ペンタックス K-3 Mark III レビュー|一眼レフ新時代の幕開け
はじめに
今回はペンタックスから発売された最新機種「K-3 Mark III」についてご紹介していきたいと思います。ペンタックスのカメラを使っている人の多くは、それが「ペンタックスのカメラ」だからだろう。そしてペンタックスのカメラが「一眼レフ」である事も大きなポイントだ。
目の前に広がる景色を、レンズと光学ファインダーを通じて肉眼で生の光を感じ取るそれが一眼レフの醍醐味だ。K-3 Mark IIIは一眼レフの新時代の幕開けを感じさせる一台に仕上がっており、実際に撮影をしていて改めて一眼レフの存在意義を痛感した。
なぜ今一眼レフを使うのか?
私の中の答えは「楽しい」からだ。事前に答えが見えない自分の経験値から答えを導き出す露出や、光学ファインダー越しにみるレンズの味が加えられた世界を「生の光」で体験する事ができるのは、ミラーレス世代の方達にこそ体験してもらいたい。
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■撮影環境:SS1/6秒 絞りF8.0 ISO100 WBオート 露出補正-0.3
K-3 Mark IIIで日の出の雲海を撮影。光学ファインダーで感じる生の光はイメージを膨らませてくれる。ファインダー越しの景色と撮影結果のギャップも光学ファインダーならではの楽しみだ。
先日発売されたペンタックスの新機種K-3 Mark IIIは、APS-Cセンサーが搭載された一眼レフだ。APS-Cの一眼レフと言えばフルサイズの一眼レフよりもファインダー倍率が小さい。それが当たり前だったのだが、このK-3 Mark IIIはAPS-Cセンサー搭載の一眼レフにもかかわらず、フルサイズの並のファインダー倍率を実現している。
ペンタックスにはK-1というフルサイズの機種があるが、ファインダーを覗き比べてみると倍率は同等、場合によって見え具合はK-3 Mark IIIの方がよりスッキリとクリアに見える。そのため、K-3 Mark IIIで撮影しているとまるで「フルサイズ一眼レフで撮影している」様な錯覚に陥る。
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ファインダーだけでなくボディの造りも素晴らしい。手に取った瞬間にカメラとの一体感を感じることができた。その一体感は「いい写真が撮れそうだ」を思わせてくれる。カメラと一体になれるかどうかも作品制作にはとても重要な要素となる。撮影していて楽しいカメラを使う方が作品への思い入れもより強くなる。
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■撮影環境:SS1/80秒 絞りF8.0 ISO100 WB5200K
ミラーレスだったら背面モニターで撮影していたであろう一枚。光学ファインダーを覗きカメラと一体になって覗き込む様に撮影することで、よりリアリティのある一枚に仕上がった様に思う。
ずっと見つめていたくなる、そんなファインダー
前述した通りK-3 Mark IIIはミラーレスカメラではなく一眼レフカメラだ。光学ファインダーを搭載したカメラという事は、肉眼と同じく「生の光」を見ながらの撮影となる。撮影をしていなくても、光学ファインダーは覗いているだけでも不思議な楽しさ・特別感がある。 当たり前だが電源がOFFでもファインダーを覗ける、その当たり前が少しずつ特別になっているのが今のカメラ市場だ。
初めてK-3 Mark IIIを手にしてファインダーを覗いた時に「ファインダー…デカッ!」と思わずつぶやいた。事前に発表されていた事なのでファインダーがフルサイズ並みなのは知っていたし、K-1を持っているのでイメージは出来ていたが……頭の中で想像するのと実際に体験するのとでは全く違う。APS-Cカメラのサイズ感でフルサイズのファインダーを体験すると、想像以上にファインダー倍率が大きく感じる。何も知らない人がこのファインダーを覗いたらフルサイズカメラと勘違いする人もいるだろう。
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■撮影環境:SS1/10秒 絞りF8.0 ISO400 WB5400K 露出補正-0.7
砂丘に這いつくばる様にして光学ファインダーを覗いて撮影した。陽が沈んで空が焼けたその光をしっかり目に焼き付けながらシャッターを切った。
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■撮影環境:SS20秒 絞りF8.0 ISO100 WB4000K 露出補正-0.3
シャッターを切る時はライブビューを使用しているが構図を決める時は光学ファインダーを使用した。濃度の濃いNDフィルターを組み合わせる時はファインダーもかなり暗くなるため、構図を決めてからフィルターを装着する。
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ピントの山も掴みやすく、MFでも十分撮影を楽しむ事ができる。MFが楽という事はオールドレンズとの相性も良いという事だ。実際K-3 Mark IIIにはオールドレンズを使うための様々な工夫がされており、ボディ内手振れ補正を使うための焦点距離入力に加え、なんと電子接点を持たないKマウントレンズでも自動絞りの絞り優先が使える様になっているのには驚きだ。
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■撮影環境:SS1/50秒 絞りF4.0 ISO400 WB4000K
オールドレンズのSMC PENTAX-A 50mm F1.2をK-3 Mark IIIと組み合わせて撮影。
オールドレンズとのバランスも絶妙だ。積極的にオールドレンズを使いたくなる。
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■撮影環境:SS1/200秒 絞りF1.2 ISO100 WB5400K
F1.2の浅い被写界深度とオールドレンズ特有の柔らかい描写と低彩度がクセになる。K-3 Mark IIIはAPS-Cカメラなので焦点距離が1.5倍となる。
撮影プロセスとしてはシャッターを切る前に絞り込んで測光して、シャッタースピードの決定と若干のタイムラグが発生するが、そもそもオールドレンズで動体を撮る人も少ないだろうし、スナップ撮影であれば全然気にならないラグである。それよりもオールドタイプのKマウントレンズで自動絞り優先が使える方が嬉しい人も多いだろう。
ペンタックス史上最高画質?!
カメラの造りに加えて写りに関しても素晴らしい出来栄えだ。デジタルカメラの進化は画質の進化と共にあり、新機種が出るたびに旧機種と比べてどれくらい画質が向上しているのかが注目ポイントとなることも少なくない。
K-3 Mark IIIも例に漏れず素晴らしい画質の進化を体感できる。低感度は勿論、高感度の画質が飛び抜けて良いのだ。APS-Cカメラの高感度と言えばISO3200や6400が限界だと感じている人も多いのではないだろうか?
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■撮影環境:SS1/80秒 絞りF11 ISO100 WB6000K
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■撮影環境:SS1.6秒 絞りF8.0 ISO400 WB5400K
コンビナートの夕日と夕焼けを撮影。K-3 Mark IIIはレンズの性能をさらに引き出してくれる。低感度撮影時の解像感はついつい等倍で見たくなるほど。高感度の画質も素晴らしいが低感度で撮影した時の画質にも注目して欲しい。
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■撮影環境:SS1/125秒 絞りF8.0 ISO400 WB5200K
ハイライトからシャドウまで光学ファインダー越しに見た景色の階調が残っている。特にシャドウ側の階調の残り方が気持ちよく、ついアンダー目に撮影してしまいがちだ。
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■撮影環境:SS1/400秒 絞りF1.9 ISO200 WB4900K 露出補正+1.0
浅い被写界深度での撮影だがピントが合っている部分は実にシャープだ。K-3 Mark III の性能はもちろんレンズの性能との相乗効果のおかげだ。
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■撮影環境:SS1/8000秒 絞りF5.6 ISO6400 WB5400K
トンボが翅を広げ飛び立つ瞬間を撮影。被写体ブレを徹底的に抑えるためISO6400に設定し高速シャッターで撮影した。ノイズの少なさに驚かされる。
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■撮影環境:SS60秒 絞りF2.8 ISO6400 WB4000K
光害の多い環境での天の川の撮影。広いダイナミックレンジを生かしてハイキーで撮影し減感処理を施すことでよりノイズを低減させることができた。
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■撮影環境:SS60秒 絞りF2.8 ISO6400 WB4000K
ISO6400は常用感度として積極的に使っていきたい画質だ。ノイズが少ないおかげで星空を鮮明に写すことができた。
K-3 Mark IIIの場合、ISO12800は勿論25600や場合によっては51200でも十分に実用的な結果を得られる。高感度が使えるという事は星の撮影や暗所での動体撮影など様々なシーンで恩恵があり、日中の超高速シャッターなども画質を気にすることなく撮影ができる。
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■撮影環境:SS1/400秒 絞りF8.0 ISO800 WB5400K
もはやISO800は低感度と呼ばれてもおかしくないクオリティ。焦点距離1.5倍+高感度撮影が可能となると望遠レンズでの撮影がより一層楽しくなる。
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■撮影環境:SS1/6400秒 絞りF5.6 ISO640 WB5400K 露出補正-0.7
目の前を走り抜ける新幹線を、高速シャッターを使用してピタッと止めた。
野鳥や鉄道写真などは日中でも高速シャッターを使う事が多く、日中とは言え高速シャッターを切るためにはF値の明るいレンズもしくは高感度での撮影が必須となる。超望遠レンズとなると明るくてもF4.0~5.6などとなるため、高速シャッターを切るためには必然的に高感度を使う必要がある。 シチュエーションによっては日中でもISO3200や6400を使うシーンが出てくるが、K-3 Mark IIIは画質の低下を気にすることなく撮影を続けられる。
動体に食らいつくAFとシャッターチャンスを逃さない高速連写
AFの精度は写真を撮る上で重要なポイントだ。一般的にピントが合っているかどうかが失敗写真か否かを決めるひとつの要素でもある。静物は勿論だが、動体撮影のなるとカメラに求められるAF精度は更に高度なものとなる。
身近な被写体だと野鳥や鉄道、子どもなど常に動いていたり動きが予測できない被写体は、MFだとかなり高度な技術が必要となる。AFが優秀なカメラであればピントはカメラに任せて撮影者はシャッターチャンスに集中する事ができる。
K-3 Mark IIIはAFの精度が飛躍的に向上しているため、被写体に吸い付く様にAFが追従する。これだけAFが優秀だと普段は風景しか撮らない人も野鳥などの撮影に挑戦したくなるはずだ。私自身、普段は風景など静物撮影がメインだが、K-3 Mark IIIのAFを体験して動体も撮りたくなったひとりだ。
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■撮影環境:SS1/2500秒 絞りF5.6 ISO6400 WB4900K
木のトンネルを抜けて走る車両をAF.C+秒11コマの連写で撮影。日中とはいえ木に遮光されたシチュエーションであるため想像以上に暗い。そんな状況でも見事にAF追従してくれた。
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■撮影環境:SS1/4000秒 絞りF5.6 ISO2000 WB5400K 露出補正+0.7
線路ギリギリまで近づいて撮影できるスポットにて。広角レンズを使って目の前を走り抜ける車両をAF追従秒11コマの高速連写で写しとる。
■撮影環境:SS1/1250秒 絞りF6.3 ISO1600 WB5400K 露出補正+1.0
どれだけ解像度の高いレンズ、カメラでもピントが合っていなくては意味がない。K-3 Mark IIIはこちらの撮りたいものに正確にピントを合わせてくれる。
■撮影環境:SS1/500秒 絞りF6.3 ISO800 WB5400K 露出補正+1.0
AF.Cでメジロを追いシャッターチャンスを狙った。手前に梅の花があってもメジロにピントをあわせ続けてくれたおかげでちょうどいいタイミングでピントがしっかり合った一枚を撮ることができた。
AF精度だけでなくシャッターチャンスを逃さない高速連写も見逃せないポイントだ。AF固定で秒12コマ、AF追従で秒11コマと目にも止まらぬ速さでシャッターが切られていくのは爽快だ。ミラーレスとは違い一眼レフであるためミラーを稼働させる必要があるのだが、そのミラーの稼働音がまた心地よく「写真を撮っている」と実感させてくれる。この連写音がまた撮り手のモチベーションを上げてくれるのだ。
個性的なKマウントレンズたち
Kマウントには個性的なレンズがたくさんラインナップされている。K-3 Mark IIIはAPS-C カメラであるためフルサイズ用のレンズを装着するとオリジナルの焦点距離より1.5倍にクロップしての撮影となる。ペンタックスにはAPS-C用のレンズが数多く揃っており、そしてフルサイズ・APS-C共に個性的なレンズが多いので(独断と偏見で)ご紹介したい。
HD PENTAX-FA 31mmF1.8 Limited
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■撮影環境:SS1/2500秒 絞りF1.8 ISO200 WB5000K 露出補正+1.7
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■撮影環境:SS1/125秒 絞りF1.8 ISO1600 WB5800K 露出補正+3.0
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■撮影環境:SS1/60秒 絞りF8.0 ISO200 WB5800K 露出補正+2.0
これはフルサイズ用のレンズとなるがK-3 Mark IIIとの相性が抜群に良く、標準レンズとして推したい一本だ。K-3 Mark IIIに装着すると1.5倍になるため35mm換算で46.5mmのレンズとなる。元々31mmと特殊な焦点距離であり、フルサイズのK-1と組み合わせても面白くK-3 Mark III と組み合わせると標準の焦点距離に早変わりだ。K-1とK-3 Mark IIIと使い分けると1本のレンズで2つの焦点距離を楽しめるので2度美味しい。
開放がF1.8と明るく、APS-Cでも十分なボケを楽しむ事ができる。絞り開放からピントが合っている部分は柔らかくもシャープで、オールドレンズの味も楽しむ事ができる。
HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR
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■撮影環境:SS1/125秒 絞りF8.0 ISO640 WB5400K
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■撮影環境:SS1/160秒 絞りF8.0 ISO640 WB5400K 露出補正-2.0
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■撮影環境:SS1/80秒 絞りF8.0 ISO640 WB5800K
元々はK-1の登場に合わせて用意されたフルサイズ用の高倍率ズームだが、このレンズがまたよく写るのだ。APS-C用の1本ズームに16-85mmという人気のレンズがあるのだが、個人的には28-105mmの写りがK-3 Mark IIIとよく合うと思っている。
1.5倍になるので35mm換算で42mm-157.5mmとなり、広角側が標準スタートになるため中望遠ズームとして活用することとなる。普段広角よりも標準以上の焦点距離を使う人には、16-85mmよりも28-105mmをオススメさせていただきたい。
HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW
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■撮影環境:SS1/30秒 絞りF8.0 ISO200 WB5400
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■撮影環境:SS1/320秒 絞りF8.0 ISO100 WB5400 露出補正-2.7
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■撮影環境:SS1/20秒 絞りF8.0 ISO100 WB5400
APS-C用の超広角レンズで、35mm換算16.5-27mmの焦点距離となる。APS-C用のレンズということもありK-3 Mark IIIとの相性は完璧だ。F2.8と明るく星景写真を撮るときにもよく使われるレンズである。実際このレンズを使って撮影する主なシーンは星景であり、星がちゃんと点に写るので実に気持ちが良い。
風景でももちろん活躍してくれる1本であり、K-3 Mark IIIを手に入れたら是非このレンズも手元に迎え入れて欲しい。
HD PENTAX-D FA150-450mmF4.5-5.6ED DC AW
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■撮影環境:SS1/1000秒 絞りF8.0 ISO1000 WB6000K 露出補正-0.7
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■撮影環境:SS1/8000秒 絞りF8.0 ISO200 WB4900K 露出補正-1.0
■撮影環境:SS1/1250秒 絞りF8.0 ISO800 WB5400K
フルサイズ用の超望遠レンズであり、K-3 Mark IIIと組み合わせることで35mm換算225-675mmの超望遠レンズとなる。また、画素数は減ってしまうがK-3 Mark IIIには1.3倍クロップ機能が搭載されており、トータルでマスターレンズの約2倍の焦点距離で撮影する事ができるのだ。
つまり、この150-450mmをK-3 Mark IIIに装着して1.3倍クロップ機能を使うとテレ端はなんと877.5mmとなる。テレコンを使用していないためF値もそのまま、クロップであるため画質の劣化もほとんどなく(画素数は減ってしまうが)、光学ファインダーにはブライトフレームの様にクロップの枠が出現するため視野率が100%以上になる。
これは動きものを撮る人にとってはかなり便利な仕様で、実際に写る範囲の外が見えている事になるためシャッターチャンスを掴みやすくなる。
まとめ
K-3 Mark IIIの魅力は一言では語り尽くせない。画質の話だけではなく手に取った時のカメラとの一体感や操作性など撮影のモチベーションを上げてくれる要素がたくさん詰まっているのだ。カタログや作例を見ただけではK-3 Mark IIIの魅力を100%理解する事は難しい。
ミラーレスが市場を席巻する今、「最新の一眼レフ」を世に送り出したペンタックスからは圧倒的な自信と覚悟が伝わってくる。そう、「ペンタックス」という名前を冠したからにはこれからも「一眼レフ」を造り続けていくぞという。 その熱意は多くの写真家に伝わっており、私もそのメッセージを受け取ったひとりだ。
ミラーレスから写真を撮り始めた人もかなり多いはずだ。一眼レフにミラーレス、どちらも写真を撮るという行為は一緒だが、撮影のプロセスが違うだけでこんなにも写真は変わるのだと多くの人に知ってもらいたい。写真は撮影結果を楽しむものだけではなく、撮影という行為も楽しむものだ。一眼レフという選択肢を守り続けているペンタックスの次の一手に期待が高まる。きっと次の一手でも「あっ」と驚かされるのだろう……と今から楽しみにしている自分がいる。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。
「K-3 Mark III」はこちらの記事でも紹介されています
■ペンタックス K-3 Mark IIIレビュー|ポートレートスナップで実感する魅力
こばやしかをる
https://www.kitamura.jp/shasha/article/482039132/
■ペンタックス K-3 Mark III レビュー|オールドレンズとカスタムイメージでフィルムライクな写真を味わう
こばやしかをる
https://www.kitamura.jp/shasha/ricoh/k-3-mark-iii-4-20210424/
■ペンタックス K-3 Mark IIIレビュー|待望のAPS-C一眼レフ フラッグシップ機が遂に登場!
こばやしかをる
https://www.kitamura.jp/shasha/ricoh/k-3-mark-iii-5-20210401/
■ペンタックス K-3 Mark III レビュー|スナップ撮影を楽しむ
三井公一
https://www.kitamura.jp/shasha/ricoh/k-3-mark-iii-3-20210505/