ペンタックス K-3 Mark III レビュー|オールドレンズとカスタムイメージでフィルムライクな写真を味わう
はじめに
K-3 Mark IIIを手にするとともに、「どんなレンズで撮ろうかな?」という喜ばしい悩みもあるのではないでしょうか。35mmフィルムの頃から続くKマウントレンズはPENTAXユーザーにとって大切な資産になっているはず。高画質な描写性能を突き詰めた高級レンズである★(スター)レンズのような、デジタル環境に適したレンズとは異なる味のある描写が魅力のオールドレンズ。フレアやゴースト、ハイライトのにじみやフリンジ、ボケ方や描写の独特なクセもその味わいが表現の一つとなっています。
そうしたオールドレンズでの撮影も今までとは違う感覚で楽しいものにしてくれるのがK-3 Mark III。その機能とオールドレンズの組み合わせでフィルムライクな撮影を楽しんでみました。
オールドレンズを使用する際のボディ側の設定
まずはオールドレンズを使用するにあたり、K-3 Mark IIIボディ側の設定をいくつか決めておきます。そうすることで、現行レンズとほとんど変わることのない操作感で気軽に撮影できます。
Aポジションのあるオールドレンズは、レンズ側の絞りをAポジションにし、絞り値は背面電子ダイヤルで選ぶことによりAVモード、TAVモード、Mモードでの撮影が可能に。MF以外は現行レンズと同様に使用でき、露出補正機能も有効です。
Aポジションの無い(電子接点のない)レンズでは、今までMモードでしか撮影できなかったのですが、K-3 Mark IIIではレンズ側と同じ絞り値を背面電子ダイヤルで設定しておくことでAVモードでも撮影が可能になります。
従来機は必ずMモードで絞りとシャッタースピードを合わせながら露出を決めるか、毎回グリーンボタンを押して適切露出の測光を行っていましたが、K-3 Mark IIIではシャッターを切るタイミングで絞り込み測光が行われるのでシャッターボタンを押し込んで撮影するのみ。測光時には絞り値によってファインダー内も連動して暗くなるのでまるでフィルムカメラのようです。
電源を入れると焦点距離を聞かれますが、これはExifデータへの反映と手ぶれ補正の最適化に連動しています。一度焦点距離を決めておけばレンズ交換しない限り同じ値が表示されるのでそのまま撮影すればOKです。
PENTAX Kマウントレンズについて
Kマウントレンズはフルサイズ、APS-Cともにすべてのレンズが装着可能な設計となっています。40年以上前のレンズも取り付ける事が可能ということです。「フィルム時代からのレンズもずっと使い続けられるように。」というユーザーへの気遣いが感じられます。これもPENTAXが長きにわたり愛されている理由の一つでしょう。現行のレンズラインナップではF1.4が最大の解放値ですが、35mmフィルムの頃にはF1.2解放値のレンズが存在し、それを活用できるという点も魅力です。
こちらはsmc PENTAX 135mm F2.5 。切れのあるシャープなピントに、ボケには透明感があるかと思えばフリンジも出る面白さ。
そのレンズでしか味わえない独特なボケ方があるかと思えば、少し絞り込むだけでシャープさもあったりと、個体差があり多様性が面白い。オールドレンズの持ち味を活かして表情豊かに撮影を楽しみます。
カメラ内RAW現像で“自分好み”を作り出す
定評のある美しい描画もさながら、レンズの描写特性を活かしてフィルムライクに仕上げることができるカメラ内RAW現像もPENTAXの特徴的な機能です。普段は仕上がりを整えたり、美しく仕上げたりすることを目的として使われることの多いカスタムイメージのパラメータ調整機能ですが、オールドレンズでの撮影なら普段とは違う色を試してみるのもおススメです。
撮影時の露出によってイメージが大きく変わるのが「ほのか」。彩度、色調、キー、コントラストなどパラメータ調整の振り幅が広く、トーンが柔らかいのでレンズの描写特性を活かした表現を楽しめます。「ほのか」はネガフィルムらしい雰囲気を作りたいときに使用しています。
カスタムイメージにはフィルム現像のプロセスを取り入れた設定がいくつかあり、その中でも「銀残し」は、昔から映画用フィルムの現像工程であえて銀を残す方法を再現したもの。彩度が低く渋い色で、古い映画のようなハイコントラストで力強い写真なり印象深く仕上げることができます。パラメータ調整で色調やキー補正も可能で、増減感補正と合せることでイメージの違う趣ある絵作りが楽しめます。
「クロスプロセス」は、リバーサルフィルムの現像工程であえてネガフィルム用の現像液で現像すること(あるいはその逆)により 、結果として色再現性のない非現実的な写真が得られる状態を疑似表現しています。わざとくすんだ色褪せた雰囲気にするために私はクロスプロセス「Y」を選ぶことが多いです。
逆にオールドレンズの撮影で色が浅い、ねむたいと感じたら「リバーサルフィルム」に。リバーサルフィルムは彩度が高く、黒の引き締まりと共にしっかりとコントラストが付くのでメリハリを利かせたいときに使います。パラメータ調整で色を変更できないので、撮影時の露出はもちろん、WBや増減感で微調整するのがポイント。
「人の数だけ色がある」と言われる色彩。一つ一つのパラメータ調整で“自分好み”を探りだす楽しさはPENTAXならでは。
オールドレンズを使用する際の注意点として、デジタルカメラ用に最適化して作られたものではないため、撮影した画像にはレンズ情報が付帯せずRAW現像時に周辺光量、色収差、歪曲収差、フリンジ補正などの補正が効かなくなることが挙げられます。そういう点でもオールドレンズらしいクセを活かした撮影を心がけたいものです。
バリエーション豊かなモノクローム表現
フィルムライクという点では、モノクロ写真好きな方も多いのではないでしょうか。K-3 Mark IIIではモノクロで撮りたくなる衝動にかられます。中でも〝これは活用すべき〟と感じているのがデジタルフィルター内のモノクロームです。ハードモノクローム・粒状感モノクローム・モノクロームと3つ存在しますが、従来のデジタルフィルター(エフェクト)というよりも、白黒フィルムにも様々な種類があるのと同様に、フィルムを入れ替えるような感覚で使用することができます。
特に気に入っているのが「ハードモノクローム」。カメラ内RAW現像をする際にデジタルフィルターをハードモノクロームに設定したまま動かさず、カスタムイメージを変更していくとコントラストの付き方や階調が目に見えて変化し、まるで暗室でプリント作業をしているかのように様々な仕上がりを楽しむことができます。
明暗のコントラストが強いシーンでも暗部のつぶれはなく階調が豊か。デジタルフィルター「粒状感モノクローム」を使うときは、光の状況、被写体によって粒状の細かさを設定して表現できます。
順光でフラットなシーンではデジタルフィルター「シェーディング」を選びました。明るすぎた画面に周辺減光を加えたことで、奥行きが生まれ雲も引き立ちます。
これらのモノクロームの階調表現域の広さもまた、新たに開発された画像処理エンジンPRIME VとアクセラレーターユニットIIによる恩恵でしょう。K-3 Mark IIIによってデジタル×アナログの幅広い表現を手に入れることができるのです。
トリミング機能で1:1のスクエア写真に仕上げる
SNS等を通じて馴染み深くなったスクエア写真も、元々はブローニーフィルムの6×6サイズから派生したもの。撮影画像比率1:1というのが存在するのもそのためです。
今回メインで使用した50mm(76.5mm)レンズのように中望遠の焦点距離なら、構図のバランスに注視して正対で被写体を捉えスクエア写真を楽しんでみるのもフィルムライクな表現の一つ。撮影後にトリミングをしてみることで撮影時の構図のバランスも確認できるので、時にはスクエア写真も楽しんでみてください。
おわりに
MFでピントを合わせシャッターを切るまでの撮影リズムとプロセスは、フィルムカメラで撮影をしているような感覚が甦りワクワクします。カメラの所作を思い出すその一連の操作から写真好きのためのカメラであることを感じられるはず。利便性を重視し描画性能を高めた高性能化させたレンズとは違い、オールドレンズを使用することによって「一枚一枚を大切に撮る」という感覚とともに、「初心に返ることを忘れてしまわないように。」と言われている気がしました。
普段MFで撮影しない方や、オールドレンズに馴染みのない方にとっても「これが写真を撮るということなのか。」と体感できるはず。K-3 Mark IIIは、写真を撮るスタンスを今一度考える機会を与えてくれます。また、様々なシーンに対応するバリエーション豊かな表現色域を持つ懐の広さも他では味わえない楽しさです。
■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。
「K-3 Mark III」はこちらの記事でも紹介されています
■ペンタックス K-3 Mark IIIレビュー|待望のAPS-C一眼レフ フラッグシップ機が遂に登場!
https://www.kitamura.jp/shasha/ricoh/k-3-mark-iii-5-20210401/
■ペンタックス K-3 Mark Ⅲ レビュー|スナップ撮影を楽しむ
https://www.kitamura.jp/shasha/ricoh/k-3-mark-iii-3-20210505/