこちらも試してみてくださいね。実践的な撮影方法が知りたい場合は、僕が講師を務めるフィルムワークショップ「フィルムさんぽ」にもご参加いただければ嬉しいです。ではまた、次の記事でお会いしましょう!
■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。